ドラクエ3 〜女子だけのパーティで魔王に挑んでみた〜   作:ミサ2

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【勇者】マナ
【盗賊】カミラ
【商人】ダリア
【武闘家】メイリン


【第23話】旅の扉

 マナたち一行は、アリアハンを立つと、レーベの村で魔法の玉を受け取り、小さな祠から誘いの洞窟へ足を踏み入れた。

 洞窟内で、何度か魔物を退けながら進むと、やがて洞窟最奥に、奇妙な光景が現れる。

 カミラは思わず足を止めた。

 

 広い空洞の中央。

 床一面へ刻まれた巨大な紋様が、青白く淡い光を放っている。

 光は静かに揺れ、中心部はゆっくりと渦を巻いていた。

 まるで水面のようにも、

 呼吸する生き物のようにも見える。

 

「……これが、旅の扉」

 

 マナが小さく呟く。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 近づくだけで、足元が妙に落ち着かない。空気そのものが揺れているようだった。

「これに入れば、海の向こうまで行けるってことね」 マナが振り返る。

「みんな、準備はいい?」

 メイリンは口元を吊り上げ、

 ダリアは黙って荷物を背負い直した。

 カミラは最後に一度だけ、背後の暗い洞窟を振り返る。アリアハンから続いていた道は、ここで途切れていた。

「ええ。いつでも」

 マナが最初に光の渦の中へ踏み込む。

 一瞬で、その姿が白い光へ飲み込まれた。

「うわ、本当に消えた……」

 ダリアが半ば呆れたように呟き、

 続いてメイリンも迷いなく飛び込んでいく。

 カミラは小さく息を吐いた。

 そして、自分も渦の中へ足を踏み入れる。

 

 刹那。

 

 世界が左右にぐにゃりと歪んだ。

 床も壁も、光の紋様も、白い糸のように引き伸ばされて流れていく。

 身体が浮いたわけではない。けれど、足元の感覚だけがすっと消えた。

 

 次の一歩を踏み出したつもりだった。

 白い歪みがほどけた時、カミラの足は硬い石床を踏みしめていた。

 めまいに似た感覚をやり過ごしながら辺りを見回すと、そこはひっそりとした、石造りの小さな部屋だった。

「みんな、いるわね?」

 すぐにマナが全員の姿を確認する。カミラは小さく頷き、衣服についた埃を払った。

「うん……ここは?」

「ここも旅の扉ね。とにかく出てみましょう」

 マナに続いて部屋の隅にある鉄の扉を開けると、上へと続く階段が伸びていた。

 薄暗い階段を上りきった途端、眩しい初夏の陽光が目に飛び込んでくる。四人が這い出たのは、青々と茂る林の中だった。

「地下だったんだ……」

 メイリンが目を細めて木々の隙間を仰ぎ見る。ダリアは周囲の空気を吸い込みながら呟いた。

「ここは、どこなの? 空気の匂いが違うわ。もうアリアハン領内ではないよね?」

「まったくわかんないわ」

 マナも流石に勝手がわからないようで、とにかく林を抜けて歩き始めた。

 

 木立を抜けると、なだらかな丘の向こうに、大きな城壁とそれに守られた賑やかな城下町が見えてきた。アリアハンよりもさらに規模の大きそうなその街並みを見て、マナが声を弾ませる。

「行ってみましょう」

 三人が歩き出す中、カミラはその景色が近づくにつれて、地面に足が張り付いたように動けなくなった。見覚えのある城壁の形、独特な屋根の並び。

「……えっ……!?」

 思わず声が漏れていた。三人が足を止めてカミラを振り返る。

「……ここって……ロマリア??」

「カミラ、知ってるの?」

 マナが不思議そうに目を丸くした。カミラは喉の奥につかえていた息を吐き出すようにして、小さく頷いた。

「……うん……私の生まれ故郷の近く」

「え! そうなんだ〜。カミラはこの辺りの生まれなのね」

 メイリンが顔をほころばせると、ダリアが現実的な疑問を口にする。

「じゃあ、ご実家があったりするの? 少し寄っていく?」

「いえ……私、ロマの民なのよ」

「ロマ?」

「そう。馬車で移動しながら暮らす一族。だから、“実家”ってのはないの」

「へぇ〜! じゃあ、馬車がおうちのような?」

 マナの素朴な問いに、カミラは少しだけ視線を落とした。

「そんな感じね。物心ついた時には、もう馬車で移動するような生活だったから」

「カミラのママは、今も移動生活を?」

 メイリンが悪気のない顔で尋ねてきたので、カミラは自嘲気味な笑みを浮かべて返した。

「母親はもう死んだわ。私が十三歳の頃にね」

「……そうなのね」

 急にしんみりとした空気が流れそうになり、カミラはわざと軽い調子で付け足した。

「うん、お酒とタバコと博打、みたいな人だったからねぇ。医者に見せる習慣なんてないし」

「そっか……」

 マナはそれ以上何も尋ねず、ただカミラの言葉を静かに聞いていた。

 ロマの一団を離れて、もう何年にもなる。今さら誰がどこにいるのかも分からないし、知りたいとも思わなかった。

 

