ドラクエ3 〜女子だけのパーティで魔王に挑んでみた〜 作:ミサ2
【盗賊】カミラ
【商人】ダリア
【武闘家】メイリン
【旅の剣士】ダンテ(男性)
【旅の剣士】ジャンナ(女性)
「ちょっと喉が渇いたわ。お茶にしない?」
ジャンナがふと息を吐き、これまでの張り詰めた空気を解きほぐすように言った。
「そだな」
ダンテも短く応じ、背もたれに預けていた体をゆっくりと起こす。
ジャンナは椅子から立ち上がると、隣のリビングルームに向かって声をかけた。
「ミュラーさん、お茶をいただいてもいいかしら?」
「ああ、そこにお湯が沸いてるから、好きなだけどうぞ」
奥からミュラーの穏やかな声が返ってくる。
一行は連れ立ってダイニングへ移動した。
使い込まれているが手入れの行き届いた木のテーブルを囲んで、それぞれが腰を下ろす。窓の外では、西陽がさらに傾きかけていた。
ジャンナがティーポットを持ち、湯気の立つお茶を人数分のカップへと注いでいく。
茶葉の清々しい香りが、ダイニングに広がった。
カミラはカップを受け取り、掌で包み込んだ。お茶の温かさがじんわりと伝わってくる。
それぞれがカップに口をつけ、ようやく一息ついた頃だった。
「でもさ……」
ジャンナが口を開いた。
「ダンテ、なんでこの子たちにそんな入れ込むの?」
その問いに、ダンテはすぐに答える風でもなく、少しの間だけ何かを考えるように視線を落とした。
「……なんでだろな」
そう呟く彼の声は、いつもの軽薄さが消えて低く落ち着いていた。
「俺たち、剣で食ってるだろ」
「そうね」
「でも、カンダタ退治なんて進んで行きやしない」
ジャンナは押し黙り、ただダンテの横顔を見つめている。
ダンテは格子窓の外、すでに暮れ始めたカザーブの空へと視線を向けた。
「別に、カンダタを倒せないとは思ってないんだ」
淡々と言葉を重ねる。
「ロマリアの兵隊や流れの剣士が本気で集まりゃ、あんな盗賊団、潰すのはそんなに難しいことじゃない」
そこで男は、微かに皮肉な笑みを浮かべた。
「でも、誰もやりたがらない。……それはなんでか?」
ダンテの問いに、ジャンナは小さく頷くのみ。
「面倒だからか。割に合わないからか。死にたくないからか」
ダンテは、さらに声を落とした。
「……それとも、あいつらが消えると困る奴がいるからか」
ジャンナは何も言わなかった。カミラはその不気味な示唆に、背筋が一瞬だけ冷たくなるのを感じた。
そこで、男は視線を戻し、小さく笑った。
「もっとも、カンダタやら魔王やらがいるせいで、俺たちも護衛の仕事で食っていけてるわけだけどな」
ジャンナの目が、わずかに細められる。
「……嫌なこと言うね」
ダンテはいつもの調子を無理に取り戻すように、ふっと笑った。
「大人の事情ってやつか」
ジャンナはフンと鼻を鳴らした。
「その言葉で、いろいろと片付くものなのね」
ダンテはその言葉を否定しなかった。
ただ、残ったお茶を一口飲んで、カミラたち四人を静かに見つめた。
「だからさ、あんな危ない目を見てまで行こうとする奴らを見ると、ちょっと気になるんだよ」
今度は、自嘲混じりの小さな笑みだった。
「若いって怖ぇなってさ。……まぁ、羨ましいのかもな」
「たださ」
ダンテの視線が、四人の顔を順番に捉えていく。カミラはその射すような眼差しから目を逸らさず、ただじっとその言葉を待った。
「やるなら、ちゃんと生きて帰って来い」
部屋の空気が、再びピンと張り詰める。
「死なれると、俺も夢見が悪い」
男の口元は少し緩んでいた。けれどその声は冗談には聞こえなかった。
「まだシニョリーナたちとエスプレッソもしてないしな」
「はいはい。そういうのは戻ってからにしな」
ジャンナが呆れたように言う。
ダリアが小さく息を吐き、メイリンの肩からも、わずかに力が抜けた。
けれど、ダンテの『生きて帰れ』の一言は、カミラの胸に残っていた。
短い沈黙のあと、「あの」
不意に声を出したのは、マナだった。
みんなの視線が、彼女へと集まる。マナは座り直すように少しだけ姿勢を正した。
「すみません。助けてもらったのに、私たち、まだちゃんとお礼も言えてなくて」
マナは小さく、けれど丁寧に頭を下げた。
「今日は、本当にありがとうございました」
ダリアも小さく顎を引き、メイリンは無言で背筋を伸ばし頭を下げた。
カミラは少し遅れて、膝の上の手へ視線を落とす。
助けられたのは事実だ。それを自分の口で認めるには、まだ少しだけ苦かった。
ダンテは一瞬だけ、本当に意外そうに目を丸くしていた。それからすぐに、どこか決まり悪そうに苦笑を浮かべる。
「律儀だなぁ」 男はいつものように肩をすくめてみせた。
「別に、助けたかったから助けただけだよ」
ダンテは椅子からゆっくりと立ち上がり、窓辺へ移動した。
ジャンナがその横顔を、からかうような横目でじろりと見る。
「珍しいじゃない。お礼言われて照れてるよ、この男」
「照れてねぇよ。未来ある若者のためさ」
「またそれ?」
ジャンナが呆れたように言うと、ダンテは気恥ずかしさを隠すように笑った。
ほんのわずか、場の空気が緩む。
だが、男はすぐに口を閉じ、再び格子窓の外、暮れてゆく町の景色へと視線を向けた。
「……ただ」
そのまま振り返ることもなく、どこか遠い声で言葉を続ける。
「今日は運が良かった。それだけは忘れるなよ」
マナがハッとしたように顔を上げた。それでもダンテは、窓の外を見つめたままだ。
マナはしばらく男の背中を見つめていたが、やがて深く納得したように小さく頷いた。
「……はい」
ダンテはそこでようやくこちらを振り返り、微かに口元を緩めた。
「それと」
視線が、カミラたち四人の顔を再び順番に捉える。
「礼を言えるってのは、悪くないな」
その時、ダリアがおずおずと手を上げた。
「あの、ジャンナさん……道案内のお代は、いかほどですか?」
ジャンナは一瞬きょとんとしたあと、呆れたように笑った。
「お代? いいよ、そんなのは」
「でも、半日もお時間をいただくわけですし」
「いいって。未来ある若者のため、ってやつだろ」
横でダンテが、こらえきれずに笑った。
「便利な言葉だろ?」
「本当に便利すぎるねぇ」
【作者コメント】
『大人の事情』ってのも、便利な言葉ですしね。