ドラクエ3 〜女子だけのパーティで魔王に挑んでみた〜   作:ミサ2

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【勇者】マナ
【盗賊】カミラ
【商人】ダリア
【武闘家】メイリン


【第30話】一瞬の隙

 カミラの背筋へ、再び冷たい汗が伝う。

 本当に慣れている。脅しじゃない。この連中、躊躇なくやる。それで生きてきたヤツらだ。

 

 絶望的だ……。

 それでも、一か八か突っ込むしかない――。

 私のこの手は、足は、動くのか。

 

「まったく気の強ぇ姉ちゃんたちだ。早く縛っちまえ!」 フード男が大男を急かす。

 

(動け……!!)

 

 カミラが地を蹴ろうと全神経を集中させた、その刹那。

――キィン!

 林道に響く甲高い金属音。

 フード男のナイフが、突然上空へ弾き飛ばされた。

「――え?」

 男が呆気に取られたのも束の間、背後から突き出されたロングソードが、その喉を深々と貫いていた。血が噴き出す。

「がは……ッ」 

 マナは男の体から滑り落ちた。さらに一閃。フードの男の身体が、一刀のもとに斬り裂かれる。

 残る二人の盗賊の視線が、一瞬そちらへ吸われた。その隙をカミラは逃さない。

 ブーツの隙間から逆手にナイフを抜くと、バンダナ男の短剣を鋭く弾き上げる。そのまま一歩踏み込み、無防備になった腹へ深々と刃を突き立てた。

「がっ――」 そしてすぐさま喉をかき切った。

 男の口から血が溢れる。

 赤いバンダナの男が崩れ落ちる。

 と同時に、メイリンの足払いが禿頭の大男の膝裏を刈った。膝を抜かれた大男の巨体が後ろへ大きく傾く。そこへダリアの大型ナイフが振り下ろされた。

 骨を断つ鈍い音が響き、禿頭の大男が仰向けに地面へ転がる。その顔面にメイリンの踵落とし——。

 

 

 薄暗い林道には、彼女たちの荒い息遣いだけが残された。

 

 カミラはナイフを握りしめたまま、しばらく動けなかった。指に力が入りすぎている。自分の手なのに、うまく開けない。

 

 終わった。

 

 その事実だけが、遅れて胸の奥へ落ちてくる。

 ようやく顔を上げると、そこに立っていた男は、ロングソードを軽く振って刃の血を払っていた。その余裕に満ちた立ち姿は、周囲の惨状にはおよそ場違いなほどだ。

 

 男は眠ったままのマナへ歩み寄ると、ひょいとしゃがみ込んだ。

「さあ、翡翠のお嬢さん。眠り姫になってる場合じゃないよ」

 耳に届いてきた、その軽口。立ち姿。少し乱れた黒髪。その横顔。

 カミラの眉がぴくりと跳ね上がる。

――あの男。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 その指先が、マナの頬へ軽く触れる。掠めるように触れられて、マナの瞼がゆっくりと震えた。

「……ん……」

 ぼんやりと開かれた澄んだ瞳が、周囲に転がる凄惨な死体と、地面に広がる生々しい血痕を順に見回す。

「……えっ?」

 途切れていた記憶と現在の状況が、その頭の中で瞬時に繋がったらしい。

「えっ……な、なに……?」

 

 困惑するマナを残し、男は静かに立ち上がった。

 剣先を無造作に下げたまま、物言わぬ肉塊となった盗賊たちを冷ややかに見下ろす。

「女の子相手にラリホー使って人質取って……」

 男は小さく肩をすくめた。

「下衆もいいとこだな」

 吐き捨てるように言うと、男は視線だけを素早く動かし、林の奥、静まり返った街道、そして鬱蒼とした木立の影を順番に確かめている様子。

 カミラも意識を集中させ、周囲の気配に耳を澄ませる。

 通り抜ける風の音。

 遠くで鳴く鳥の声。

 他には、不審な足音も気配も一切ない。

 

「……今ならまだ誰にも見られていないようだ」

 手慣れた仕草で剣を鞘に収めると、そこで初めて男——ダンテはカミラたちの方を振り返った。

「シニョリーナたち、説明はあとだ。早くここを離れたほうがいい。まずは撤収が先」

 地面に散らばったままの荷袋や武器へと、ダンテの視線が落とされる。

「荷物と装備、全部持って。次もあるんだろ?」

 彼は左手を軽く上げた。

「飛ぶよ。カザーブへ。集まって」

 

 その言葉で、カミラもようやく身体を動かした。

 地面へ落ちた自分の鞭を拾い上げる。マナは青銅の盾を拾い、ダリアは商人鞄を提げた。

 視線が、盗賊たちの死体へ落ちた。赤いバンダナの男は、まだ薄く目を開いたまま動かない。さっきまで、自分たちを獲物みたいに眺めていた目だった。

 カミラは無言で視線を切った。

 

「カザーブまで、ルーラで飛ぶ。近いけどね」

「カザーブ……」

「きみたちもそこへ行こうとしてたんだろ?」

 ダンテは当然のように言った。軽薄そうな笑み。だが、今のカミラには分かる。

 この男は、ただの流れ者じゃない。強い。自分たちが思ってたよりもはるかに。

 その声を聞いているうちに、張りつめていた肩から、わずかに力が抜けた。

 

 助かった。

 

