ドラクエ3 〜女子だけのパーティで魔王に挑んでみた〜   作:ミサ2

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【勇者】マナ
【盗賊】カミラ
【商人】ダリア
【武闘家】メイリン

【ロマリアの御者】マルコ(カンダタの元捕虜)
【旅の僧侶】ソナム(カンダタの元捕虜)


【第40話】救出すれども討伐ならず

 マルコの自宅へと招かれ、一同はこじんまりとした居間に腰を下ろした。

 ダリアは道具袋から薬草を取り出すと、手早くすり潰し、マルコの傷口に当てた。残りを口に含ませると、強ばっていた彼の顔が少しずつ緩んでいく。

「何から何まで、本当にありがとう」

 痛みが引いて随分と楽になったのか、マルコがしみじみと頭を下げる。

「いえいえ」

 ダリアは少し照れくさそうに笑って応えた。

 アンナがお礼にお茶でも、と慌てて準備を始めようとしたが、マナたちはそれを丁重に断って辞去することにした。礼を受け止めるだけの余力すら、もう残っていなかった。

 

 マルコ宅をあとにすると、マルコ夫妻と、いくらか顔色の良くなったソナムの三人が、いつまでも名残惜しそうに玄関前に見送りに出てきていた。

 カミラたちはその視線を背中に受けながら歩き去ったが、自然と口数は少なくなった。いつも通りに賑やかなロマリアの大通りを歩きながら、たぶん、みんな同じことを考えている。

 あれは、撤退だった。しかも、完敗の末の。

 奈落の底へ落とされて、逃げて帰ってきたのだ。生きて戻った。しかし勝ったわけではない。その事実だけが、ロマリアの明るい通りの中で妙に重かった。

 

「どこの宿にする?」

 沈黙を払うように、ダリアが声をかけてきた。努めていつも通りのトーンを保とうとしているのが、かえってつらい。

「んん……どこでもいいけど。先日も泊まった宿屋でいいんじゃない?」

 メイリンが気だるげに髪をかき上げながら提案する。

「そうね」

 カミラも短く同意し、一行は以前利用した見知った宿屋へと向かった。

 

 受付で手続きを済ませ、割り当てられた部屋に入った途端、緊張の糸が切れたようにそれぞれがベッドや椅子になだれ込んだ。

「はあ……疲れたわー」

 ダリアが大きく息を吐き出しながら、ベッドにごろりと横たわる。

「うん……なんとか帰ってこれたね」

 マナが静かに微笑みながら、椅子の背もたれに身を預けた。

「……うん」

 カミラは壁に身を寄せ、自分の両手を見つめながら短く応じた。まだあの塔の暗闇の感触が肌に残っている。

「そういえば、マナはルーラも?」

 メイリンがふと思い出したように、ベッドの端に腰掛けながらマナを見た。

「そうだったね」

 ダリアも上半身を起こしてマナを見つめる。

「回復魔法に攻撃魔法に移動魔法、あなたもう何でもありじゃん」

 ダリアが感心半分、呆れ半分といった様子で言うと、マナは少し困ったように眉を下げて、悪戯っぽく笑った。

「伝説の勇者の娘だからねぇ。オルテガ様もホイミやルーラぐらいは使えたんじゃないの?」

 カミラがそう言うと、マナは首をかしげた。

「どうなんだろ」

 オルテガの武勇伝は国中に知れ渡っているが、その勇者がどんな呪文を使いこなしていたかまでは、話に聞いたことはない。

 

「それに、カミラもよ。フローミって」

 マナの言葉に、今度は一斉にカミラへと集まった。

「……うん、自分でも驚いた」

 

 カミラは素直に頷いた。あの窮地の最中、頭の中にすうっと意識の格子が広がり、自分が塔の何階にいるのかが確信として分かったあの瞬間。思い返しても不思議な感覚だった。

 

「マナを見ててもだし、カミラもだけど、やっぱりあんなふうにピンチになると、魔法って発現するものなのかな」

 ダリアの素朴な疑問に、マナは首を小さく横に振った。

「いや〜、よくわかんない」

 当事者であるマナ自身も、理屈で引き出した力ではないのだろう。

 

 カミラは再び自分の掌に視線を落とした。

 

 負けた。それは変わらない。

 けれど、何も残らなかったわけでもない。

 マナはルーラを使った。自分も、フローミを覚えた。

 それでカンダタに届くのかは、まだ分からない。

 

 夕暮れの宿屋の部屋に、静かな時間が流れていた。

 

 

