ドラクエ3 〜女子だけのパーティで魔王に挑んでみた〜 作:ミサ2
【盗賊】カミラ
【商人】ダリア
【武闘家】メイリン
【旅の剣士】ダンテ(男性)
【旅の剣士】ジャンナ(女性)
ジャンナは椅子に腰掛けたままマナをしばらく眺め、ふっと口元を緩める。
「これは……目を離せない子だねぇ」
それからダンテへと目を戻し、尋ねた。
「……で、どういう事情だい?」
ダンテは肩をすくめてみせる。
「俺に聞くなよ」
顎でカミラたちを示す。
「助けたのは途中からだ。当事者はそっち」
四人へ視線が集まる。
「そうか……」
ジャンナはカミラたちへ向き直り、腰の片手剣を軽く叩いた。
「私はジャンナ。ダンテとは同業みたいなもんでさ。旅の剣士ってやつ」
そして少し声を和らげる。
「落ち着いたんなら、聞かせてくれるかい?」
一瞬、誰が話すべきか迷う空気が流れた。
マナがダリアを見つめる。メイリンも無言で頼るように視線を向け、カミラもまた口を開かなかった。
自然と、ダリアが小さく息を吐いた。
「……順番に話すわ」
そう言って、ダリアは椅子へ深く座り直した。
「私たちはアリアハンから来ました。旅の扉で……」 ここまでの経緯を順を追って説明し始めた。
マナがオルテガの娘であり、魔王バラモス討伐を目指す旅だと話した。そして、ロマリア王から金の冠の奪還とカンダタ討伐を依頼され、シャンパーニの塔へ向かっていたこと。その途中、林道でモンスターと戦って消耗した直後、カンダタの一味に襲われたこと。
最後に、ダンテに助けられたことを。
ジャンナは話の途中で一度も口を挟まなかった。腕を組んだまま静かに耳を傾けている。
すべての話が終わり、部屋にしばらく重い沈黙が流れた。
先に口を開いたのはジャンナだった。
「そういうことか……魔王討伐に、カンダタ討伐ねぇ」
彼女は少しだけ笑った。だが、その目は全く笑っていない。
「正気とは思えないね」
マナが言葉を返すよりも早く、ジャンナは淡々と続けた。
「今日のこれで、少しは分かったでしょ?」 椅子へ浅く座り直す。
「悪いことは言わない。シャンパーニの塔なんて、あんたたちだけで行くのは、やめときな」
マナが少し俯く。だが、すぐに思い直したように顔を上げた。
「……でも」
透き通った瞳が、真っ直ぐにジャンナを見据える。
「今日みたいに襲われる人がいるのに、そのままにしておくの、嫌なんです」
ジャンナは少しの間、黙り込んだ。ため息とも違う、小さな息を吐き出す。
「気持ちは分かるよ。分かるけどね」
そこで初めて、ジャンナは少しだけ前へ身を乗り出した。
「今日だって、敵は三人だったんだろ?」 誰も答えられない。
「その三人にも勝てなかった」
部屋の空気が張り詰める。ジャンナは感情を交えず、冷静に言い聞かせるように言葉を重ねていく。
「アジトに乗り込んで、どうにかなると思う?」
「……」
カミラも目を逸らした。返す言葉がなかった。
ジャンナは続ける。
「今日も、もしダンテが来なかったら」 重い間が置かれる。
「どうなってたか、分かるよね?」
再び沈黙。
ジャンナはマナを静かに見つめた。
「捕まった後のこと、一回考えてみたらどう?」
部屋が完全に静まり返った。
格子窓から差し込む、さっきまで暖かく明るかった西陽の色が、急に冷え切って見えた。
ジャンナは組んだ腕を解かないまま、じろりとダンテを睨みつけた。
「ダンテ、あんたも分かってるなら、ちゃんと止めなさいよ」
水を向けられたダンテは、他人事のように肩をすくめてみせる。
「止めたぜ」 軽く返す。
「聞いちゃくれなかったけどな。このシニョリーナたちにも譲れないもんがあるんだろ」
「じゃあ、あんたが終わりまで面倒みてやりなよ」
その言葉に、ダンテはふっと鼻で笑った。
「シャンパーニの塔まで? カンダタ退治に?」
取り合う気もないといった様子で首を振る。
