ドラクエ3 〜女子だけのパーティで魔王に挑んでみた〜   作:ミサ2

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【勇者】マナ
【盗賊】カミラ
【商人】ダリア
【武闘家】メイリン

【旅の剣士】ダンテ(男性)
【旅の剣士】ジャンナ(女性)


【第31話】旅の女性剣士

 ジャンナは椅子に腰掛けたままマナをしばらく眺め、ふっと口元を緩める。

「これは……目を離せない子だねぇ」

 

 それからダンテへと目を戻し、尋ねた。

「……で、どういう事情だい?」

 ダンテは肩をすくめてみせる。

「俺に聞くなよ」

 顎でカミラたちを示す。

「助けたのは途中からだ。当事者はそっち」

 四人へ視線が集まる。

「そうか……」

 

 ジャンナはカミラたちへ向き直り、腰の片手剣を軽く叩いた。

「私はジャンナ。ダンテとは同業みたいなもんでさ。旅の剣士ってやつ」

 そして少し声を和らげる。

「落ち着いたんなら、聞かせてくれるかい?」

 一瞬、誰が話すべきか迷う空気が流れた。

 マナがダリアを見つめる。メイリンも無言で頼るように視線を向け、カミラもまた口を開かなかった。

 

 自然と、ダリアが小さく息を吐いた。

「……順番に話すわ」

 そう言って、ダリアは椅子へ深く座り直した。

「私たちはアリアハンから来ました。旅の扉で……」 ここまでの経緯を順を追って説明し始めた。

 マナがオルテガの娘であり、魔王バラモス討伐を目指す旅だと話した。そして、ロマリア王から金の冠の奪還とカンダタ討伐を依頼され、シャンパーニの塔へ向かっていたこと。その途中、林道でモンスターと戦って消耗した直後、カンダタの一味に襲われたこと。

 最後に、ダンテに助けられたことを。

 

 ジャンナは話の途中で一度も口を挟まなかった。腕を組んだまま静かに耳を傾けている。

 すべての話が終わり、部屋にしばらく重い沈黙が流れた。

 

 先に口を開いたのはジャンナだった。

「そういうことか……魔王討伐に、カンダタ討伐ねぇ」

 彼女は少しだけ笑った。だが、その目は全く笑っていない。

「正気とは思えないね」

 マナが言葉を返すよりも早く、ジャンナは淡々と続けた。

「今日のこれで、少しは分かったでしょ?」 椅子へ浅く座り直す。

「悪いことは言わない。シャンパーニの塔なんて、あんたたちだけで行くのは、やめときな」

 マナが少し俯く。だが、すぐに思い直したように顔を上げた。

「……でも」

 透き通った瞳が、真っ直ぐにジャンナを見据える。

「今日みたいに襲われる人がいるのに、そのままにしておくの、嫌なんです」

 ジャンナは少しの間、黙り込んだ。ため息とも違う、小さな息を吐き出す。

「気持ちは分かるよ。分かるけどね」

 そこで初めて、ジャンナは少しだけ前へ身を乗り出した。

「今日だって、敵は三人だったんだろ?」 誰も答えられない。

「その三人にも勝てなかった」

 部屋の空気が張り詰める。ジャンナは感情を交えず、冷静に言い聞かせるように言葉を重ねていく。

「アジトに乗り込んで、どうにかなると思う?」

「……」

 カミラも目を逸らした。返す言葉がなかった。

 ジャンナは続ける。

「今日も、もしダンテが来なかったら」 重い間が置かれる。

「どうなってたか、分かるよね?」

 再び沈黙。

 ジャンナはマナを静かに見つめた。

「捕まった後のこと、一回考えてみたらどう?」

 部屋が完全に静まり返った。

 格子窓から差し込む、さっきまで暖かく明るかった西陽の色が、急に冷え切って見えた。

 

 ジャンナは組んだ腕を解かないまま、じろりとダンテを睨みつけた。

「ダンテ、あんたも分かってるなら、ちゃんと止めなさいよ」

 

