ドラクエ3 〜女子だけのパーティで魔王に挑んでみた〜   作:ミサ2

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【勇者】マナ
【盗賊】カミラ
【商人】ダリア
【武闘家】メイリン

【旅の女性剣士】ジャンナ


【第36話】はなむけ

 太陽がかなり高くまで昇り、木漏れ日の眩しさが増した頃だった。

「ほら、見えてきたよ。あれがシャンパーニの塔だ」

 先頭を行くジャンナが足を止め、行く手を指差した。

 カミラが目を凝らすと、鬱蒼と茂る森の木々の切れ間から、天に向かって鋭くそびえ立つ尖塔が、その姿を覗かせていた。いよいよ、目的地が目の前に現れたのだ。

「ジャンナさん、ここまでどうもありがとうございました」

 マナがジャンナに向き直り、深々と頭を下げた。

 塔が見える所までの道案内。それが、ジャンナと交わした当初の約束だった。カミラも当然、ここで別れるものだと思っていた。

 だが、ジャンナはすぐには背を向けなかった。空を見上げ、それからカミラたちを見やる。

 

「うん……まだ時間があるね」

 そう言って、塔の方を顎で示した。

「ついでだから、塔の下まで送るよ」

 

 カミラは小さく目を見開いた。

 マナが顔を上げる。メイリンも、ダリアも、思わずジャンナを見た。

「……助かります」

 マナが小さく言った。

「ついでだよ」

 ジャンナは短く返し、塔の方へ視線を戻した。

「ここから先は、カンダタたちの庭みたいなものさ。どこにどんな敵が潜んでいるかわからない。気を引き締めていきな」

 マナたちは短く頷いた。

 

「それに、塔に入る前に昼食も必要だろ。先に進んでからよりも、ここらへんで食べた方がいい」

 ぶっきらぼうだが、どこまでも現実的な提案だった。

 

 誰も断らなかった。一行は近くの大きな岩陰に身を潜め、そこで少し早めの昼食をとることにした。

 

 携帯食を口に運ぶものの、誰の口数も少なかった。マナも、メイリンも、ダリアも、手元を見つめたまま表情を硬くしている。何を考えているのかまでは、カミラには分からない。けれど、これから足を踏み入れる場所の重さは、誰もが感じているように見えた。

 カミラもまた、昨日手に入れたばかりの毒針の感触を確かめながら、静かに腹をくくっていく。

 

「では、行きましょうか」

 マナが全員を見回して声をかけた。その引き締まった表情に促されるように、一行は腰を上げた。

 

 歩みを進めるごとに、森の向こうの塔が近づいてくる。

 カミラは鞭の柄に手をかけたまま、周囲の茂みやわずかな物音に神経を尖らせた。どこからカンダタの手下どもが飛び出してきてもおかしくない。

 だが幸いなことに、カンダタ一味と遭遇することはないまま、森の木々が途切れて、塔前の草地が見える場所まで辿り着いた。

 カミラたちは幹の陰に身を寄せ、そっと前方の様子を窺う。

 

 目の前には、小さく開けた草地が広がっていた。その中央に、巨大な塔が立っている。ここから見上げる限り、六階建てほどはありそうだった。

 

「出入口に見張りがいるね。二人」

 隣で同じように様子を窺っていたジャンナが、低く鋭い声で呟いた。

 塔の大きな扉の前に、武器を持った男たちが二人、退屈そうに佇んでいる。

 ジャンナは少しの間、見張りの位置と周囲の地形を見比べていた。

「あんたたちはここで待ってな。私があの二人を片付ける。待ってる間も、周囲への注意は切らすんじゃないよ」

 カミラは思わず息を呑んだ。

「私はあの二人を片付けたら、すぐにルーラでカザーブに戻るから」

 

(そ、そこまでやってくれるのか……!?)

 

 カミラが驚きを隠せずにいると、ジャンナはふっと口元を緩めた。

「私からの、はなむけさ。死ぬんじゃないよ」

 そう言い残すと、ジャンナはカミラたちを物陰に残し、音もなく一人で塔へと向かって駆け出した。

 草地のわずかな起伏、物陰、見張りの視線の死角。そのすべてを使い、滑るように距離を詰めていく。

 カミラは、息をするのも忘れて見入った。

 

 ジャンナが見張りたちと20メートルほどの距離まで迫った、その時だった。

 見張りの一人が、何かに気づいたように顔を上げた。しかしもう遅い。ジャンナの周囲に、小さな竜巻が巻き起こった。鋭い真空の刃が、二人の見張りを正面から切り裂く。

 

(バ、バギ……!)

