ドラクエ3 〜女子だけのパーティで魔王に挑んでみた〜 作:ミサ2
【盗賊】カミラ
【商人】ダリア
【武闘家】メイリン
カザーブへ向かう道。草むらが途切れ、足元がゴツゴツとした岩肌へ変わっていく。
道が傾斜を帯び始めたその時、前方から腐臭が流れてきた。
「……! 来る!」
肉の剥げ落ちた獣の死骸――アニマルゾンビが二匹。
さらに岩陰から、禍々しいハサミを鳴らしながら、ぐんたいガニが三匹這い出してくる。
腐臭を切り裂いてメイリンが矢のように躍り出た。先手を取って、拳がアニマルゾンビへ叩き込まれる。
続けて、カミラのトゲの鞭が唸りを上げた。
棘の列が風を裂き、迫るぐんたいガニの群れを一斉に薙ぎ払う。
いつもの連携だ。
(だが、浅い…!)
ゾンビは骨を軋ませながら立ち続け、ぐんたいガニも三匹そのまま硬い甲羅を鳴らして迫ってきた。
マナとダリアが追撃をかけるその時。
アニマルゾンビの裂けた口から、紫色の妖気がどろりと吹き出す。
次の瞬間、全身で鉛を背負わされたような重さがのしかかってきた。
(ボミオス……!)
足が重い。
隣のメイリンも、動きを鈍らせている。
幸い、少し後ろにいたマナとダリアには届かなかったらしい。
「ダリア、マナ、頼むよ!」
カミラが叫ぶ。
応じるように、二人がアニマルゾンビへ斬りかかった。
だが、カミラたちの前には、ほぼ無傷のぐんたいガニが立ちはだかっていた。
一匹のハサミが鋭く突き出される。
鈍った身体では避けきれない。
右脇腹へ凄まじい衝撃が走った。
肉を挟み込まれる激痛に、カミラは息を詰まらせる。
ようやくメイリンが踏み込み、ぐんたいガニの甲羅へ拳を叩き込もうとした。
まさにその時。
三匹の甲羅が、不気味な鈍い光を放つ。
(スクルト……!)
「えっ、まさか……!」
メイリンの声が漏れる。
ただでさえ硬い甲羅が、さらに鈍い金属光沢を帯びていく。
カミラは痛みを堪えて鞭を振るった。
硬い音が返るだけだった。甲羅には浅い傷しか残らない。
メイリンの拳も蹴りも、浅く弾かれる。
その間にも、ぐんたいガニは容赦なく押し寄せてくる。
鈍った身体では捌ききれない。
硬いハサミが、何度も何度も四肢や背中へ突き立ち、傷口から血が滲んだ。
(これは、まずい!……ほんとに)
ボミオスで動きが取れないところに、敵はスクルトでカッチカチだ。
冗談じゃない。これでは勝ち筋が見えない。
視界の端では、マナとダリアがアニマルゾンビと斬り結んでいた。あちらも余裕はない。
正面では、メイリンがなおもぐんたいガニの群れを押し返そうと応戦していた。
けれど、いつもの深い踏み込みがない。スピードもない。後手を踏まされる。拳が届くたび、甲羅の硬い音だけが虚しく返ってくる。
足を殺されて間合いを詰められ、長鞭はもう使えない。
カミラは鞭を投げ捨て、腰の短剣を引き抜いた。
迫るハサミを刃で受け流す。
それだけで精一杯だった。
(このままでは……ここで終わる……)
不意に、背後でアニマルゾンビの崩れる音が響く。
「カミラ!!」
マナの叫び声。
振り向くと、マナが左手をぐんたいガニへ向けて突き出していた。
その指先に火が灯る。小さな火球が放たれた。
(メ、メラ……!!)