 水を向けられたダンテは、他人事のように肩をすくめてみせる。

「止めたぜ」 軽く返す。

「聞いちゃくれなかったけどな。このシニョリーナたちにも譲れないもんがあるんだろ」

「じゃあ、あんたが終わりまで面倒みてやりなよ」

 その言葉に、ダンテはふっと鼻で笑った。

「シャンパーニの塔まで? カンダタ退治に?」

 取り合う気もないといった様子で首を振る。

「まさか。俺はそんな王政に義理はない」 彼は淡々と続けた。

「道案内くらいは申し出たんだがな」

 カミラは顔を上げ、男の横顔を盗み見た。

 ダンテは壁に背をもたれたまま、どこか遠い目をして話し始める。

「あの林道、カンダタたちの格好の狩り場なんだよ」

 先ほど林道で味わった、あの身動きの取れない恐怖が蘇る。

「この辺りの地理に慣れてる奴は、まずあの道は通らない。通るならまともな護衛を付ける。ヤツらが手出しを躊躇うような大人数でな」

 そこで少しだけ、悪戯っぽく笑う。

「まぁ、だからこそ、あそこが狙われるかなと思って駆けつけることができたわけだが」

 

「つーわけで、ジャンナ、あんたが手伝ってやってくれないか」

「なんでさ?」

 即座に返された言葉に、ダンテは面白そうに笑った。

「未来ある若者のためさ」

 ジャンナがぴしゃりと返す。

「なにそれ……若者のためって」

「ハハ! 便利な言葉だろ」

 ダンテは少しだけ黙り込んだ。

 

 それから、ふっと小さく笑う。

「……この無鉄砲さ」

 視線だけでマナたちの姿をなぞった。

「俺らの若い頃を、少しは思い出さないか?」

 ジャンナはわずかに目を細め、四人の姿を静かに見渡した。

「んん……」

 腕を組んだまま、しばらく何かを考えるように視線を落とす。

「まぁね」

 ジャンナの口から、諦めたようなため息が漏れた。

「分からなくもないけどね」

 

 

【挿絵表示】

 

 

「だけど、そう思うんなら人に振らず、あんたが責任持ちなよ。みすみす見殺しにするみたいで、私はできないわ」

「ところがさ」

 親指でカミラたちを示す。

「シニョリーナ・カミーラたち、俺のことこれっぽっちも信用してくれないのよ」

 ジャンナが可笑しそうに片眉を上げた。

「そうなの?」

 尋ねながら四人を見回す。カミラは気まずさに、ふいと視線を斜め下へ逸らした。

 ダンテは苦笑を交えて言葉を続ける。

「カンダタの一味かもしれないってさ。道案内するふりして後ろから斬るとか、罠に嵌めるとか、ヤツらの待ち伏せ場所に連れてくとか、さんざんな言われようさ」

 それを聞くとすぐに、ジャンナがこらえきれずに吹き出した。

「アハハ! まぁ、それは言えてる」

「おいおい……」

 ダンテが眉を寄せるのを余所に、ジャンナは笑いながらひらひらと手を振った。

「それは冗談として……」

 ジャンナはそこで少し真顔になり、マナの真っ直ぐな瞳を見つめた。

「でも、このダンテはそういう薄汚いことをする男じゃない」

「……はい」

 マナは小さく、けれどはっきりと頷いた。

「それは……そうなんだろうなって、さっき思いました」

 ジャンナは満足そうに頷く。

「女癖は最悪だけど、人間としてはそんな腐っちゃいないよ」

 今度はカミラたちの方へ肩をすくめてみせた。

「この町にもね、この人に助けられた人が何人かいるしね」

「余計なこと言うな」

 ダンテが居心地悪そうに天井を見上げるが、ジャンナは意に介さない。

 すると、壁にもたれていたダンテが、ふいに身を起こした。

「まぁ、そういうわけでさ」

 両手を胸の前で軽く合わせた。

「ジャンナ、シャンパーニの塔まで案内してやってくれないか」

 ジャンナの動きがぴたりと止まる。

「……私がかい?」

「ああ」

 ダンテはさも当然といった風に平然と言い放つ。

「女同士、分かり合えることもあるだろ」

「雑だねぇ」

 ジャンナは呆れ果てたように深くため息を吐いた。

 

だが、ダンテの口元から軽薄な笑みが消える。

「男の旅と、女の旅が同じなわけないだろ」

 ジャンナは反論せず、ただじっとダンテを睨みつけた。

 ダンテは構わずに続ける。

「女ってだけで、手出ししやすいと思って仕掛けてくる馬鹿もいる」

 ダンテはカミラたち四人の姿を静かに見つめた。

「わかってると思うが、このお嬢さんたち、別に弱くない」

 カミラはその視線を受け止め、小さく奥歯を噛み締める。

「今日だって、平地で元気な状態なら、あんな盗賊三人に後れは取ってないだろ」

 男の言う通りだった。ぐんたいガニとの連戦で消耗し、メイリンはキラービーで麻痺し、マナも魔力を温存していた。あの最悪のタイミングでなければ、あの程度の野盗は遅れをとる相手ではなかった。

