ドラクエ3 〜女子だけのパーティで魔王に挑んでみた〜   作:ミサ2

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【勇者】マナ
【盗賊】カミラ
【商人】ダリア
【武闘家】メイリン


【第24話】ロマリア王の金の冠

 ロマリアの城門へ近づくにつれ、街の空気はますます賑やかさを増していった。

 

 広い石畳の通り。

 行き交う人々。

 鎧姿の兵士たち。

 彫刻と噴水

 

 アリアハンよりも大きく、どこか華やかな空気が街全体に漂っている。

 だが、そのまま城へ近づいたところで、門前の衛兵たちが一行へ気づいた。

「失礼。もしや、アリアハンからお越しのマナ様であられますか?」

 マナが少し驚いたように目を瞬かせる。

「えっ? はい、そうですけど……」

 途端、衛兵の態度が変わった。

「お待ちしておりました。ロマリア王より、ご到着の際はすぐ城へお通しするよう命を受けております」

 衛兵は恭しく頭を下げる。

「どうぞこちらへ」

 カミラは思わずダリアと顔を見合わせた。

 

(……本当に、勇者なのね)

 

 アリアハンではまだ実感が薄かったが、海を越えた異国でまで名が通っているとなると、さすがに現実味が違う。四人はそのまま城へ案内された。

 高い天井。

 磨き上げられた床。

 赤い絨毯。

 行き交う兵士たちの視線が、何度かカミラの横顔を掠めていく。そのたびに、肩の奥が微かに強張った。

 数日前、アリアハン城でケリー兵長に呼び止められた時のことが脳裏をよぎる。『……そちらのお嬢さん、どこかで……手配書か……?』 あの瞬間の、背筋を冷たいものが走る感覚。咄嗟に「ビアンキと言います」と名乗ったものの、今思えば、あの兵長はたぶん気づいていた。それでも、見逃してくれた。

 

「なによ、また逃げ出しそうな顔して」

 隣を歩くダリアが、小声でくすりと笑った。

「今日も、シニョリーナ・ビアンキ?」

 カミラは横目で睨み返す。

「……いいえ。今日はシニョーラ・デナーロよ」

「あら、今日はずいぶん高く出るのね」

 ダリアが吹き出しかける。

 その軽口のおかげで、張り詰めていた肩の力が少しだけ抜けた。

 

 やがて、一行は謁見の間へ通される。

 玉座へ腰掛けていたロマリア王は、マナの姿を見ると穏やかに頷いた。

 

「マナ殿。よく来られた」 低く、よく通る声だった。

「アリアハン王からの親書は、すでに受け取っておる」

 王は肘掛けへ片手を置いたまま続ける。

「バラモス討伐の旅へ出られるとのこと。若くして魔王へ挑む、その勇気と志には深く敬意を表する。このロマリア王国も、可能な限り支援いたそう」

「ありがとうございます」 マナが一歩前へ出て頭を下げる。

 

 その横で、カミラは玉座の間を静かに観察していた。

 衛兵の配置、出入口、窓の位置。そういうのを見るのが癖のようなものだった。

 

 すると王が、少し表情を改めた。

「――ところで、だ」

 空気がわずかに変わる。

「一つ、頼みを聞いてはくれぬか」

 マナが顔を上げる。

「頼み、ですか?」

「うむ」

 ロマリア王はゆっくり頷いた。

「近頃、この近辺で盗賊団が暴れておる」

 その言葉に、カミラの眉がわずかに動く。

「首領の名は、カンダタ」 王の声が低く響く。

「奴らは街道の旅人を襲い、商隊を荒らし、ついには我がロマリア王家の宝――金の冠までも奪っていきおった」

 ダリアがわずかに目を細める。

 金の冠。

 商人らしく、その価値を瞬時に計算した顔だった。

「現在、奴らはシャンパーニの塔へ立てこもっておる。兵を差し向けても、地の利を活かして逃げおるのだ」

 王はマナを真っ直ぐ見た。

「マナ殿。どうか、カンダタを討ち、金の冠を取り戻してはくれぬか」

 謁見の間へ静寂が落ちる。

 メイリンはすでに険しい顔になっていた。

 一方、カミラは小さく息を吐き、視線を伏せる。

 

 ――盗賊団。

 

 しかも、人間相手。魔物退治とは訳が違う。

 その現実を、カミラだけは痛いほど理解していた。

 

「そうでしたか」 マナはすぐには答えなかった。

 一度だけ、隣の三人へ視線を向ける。

「……すぐには決められないので、仲間たちと話し合ってからお返事させてください」

 ロマリア王は静かに頷いた。

「うむ。急ぐ話ではあるが、軽々しく決められることでもあるまい」

 

ーーーーー

 

