ドラクエ3 〜女子だけのパーティで魔王に挑んでみた〜   作:ミサ2

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【勇者】マナ
【盗賊】カミラ
【商人】ダリア
【武闘家】メイリン

【旅の剣士】ダンテ(男性)
【旅の剣士】ジャンナ(女性)


【第34話】伝説の武闘家

「昔、この辺りで有名だった武闘家の墓があるらしいんだ。熊を素手で倒したとか何とか」

 ダンテは軽く肩をすくめてみせた。

「まぁ、その手の伝説なんて半分は盛ってるだろうけどな」

 彼は可笑しそうに笑うと、少しだけ声を潜めた。

「墓参りくらい、行ってみたらどうだい?」

 メイリンが不思議そうに首を傾げる。

「御利益があるかもしれない。……まぁ、無いかもしれないけどな」

 

 メイリンはしばらくの間、真剣な面持ちで考え込んでいたが、やがて小さく、力強く頷いた。

「……行ってみます」

 その様子に、ダンテが満足げに口角を上げる。

「じゃ、教会は宿へ行く途中だから、寄っていくか」

 横からジャンナが意外そうに眉を上げた。

「今からかい?」

「どうせすぐそこだろ」

 ダンテは事も無げに肩をすくめてみせた。

「未来ある若者のためだ」

「……本当に便利な言葉だねぇ」

 ジャンナは呆れたように息を吐いた。

 

 

 日はもうすっかり落ちかけていた。

 教会の裏手に広がる、静かな墓地。古びた石碑が整然と並び、湿り気を帯びた夜風が木々を揺らしている。

 ダンテは一番奥にある区画を指差した。

「たしか、あれだ」

 周囲のものより少しだけ大きな墓石。長い年月のせいで表面は擦れ、刻まれた文字も判別できないほど薄くなっている。

 メイリンが一歩前へと踏み出した。墓前で静かに目を閉じ、深く手を合わせる。

 その時だった。

 ふっと、肌をなでる空気が冷たく変わる。

 

「……ふむ」

 

 どこからか、低く響く声が聞こえた。

 カミラは反射的に、腰に差した短剣の柄へ手をかけた。全員の視線が、声の主を求めて一箇所に集まる。

 墓石のすぐ横。

 そこには、一人の大柄な老人が立っていた。腕を組み、威厳たっぷりにこちらを見下ろしている。

 だが、その身体は夜気の向こうが見えるほど、薄く透けていた。

(……え!?……死霊?)

 老人は満足げに頷いた。

「若い武闘家か」

 メイリンが息を飲む。

 そして老人は大仰に胸を張ってみせた。

「私はかつて、この地で名を馳せた偉大なる武闘家だ」

 呆気にとられた一同を前に、老人は尊大に告げる。

「噂では、素手で熊を倒したことになっておる」

 メイリンの表情が強張った。

 だが、老人はそこで悪戯っぽく目を細めた。スッと人差し指を立てる。

「だがな、実を言うと、鉄の爪を使っておったのだ」

 

 ……墓地を静寂が支配した。

 老人は自分でおかしくてたまらないように、豪快に笑った。

「ワッハッハ!!」

 

 夜風が墓地を抜けた。

それきり、老人の姿は霧のように消えてしまった。

 

 しばし沈黙。

 カミラは呆然としたまま眉を寄せた。

「……なんだったの、今の」

「さあな」

 ダンテがいつものように肩をすくめる。

 横でジャンナが、くすくすと笑い出した。

「でも、伝説なんて案外そんなものかもしれないわね」

 メイリンは再び墓石に視線を落とした。

 しばらくの間、何かを確かめるように黙っていたが、やがて墓石に向かい丁寧にもう一度だけ小さく頭を下げた。

 カミラはその横顔を隣で見ていた。

 先ほどの張り詰めた表情よりも少しだけ、彼女の肩の力が抜けているように見えた。

 

