ドラクエ3 〜女子だけのパーティで魔王に挑んでみた〜   作:ミサ2

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【勇者】マナ
【盗賊】カミラ
【商人】ダリア
【武闘家】メイリン


【第25話』なぞの剣士ダンテ

 その夜。

 宿屋の部屋が静かになっても、カミラはなかなか寝付けなかった。

 窓の外では、まだロマリアの街の喧騒が遠く続いている。酒場帰りらしい笑い声。馬車の車輪の音。どこかで鳴る楽器の音色。

 アリアハンよりずっと大きな街だった。

 

 カミラはベッドへ仰向けになったまま、小さく息を吐く。

 部屋の反対側では、マナたちもまだ眠っていないらしかった。誰も喋らないが、寝返りを打つ気配だけが時折聞こえる。

 

 カンダタ。

 その名前が、ずっと頭から離れなかった。

 盗賊団。

 十人、二十人。

 傭兵崩れ。

 シャンパーニの塔。

 そういう連中が拠点にする場所なんて、ろくなものではない。

 

 見張り。

 逃げ道。

 挟み撃ち。

 夜襲。

 頭の中へ、嫌な想像ばかり浮かんでくる。

(……最悪だわ)

 

 カミラは片腕で目を覆った。

 魔物相手なら、まだ単純なのだ。

 襲ってくる。

 倒す。

 生き残る。

 

 だが、人間は違う。

 逃げるふりをして誘い込むこともある。

 騙してくることもある。

 降参し油断を引き出してから刺すことだってある。

 そして――女を捕まえた後、どう扱うかも。

 

 カミラはゆっくり目を閉じた。

 昔、南の街道沿いで見た馬車を思い出す。

 焼かれた荷台。

 転がっていた死体。

 泣いていた女。

 あれをやったのがカンダタ一味だったかどうかまでは知らない。けれど、盗賊団なんて大抵は似たようなものだ。

 

「……」

 寝返りを打つ。

 こんな話、本当はマナたちへ全部説明したくはなかった。

 特にマナ。

 あの真っ直ぐな目が、少し曇るのを見るのは、妙に気分が悪かった。だが、それでも言わずにはいられなかった。

 自分たちは、もうアリアハンの外にいる。キャタピラーとの戦いだけでも、それは嫌というほど分かった。

 この先は、

 もっと強い魔物がいる。

 もっと狡い人間がいる。

 もっと酷いことだって起こる。

 それが、海の向こうの世界なのだ。

 

 ふと、隣のベッドを見る。

 マナは天井を見上げたまま、まだ起きていた。薄暗い部屋の中で、その横顔だけがぼんやり見える。

 たぶん、考えているのだろう。

 行くか。

 行かないか。

 カミラは小さく息を吐いた。

(……あんた、本当に行く気なんでしょうね)

 その時だった。

「……カミラ?」

 暗がりの向こうから、小さな声がした。

 マナだった。

「なによ」

「まだ起きてたんだ」

「そっちこそ」

 少し沈黙が落ちる。

 やがてマナが、ぽつりと言った。

「……怖いよね」

 カミラは答えなかった。

 だが、その沈黙だけで十分だったのかもしれない。

 マナも、それ以上は聞いてこなかった。

 部屋の外では、遠くでまた誰かの笑い声が響いていた。

 

ーーーーー

 

 翌朝。

 宿屋の窓から差し込む陽光で、カミラはゆっくり目を覚ました。

 外の通りからは、もう馬車の音や人々の話し声が聞こえてきていた。

 

 身体を起こすと、マナはすでに起きていた。窓際へ立ち、朝の街を静かに見下ろしている。メイリンとダリアも、まだ眠そうだったが、起き上がってこちらを見ていた。

「おはよう」

 誰ともなく挨拶の声をかけたが、昨夜の話の空気が、まだ部屋の中へ残っている。

 

 洗面をしたりして朝の身支度を始めた頃、マナが振り返った。

「……カンダタのことなんだけど」

 その声には、昨夜より迷いが少なかった。

「私は、やっぱり行くべきだと思う」

 カミラは黙って聞いていた。

 