 

「でも、そうさせないのがああいう連中だ」

 ダンテは自嘲気味に、少しだけ笑った。

「相手が一番弱い時だけを狙って出てくる。逃げ道を先に潰す。人数で囲う。人質を取る……そういう、まともじゃない汚ぇ勝ち方も含めて、旅なんだろ」

 

 ジャンナの口から、小さく、重い息が吐き出された。

 カミラにも、それはただの脅しには聞こえなかった。さっきの林道で、嫌というほど思い知らされたことだった。

 

 ダンテはいつもの軽い調子に戻って両手を広げた。

「そういう現実的な“お勉強”を教えるなら、男の俺よりお前だと思ったのさ」

 

 それから、いたずらっぽく片目を瞑ってみせる。

「……それに、俺がついていくと、道中で余計な下心が出かねないしな」

「最低だね、あんた」

 ジャンナは心底呆れ果てたように、冷たい目を男に向けた。

 

「明日の午後から、私は長い仕事が入ってるんだよ」

「半日あれば行けるだろ」 ダンテは即答した。

「ジャンナなら塔まで行って、ルーラで戻っても十分に間に合う」

 ジャンナは少し口を閉ざした。視線を格子窓の外へと向け、腕を組んだまま何かを計算するように黙り込む。

 

「んー……」

 カミラには距離の感覚は分からない。ジャンナは腕を組んだまま、しばらく静かにしていたが、やがて視線を戻して鋭く言った。

「……つまり私に、この子たちを死地の入口まで案内しろってこと?」

 ダンテは再び壁に背を預け、静かに首を振った。

「違う」

 その一言で、カミラは顔を上げた。ダンテの声から、さっきまでの軽さが消えていた。

「行くんだよ、こいつらは」

 マナたちを真っ直ぐに見据える。

「誰が止めてもな」

 ジャンナは反論せず、ただじっとダンテの言葉を待った。

 ダンテは、静かに、しかしハッキリと言葉を重ねた。

「だったら、お前が付かない方がよっぽど危ない」

 ジャンナが不快そうに眉を寄せた。

「……そんな理屈あるかい」

「あるだろ」

 その声は低かった。

「林道も知らない。ヤツらの狩り場も知らない。引き際、逃げ時も知らない。――今日は運良く助けられたが」

 そこで男は、微かに自嘲気味に笑う。

「次は無いかもしれない」

 部屋がしんと静まり返る。ジャンナは厳しい表情のまま何も返さない。マナもダリアも、その言葉の重さに押し黙った。

 

 ここで不意に、カミラが口を開いた。

「安心して」

 みんなの視線が、一斉にカミラへと集まる。カミラは椅子へ浅く腰掛けたまま、冷めた目でジャンナを見返した。

「私たち、あんたに命を預けるつもりなんてないわ」

 ジャンナが少しだけ目を細める。

 カミラは淡々と、突き放すように言葉を重ねた。

「戦ってほしいわけでもない。道だけ教えて。危なくなったら勝手に帰って」 小さく肩をすくめてみせる。

「むしろ、そうしてくれた方がこっちも気楽だから」

 

 ジャンナは、少し意外そうな面持ちでカミラを見つめた。その目が、探るように動く。

「……途中で放り出されても、恨まないかい?」

 カミラはフンと鼻を鳴らした。

「その時は、その時で自分たちで考えるわよ」

 短く、自嘲混じりに笑ってみせる。

「もともと、あんたの仕事じゃないんだし」

 

 ジャンナはしばらくカミラを見つめていたが、やがて静かに目を伏せた。

 部屋の誰もが息を詰めてその横顔を見守る。ジャンナが再び窓の外へ視線を向けると、西日はもうかなり低くなっていた。

 

「……半日」

 ぽつり、とジャンナの口から言葉が零れた。

 ダンテがわずかに眉を上げる。

「塔が見えるところまでだよ」

 ジャンナは大きなため息をつきながら、椅子から立ち上がった。

「そこから先は、自分たちの足で行きな」 

 ダンテの口元が、いつもの余裕を取り戻して小さく綻ぶ。

「グラッツィエ」

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