 ダリアが話題を戻すようにして言う。

「それで、ロマリアにも来てたのね?」

「……そうね、子どもの頃にしばらくいたわ。四年くらい前にも少しいたかな……」

 ロマリアの全景を見つめていると、当時の記憶がカミラの脳裏に嫌でも蘇ってきた。

 四年前にも、この街に少しいた。

 その頃のカミラは、もうロマのコミュニティーをとうに離れ、盗賊を生業として生きていた。

 三ヶ月ほど滞在し、いくつかの『仕事』をこなし、足がつく前にまた他所へ流れた。

 

 まさか、勇者の仲間として、正面の城門から堂々とこの街へ戻ってくることになるなんて。あの頃のカミラであれば、鼻で笑って一蹴していただろう。

 カミラは腰のナイフとトゲの鞭の感触を確かめ、落ち着かない気持ちを誤魔化すように、前を歩く三人の背中を追いかけた。

 

ーーーー

 

 遠くに見えていたロマリアの城下町が、いよいよはっきり見える距離まで近づいた頃だった。

 

「ん! 来るよっ!」

 先頭を歩いていたメイリンが鋭く叫び、身構える。

 直後、足元へ不穏な振動が伝わった。街道の土を撥ね飛ばしながら、巨大な芋虫のような魔物が這い出してくる。丸々と太ったキャタピラーが二匹、うねりながらこちらへ突進してきた。

 カミラは間髪入れず、腰のトゲの鞭を抜き放つ。

 鞭が空気を裂き、鋭い破裂音が響いた。

 二匹まとめて捉える。

 確かな手応え。

 

 だが、止まらない。

 

「えっ――」

 

 肉を深く裂かれながらも、キャタピラーは勢いを殺さず突っ込んできた。

 メイリンの拳と、マナの剣が同時に叩き込まれる。

 ぶよぶよした巨体が大きく歪み、ようやく突進が止まった。

 ――硬い。

 しかも重い。

 アリアハン周辺の魔物なら、初手の迎撃で動きが止まったはずだった。

 だが、キャタピラーは激しくのたうつと、直後にはもう反撃へ転じてくる。

 巨体を大きくうねらせ、そのまま猛烈な体当たりを叩き込んだ。

 

「くっ……!」

「いったっ!!」

 

 鈍い衝撃音。

 マナとメイリンの身体が後ろへ弾かれる。

 二人の顔が苦痛に歪んだ。

 重い。

 これまで戦ってきたオオガラスやオオアリクイとは、まるで違う。

 

 そこへダリアが素早く回り込み、大型ナイフを突き立てようとした。

 だが、その瞬間。

 キャタピラーの皮膚が鈍く光る。

 ぶよぶよとしていた表面が、見る間に張りを帯びていった。

(スクルト……!?)

 カミラは息を呑んだ。

 守りを固める呪文。

 

 直後、ダリアの追撃が浅く滑る。

 刃は通った。だが、明らかに手応えが違う。

「ちょっと、嘘でしょ……!」

 ダリアが顔をしかめる。

 

 それなのに、相手の攻撃の重さはまるで変わらない。

 堅く、しぶとく、何より一撃が重い。

 

「はああッ!」

 メイリンが気迫の蹴りで押し込み、カミラも左手のナイフを滑り込ませる。

 硬化した皮膚の隙間。

 柔らかい部分だけを狙って突き刺す。

 マナとダリアも続いた。

 四人で波状攻撃を浴びせ続け、ようやくキャタピラーの巨体が地面へ崩れ落ちる。

 泥のような緑色の体液が、街道へべたりと広がった。

 

 勝った。

 だが、全員が浅くない傷を負っていた。

 カミラは荒い息を吐き、額の汗を拭う。

「つ、強くない? アリアハンの周りとは全然違う……」

 メイリンが打たれた肩を押さえながら呟く。ダリアもナイフの汚れを拭い、苦々しく頷いた。

「そうね。堅さもしぶとさも、一段上だわ」

 カミラはロマリア城門へ視線を向けた。

 

 海の向こうへ来たのだ。

 

 その実感が、打たれた腕の痛みと一緒に、じわじわと身体へ染み込んでくる。

「みんな、ちょっと待って。ホイミするね」

 マナの声と同時に、温かな光が身体を撫でる。

 

 ズキズキと疼いていた痛みが、嘘みたいに引いていった。

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