「カミラの言ってたこと、たぶん全部正しいんだと思う。他国の問題だし、“悪い人を倒して終わり”っていう単純な話でもないんだよね」

 カミラは目を細めた。一晩かけて、ちゃんと考えたのだろう。

「でも、それでも放っておけない。旅人が襲われてるって聞いて、知らないふりをして先へ進むのは嫌なの。たぶん、この先も、そういうことは何度もあると思うから」マナは真っ直ぐにこちらを見て言う。

 メイリンが強く頷いた。「うん。私も行く」

 ダリアは肩をすくめる。「私は昨日と同じ。危険だけど、受ける価値はあると思ってる」

 そこでマナは、一瞬だけ言葉を止めた。

「……でも、カミラに無理強いすることはできない」

 部屋が静まり返る。

「だけど……私は、一緒に来てほしいと思ってる」

 三人とも、黙ってこちらを見ていた。

 

 カミラはしばらく答えなかった。

 やれやれ、と心の中でつぶやく。昨夜の時点で、もう分かっていた。この三人だけで行かせるのは危ない。メイリンは真正面から突っ込む。マナは人を信じすぎる。盗賊相手なら、なおさらだった。

「ほんと、危なっかしいわね……」 呆れたように言う。

 

「ちゃんと準備して、絶対に無茶しないなら」

 カミラは指を一本立てた。

「まず情報集め。地形、人数、逃げ道。正面から突っ込むなんて論外。少しでも危ないと思ったら撤退。いい?」

「うん」

 マナが素直に頷く。その返事を見て、カミラは小さく息を吐いた。

「……あんたたちだけで行かせられるわけないでしょ」

 メイリンの顔が明るくなる。マナも、ほっとしたように肩の力を抜いた。

 カミラはベッドから立ち上がり、腰のナイフへ手を添えた。

「盗賊のやり口なら、私が一番分かるしね」

 ダリアが小さく笑った。

「頼もしいじゃない」

 カミラは鼻を鳴らして他所を向いた。

 

ーーーーー

 

 宿を出ると一番にロマリア城へ出向き、衛兵に取り次いでもらい、小広間に通されて大臣と会った。

 

 マナは、まっすぐ大臣を見た。

「カンダタ討伐の件、承ります」

 一瞬、大臣の表情が明るくなる。

「おお……!」 その声には、露骨な安堵が混じっていた。

「よくぞ決断してくださいました。ロマリア王も、さぞお喜びになりましょう」 大臣は深く頷く。

「王家の宝を奪われたままでは、国の威信にも関わります。どうか、お力をお貸しくだされ」

 そう言うと、大臣は小袋を差し出した。

「これは支度金にございます。どうぞ、装備や旅支度へお使いくだされ」

「ありがとうございます。王様によろしくお伝えください」

 

 城を辞去し、朝の光が差し込む石畳の通りへ出たところで、案の定ダリアが口を開く。

「しかし、王家の宝を取り戻す征伐隊への支度金が、たった百ゴールドとはねぇ。大国ロマリアにしては渋いわ」

 カミラは呆れたように息を吐いた。

「……あんた、王家の支度金にまで文句言うのね」

 だがダリアは気にも留めない。

「で、この百ゴールドからも10%手数料はもらっていいよね?」

 カミラは思わず額を押さえた。

「……ほんと、ぶれないわね」

 

ーーーーー

 

 ダリアは城を出たあと、まず冒険者ギルドへ向かうと言う。

「カンダタ相手に今の装備じゃ心許ないわ。薬草も補充したいし、投げナイフも買い足したい。だったら先に換金よ」

 ダリアは当然みたいに言った。

「倒したモンスターの素材、結構たまってるでしょ。あれ、荷物になるだけだもの」

 商売人らしい理屈だった。カミラにも異論はない。どうせシャンパーニの塔へ向かうなら、少しでも情報は欲しかった。ギルドなら、腕自慢も噂好きも集まる。カンダタについて何か聞ける可能性はある。幸い、ロマリアの冒険者ギルドの場所なら覚えていた。