 ロマリアの宿屋へ入った頃には、外はすっかり夕暮れになっていた。

 四人部屋へ荷物を置くと、ダリアが真っ先にベッドへ腰を下ろす。

「はぁ〜……さすがに王様相手は疲れるわね」

「ねー。まだちょっと緊張してるかも」

 マナも苦笑しながら、椅子へ腰掛けた。

 しばらく誰も喋らなかった。

 やがて、マナがぽつりと口を開いた。

「……みんなは、どう思った?」

「カンダタのこと?」

 ダリアが聞き返す。

「うん」

 そこで、ダリアがふと思い出したようにカミラへ顔を向けた。

「そういえば、あんた知ってるの? カンダタって」

 カミラは窓際へ寄りかかったまま、小さく息を吐いた。

「……名前くらいはね」

 三人の視線が一斉に集まるのを感じながら、カミラは言葉を続けた。

「南欧から西の方まで荒らしてる盗賊団よ。街道襲ったり、商隊襲ったりね。手下は十人とも二十人とも言われてる。傭兵崩れも混じってるって話だったわ」

「そんなにいるの?」 マナが目を丸くする。

「腕っぷしだけなら、下手な衛兵より強い奴もいるでしょうね」

 その横で、メイリンはすでに険しい顔つきになっていた。

「じゃあ、なおさら放っとけないわね。大国ロマリアが盗賊団ひとつ止められないんでしょ。ちゃんと叩かないと」

「私も、ちょっとそう思う」 マナも頷く。「街道歩いてる人たち、襲われてるんだよね」

 

「危険だけど、断る話でもない気はするわねぇ。受ける方向で考えたほうがよさそうね」 ダリアがまとめかけた。

 

 だが、そこでカミラは低く口を開いた。

 

「……本気で言ってるの?」

 

 部屋の空気が少し止まる。

「これ、ロマリアの問題なのよ? 私たち、バラモス討伐へ向かってる途中なんだけど」

「でも、悪党なんでしょ?」

 メイリンが眉をひそめる。

「そういう問題じゃないわ」

 カミラは短く言い切った。

「相手は魔物じゃない。人間の盗賊団よ。人間相手ってのは、魔物相手より厄介なの。待ち伏せもするし、逃げ道も潰してくる。降参したふりをして刺してくるヤツもいる。下手したら寝込みだって襲われる」

 

 少し間を置いてから、カミラはさらに続けた。

「……それに、人間相手っていうのは、殺せば終わりって話でもないのよ。食い詰め者もいるし、流れ者もいる。命乞いもする。逆恨みだってする。“悪だから倒す”で済む相手じゃないわ。盗賊にだって、それぞれ人生があるのよ。命乞いされた時に、そこで殺せる?」

「でも、旅人を襲ってるんでしょ? だったら止めないと」

「そんな簡単な話じゃないって言ってるの」

 カミラの声が少し強くなる。

「相手は人間なのよ。しかも、こっちは若い女四人。捕まった時に取られるのは、お金と命だけじゃないってこと」

 メイリンの表情がわずかに強張った。マナも黙ったまま、カミラをじっと見つめていた。

「……怖いわよ、普通に」

 カミラは小さく息を吐いた。

「魔物相手なら、最悪殺されて終わり。でも人間は違う」

 

 部屋が静まり返った。

 

 沈黙を破ったのは、ダリアだった。

「で、マナはどうしたいの?」

 自然と、全員の視線がマナへ集まる。マナはしばらく黙ったまま、膝の上で指を組んでいた。

 

「……正直ね」 やがて、小さく口を開く。

「困ってる人がいるなら、助けたいとは思う。でも……カミラの言ってることも、たぶん正しいんだよね」

 カミラは少しだけ目を細めた。

「私、盗賊団って、魔物みたいに“倒すべき敵”だって単純に思ってた。でも相手も人間なんだよね」

「そうよ。しかも場慣れしてる。私たちよりずっと」

 メイリンが唇を尖らせる。

「だからって放っとくの?」

「……命を張る理由として、本当に足りてるのかって話よ」

 王様に頼まれた。冠を盗まれた。だから盗賊退治へ行く。それだけで、自分たちは命を賭けるのか。カミラには、まだそこが結びつかなかった。

「まあ、報酬次第ではあるけどね」とダリアが言う。

「ダリア!」

「冗談じゃないわよ。旅って、お金かかるんだから」

 ダリアは肩をすくめながらも、その目は真面目だった。

「王様直々の依頼ってことは、成功すればかなり大きい貸しになる。今後の通行、取引、紹介状……ロマリアって大国だし」

 正義だけでは済まない。危険も、金も、貸し借りも、当然のように絡んでくる。

 だから人間相手は嫌なのだ。

 

 三人の視線が、最後にカミラへ集まった。

 カミラは額へ手を当て、小さく息を吐く。盗賊団のアジトへ赴くなど正気とは思えない。

 しかし、もしこの三人だけでシャンパーニの塔へ向かうことになったら。

 その光景を想像した途端、胃の奥が嫌な感じに重くなった。

 

「……ロマリア王国の問題なんだから、ほっとけばいいのよ」 そう吐き捨てるカミラの声も先ほどよりは勢いを失っていた。

 

 マナはまだ黙っていた。窓から差し込む夕方の光が、静かにその横顔を照らしている。

「……少し、考えたいな」

 その声に、誰も反対はしなかった。

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