「まさか。俺はそんな王政に義理はない」 彼は淡々と続けた。
「道案内くらいは申し出たんだがな」
カミラは顔を上げ、男の横顔を盗み見た。
ダンテは壁に背をもたれたまま、どこか遠い目をして話し始める。
「あの林道、カンダタたちの格好の狩り場なんだよ」
先ほど林道で味わった、あの身動きの取れない恐怖が蘇る。
「この辺りの地理に慣れてる奴は、まずあの道は通らない。通るならまともな護衛を付ける。ヤツらが手出しを躊躇うような大人数でな」
そこで少しだけ、悪戯っぽく笑う。
「まぁ、だからこそ、あそこが狙われるかなと思って駆けつけることができたわけだが」
「つーわけで、ジャンナ、あんたが手伝ってやってくれないか」
「なんでさ?」
即座に返された言葉に、ダンテは面白そうに笑った。
「未来ある若者のためさ」
ジャンナがぴしゃりと返す。
「なにそれ……若者のためって」
「ハハ! 便利な言葉だろ」
ダンテは少しだけ黙り込んだ。
それから、ふっと小さく笑う。
「……この無鉄砲さ」
視線だけでマナたちの姿をなぞった。
「俺らの若い頃を、少しは思い出さないか?」
ジャンナはわずかに目を細め、四人の姿を静かに見渡した。
「んん……」
腕を組んだまま、しばらく何かを考えるように視線を落とす。
「まぁね」
ジャンナの口から、諦めたようなため息が漏れた。
「分からなくもないけどね」
「だけど、そう思うんなら人に振らず、あんたが責任持ちなよ。みすみす見殺しにするみたいで、私はできないわ」
「ところがさ」
親指でカミラたちを示す。
「シニョリーナ・カミーラたち、俺のことこれっぽっちも信用してくれないのよ」
ジャンナが可笑しそうに片眉を上げた。
「そうなの?」
尋ねながら四人を見回す。カミラは気まずさに、ふいと視線を斜め下へ逸らした。
ダンテは苦笑を交えて言葉を続ける。
「カンダタの一味かもしれないってさ。道案内するふりして後ろから斬るとか、罠に嵌めるとか、ヤツらの待ち伏せ場所に連れてくとか、さんざんな言われようさ」
それを聞くとすぐに、ジャンナがこらえきれずに吹き出した。
「アハハ! まぁ、それは言えてる」
「おいおい……」
ダンテが眉を寄せるのを余所に、ジャンナは笑いながらひらひらと手を振った。
「それは冗談として……」
ジャンナはそこで少し真顔になり、マナの真っ直ぐな瞳を見つめた。
「でも、このダンテはそういう薄汚いことをする男じゃない」
「……はい」
マナは小さく、けれどはっきりと頷いた。
「それは……そうなんだろうなって、さっき思いました」
ジャンナは満足そうに頷く。
「女癖は最悪だけど、人間としてはそんな腐っちゃいないよ」
今度はカミラたちの方へ肩をすくめてみせた。
「この町にもね、この人に助けられた人が何人かいるしね」
「余計なこと言うな」
ダンテが居心地悪そうに天井を見上げるが、ジャンナは意に介さない。
すると、壁にもたれていたダンテが、ふいに身を起こした。
「まぁ、そういうわけでさ」
両手を胸の前で軽く合わせた。
「ジャンナ、シャンパーニの塔まで案内してやってくれないか」
ジャンナの動きがぴたりと止まる。
「……私がかい?」
「ああ」
ダンテはさも当然といった風に平然と言い放つ。
「女同士、分かり合えることもあるだろ」
「雑だねぇ」
ジャンナは呆れ果てたように深くため息を吐いた。
だが、ダンテの口元から軽薄な笑みが消える。
「男の旅と、女の旅が同じなわけないだろ」
ジャンナは反論せず、ただじっとダンテを睨みつけた。
ダンテは構わずに続ける。
「女ってだけで、手出ししやすいと思って仕掛けてくる馬鹿もいる」
ダンテはカミラたち四人の姿を静かに見つめた。
「わかってると思うが、このお嬢さんたち、別に弱くない」
カミラはその視線を受け止め、小さく奥歯を噛み締める。
「今日だって、平地で元気な状態なら、あんな盗賊三人に後れは取ってないだろ」
