ドラクエ3 〜女子だけのパーティで魔王に挑んでみた〜 作:ミサ2
【盗賊】カミラ
【商人】ダリア
【武闘家】メイリン
アリアハンの街外れでマナがルーラの呪文を唱えた。
足裏から石畳の感触が消え、風が耳元で鳴る。視界が白く弾けた。
(ルーラ移動中)
次に足裏へ戻ってきたのは、土の感触だった。
家畜と草の匂いがする。
カザーブの町の入り口だ。
四人は並んで町の中へと入る。石造りの家並みが続く通りを進んでいると、「おや、お嬢さん達は!」と、親しげに声をかけてくる男がいた。以前この町を訪れた際に出会った、レオンだった。
「あら、レオンさんですっけ。こんにちは」
マナが足を止め、愛想よく微笑む。
「カンダタ退治に行ったんだって?」
レオンのその問いに、マナは少し気まずそうに視線を落とした。
「はい……そうなのですが、また出直しです」
「そうかー」
レオンはそれ以上深く聞いてくることはなかった。
カミラはふと、あの男の名前を口にした。
「あの、ダンテは来てないかしら?」
「ああ~、ダンテか。俺は見てないけどなー。ロマリアにいるか、または仕事に出てるのかもな」
「わかったわ。ありがと」
カミラは短く礼を言い、レオンと別れて歩みを進めた。
「あの武器屋は、ガブリエルさんって言ってたよね?」
ダリアが記憶を確かめるように呟く。
「そう、ガブリエルさん」
マナが頷き、一行は目的の武器屋へと向かった。店先に並ぶ金属の匂いを嗅ぎながら中へ入ると、がっしりとした体格の店主が顔を上げた。
「こんにちは。ガブリエルさん」
「おお! こんにちは、フロイラインたち!」
「フロイライン?」
「こっちの言葉で、お嬢さんって意味さ」
ガブリエルは豪快に笑い、四人を歓迎してくれた。
「武器を見せてほしいのですが」
「もちろん。どうぞ」
マナが切り出すと、ガブリエルはすぐに店の奥へと案内してくれた。彼の後についてダリアがまっすぐに目当ての場所へと進む。
「チェーンクロスがありましたよね?」
「ああ、あるよ。いくつか良い品を揃えてるよ」
ガブリエルが奥から数本の鎖付きの武器を出し、机の上に並べて見せた。鉄の鎖がじゃらりと鈍い音を立てる。
「誰が使うんだい?」
「私よ」
ダリアが軽く手を挙げると、ガブリエルは彼女の細い腕を値踏みするように見た。
「うん、お嬢さんか。全体の長さや、先端の分銅の重さなんかが、使い勝手に影響するからな」
ガブリエルは並んだチェーンクロスの一つを指さし、武器商人らしい真剣な目付きになる。
「重いと破壊力が出るが、力が無いと続けて振るのが難しくなる。……どんな敵なんだい?」
「デカ物よ。2メートル、160キロって感じのね。小山みたいな」
ダリアが迷わず答えると、ガブリエルは「そうかぁ……」と短く唸り、髭の生えた顎をさすった。昨日の戦いでメイリンの前に立ちはだかった、あの大盾の男。その巨体をカミラは思い浮かべる。
「大きな盾を構えてて、ゴリゴリと前に出てくるから。その盾の裏の巨体を叩きたいわけ」
「そういうことだな」
ダリアの意図を汲み取り、ガブリエルはすぐに得物を選び直した。
「じゃあ、ある程度は分銅の重さがあったほうがいいかもな。その分、鎖の長さは控えめで。……これなんて、どうだい?」
勧められた一本を、ダリアが手にとってみる。じっと目を凝らし、実際に何度か軽く持ち上げて、長さや重さを確認していた。その横顔には、道具に対する妥協のない真剣さがある。
「いいかもね。これにするわ」
「毎度ありがとうございます」
ガブリエルが嬉しそうに白い歯を見せる。ダリアはそのまま、隣にいたマナの肩を軽く叩いた。
「それと、マナに鉄の槍を」
「鉄の槍な。いいのあるよ」
ガブリエルは今度はマナの前に立ち、体格や腕の長さ、武器扱いの習熟の具合を確かめた。その上で、数ある槍の中から最も彼女に合う一本を選び出してくれた。
「いい買い物になったわ。どうもありがとう」
ダリアがお金を支払い、買い物を終えた。
「こちらこそー」
ガブリエルが愛想よく応じる。カミラがそろそろ店を出ようとしたところで、ダリアが思い出したようにガブリエルを振り返った。
「あ、そうだ。武器屋だから、試着室、あるわよね?」
「ああ、そこの奥にあるが」
「ちょっとだけ貸してくださらない? 着替えのために」
「いいとも。使っておくれ」
「ありがとう」
ダリアはそう言うと、不敵な笑みを浮かべてマナへと向き直った。
「ということで、マナ。例のものを」
「えっ! あれを……?」
マナは一瞬で顔をこわばらせ、アリアハンの通りで抱え込んでいた小さな木箱をぎゅっと胸元で握りしめた。
「そう、今からシャンパーニの塔でしょう?」
ダリアの有無を言わせぬ言葉に、マナは助けを求めるようにカミラとメイリンを見たが、二人はそっと視線を逸らした。
ダリアから背中を押され、マナはしぶしぶといった足取りで店の奥にある試着室へと入っていった。
残されたカミラ、ダリア、メイリンの三人は、所在なげに試着室の外で待つ。
しかし、間もなく中からマナの困惑したような声が響いた。
「あの……これって、ストッキングを吊すものだよね?」
