ドラクエ3 〜女子だけのパーティで魔王に挑んでみた〜   作:ミサ2

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【勇者】マナ
【盗賊】カミラ
【商人】ダリア
【武闘家】メイリン
 
【旅の剣士】ダンテ


【第26話】この男は敵か

「カンダタを知ってるの?」

 カミラが端的に問うと、ダンテは周囲の冒険者たちに視線を走らせ、それから苦笑した。

「このギルドに来てる人間で、カンダタのことを知らないヤツはいないと思うなぁ。隊商を襲われたヤツもいるし、仲間を攫われたヤツもいる」

 ダンテは顎のひげを触りながら答える。

「もっとも、その大盗賊さんのお顔を直接拝見したことはないけどね」

 

 

【挿絵表示】

 

 

「アジトはシャンパーニの塔って聞いたわ」

「今はそうらしいね」

 ダンテはあっさりと頷く。カミラはさらに踏み込んだ。

「手下は何人?」

「おっと。情報がほしいのかい?」

 ニヤリと笑ったダンテは、そこで芝居がかった風に首を振った。

「そういや、名前もまだ聞いてなかったね」

 カミラは男の視線を受け流しながら、短く答える。

「カミラよ。こちらは、マナとメイリン」

 身内を簡単に紹介した、ちょうどその時だった。

 

「お待たせ。結構いい金額になったわよ」

 懐を軽く叩きながら、ダリアが受付から戻ってきた。それを見つけたダンテが、すぐにまた軽薄な笑みを浮かべて手を振る。

「チャオ、シニョリーナ!」

 ダリアは足を止め、怪訝そうに眉をひそめて男を見つめた。その無言の警戒を気にする様子もなく、ダンテは話を続ける。

「大盗賊さん退治について、手伝おうかってお話を、今お姉さん方としてたところなんだ」

 そう彼は言いながら、そばの椅子に腰を下ろした。

「手伝ってなんて、一言も言ってないけどね」

 カミラが即座に釘を刺すと、ダンテは悪びれずに肩をすくめた。

「シニョリーナ・カミーラ、そうだったね。ついでに言うと、俺もまだ手伝うとは言ってない」

「手伝ってくれるのですか!?」

 それまで黙って聞いていたマナが、期待を込めた目で身を乗り出してきた。純粋すぎるその反応に、ダンテは少しだけ表情を緩め、それから真面目なトーンで首を横に振った。

「手伝うっていうか……まずは、その命知らずな挑戦をやめることを、俺は勧めるよ」

 ダンテの視線が、再びカミラへと戻る。

「カンダタってのは、もう十五年以上もこの辺りの盗賊団の親方を張ってる男さ。国の兵隊に捕まらず、討伐されず、仲間の裏切りで殺されもせず、他のライバルたちからも潰されず……その上で、自身もまだ現役で第一線に出てる。それがどれほど異常なことなのかは、シニョリーナ・カミーラなら、よく分かるよね?」

 探るような男の目が、カミラの過去を見透かそうとしているように思えて、カミラはわずかに奥歯を噛み締めた。裏社会の仕組みや、そこで生き残ることの難しさを、自分たちが一番知っているはずだと言わんばかりの口ぶりだった。

 

 カミラの横から、メイリンが不満げに口を挟む。

「私たちには無理だってこと?」

「無理だとは言ってない。けど、命も体も張ることにはなるよね。――あのロマリア王家のために?」

 

 ダンテの言葉に、マナたちが一瞬言葉を詰まらせる。報酬や正義感だけで挑むには、あまりにもリスクが大きすぎる。男の指摘は、カミラが昨夜宿屋で懸念していたことそのものだった。

「じゃあ、あなたが手伝ってくれないの?」

 なおもマナがすがるように問いかける。だが、ダンテは両手を広げてみせた。

「おっと、翡翠のお嬢さん。そんな瞳で頼まれると、断るのが悪人みたいだ」

「だが、俺も命は惜しいからね。あいにく、一緒に大盗賊のお膝元へ殴り込み、ってわけにはいかない」

 マナの瞳の色の美しさを即座に捉えてそう呼ぶあたり、つくづく口の軽い男だ。

 

 しかし、ダンテはすぐに声を一段と落とし、取引を持ちかけるように笑った。

「けれども、道案内ぐらいはしてもいい。塔までの道をね」

「道案内?」

 ダリアが腕を組んで尋ねる。ダンテは頷いた。

「塔までの間にさ、カンダタは手下をあちこちに配備しているんだ。その手下どもが張り付いてるルートを最初から避けて進むのが、賢明だろ?」

 

「それは、すごくありがたいよね!」

 マナが嬉しそうに声を弾ませ、カミラたちへ同意を求めるように視線を巡らせた。その無防備な様子にダンテは楽しげに笑い、マナに向かって片目を瞑ってみせる。

「翡翠のお嬢さん。特別に、俺とディナーに一回付き合ってくれるって言うなら、その道案内を引き受けちゃうよ」

 