 皆んなで墓地を後にしようとした時、不意にメイリンの足が止まった。

「……鉄の爪」

 小さく、噛み締めるような声だった。

 誰に聞かせるでもない呟きのあと、彼女はゆっくりと振り返る。

「ダリア」

 名を呼ばれ、ダリアが不思議そうに顔を向けた。

「ん?」

 メイリンはわずかに迷うように唇を結んだ。だが、すぐに顔を上げる。

「私も、鉄の爪……着けていいかな」

 ダリアは意外そうに目を瞬かせた。

「珍しいわね。あんなに素手にこだわっていたのに」

 メイリンは静かに頷いた。

「最近、火力不足を感じるの。キャタピラーの殻に、拳が通らない。ぐんたいガニなんて、もっと歯が立たない」

 そう言って、自分の拳へ目を落とす。

「私は、魔法も使えない。ボミオスをかけられたら、速さも奪われる」

 そこまで言って、少しだけ言葉を探すように黙った。

「防具も、重いものは着けられない。私のいいところが、全部消えてしまうから」

 カミラは何も言えなかった。

 思い返せば、今日の街道での戦いでもそうだった。足を鈍らされ、渾身の打撃は厚い甲羅に阻まれ、反撃を許したメイリンの姿。

 たしかに近ごろは、火力という点では、ダリアのほうが上かもしれない。メイリンはそんなスランプを感じていたのか。

 

 メイリンは、もう一度墓石の方へ視線を向ける。

「だから、もっと自分を鍛えなきゃいけないんだと思ってた。でも……」

 そこで、ほんの少し声が揺れた。

「武器を使ってもいいなら、それでも強くなれるなら」

 重い沈黙が流れた。

 

 先に口を開いたのは、ダリアだった。

「なんで使っちゃダメなのよ」

 メイリンが顔を上げる。

 ダリアは事も無げに肩をすくめた。

「素手じゃなきゃ武闘家じゃないなんて、誰が決めたの? 現に、さっきの伝説の武闘家だって鉄の爪を使ってたんでしょう?」

 横からジャンナが楽しげに笑う。

「熊だって、素手じゃ倒せなかったみたいだしね」

 張り詰めていた空気が、わずかな笑いにほどけた。

 ダリアはメイリンを真っ直ぐに見た。

「道具を使って勝てるなら、迷わず使いなさい。死んでしまったら、修行も何もないわ」

 商人らしい、きっぱりとした声だった。

 メイリンは黙ってその言葉を噛み締め、やがて小さく頷いた。

「……武器屋、見てみようかな」

 カミラはその横顔を盗み見た。

 ほんの少しだけ。頑なだったものが、肩から降りたように見えた。

 

 墓地を出ると、夕陽はもうほとんど沈み、カザーブの町は濃い群青色に包まれ始めていた。

 カミラは隣を歩くメイリンに声をかける。

「……意外だった」

 メイリンが不思議そうに首を傾げた。

「何が?」

「もっと、素手にこだわると思ってたから」

 メイリンは少しの間、考え込んだ。

 それから、短く答える。

「強くなる方が大事。……それだけよ」

 あまりに彼女らしい真っ直ぐな返答に、カミラは思わず小さく笑った。

「そっか。そうよね」

 

「武闘家だから素手、なんて」

 ダリアが首を傾げながら歩く。

「変な話よね。商人だから後ろで金勘定と荷物持ちしてるだけ? そんなわけないしね。こんなに装備固めて前線で体張るし」

 彼女は背負い袋の紐を締め直した。

「道具は、弱さを隠すためだけのものじゃないのよ。強みを伸ばすためにも使うの」

 

「宿屋のそばにちょうど武器屋があるから、これから寄ってみるか」

 ダンテがそう言って歩き出すと、隣のジャンナが楽しそうにカミラたちを振り返った。

「カザーブにはね、意外と良い武器が売られてるのよ。ロマリアには無いような武器もあるしね。きっとシュミットさんたちのような、腕の良い鍛冶屋がいるからね」

 

 すっかり日が落ちた街並みを抜け、閉店間際の武器屋に滑り込む。店主らしき男が片付けを始めようとしていたが、ダンテが気安く声をかけた。

「ガブリエル、遅い時間にすまんな」

「やあ、ジャンナにダンテ。いいとも。好きなだけ見てくれ」

 

 その言葉が終わるか終わらないかのうちに、ダリアの目が鋭く光った。武器商人としての血が騒ぐのだろう。彼女は店内に並ぶ品々を素早く吟味し始める。鉄の槍や、重厚な鎖を編み込んだチェーンクロスなど、小さな町なのに確かにロマリアの店にも引けを取らない業物が揃っているのを感じた。

 その一角に、一際鋭い鈍色を放つ鉄の爪も置かれていた。

 ダリアが品を手に取り、爪の付き方や金具の歪みを確かめたあと、メイリンへ渡した。メイリンは黙ってそれを受け取り、慎重に指を通す。

 拳を握ると、鉄の爪がランプの灯りを受けて鈍く光った。実際に腕を動かして重さと重心を確かめたメイリンが満足げに頷く。

「これ、いいかも」 すぐに購入が決まった。

 ダリアはメイリンの体に合わせてビンディングの調整などを依頼している。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 カミラは、店内に並ぶ武器を眺めながら、己の腰に下げたトゲの鞭と短剣に手をやった。