火球がぐんたいガニの甲羅を直撃した。
スクルトで強化されたはずの甲羅が、一瞬で焼け爛れる。
そこへダリアがたたみかけ、大型ナイフを深々と突き立てた。
一匹が絶命する。
再び、マナの左手から火球が放たれた。
灼けた甲羅へ、今度はメイリンの踵落としが炸裂する。甲殻が砕けた。
ダリアの追撃が続き、二匹目も崩れ落ちる。
最後の一匹が、なおもカミラの脚へハサミを食い込ませている。
三発目の火球が横から叩きつけられる。
熱波にぐんたいガニが怯んだ。
カミラは短剣を握り直し、甲羅の割れ目へ何度も刃を突き立てる。
やがてハサミから力が抜け、巨体が岩肌へ崩れ落ちた。
岩場に、静寂が戻った。
カミラは短剣を握ったまま、その場で荒く息を吐いた。
「カミラ!!」
モンスターが動かなくなるや否や、マナが真っ直ぐこちらへ駆け寄ってきた。
「すぐホイミするから」
自身の服にもゾンビの爪痕が刻まれているというのに、マナは気にも留めない様子でカミラの傷口へ両手をかざした。
柔らかな光が溢れ出す。光に触れた場所から肉が盛り上がり、激しい流血がみるみる塞がっていく。脇腹を焼くように走っていた痛みが、速やかに引いていった。
マナは息を整える暇もなく、続けてメイリンへ、ダリアへ、最後に自分自身へとホイミをかけていく。
「よかった……」
全員の傷が塞がったのを見届け、マナがようやく息を吐いた。
「うん……今のは本気で危なかった」
カミラは手首を回しながら、素直に漏らす。
ボミオスで足を殺され、スクルトで攻撃を弾かれる。
あのままでは本当に押し潰されていた。
だが、それ以上に頭を離れなかったことがある。
「それより、マナ。今の……メラ?」
「……うん」
マナは自分の左手を見つめた。
「なんか、自然に出た」
「ホイミだけじゃなくて、メラまで……?」
「んー……私もよく分かんない」
誤魔化している様子はない。
本当に、無我夢中で放ったらしい。
カミラは小さく息を吐いた。
「やっぱ、あんた、すごいわ」
回復魔法に攻撃魔法。
ーーホイミだけでも十分驚きなのに、今度はメラだ。
この勇者の娘、本当にどこまで出来るのか。
「それより、ボミオスやばくない?」
ダリアが大型ナイフの血を拭いながら眉をひそめる。
「あんたたちの良さ、完全に消されてたわよ」
「スクルトもね……」
カミラは苦い顔で頷いた。
「鞭がほとんど通らなくなってた」
メイリンは、血の止まった拳を静かにさすり、首をかしげていた。
先ほどのぐんたいガニの硬い甲羅を殴った衝撃が、まだ鈍い痛みとして残っているのかもしれない。
「そういえばマナ、そんなにホイミとメラを使って、大丈夫なの?」
カミラが尋ねる。
呪文というものは、無限に放てるわけではない。ましてや今のマナは、回復に加えて攻撃魔法まで連発したのだ。
「うーん……少し減っちゃったかな。ホイミあと三回ぐらいは使えそう」
「魔力の量、増えてきた?」
「そんな感じもするね」
マナは自分の左手を見つめながら頷いた。
ナジミの塔の頃は、ホイミを四〜五回も使えば限界だったはずだ。それがこれだけの修羅場をくぐり抜けて、まだ余力を残している。
頼もしい。けれど、やっぱりこの勇者の娘、どこか普通じゃない。
「やっぱ、この辺の敵は強いよ」
メイリンが拳から視線を上げ、ぽつりと言った。
「だけど、カザーブまではもう少しのはずよ。夕方までには着くと思う」
ダリアが薬草袋を軽く叩く。中から乾いた葉の擦れ合う音がした。
「薬草もまだあるし、マナのホイミ三回が残ってるなら、十分行けると思う」
「もし無理そうなら、キメラの翼でロマリアへ戻ればいいしね」
マナは小さく頷いた。
「うん。せっかくここまで来たんだし、できるだけカザーブを目指そう」
ーーーーー
マナたち一行は、カザーブへ向かう道を急ぐ。午後になってもまだ陽は高く、夕方までには辿り着けるはずの行程だった。