「いいえ、道案内なんて結構よ」

 カミラは遮るように、冷ややかな声を投げた。

 あまりにもにべもない拒絶に、ダンテは困ったように眉根を寄せ、両手を軽く上げてみせる。

「そうかい? これでも俺、まぁまぁ強いよ。お姉さん方もなかなかのものだけど、剣の腕ならそこの翡翠のお嬢さんに負けない程度にはやれるつもりだけどね。塔に着くまでに、ヤツの手下だけじゃなく、途中のモンスターも気になるでしょ?」

 

 マナに負けない程度、か。

 カミラは男の佇まいを凝視し、内心で鼻を鳴らした。そんなわけがない。この男の足の置き方も、剣の柄へ添えた手も、ただの軽薄な流れ者のものではなかった。この男の皮手袋に覆われた手の馴染み方は、どう見てもマナよりずっと上だ。戦い慣れている。それをわざわざ過小評価して見せるあたり、ますます胡散臭かった。

 

「あなたがカンダタの一味かもしれないから」

 

 カミラが淡々と告げると、ダンテの笑みがわずかに止まった。カミラは容赦なく言葉を続ける。

「後ろから斬りつけられるかもしれないし、道案内についていったら、袋小路の罠へ誘い込まれるかもしれないわ」

「おいおい、俺がそんなヤツに見えるのかい?」

 ダンテは心外だとでも言いたげに苦笑いを浮かべた。しかし、カミラは冷徹な視線を崩さない。

「わからないわ。仮に一味だったとしても、あなたは違うと言うでしょう。でも、私たちにはそれを判断する方法がない。あなただって、自分がカンダタの一味じゃないっていう証拠を示すことは、今この場じゃ難しいでしょ?」

 

 ダンテはしばらくカミラの目をじっと見つめ返していたが、やがて、降参したように肩の力を抜いた。

「……たしかにね。そりゃ難しいな」

 男は自嘲気味に呟くと、それ以上は言い返すこともせず、首筋をぽりぽりと掻いた。

 

「わかった。今日のところは、引いとこう」

 ダンテはそう言って、あっさりと椅子から腰を上げた。カミラが突きつけた疑念に、これ以上無理に食い下がるのは逆効果だと、瞬時に損得を計算したような引き際だった。

 

「俺は、このギルドの前にある宿屋に泊まってる。また気が変わったら、訪ねてきてくれてもいい。部屋番号は宿屋の主人に聞いてくれ。

……それから、ディナーの件、覚えといてくれな」

 最後まで調子のいい軽口を叩きながら、ダンテは親指を立ててマナへウインクを投げる。

「アッリヴェデールチ!」

 

 芝居がかった手振りを残して、男は騒がしい広間の人混みの中へと滑り込むように去っていった。その背中が完全に雑踏へ紛れて見えなくなるまで、カミラは冷ややかな視線を外さなかった。

 ――アッリヴェデールチ。

 また会いましょう、か。

 カミラはその言葉を頭の中で反芻し、小さく鼻から息を抜く。

 本当にただのナンパな流れ者なのか、それともカンダタの手先なのか。どちらにせよ、あの油断のならない身のこなし。

 

 あの男と次に顔を合わせる時は、きっと今より面倒なことになる。

 

 カミラは、そんな予感だけを静かに飲み込んだ。

 

ーーーーーー

 

 マナたちは手分けして、ギルド内でカンダタの盗賊団とシャンパーニの塔について聞き回った。

 だが、返ってくる話は曖昧だった。

 三十人はいる。

 いや、五十人以上だ。

 百人近いらしい。

 

 しばらくして、四人はギルドの隅へ集まった。

「ここまででわかったことを整理しましょ」 ダリアが羊皮紙を広げる。

「塔までの道順は掴めた。街道を北へ進むとカザーブという町がある。そこから西へ向かって石橋を渡れば丘陵地帯。その先に塔があるらしい」

「でも、カンダタ一味の人数は結局わからないままね」

 マナが眉を下げる。

「盗賊団なんて増えたり減ったりするものでしょ」

 ダリアは肩をすくめた。

 カミラは周囲の冒険者たちへ視線を流す。

「……問題は、どこに手下が配置されてるかよね」

 街道で襲われた、という話は多い。だが、“どこで”となると、皆まちまちのことを言う。

「それと、シャンパーニの塔の中ね」

 ダリアが腕を組む。

「知ってる人は誰もいない」

 メイリンが付け加えた。

「やっぱり、はっきりとは分からないね」

 

「……つまり、行ってみなきゃ分かんない、か」

 マナのその言葉に、カミラは苦笑する。

 ここで結局、いつものそのフレーズに戻るのか。

 

 だが同時に、そんなことを言う勇者の娘だからこそ、自分たちはここまで本当に来ることができたのだとも思った。

 

 怖いくせに、あの子は前へ進むことをやめない。

 ──そして気づけば、自分まで、その無茶に付き合っている。

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