 ようやく、その実感が身体へ落ちてくる。

 けれど、警戒感まで消えたわけじゃない。自分たちは、この男のことをまだ何も知らない。

 

 

「さあ寄って。ルーラするよ」

 その言葉が終わった途端、足元から眩い光が立ち上る。

胃がふわりと浮くような奇妙な感覚。景色がぐにゃりと歪み、カミラは反射的に目を閉じた。

 

――次に足裏へ確かな感触が戻った時。

 乾いた風が頬を撫でた。どこからか、人の話し声や家畜の匂いが漂ってくる。

 カミラが恐る恐る目を開くと、そこには見知らぬ町並みが広がっていた。西陽に照らされた、低い石造りの建物。その間を木製の荷車と人々が行き交っていた。

 これがカザーブの町なのか。

 

「おや!」

 通りの向こうから、陽気な声が飛んできた。

「ダンテ、久しぶりだなぁ。……なんだ、また女連れかよ」

 声をかけてきたのは、大きな荷物を背負った荷物運びらしい中年男だった。

 ダンテは左手を軽く上げる。

「レオン、しばらくだな」

 歩みを止めず、少しだけ後ろを振り返った。

「悪い、今日は急ぎなんだ」 ダンテは手短に告げた。

 レオンと呼ばれたその男はカミラたち四人の様子を素早く見回した。

「ああ、お嬢さんたち、怪我人か」

「まぁね」

 ダンテは軽く流すように応じる。

「ジャンナが来てると思うんだけど、見なかったか?」

「ジャンナなら、さっきミュラーさんちの方で見かけたぞ」

「グラッツィエ」

 礼だけを手短に言い残し、ダンテはそのまま、すぐに歩き出した。カミラはその背中を追う。その迷いのない足取りから、土地勘があることがわかる。

 

 この男のことを、本当に信用していいのか。

 

 その問いは、まだ消えていない。

 けれど、カミラの足は止まらなかった。この男を疑い続ける力が、少しずつ抜けていく。

 

 

 少し歩いた先で、ダンテが一軒の家の重い木扉を叩いた。

「ミュラーさん、ブオナセーラ!」

 間もなく、中から白髪交じりの年配の男が顔を出した。

「おお、ダンテかい」

「ジャンナいる?」

「ああ、いるよ。入りな」

 家の中へ一歩足を踏み入れると、乾燥した薬草の独特な匂いが鼻腔をくすぐった。

 奥の部屋へ行くと、古びた椅子へ腰掛けていた女性が、気配を察して振り返る。

「チャオ。どしたの?」

 そのジャンナと呼ばれた女は栗色の髪を後ろでひとつに束ねている。肩に引っかけた紺色の外套には、旅埃が薄く残っていた。

 彼女はカミラたち四人の姿を見ると、ふっと口元を緩めた。

「また若い子を侍らせて」

 ダンテが呆れたように肩をすくめる。

「この通りの怪我人だ。カンダタの一味に襲われてな。悪いけど、ホイミしてやってくれないか」

「あらら」

 ジャンナは静かに立ち上がった。

「林道?」

「まぁ、そんなところ」

 ジャンナは四人の顔を順番に見つめる。

「いいけどね。私のホイミだと四人全員やったら魔力が空っぽさ」

「もう今日は仕事ないんだろ?」

「調子いいねぇ」

 軽口が交わされるその時だった。

「あの」

 マナが遠慮がちに、けれど真っ直ぐに手を挙げた。

「ホイミなら私もできます」

 ジャンナとダンテが、同時にマナへと視線を向ける。マナは少し困ったように眉を下げて笑った。

「あと、この怪我、カンダタの人たちじゃなくて……モンスターです」

 部屋の中が、一瞬だけ静まり返る。

「……できる?」

 ジャンナが確かめるように聞いた。

 マナはしっかりと頷くと、カミラへと近づいて両手を差し出した。

 柔らかな光が溢れ出す。じんわりとした確かな温かさが伝わり、ぐんたいガニにやられた痛みが、静かにほどけていく。カミラは驚きに少しだけ目を細めた。みるみるうちに傷が閉じていく。

「あと二人分くらいなら、まだ」

 ジャンナが驚いたように眉を上げる。

「大したもんだねぇ。その歳で、僧侶でもないのに」

 マナは続けてダリア、そしてメイリンへと向き直り、二人の傷を丁寧に癒していく。全員の治療を終えたところで、マナはさすがに疲労からか、小さく肩を落とした。

 ジャンナがそれを見て優しく笑う。

「お前さんには私がしてあげるよ」

 穏やかな光がマナの身体を包み込む。それだけで、マナの張っていた肩の力が少しだけ抜けたようだった。

「ありがとうございます」

 

 ジャンナは再び奥の椅子へ腰を戻した。

 年の頃は三十前後だろうか。腰には使い込まれた片手剣が添えられており、柄革は黒ずみ、鞘には細かな擦り傷が無数に刻まれていた。

 顔立ちは整っていたが、町娘の柔らかさとは明確に違う。日差しと激しい風に晒された肌と、座っていても決して崩れない体幹の強さが先に目につく。

 旅の人間だ。しかも、修羅場をかなり潜り慣れている。ただ、その瞳だけは不思議と穏やかだった。




【作者コメント】
旅の剣士ダンテさん、
ちょっと、かっこ良すぎる…!?笑
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