「まずは、ごはんにしない?」

 お腹の虫をなだめるように、ダリアがふっと表情を緩めて提案した。

「うん、あたし、早くお風呂にも入りたい」

 メイリンがベッドの上で伸びをしながら、自分の服の袖を嫌そうに見つめる。

「メイリンはお風呂好きねぇ」

 マナがくすくすと笑うと、メイリンは心底うんざりしたといった様子で口を尖らせた。

「あんな埃だらけの塔にいたんだよ? お風呂かシャワーには入るでしょ……」

 埃を被り、奈落の底にまで落とされたのだ。言われてみれば、カミラも肌にまとわりつく汚れがずっと気になっていた。

「そうね、先に入っておいで」

 ダリアが立ち上がり、自分の荷物から空になった薬草の袋を取り出した。

「その間に私は薬草買ってくるわ。もう二つしか残ってないし」

 今日の怪我を今夜のうちに癒すためには、薬草は人数分ほしい。ダリアの言葉に、カミラも小さく頷いて財布の紐を確かめた。

 

「じゃあ、お先します」

 メイリンは嬉しそうに湯帷子を引っ掴むと、軽い足取りで部屋に備え付けられた浴室へと向かっていった。

 

「残りの薬草、薬湯にしたら?」

道具袋を整理していたダリアが、ふと思いついたように言った。

「どうせ今から買い足しに行くんだし、残った二つは使っちゃえばいい」

カミラは思わず頷いた。こういうところは、本当に抜け目がない。

「メイリンの疲れも少しは和らぐでしょ?」

 ダリアはそう言うなり、手際よく薬草を掴んで浴室のドアを軽く叩いた。

「メイリン、これお湯に入れて使いなよ!」と声をかけると、中から「わー、ありがと!」と嬉しそうな声が返ってくる。

 間もなくして、浴室のドアの隙間から、薬草特有のほんのりとした青い香りが部屋の中に漂ってきた。湯気と共に広がるその香りに、カミラも少しだけ肩の力が抜けるのを感じる。

「じゃあ、私は薬草を買いに行ってくるね。カミラとマナ、留守番よろしく」

 ダリアは空になった袋を肩にかけ、部屋を出ていった。

 

 順番に湯を使い、しっかりと身を清めたあと、四人は宿屋のダイニングへ降りて夕食を摂った。

 温かい食事を胃に収め、再び客室へと上がってくる頃には、カミラもようやく人心地がついていた。張り詰めていた身体の強張りが、少しずつ解けていくのが分かる。

 

 めいめいがベッドや椅子に腰掛け、部屋に静かな時間が流れ始めた頃、マナが重い口を開いた。

「みんな、お疲れのところだとは思うけど……」

 その先、マナが何を口にしようとしているのか、カミラには痛いほど分かった。

「今日は負けだったね」

 誰も否定しなかった。否定できるはずもなかった。

「そうね。いつもの形を、見事に破られた……」

 ダリアが膝の上に視線を落としながら、ため息まじりにぽつりと言った。

 

「たぶん、塔の中での戦いを見られてたんだと思う」

 メイリンが悔しそうに唇を噛む。自分たちの戦い方や癖を、あらかじめカンダタの連中に把握されていたのではないか。そうでなければ、あの流れるような連携に説明がつかない。

 

「あの前衛二人は強烈だった」

 マナが思い返すように呟くと、ダリアも頷いた。

「うん。小山みたいな男だったね」

「……あんなに大きいと、何もさせてもらえなかった。まともに攻撃してくるというより、ただ押し返してくるだけなのに」

 メイリンは、自分の拳を見つめた。

「マナ、あの槍使いも手強かったでしょ?」

「うん……正直、向こうのほうが上だと思った。私はぜんぜん通用しなかった」

 

「一番厄介なのは、あの捕縛手よ」

 ダリアが自分の腕をさすりながら、顔をしかめた。

「気づいた時には、もうグルグル巻きにされてて。あれは本当に危なかった」

 一瞬の隙に自由を奪われた恐怖は、まだ記憶に新しい。

 

「あの投擲手も曲者よ。私もマナも食らったけど。離れた所から正確に援護してくる。あいつのせいで、こちらは全部後手に回らされた」

 カミラは、まだ鈍く痛むような気がする右膝に触れた。

 

 前を塞がれ、上から削られ、下から捕まえに来る。

 思い返すほど、よく組まれた布陣だった。

 封じ込められた末の完敗だ。

 

 誰も、すぐには次の言葉を出せなかった。

 

 沈黙を破ったのは、ダリアだった。

 

「で、どうする?」

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