 四年前、この街にいた頃に何度か前を通ったことがある。当時のカミラにとって、ああいう場所は縁のない世界だった。昼間から堂々と剣を提げ、依頼書の前で騒いでいる連中を、路地の陰から眺める側だったのだ。

「こっち」 カミラが先頭に立ち、石畳の通りを抜けていく。

 

 やがて見えてきた建物を見上げ、マナが小さく声を漏らした。

「大きい……」 アリアハンのギルドとは比べ物にならなかった。

 二階まで吹き抜けになった広間には、朝だというのに大勢の冒険者がひしめいている。壁一面の掲示板には依頼書が何重にも貼られ、その前では怒鳴り声混じりの押し合いまで起きていた。

 革鎧の軋む音。酒臭い笑い声。金貨の触れ合う硬い音。

 湿った熱気の中へ踏み込んだ瞬間、鉄と汗と革の匂いが鼻を打つ。

 

 ダリアは物怖じする様子もなく、そのまま受付へ向かった。

「換金お願い。あと、良い武器屋と道具屋、この辺りで流通してる投げナイフの相場も知りたいんだけど」 早速、職員相手に交渉を始めている。

 

 カミラたちは少し離れた木椅子へ腰を下ろした。椅子は古く、座るたびにぎしりと鳴った。

 待っている間、カミラはぼんやりと広間を眺める。斧を背負った大男。僧侶風の女。傷だらけの老兵。誰もが一癖ありそうだった。

 

 その中で、一人の男がこちらへ歩いてくる。

「Ehi! お嬢さん方だけのパーティとは珍しいね」 軽い調子だった。

 年齢は二十代後半くらいか。腰のロングソードは使い込まれているが、靴は新しい。旅慣れている割に、妙に身なりへ気を遣っている男だった。

 

 カミラは椅子に座ったまま視線だけを上げた。

「そお?」

「ああ。しかも強そうだ」

「ありがと」

 そっけなく返しても、男は気にした様子もなく笑っている。

「俺はダンテ。旅の剣士ってやつさ」

 そう名乗ると、男は受付の方へ目を向けた。

「あのエキゾチックなお姉さんもお仲間?」

 ダリアはまだ職員相手に何かまくしたてている。職員のほうが少し押され気味に見えた。

 

 カミラは男へ視線を戻した。

「で、旅の剣士さんはナンパ目的? それとも別のご用件が?」

「手厳しいなぁ」 ダンテは肩をすくめる。

「まあ、美人なお姉さん方と朝のエスプレッソってのも悪くないけどさ。ロマリアは仕事が多い。剣一本でも食っていける」

 広間を見渡すその目は、思ったより真面目だった。

「ただなぁ」

 少し声を潜める。

「大口の依頼ってのは、四人以上じゃないと受けられなかったりする。俺、一人なんだよ」

「それで?」

「よかったら組まない?」

 

 旅の剣士、か。

 カミラは男を改めて観察した。防具はそこそこ。剣も安物じゃない。だが、紋章も従者もいない。どこかへ仕えている匂いがなかった。

 こういう流れ者は、案外、街の兵士より生々しい情報を持っていることがある。

 

「あいにくね」

 カミラは少し口元を歪めた。

「私たちも今、大きな依頼を抱えてるの」

「へぇ〜? どんな案件?」 案の定、ダンテは食いついた。

「この子が、王様から直接受けた依頼」

 顎で示されたマナは、少しだけ目を瞬かせた。

 ダンテは驚いたように目を丸くする。

「Pero〜! ロマリア王直々に!? やるじゃん!」

 感心したようにマナを見たあと、彼はさらに声を落とした。

「……で、内容は?」

 カミラは男の目を見たまま答える。

 

「カンダタの討伐」

 

 その瞬間、ダンテの表情から軽薄さが消えた。

「オッディーオ……!」

 息を呑み、本気で顔をこわばらせる。

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