ドラクエ3 〜女子だけのパーティで魔王に挑んでみた〜   作:ミサ2

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【勇者】マナ
【盗賊】カミラ
【商人】ダリア
【武闘家】メイリン

【旅の剣士】ダンテ(男性)
【旅の剣士】ジャンナ(女性)


【第32話】支える理由

「ちょっと喉が渇いたわ。お茶にしない?」

 ジャンナがふと息を吐き、これまでの張り詰めた空気を解きほぐすように言った。

「そだな」

 ダンテも短く応じ、背もたれに預けていた体をゆっくりと起こす。

 ジャンナは椅子から立ち上がると、隣のリビングルームに向かって声をかけた。

「ミュラーさん、お茶をいただいてもいいかしら?」

「ああ、そこにお湯が沸いてるから、好きなだけどうぞ」

 奥からミュラーの穏やかな声が返ってくる。

 一行は連れ立ってダイニングへ移動した。

 使い込まれているが手入れの行き届いた木のテーブルを囲んで、それぞれが腰を下ろす。窓の外では、西陽がさらに傾きかけていた。

 ジャンナがティーポットを持ち、湯気の立つお茶を人数分のカップへと注いでいく。

 茶葉の清々しい香りが、ダイニングに広がった。

 カミラはカップを受け取り、掌で包み込んだ。お茶の温かさがじんわりと伝わってくる。

 

 それぞれがカップに口をつけ、ようやく一息ついた頃だった。

「でもさ……」

 ジャンナが口を開いた。

「ダンテ、なんでこの子たちにそんな入れ込むの?」

 

 その問いに、ダンテはすぐに答える風でもなく、少しの間だけ何かを考えるように視線を落とした。

「……なんでだろな」

 そう呟く彼の声は、いつもの軽薄さが消えて低く落ち着いていた。

「俺たち、剣で食ってるだろ」

「そうね」

「でも、カンダタ退治なんて進んで行きやしない」

 ジャンナは押し黙り、ただダンテの横顔を見つめている。

 ダンテは格子窓の外、すでに暮れ始めたカザーブの空へと視線を向けた。

「別に、カンダタを倒せないとは思ってないんだ」

 淡々と言葉を重ねる。

「ロマリアの兵隊や流れの剣士が本気で集まりゃ、あんな盗賊団、潰すのはそんなに難しいことじゃない」

 そこで男は、微かに皮肉な笑みを浮かべた。

 

「でも、誰もやりたがらない。……それはなんでか?」

 

 ダンテの問いに、ジャンナは小さく頷くのみ。

「面倒だからか。割に合わないからか。死にたくないからか」

 ダンテは、さらに声を落とした。

「……それとも、あいつらが消えると困る奴がいるからか」

 ジャンナは何も言わなかった。カミラはその不気味な示唆に、背筋が一瞬だけ冷たくなるのを感じた。

 

 そこで、男は視線を戻し、小さく笑った。

「もっとも、カンダタやら魔王やらがいるせいで、俺たちも護衛の仕事で食っていけてるわけだけどな」

 ジャンナの目が、わずかに細められる。

「……嫌なこと言うね」

 ダンテはいつもの調子を無理に取り戻すように、ふっと笑った。

「大人の事情ってやつか」

 ジャンナはフンと鼻を鳴らした。

「その言葉で、いろいろと片付くものなのね」

 ダンテはその言葉を否定しなかった。

 ただ、残ったお茶を一口飲んで、カミラたち四人を静かに見つめた。

「だからさ、あんな危ない目を見てまで行こうとする奴らを見ると、ちょっと気になるんだよ」

 今度は、自嘲混じりの小さな笑みだった。

「若いって怖ぇなってさ。……まぁ、羨ましいのかもな」

 

 

【挿絵表示】

 

 

「たださ」

 ダンテの視線が、四人の顔を順番に捉えていく。カミラはその射すような眼差しから目を逸らさず、ただじっとその言葉を待った。

「やるなら、ちゃんと生きて帰って来い」

 部屋の空気が、再びピンと張り詰める。

「死なれると、俺も夢見が悪い」

 男の口元は少し緩んでいた。けれどその声は冗談には聞こえなかった。

「まだシニョリーナたちとエスプレッソもしてないしな」

「はいはい。そういうのは戻ってからにしな」

 ジャンナが呆れたように言う。

 ダリアが小さく息を吐き、メイリンの肩からも、わずかに力が抜けた。

 けれど、ダンテの『生きて帰れ』の一言は、カミラの胸に残っていた。

 

 

 短い沈黙のあと、「あの」

 不意に声を出したのは、マナだった。

 みんなの視線が、彼女へと集まる。マナは座り直すように少しだけ姿勢を正した。

「すみません。助けてもらったのに、私たち、まだちゃんとお礼も言えてなくて」

 マナは小さく、けれど丁寧に頭を下げた。

「今日は、本当にありがとうございました」

 ダリアも小さく顎を引き、メイリンは無言で背筋を伸ばし頭を下げた。

 カミラは少し遅れて、膝の上の手へ視線を落とす。

 助けられたのは事実だ。それを自分の口で認めるには、まだ少しだけ苦かった。

 

 ダンテは一瞬だけ、本当に意外そうに目を丸くしていた。それからすぐに、どこか決まり悪そうに苦笑を浮かべる。

「律儀だなぁ」 男はいつものように肩をすくめてみせた。

「別に、助けたかったから助けただけだよ」

 ダンテは椅子からゆっくりと立ち上がり、窓辺へ移動した。

 ジャンナがその横顔を、からかうような横目でじろりと見る。

「珍しいじゃない。お礼言われて照れてるよ、この男」

「照れてねぇよ。未来ある若者のためさ」

「またそれ?」

 ジャンナが呆れたように言うと、ダンテは気恥ずかしさを隠すように笑った。

 ほんのわずか、場の空気が緩む。

 だが、男はすぐに口を閉じ、再び格子窓の外、暮れてゆく町の景色へと視線を向けた。

 

「……ただ」

 そのまま振り返ることもなく、どこか遠い声で言葉を続ける。

「今日は運が良かった。それだけは忘れるなよ」

 マナがハッとしたように顔を上げた。それでもダンテは、窓の外を見つめたままだ。

 

 マナはしばらく男の背中を見つめていたが、やがて深く納得したように小さく頷いた。

「……はい」

 ダンテはそこでようやくこちらを振り返り、微かに口元を緩めた。

「それと」

 視線が、カミラたち四人の顔を再び順番に捉える。

「礼を言えるってのは、悪くないな」

 

 

 その時、ダリアがおずおずと手を上げた。

「あの、ジャンナさん……道案内のお代は、いかほどですか?」

 ジャンナは一瞬きょとんとしたあと、呆れたように笑った。

「お代? いいよ、そんなのは」

「でも、半日もお時間をいただくわけですし」

「いいって。未来ある若者のため、ってやつだろ」

 横でダンテが、こらえきれずに笑った。

「便利な言葉だろ?」

「本当に便利すぎるねぇ」




【作者コメント】
『大人の事情』ってのも、便利な言葉ですしね。
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