ドラクエ3 〜女子だけのパーティで魔王に挑んでみた〜   作:ミサ2

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【勇者】マナ
【盗賊】カミラ
【商人】ダリア
【武闘家】メイリン


【第29話】ラリホーで人質

 ようやく最後のぐんたいガニ一匹が動きを止めた頃には、全員が負傷し、まともに声も出せないほど息を切らしていた。

 

「……か、勝てた……」

 

 カミラは短剣を支えに、その場にどさりと両膝をつく。

 

 ダリアがすぐにメイリンの元へ駆け寄った。

 どうやら麻痺も解け始めているらしい。

 

 全員の警戒が、完全に緩んだその時だった。

 

「――はい、動くな!」

 

 林の薄暗い奥から、低く濁った男の声が響く。

 カミラが顔を上げるより早く、黒い影が走った。気づいた時には、一人の男がマナの背後へ音もなく回り込み、その細い首筋へギラリと光るナイフを突きつけていた。

 

 さらに二人、別の茂みから現れた男たちが、カミラたちを囲うようにじりじりと距離を詰めてくる。

 

「ラリホー……」

 マナを拘束した男が、低く呪文を呟いた。

(しまったっ!!)

 マナは一瞬だけ両目を見開いたが、その瞼は強烈な睡魔に耐えられないようにして間もなく落ちた。マナの膝から、がくりと力が抜ける。

 男は眠ったマナを器用に抱え込み、そのまま素早く後ろへ飛び退いた。

 

「はい、勝負ありね」

 

 男の口元が、下卑た笑みに歪む。

「動くなよ。このお嬢ちゃんの顔がどうなってもいいなら別だけど?」

 冷たいナイフの切っ先が、眠るマナの柔らかな頬へ軽く触れた。

「こういうのを漁夫の利って言うのかな」

 ラリホー使いの男が、勝ち誇ったように喉を鳴らす。

「普通なら、持ち物全部置いて行け、って話なんだけどな」

 男の視線が、地面へ膝をつくカミラたちの身体をねっとりと舐め回した。

「ほんとに……女ばっかりなんだな」

 

「動くな! 両膝は付いたまま! 立ち上がるんじゃねぇ!」

 カミラに迫ってきた赤いバンダナを巻いた男が、早口にまくし立てた。

「武器を捨てろ! 早く!」

 ダリアとメイリンを制する大柄の男が、山刀を突きつけ、怒声をかぶせた。

「早くしろ!!」

 

「その短剣もだ、姉ちゃん」

 カミラは応じなかった。

 すると、ラリホー男が眠ったマナの頬へさらにナイフを押し当てる。肌に、うっすらと赤い線が浮き出た。

「聞こえなかった?」

 

 人質を取られている以上、従うしかない。カミラとダリアは両膝を付いたまま、手にしていた武器を地面へ落とした。

 

 カミラは動かなかった。

 ――いや、動けなかった。

 

 激闘を終えたばかりの脚の傷が、熱を持ってドクドクと脈打っている。長時間の連戦で、腕も鉛のように重い。メイリンは麻痺から戻ったばかりで、ダリアも肩で激しく息をしている。そして何より、マナを取られた。

 眠らされた勇者の娘を、男は片腕で抱え込んだまま、首筋へぴったりとナイフを添えている。

 距離はある。バンダナ男にも牽制されている。今飛び込んでも、絶対に間に合わない。

 

 カミラは視線だけを周囲に走らせた。

 敵は三人。

 ラリホー使いの、灰色のフードを被った痩せ型の男が一人。マナを人質に取っている、おそらくリーダー格だ。

 自分に迫るのは、赤いバンダナを頭に巻いた男。男にしては小柄だが、両手に短剣を持ち、まるで獲物を見つけた肉食獣のような前傾姿勢で威圧してくる。

 もう一人は、禿頭の大柄な男。ダリアとメイリンに迫り、大きな山刀をかざしている。分厚い体には鎖帷子を着込んでいた。

 そして、林道の左右を完全に押さえられている。逃げ道もない。自分たちは完全に狩られていた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 ――だから言ったのに。

 ギルドを見張られていても不思議じゃない、と。自分は警戒していた。それでも、このザマだ。カミラは奥歯を血が滲むほど噛み締める。盗賊のやり口なら、自分が一番よく知っているはずだったのに。

