ドラクエ3 〜女子だけのパーティで魔王に挑んでみた〜 作:ミサ2
【盗賊】カミラ
【商人】ダリア
【武闘家】メイリン
【旅の剣士】ダンテ
「さっきの男、どう思う?」
ギルドを出て少し歩いたところで、ダリアがそう切り出した。
ロマリアの大通りは午前中から賑わっている。荷馬車が石畳を軋ませ、露店商の呼び声が飛び交う中、カミラは通りの向こうへ視線を走らせたまま答えた。
「ダンテでしょ? 信用はできないわね」
短く返すと、隣を歩いていたメイリンが小さく頷いた。
「あの男、強い」 静かな断言だった。
「立ち方に隙がなかった。重心も安定してたし、歩幅も乱れない。気配の消し方も慣れてる」
「やっぱり、あんたもそう思った?」
ダリアが感心したように眉を上げる。
「私も、ただの流れ者には見えなかった。あの剣もそれなりの代物だったしね。柄の擦れ方も自然だった。見栄で高い武器ぶら下げてる連中とは違うわ」
「そうだよねぇ……」
マナも納得するかのように二度頷く。
カミラは小さく鼻を鳴らした。
「マナと同じくらいの腕前なんて、あれは嘘よ」
少なくとも、“負けない程度”なんて腕じゃない。あの男の重心の置き方。剣に馴染んだ手つき。周囲を見る視線。戦い慣れている人間のそれだった。
「でも、なんでわざわざ弱く言う必要があるの?」 マナが不思議そうに首を傾げる。
「強いって分かった方が、仲間に誘いやすそうなのに」
「そこなのよ」 ダリアがすぐに反応した。
「普通、売り込みたい側は自分を高く見せる。特にああいう流れ者ならなおさら。でも、あの男は逆をやった」
ダリアは腕を組み、続ける。
「実力を隠して油断させたいのか、それとも最初から別の目的があるのか。どっちにしても、まともな売り込み方じゃないわ」
「カンダタの手先……かもしれないってことだよね」
マナの声が少し曇る。
カミラはそれには答えず、人通りの多い街道を見据えた。
「……まあ、初対面で『俺の方が強い』なんて言う男は野暮だけどね」
「何者であれ、カンダタが十五年もこの辺りを仕切ってる大盗賊なら、ギルドの出入り口にダンテという目を置いていても不思議じゃない」
いつのまにか歩幅が少し広がっていた。
「……少なくとも、あの宿屋には近づかない方がいいわね」
ーーーーー
ダリアが一度足を止めて振り返った。背負った商人鞄の底で、換金したばかりの硬貨が重たく擦れ合っている。
「これから武器と防具を見に行くわ。現金はだいぶ増えたけど、もちろん無限じゃない。申し訳ないけど、ここはシビアに優先順位はつけさせてもらうからね」
マナは素直に頷き、メイリンも静かに耳を傾けている。カミラは笑みを浮かべた。
「商人さんの本領発揮ってわけね」
「当然でしょ。無駄金は1ゴールドも使いたくないもん」
ダリアは即座に言い返し、そのまま武具屋へ足を向けた。
ギルドから紹介された店は、分厚い鉄板と武器で壁が埋まった、いかにもロマリアらしい武具屋だった。店内には錆と油、それに獣脂の混じった匂いがこもっている。
ダリアの目つきが変わった。棚へ並ぶ剣や鎧を見回しながら、商売人の顔で口を開く。
「まず、キャタピラーとの戦いで分かった通り、この辺の敵は攻撃が重い。防具の強化は必須ね」
そう言いながら、ダリアは革鎧の縫い目を指で確かめる。
「ただし、優先はマナと私。マナにはホイミがあるし、私も薬草を扱える。回復役が先に倒れたら話にならないから」
視線がカミラとメイリンへ向く。
