ドラクエ3 〜女子だけのパーティで魔王に挑んでみた〜 作:ミサ2
【盗賊】カミラ
【商人】ダリア
【武闘家】メイリン
カンダタの部下たちは、前を塞さぎ、上から削り、下から引き倒して捕まえに来る。
思い返すほど、よく組まれた布陣だった。
「で、どうする?」
しばしの沈黙のあと、ダリアが尋ねた。
誰もすぐには答えられなかった。カミラもまた、鞭のグリップに目を落としたまま、じっと考え込んでいた。
沈黙を破ったのは、やはりダリアだ。
「……じゃあ、実際に戦ってみて、アイツらの弱点とか見えてこなかった?」
その問いに、メイリンが真っ先に顔を上げた。
「あの大男は、力は強くて重い。でも、速くはないと思う。メイスを持ってたけど、振ってこなかった」
「んん……」
マナは視線を斜め上にやり、記憶をたどるように眉根を寄せた。
「あの槍使いの人、私が戦った感じでは、とくに弱点なんて見えなかったと思う」
「槍は距離があるから強い。でも、懐に入られたら嫌なはず。私の鉄の爪も顔に掠ってたし」
メイリンが、格闘家らしい目で言った。
「あと、片手を潰せば、あの長さは扱いにくくなると思う」
「なるほどね……」
カミラは頷き、今度は自分が相手をした投擲手の男を思い浮かべた。
「あの三本指は、接近してないから詳しくは分からない。けど、あの逃げ足と反応を見る限り、ただの石投げじゃない。弱点があるとしたら、距離を詰められた時かもね。短剣は提げてたけどさ」
「あの捕縛手は、組みついて押さえるのが本職ね。掴まれて倒されると、本当にまずい」
ダリアが自分の腕をさすりながら、忌々しげに言った。
「鉤縄を持ってた。投げてもくるし、近づいたら組みつかれる。距離を取っても近づいても、嫌な相手よ」
怖さは、まだ残っている。
けれど、ただ震えているだけではなかった。どう崩すかを、考え始めている。
ダリアの目が、少しずつ細くなる。
何かを勘定している時の目だった。
「あの前衛を崩す方法なんだけど」
ダリアが少し身を乗り出した。
「一つ、思いついたわ」
カミラは顔を上げる。
「カザーブの武器屋に、チェーンクロスが売られてたの、覚えてる?」
「あったね」
カミラは思い出した。先端に分銅の付いた、鎖でできた鞭。剣や槍とは違い、しなりながら相手を打つ武器だ。
「私がそれを買う」
ダリアはそう言って、指先で机の上を軽く叩いた。
「そしてあの大盾男に当たるわ」
「ダリアが?」
メイリンが目を丸くする。
「正面から押し返すんじゃない。盾って、剣や槍を真正面から受けるには強いでしょ。でも鎖なら、上からでも横からでもいける。受けられても、分銅が盾の裏側へ回り込む。盾の向こうのデカ物を叩ける」
ダリアは淡々と言った。
「あの大盾を壊す必要はない。足を止められればいい。盾を構えたまま、こっちに好きに押し込ませない。それだけで前よりは動ける」
カミラは頷いた。
確かに、メイリンは正面から弾かれた。大盾は、突進を止めるための壁だ。けれど鎖なら、壁の向こうへ先端を回せる。押し返すだけでは、防ぎきれない。
メイリンが加えた。
「ダリア、あの大盾男は、脚は弱点だと思う。あの巨体だもん。脚を痛めたら体重を支えられないよね」
「じゃあ、私は?」
「カミラは槍使い」
ダリアが即答した。
「あいつの槍は長い。でも、あんたのトゲの鞭なら、間合いで一方的にやられっぱなしにはならないでしょ」
「簡単に言ってくれるわね」
「簡単じゃないから、あんたに頼むのよ」
ダリアは真顔で言った。
カミラは返す言葉をなくした。
あの槍使いの動きは、嫌というほど目に焼きついている。すっとした構えから、唐突に穂先が奔る。踏み込みすぎず、こちらの届かない距離から的確に削ってくる。
だが、鞭なら。
こちらの間合いのほうが長い。槍使いに届く。
「……やってみる」
カミラは短く答えた。
「でも、後ろの投擲手はどうするの?」
その問いに、ダリアはすぐには答えなかった。
代わりに、マナへ視線を向ける。
「マナ、槍は使える?」
「うん。稽古はしてきたから」
「じゃあ、鉄の槍も買おう」
「槍で、三本指を止めるの?」
マナが首を傾げる。
「止めるというより、近づくためかな」
ダリアはそこで言葉を切った。
カミラは目を細める。
「……それだけ?」
「半分はね」
ダリアは、そこで少しだけ口元を緩めた。
「もう半分は、相手にそう思わせるため」
部屋に、わずかな沈黙が落ちた。
カミラには、ダリアが何を考えているのか、まだはっきりとは読めなかった。だが、その目は塔で追い詰められていた時のものとは違っている。次にどう動くかを、もう見ている目だった。
「詳しいところは、明日カザーブで試す。今の頭で口だけで詰めても、たぶん無理」
「じゃあ、私は犬ね」
メイリンが言った。
「1対1なら、負けない」
その声には、さっきまでの沈んだ響きが少しだけ薄れていた。
「無理に追いかけすぎないで」
ダリアが釘を刺す。
「あいつは気配を消すのがうまい。体術も一流。追いかけて孤立したら、また向こうの思うつぼよ」
「分かってる」
メイリンは唇を尖らせたが、否定はしなかった。
カミラは鞭のグリップを握り直した。
ダリアは大盾。
自分は槍使い。
マナは鉄の槍。
メイリンは犬。
それだけで勝てるとは思えない。
けれど、同じ形で負けに行くわけではない。
「買うものは、チェーンクロスと鉄の槍。それから薬草を人数分より多め。毒消し草も少し」
ダリアが指を折りながら言った。
「明日はまずカザーブ。装備を揃えて、少し試してから塔へ戻る」
「うん」
マナが頷いた。
その顔には、まだ疲れが残っていた。けれど、目だけは沈んでいない。
「王様に頼まれたの、私だしね」
マナは少し困ったように笑った。
「だから、もう一回行く。またみんなでちゃんと帰ってこよう」
静かな声だった。
誰もすぐには返事をしなかった。
しかしもう心は決まっている。
カミラは、あの落とし穴の闇を思い出す。犬の縄。三本指の礫。大盾に弾かれるメイリン。槍に押し込まれるマナ。カンダタの笑い声。
怖くないわけがない。
けれど、今度は何も持たずにいどむわけではない。
「……行くしかないでしょ」
カミラは小さく息を吐いた。
「借りは返さないとね」