 

「へぇー」

 ラリホー使いの灰色フードの男が、腕の中の顔を覗き込む。

「こうして見ると、かなり上玉じゃん」

「こっちの東洋娘もな」

 禿頭の大柄の男が、麻痺から回復しきっていないメイリンを舐めるように見た。

 

 ダリアが毅然と言う。

「……マナを放しなさい」

「おっと、動くなって」

 ナイフの切っ先が、マナの首筋へピリッと軽く食い込む。

 カミラの全身が恐怖で強張った。

「放すわけないだろ。こっちも命懸けなんだよ。変な真似されたら困るわけ」

 灰色フードの男はニヤついたまま、マナの腰袋を乱暴に探り始めた。

「おっ、キメラの翼まで持ってる」

 男が、マナの腰袋から翼を引っ張り出す。

 カミラの背筋が冷える。

「やめ――」

 言い終わる前に、男は薄笑いを浮かべたまま、その翼を地面へ叩きつけた。

 乾いた音が響き、美しい羽根が無惨に折れる。

「逃げ道は先に潰しとかないとな」

 男がそれを靴先で踏みにじった。

「逃げ道なんて残すと思うか? ハハ!」

 赤いバンダナの男が、下品に同調して笑う。

「ほんと装備も悪くねぇな」

「ロマリア帰りか? 景気良さそうじゃん」

 男たちの視線が、今度はカミラたち自身へ向いた。値踏みするような目。荷物だけじゃない、もっと別のものまで計算している目だ。

 

 最悪だ――昨夜に宿屋で想定した最悪の事態が、こんな場所で起こってしまうなんて。

 カミラは低く息を吐く。この手の男たちの思考は嫌というほど知っている。金になるものは何でも奪う。金、装備、そして――女もだ。

 

「装備外せ」

 赤いバンダナの男が言う。

「金も全部だ。薬草も置け」

 大柄の男が言った。

「逆らうなよ。別に殺したいわけじゃねぇんだから」

 灰色フードの男が冷たく告げた。

 禿頭の大柄な男の視線が、メイリンの動けない脚を眺める。

「……こいつ、まだ痺れてんな」

 赤いバンダナの男が笑った。

「運ぶの楽そうじゃん」

「大人しくしてれば傷もつけない」

 灰色フードの男が言う。

「顔は綺麗な方が高く売れるからな」

 三人が、ねっとりとした下卑た笑いを漏らした。

 

「さあ、縛れ。姉ちゃんたちは動くなよ。この眠ってるお嬢ちゃんのお顔を無事にしたければな」

 

 灰色フードの男が指示すると、禿頭の大柄な男が不敵な笑みを浮かべて縄を取り出し、ダリアへと迫る。

 