だが、岩肌の続いていた景色に、少しずつ木々が混じり始める。
やがて道は、薄暗い林道へと変わった。
「来るよ!」
メイリンが短く叫ぶ。
林の奥から、複数の影が飛び出してきた。
キラービーが三匹。
ぐんたいガニが二匹。
そしてアルミラージが一匹。
メイリンが真っ先に間を詰め、アルミラージへ手刀を放った。
あのラリホーを使われる前に潰さないと。
カミラも、即座に鞭を水平に払っていた。うねる棘の列に巻き込まれ、キラービーの群れがまとめて弾け飛ぶ。
一匹を地面へ叩き落とす。
だが、二匹はまだ羽音を響かせていた。
ダリアとマナは、すぐにぐんたいガニへ向かう。
またあのスクルトを使われる前に倒しておきたい。
だが、倒れない。
メイリンがさらにカニへ踏み込もうとした、その時だった。
残っていたキラービーが、鋭い弾道で突っ込んでくる。
細い針が、防備の薄いメイリンの腕へ深く突き刺さった。
「っ……!」
短い苦悶の声。
直後、メイリンの身体が不自然に硬直する。
麻痺だ。
そこへ、ぐんたいガニが甲高い鳴き声を上げた。
林の奥の草むらがざわめく。
さらにもう一匹、新手のぐんたいガニが這い出してきた。
「キラービーは私が叩く!」
カミラは叫び、再び鞭をしならせた。
正確に狙いを定め、さらに一匹を叩き落とす。
あと一匹。
だが、その間にも新手のぐんたいガニが、少しも動けないメイリンへ襲いかかっていた。
鋭いハサミが、無防備な脇腹へ深く突き立てられる。
「……うぅっ!」
メイリンの顔が苦痛に歪む。
カミラは舌打ちし、長鞭を諦めて腰の短剣を抜いた。
その瞬間。
最後のキラービーが、背後から飛びかかってくる。
(しまった……!)
背中に鋭い痛みが走った。
カミラは反射的に身を強張らせる。
だが、襲ってきたのは痛みだけだった。麻痺は来ない。
カミラは振り向きざまに短剣を叩きつけ、キラービーを地面へ落とした。
直後。
別のぐんたいガニのハサミが、今度はカミラの脚へ深く食い込む。
激痛。
それでもカミラは奥歯を噛み締め、短剣を甲羅の隙間へ強引に突き立てた。
しかしその間際、三匹の甲羅が不気味に鈍く光る。
(またスクルト……!)
「しぶとい……!」
カミラは毒づいた。
メイリンはまだ動けない。
マナ、ダリア、そしてカミラの三人だけで、さらに硬化した三匹のぐんたいガニを押し返すしかなかった。
マナも魔力を温存するためか、メラを撃てずにいる。
息の詰まるような長い消耗戦だった。
ようやく最後の一匹が動きを止めた頃には、全員が負傷し、まともに声も出せないほど息を切らしていた。
「……か、勝てた……」
カミラは短剣を支えに、その場へ両膝をつく。
ダリアがすぐにメイリンの元へ駆け寄った。
どうやら麻痺も解け始めているらしい。
全員の警戒が、完全に緩んだその時だった。
「――はい、動くな!」
林の薄暗い奥から、低く濁った男の声が響く。
カミラが顔を上げるより早く、影が走った。
気づいた時には、一人の男がマナの背後へ回り込み、その細い首筋へギラリと光るナイフを突きつけていた。
さらに二人。
別の茂みから現れた男たちが、カミラたちを囲うように距離を詰めてくる。
「ラリホー……」
マナを拘束した男が、低く呪文を呟いた。
(しまった……!!)
マナは一瞬、両目を見開いた。が、その瞼は重さに耐えられないようにまもなく落ちた。
マナの膝から、がくりと力が抜ける。
男は眠ったマナを抱え込み、そのまま素早く後ろへ飛び退いた。
「はい、勝負ありね」
男の口元が、下卑た笑みに歪む。
「女ばっかりか…」
【作者コメント】
ボミオス+スクルト+ラリホーで、
詰んだと思うこと、プレイヤーだったらありますよね。
それを小説で、キャラ視点で表現してみました。
そして、連戦の中で人間の襲撃が……。