 

 一人が声もなく膝をつき、そのまま地面に崩れた。

 だが、もう一人は倒れない。苦悶の表情を浮かべながらも、腹を押さえて踏みとどまっている。

 

(浅かった!?)

 

 カミラが思わず身を乗り出しかけた。

 ジャンナはもう動いていた。右腕が振られ、一本の短剣が空を切る。吸い込まれるように飛んだ刃は、残された見張りの胸元へ深く突き刺さった。

 男の巨体が、ゆっくりと地面へ沈む。

 カミラが息を吐くより早く、ジャンナは倒れた男のそばへ歩み寄っていた。短剣を引き抜くと、刃先を軽く振って鞘に収めた。

 

 それから、一度もこちらを振り返ることなく、呪文を唱え始めた。

 

 彼女の体がふわりと宙に舞い上がった。

 次の瞬間、光の塊となって空の彼方へ消えていく。マナたち一同は言葉も発せず見送った。

 

 だが、そのルーラで飛び立つ直前。

 ジャンナの右手の親指が、こちらに向かって小さく突き立てられたように、カミラの目には確かに見えた。

 

 

「ここからが私たちの仕事ね。行くよ」

 マナが引き締まった声で全員を見回した。それぞれが武器の柄を握り直し、道具袋の中の薬草の数を手早く確かめる。マナの合図とともにシャンパーニの塔の入り口へ向かって足早に進んだ。

 

 ジャンナが倒してくれた二人の見張り。その横を通り抜ける際、カミラは一瞬だけ彼らに視線を落とした。先ほどまで立ちはだかっていた脅威が、今は物言わぬ塊として転がっている。

 彼女のはなむけをここで無駄にするわけにはいかない。

 カミラは小さく息を吐き、塔の内部へと足を踏み入れた。

 

 一歩中に入ると、外の眩しい陽射しが遮られ、肌寒い空気が一行を包み込んだ。屋外に比べれば確かに薄暗いが、目が慣れれば、まだカンテラを灯すほどではない。

 

 石造りの壁の冷気を感じながら進むと、奥から羽ばたきの音が響いてきた。それに混じって、空気が低くうなるような音がする。

 暗がりの向こうから、魔物たちが姿を現した。大きな翼を広げたコウモリ男が二匹。そして、ゆらゆらと宙に浮く、霧の塊のようなギズモが三匹。計五匹。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 カミラが鞭に手をかけた時、コウモリ男の一匹が甲高い声で呪文を唱え始めた。

 不吉な光の波が室内を走り、マナの体を包み込む。

 マホトーン——呪文封じだ。

「先にそっちか……!」

 カミラは即座に地を蹴った。前に出ながら、トゲの鞭をしなやかに振るう。鋭いトゲが空気を引き裂き、一匹目のギズモを正面から捉えた。

 霧の塊が、弾けるように散る。

 だが、勢いそのままに狙った二匹目には、ひらりと身をかわされた。三匹目にも鞭の先が触れたものの、手応えは浅い。

 

 体勢を立て直す隙を突くように、かわしたギズモが赤く発光した。メラだ。直後、小さな火球が飛んでくる。

 マナは呪文を封じられながらも落ち着いていた。迫る火球を左腕の青銅の盾で受ける。熱い塊が、盾の表面で弾けて逸れた。

 

 その隙を逃さず、メイリンとダリアが前に出る。鉄の爪が一匹のギズモを裂き、大型ナイフが残り一匹を霧ごと断った。二人の追撃によって、残っていたギズモは次々に消えていった。

 

 残るは、後衛のコウモリ男二匹。

 マナが剣を構えて踏み込み、敵の翼を切りつけた。そこへカミラが間髪入れずに鞭を叩きつける。

 コウモリ男の体は床へ叩き落とされた。

 

 もう一匹が飛び上がろうとしたところへ、ダリアのナイフが走る。続けざまにメイリンの鉄の爪が閃き、魔物は壁にぶつかって動かなくなった。

 

 静寂が戻った通路で、カミラは鞭を収めながら声を潜めた。

「ここまで来ると、魔物も当たり前のように呪文を使ってくるね」

 ダリアがナイフの汚れを拭いながら、心配そうにマナへ視線を向ける。

「マナ、呪文封じられたのは大丈夫?」

「うん、もう解けたみたい」

 マナは胸元に手を当てて息を整え、少し困ったように眉を下げて笑った。

「封じられると、ちょっと焦るよね」

 そう言いながらも、その瞳には、次の階を見据える光が戻っていた。

 

 カミラは彼女の横顔を見てから、さらに奥へと続く薄暗い階段へ視線を移した。

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