 複数の敵を牽制するにはいいが、カザーブ周辺の魔物のように、守りを固める呪文――スクルトを多用する敵を相手にするには、どうしても決定打に欠ける。今の自分には、火力が足りない。

 

 カミラは、店主のガブリエルに相談を持ちかけた。

「うーん、お嬢さんに合う得物か……」

 ガブリエルは腕を組み、カミラの細身の体型や身のこなし、手持ちの武器をじろじろと品定めするように見た。

「チェーンクロスなら馴染むかもしれないな。お嬢さんは、普段どんな戦い方をするんだい?」

 

 どんな……?

 問われてカミラが言い淀むと、横からジャンナがひょいと口を挟んだ。

「カミラの戦い方なら、毒針なんていいと私は思うけどねぇ」

「ああ、毒針か。確かにな」

 ガブリエルも得心がいったように頷く。

「ある?」

 ジャンナの問いに、ガブリエルは申し訳なさそうに肩をすくめた。

「あいにく、うちでは取り扱いがないんだ。お向かいの道具屋で以前は扱っていたはずだから、あっちで聞いてみるといい」

「エマの店か。行ってみようか」

 

 ダンテに促され、カミラは武器屋を出て、通りの向かいにある道具屋へと向かった。

 そこもちょうど、店じまいをしようとしているところだった。

「エマ、こんな時間にすまないね」

「あら、ダンテ。もう閉めるところだよ」

 店主のエマが顔を上げる。

「ごめん、ちょっと相談なんだ。こいつらは明日の朝早くに発たなきゃいけなくてね。申し訳ないが、薬草などを見せてもらえないかな」

「いいよ。あんたの頼みなら、そりゃあ聞かないとバチが当たるわ」

 エマは快く一行を招き入れた。

 追いついてきたダリアも合流し、薬草やキメラの翼などを手際よく選び、買い揃えていく。

「エマ、ところで、この店では毒針を扱っているって聞いたんだが」

 ダンテが切り出すと、エマは少し考え込む仕草をした。

「ああ、毒針ね。以前は確かに扱っていたんだけど……ちょっと待ってな。まだ残りがあったかもしれないわ」

 エマは店の奥へと引っ込み、しばらくして一本の包みを持って戻ってきた。

「一本だけあったよ」

 

 差し出されたそれを、カミラは手に取った。

 それは千枚通しや目打ちのような、あるいはアイスピックのような、持ち手のついた太い針だった。

「これなら、刺し所さえ良ければ、呪文で身体を固めた敵でも一撃で仕留められるわ」

 横でジャンナが、その小さな武器の恐ろしさを静かに説く。

「これ、おいくらですか?」

 カミラが尋ねると、エマはふっと優しく笑った。

「それは、もう売り物じゃないから。あげるよ。ダンテたちの紹介なんだしね。特別サービスさ」

「いいんですか。ありがとうございます」

 カミラは少し驚きながらも、その小さな、けれど頼もしい重みを手のひらで包み込んだ。

 エマは「いいのよ」と笑い、店の戸締まりを再開した。

 

 道具屋を出ると、夜の空気は冷え込みを増し、家々の窓から漏れる灯りが暗い道にぼんやりと落ちている。

 カミラはさっそく、譲り受けた毒針を腰のポーチの、最も抜きやすい位置へと差し込んだ。

 指先に触れる冷たい金属の感触。

 力任せに振るう鞭でも、深く踏み込む短剣でもない。ただ一点、急所を正確に突くための道具。

 

「これでみんな準備万端かな。私は青銅の盾、メイリンは新しい爪、カミラは毒針。ダリアは……大量の消耗品!」

 マナが夜空を見上げて、どこか嬉しそうに言った。

「商人の基本よ。備えが利益を生むんだから」

 ダリアが重くなった背負い袋を担ぎ直し、不敵に笑う。

 

 一行は、案内役を引き受けてくれたジャンナ、そしてダンテと共に、今夜の宿へと歩き出した。

 新しい爪を手に入れたメイリンの足取りは、先ほどよりも少しだけ力強い。

 

 カザーブの夜は静かだった。

 けれどその静けさは、安心を約束するものではない。

 

 この夜の向こうに、シャンパーニの塔が待っている。




【作者コメント】
初期の武闘家の、スピードはあっても、火力がなくて守りも薄くて、後衛しかできない…
という"悲哀"を、スランプという形にしてみました。
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