「待ちなさい」

 ダリアが低く口を開いた。

「その子には手を出さないほうがいいわよ」

「……何が言いたい?」

 灰色フードの男が目を細める。だが、マナの首筋へ添えられたナイフは微かにも下がらない。

 ダリアはそれを見極めた上で、静かに続けた。

「まず確認だけど、あんたたち、カンダタの配下なんでしょ?」

 三人の男が、一瞬だけ互いに視線を交わした。カミラはその不自然な小さな間を見逃さなかった。図星だ。

「……だったら何だ?」

「だったら話が早いわ」

 ダリアは平然と肩をすくめてみせる。

「私たちは、そのカンダタに会いに行こうとしてるの」

 男たちの空気が変わった。さっきまでの露骨に下卑た笑いが、少しだけ薄れる。

「ほぉ?……何しに?」

「カンダタを討伐しによ」

 灰色フードの男は、今度は鼻で笑った。

「カンダタ様を? 退治するって?」

「そう、その子は勇者の娘なのよ」

「……勇者の娘?」

 マナを拘束した男が、怪訝そうに眉をひそめた。

「そうよ」

 ダリアはどこまでも平然と頷く。

「その子、伝説の勇者の娘」

 三人の男が、再び視線を交わす。先ほどまでの軽薄だった空気が、明確に引き締まった。

 だが、次の瞬間。

「だったら尚更じゃねぇか」

 灰色フードの男が、ギラリとした目でニヤリと笑った。

「カンダタ様に差し出しゃ、大手柄だ」

 カミラの背筋が凍りつく。やはりそう来るか、と最悪の展開を予想した。

 しかし、ダリアは微塵も慌てなかった。

「ええ。だから言ってるの」

 男たちが不審そうに眉を寄せる。

「“あんたたちが勝手に手を出す案件じゃない”ってね」

「……は?」

 ダリアは冷ややかに鼻で笑った。

「あなたたちがカンダタに示したいのは、“勇者の娘を捕まえた”って成果でしょ?」

 男たちの顔を、一人ずつ確実に見据えていく。

「なのに、あんたたちがここで勝手に傷モノにしたり殺したりしたら、その手柄どうなるの?」

 重い沈黙が流れた。男たちの表情から、さっきまでの下卑た笑みが完全に消え去る。

 

 効いている?

 

 ダリアは容赦なく言葉を重ねる。

「ちゃんと生きたまま連れて行けば、報酬も違うんじゃない?」

 灰色フードの男が、わずかに目を細めてダリアを凝視した。

「……お前、妙に分かってるな」

「商売人だからね。人が何に金を払うかくらい、見るわよ」

 カミラは横目でダリアの横顔を盗み見た。

 この女――。この絶体絶命の状況で、あの凶悪な盗賊団相手に剥き出しの取引を仕掛けているのか。

 

「それに」

 ダリアは冷徹に続けた。

「カンダタが勝手な真似をした部下をどう扱うかくらい、あんたたちの方がよく知ってるんじゃない?」

 三人の男たちが完全に黙り込む。

 カミラは、そこで初めてダリアの狙いを理解した。ダリアは決して、“正しさ”や“命乞い”で説得しているんじゃない。盗賊特有の「欲」と「損得」、その心理の歪みそのものを利用して、どうにか活路を見出そうと綱渡りをしているのだ。

 

「お姉ちゃん、よう分かってんなぁ」

 灰色フードの男が、ふっと感心したみたいに笑った。

「たしかに、勇者の娘を生きたまま連れて行けば、俺たちも褒められるかもしれねぇ」

 だが、男の視線は再び、眠ったマナの顔を舐めるように動いた。

「……だがな」

 その口元が、ゆっくりと残酷に歪んでいく。

「カンダタ様に献上するにしても、売り飛ばすにしても、まずは味見してからだろ?」

 カミラの背筋に、冷たい戦慄が走る。

「この勇者のお嬢様のお顔が多少傷つこうが、腕の一本なくなろうが、カンダタ様には大した問題じゃねぇ」

 男は、マナの顎を乱暴な手つきで掴み上げた。

「生きてりゃ、それでいいんだからな」

 灰色フードの男はニヤリと笑う。

「姉ちゃん、時間稼ぎは失敗だったな」

 

 ダメだ――。

 カミラの奥歯が、ぎり、と鳴った。視界の奥が、怒りでじわりと赤く染まりかける。こいつらをここで殺すしかない。

 一歩踏み込もうとした、その直後だった。

「おっと、動くなよ」

 灰色フードの男の声が鋭く響く。

 同時に、カミラへと張り付いていた赤いバンダナの男が、恐るべき反応速度で一気に間合いを詰めてきた。冷たい短剣の切っ先が、カミラの喉元へと完璧に突きつけられる。

「怖ぇ怖ぇ」

 男が楽しげに笑う。

「今、飛び込もうとしたろ? お姉ちゃん」

 完全に動きを見抜かれていた。カミラは身体を強張らせて動きを止める。

 灰色フードの男も、さらに警戒を強めていた。眠ったマナを半ば肉の盾みたいに抱え込み、首筋へ押し当てたナイフへさらにぐっと力を込める。

「ダメだぜ。そういう目」

 男が低く笑った。

「こっちも何人も狩ってきてんだからよ」

 カミラの背筋へ、再び冷たい汗が伝う。

 本当に慣れている。脅しじゃない。この連中、躊躇なくやる。それで生きてきたヤツらだ。

 

 絶望的だ……。

 それでも、一か八か突っ込むしかない――。

 私のこの手は、足は、動くのか。




【作者コメント】
マナたちの最大のピンチ!
ラリホーをこうやって使うのは反則ですよね…

カミラたちは勝てるのか。
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