「悪いけど、二人は今のまま。重装備なんか着たら、逆に良さが消えちゃうでしょ?」
カミラは小さく肩をすくめた。
鉄板を身体に貼りつけて戦うつもりはない。逃げ道を探す時も、死角へ滑り込む時も、身体は軽い方がいい。
「いいよ、私は今のままの方が動きやすいし」
「私も、重い鎧や盾は合わない」 メイリンも静かに頷く。
マナは自分のウッドシールドへ視線を落とした。
「じゃあ、私はちゃんと倒れないように頑張らなきゃね」
ダリアは鼻を鳴らした。
「頑張るんじゃなくて、生き残るの。そこ、間違えないでよね」
ダリアは陳列棚の奥から、鈍い鉄色の前掛けを引っ張り出した。
「私はこれね。鉄の前掛け。見た目は野暮ったいけど、急所を守るにはかなり優秀よ」
鉄板同士が、じゃらり、と重たい音を鳴らした。
その目は品物の価値を確信している眼差しだった。
カミラは腕を組み、鉄板の重なり方を眺める。たしかに、見栄えは悪い。だが腹を裂かれるよりは、よほどマシだ。
「……商人っていうより、戦士みたい」
「旅商人なんて、半分はそういうものよ。体力勝負ね」
ダリアは平然と言い返し、そのまま隣へ立てかけられていた青銅製の盾を持ち上げた。
「それと、マナにはこっち。そのウッドシールドじゃ、そろそろ厳しいと思う」
マナは今まで使っていたウッドシールドを脇へ抱え、慎重に青銅の盾を受け取った。ぐっと腕がわずかに沈み、彼女は裏革を握り直した。
カミラは横目でその様子を見つめる。
――少しずつ、装備が変わっていく。
アリアハンを出たばかりの駆け出し冒険者では、もういられないのだと、そんな実感がふと胸をよぎった。
ーーーーー
道具屋で買い足した薬草の袋を揺らしながら、四人はロマリア城下町の門を抜けた。
目指すのは北にあるという、カザーブの町。そこがシャンパーニの塔へ向かう重要な中継地だ。
街道へ出ると、乾いた風が草原を吹き抜けていった。背後の城壁は少しずつ低くなり、代わりに草の海が視界いっぱいに広がっていく。
前方の草むらが激しく揺れる。
飛び出してきたのは、一本角の大ウサギが三匹。
その後ろから、太い緑の芋虫が草を押し分けて這い出してくる。胴の太さは、大型犬ほどもあった。
アルミラージ三匹と、キャタピラーが一匹だ。
カミラが鞭へ手をかけた時には、メイリンはすでに前へ走っていた。
素早い踏み込みから放たれた蹴りが、キャタピラーのぶ厚い皮へ叩き込まれる。
すぐさま、カミラは腰のトゲの鞭を抜いた。
手首を返す。
棘の列が風を裂き、三匹のアルミラージをまとめて薙ぎ払う。
だが、一匹だけが跳ねるように軌道を変えた。
棘が浅く掠める。
着地したアルミラージが、その角をこちらへ向けた。
次の瞬間、景色がぐにゃりと歪む。
(ラリホー……!)
眠気を誘う魔力が空気を撫でた。
カミラが舌打ちしかけた時には、隣のマナの膝から力が抜けていた。
新しい青銅の盾が、乾いた音を立て地面へ転がる。マナはどさりとそのまま草むらへ崩れ落ちた。
すぐにダリアが間を詰める。
大型のナイフが振り下ろされ、最後のアルミラージが地面へ沈んだ。
しかしキャタピラーはまだ反撃に動く。
カミラが再び鞭を振るう。
メイリンの蹴りが叩き込まれ、ダリアの追撃が続いた。
やがて芋虫の巨体が痙攣し、動かなくなった。
静寂が戻る。
カミラはすぐに膝をつき、マナの肩を揺さぶった。
「マナ、起きな!」
「……あ、うん」
マナは重そうに瞼を開き、まだ焦点の合わない目を擦った。
「ごめん……」 気まずそうに身を起こした。