男の言う通りだった。ぐんたいガニとの連戦で消耗し、メイリンはキラービーで麻痺し、マナも魔力を温存していた。あの最悪のタイミングでなければ、あの程度の野盗は遅れをとる相手ではなかった。
「でも、そうさせないのがああいう連中だ」
ダンテは自嘲気味に、少しだけ笑った。
「相手が一番弱い時だけを狙って出てくる。逃げ道を先に潰す。人数で囲う。人質を取る……そういう、まともじゃない汚ぇ勝ち方も含めて、旅なんだろ」
ジャンナの口から、小さく、重い息が吐き出された。
カミラにも、それはただの脅しには聞こえなかった。さっきの林道で、嫌というほど思い知らされたことだった。
ダンテはいつもの軽い調子に戻って両手を広げた。
「そういう現実的な“お勉強”を教えるなら、男の俺よりお前だと思ったのさ」
それから、いたずらっぽく片目を瞑ってみせる。
「……それに、俺がついていくと、道中で余計な下心が出かねないしな」
「最低だね、あんた」
ジャンナは心底呆れ果てたように、冷たい目を男に向けた。
「明日の午後から、私は長い仕事が入ってるんだよ」
「半日あれば行けるだろ」 ダンテは即答した。
「ジャンナなら塔まで行って、ルーラで戻っても十分に間に合う」
ジャンナは少し口を閉ざした。視線を格子窓の外へと向け、腕を組んだまま何かを計算するように黙り込む。
「んー……」
カミラには距離の感覚は分からない。ジャンナは腕を組んだまま、しばらく静かにしていたが、やがて視線を戻して鋭く言った。
「……つまり私に、この子たちを死地の入口まで案内しろってこと?」
ダンテは再び壁に背を預け、静かに首を振った。
「違う」
その一言で、カミラは顔を上げた。ダンテの声から、さっきまでの軽さが消えていた。
「行くんだよ、こいつらは」
マナたちを真っ直ぐに見据える。
「誰が止めてもな」
ジャンナは反論せず、ただじっとダンテの言葉を待った。
ダンテは、静かに、しかしハッキリと言葉を重ねた。
「だったら、お前が付かない方がよっぽど危ない」
ジャンナが不快そうに眉を寄せた。
「……そんな理屈あるかい」
「あるだろ」
その声は低かった。
「林道も知らない。ヤツらの狩り場も知らない。引き際、逃げ時も知らない。――今日は運良く助けられたが」
そこで男は、微かに自嘲気味に笑う。
「次は無いかもしれない」
部屋がしんと静まり返る。ジャンナは厳しい表情のまま何も返さない。マナもダリアも、その言葉の重さに押し黙った。
ここで不意に、カミラが口を開いた。
「安心して」
みんなの視線が、一斉にカミラへと集まる。カミラは椅子へ浅く腰掛けたまま、冷めた目でジャンナを見返した。
「私たち、あんたに命を預けるつもりなんてないわ」
ジャンナが少しだけ目を細める。
カミラは淡々と、突き放すように言葉を重ねた。
「戦ってほしいわけでもない。道だけ教えて。危なくなったら勝手に帰って」 小さく肩をすくめてみせる。
「むしろ、そうしてくれた方がこっちも気楽だから」
ジャンナは、少し意外そうな面持ちでカミラを見つめた。その目が、探るように動く。
「……途中で放り出されても、恨まないかい?」
カミラはフンと鼻を鳴らした。
「その時は、その時で自分たちで考えるわよ」
短く、自嘲混じりに笑ってみせる。
「もともと、あんたの仕事じゃないんだし」
ジャンナはしばらくカミラを見つめていたが、やがて静かに目を伏せた。
部屋の誰もが息を詰めてその横顔を見守る。ジャンナが再び窓の外へ視線を向けると、西日はもうかなり低くなっていた。
「……半日」
ぽつり、とジャンナの口から言葉が零れた。
ダンテがわずかに眉を上げる。
「塔が見えるところまでだよ」
ジャンナは大きなため息をつきながら、椅子から立ち上がった。
「そこから先は、自分たちの足で行きな」
ダンテの口元が、いつもの余裕を取り戻して小さく綻ぶ。
「グラッツィエ」