「そうよ、もちろん」
ダリアが当然のように応じると、少しの沈黙のあと、さらに困り果てた声が返ってきた。
「ストッキング……ないんだけど」
「えっ!」
ダリアが素っ頓狂な声を上げる。隣で腕を組んでいたメイリンが、怪訝そうに眉を寄せた。
「それ、どうすんの?」
「知らないわよ」
予想外の盲点に、三人の間に妙な困惑が広がった。ストッキングがなければ、あの頼りない留め具はただ太腿のあたりでぶらぶらと遊ぶだけになってしまう。
「ちょ、ちょっと見せてみて」
カミラは試着室のカーテン越しにマナに声をかけた。カーテンの隙間から、困り顔のマナがガーターベルトを差し出してくる。カミラはそれを手に取り、金具やレザーの造りをよく観察した。
「あ、これ、ただのガーターベルトじゃなくて……ガーターホルスターとかを安定させるものじゃないかな」
「ん? 見せて」
ダリアが横から顔を覗かせ、カミラの手元にある革帯をじっと見つめる。
「あ、ほんとだ。これは、太ももに巻く加圧ベルトみたいなのも付属品としてある。これって、ただの下着じゃないわね。太腿を軽く締めて、踏み込みを安定させる作りになってる。腰と脚の動きがずれにくくなるんだわ」
「つまり実用品なのね」
メイリンの確認に、ダリアが真面目な顔で頷いた。
「ええ。見た目以外は」
「革も金具もいい。脚の補助具としては理にかなってる。問題は、この瀟洒なレース使いよ」
ダリアが呆れたように指先で黒いレースの縁取りを弾くと、メイリンが「そこ?」と意外そうに目を見開いた。
「そこよ。無駄に高級で、無駄に色っぽい。実用品にこんな凝った装飾いる?」
「いらないと思う」
メイリンが即答した。
「きっと問題は、職人が途中で妙な情熱に目覚めたことね」
カミラが苦笑混じりに言うと、ダリアが何かを閃いたようにポンと手を叩いた。
「じゃさ、マナもせっかくだから、ナイフを買ってガーターホルスターとして使ってみたら?」
ダリアはそのままカウンターの奥にいる店主に声を張り上げた。
「ガブリエルさん、小型のナイフ、ありますよね? 太ももに忍ばせられる感じの」
「ああ、もちろんさ!」
ガブリエルが威勢のいい声で応じ、すぐに棚から手頃な暗器用のナイフを探し始めた。試着室の中のマナが、さらに慌てたような気配を見せていたが、ダリアの合理的な提案に、カミラも「悪くないわね」と心の中で密かに頷いていた。
「こんなのどうだい?」
ガブリエルがカウンターの奥から持ってきたのは、キラリと光を放つ小振りのナイフだった。
「ホルスターもあるよ」
一緒に差し出されたのは、頑丈な革で作られた専用の鞘――ガーターホルスターだった。太腿に固定するためのベルトがついており、先ほどのガーターベルトと組み合わせることで真価を発揮する作りのようだ。
「いいわね、このガーターホルスター」
カミラはそれを手に取り、革の厚みや縫製を確かめた。これなら激しい動きをしてもナイフが脱落する心配はない。カミラは試着室のカーテンの隙間から、それを中へと差し入れた。
「マナ、これ着けてみてよ」
「えっ! ほんとに? 私が……?」
戸惑うマナの声が返ってくる。中でモタモタと手間取っている気配を察し、カミラは小さくため息をついた。
「もう、まどろっこしいわね。入るわよ!」
カミラはカーテンをわずかに開けてその隙間から試着室の中へと体を滑らせた。案の定、マナは複雑な革帯の扱いに手こずり、顔を真っ赤にして立ち尽くしていた。
「貸して。こうして着ければいいのよ」
カミラはマナの前に膝をつき、手際よくベルトの長さを調節していった。黒いレースのついたベルトを腰に回し、太腿の加圧ベルトをマナの脚に合わせてしっかりと締め上げる。そこにナイフを収めたホルスターをがっちりと固定した。
「どう? 着け心地は。鏡も見てみて」
立ち上がったカミラが促すと、マナはおずおずと試着室の姿見に視線を向けた。鏡に映っていたのは、いつもの素朴な装いの下に、どこか強固な覚悟を秘めたような、見慣れない自分の姿だった。
「……うーん」
マナは自分の太腿に巻かれた頑丈な革帯を不思議そうに見つめ、落ち着かない様子で足踏みをしている。
「私だって、こうしてブーツの中にいつも一本忍ばせてるんだからね」
カミラは自分の足元を軽く示しながら、真面目なトーンで言葉を繋いだ。
「マナも、ロングソードが折れるとか、敵に取られるとか、そういう事態が今後ないとは言えないでしょ? そんな時のバックアップウェポンとして、絶対にありだと思うんだけどな」
「……そうねぇ」
カミラの合理的な説明に、マナもようやく納得がいったのか、真剣な眼差しで自分の脚に仕込まれたナイフを見つめ直した。
その時、しびれを切らしたダリアがカーテンを勢いよく開けた。
「どれどれ、見せてよ!」
「えっ! ちょ、ちょっと!」
マナは慌てて服の裾を押さえようとしたが、ダリアとメイリンはすでに興味津々で中を覗き込んでいる。
「いいでしょ。私たち、一緒に寝起きする仲間なんだし」
「ガブリエルさんも見てるし!」
恥ずかしさのあまりマナが悲鳴を上げると、カウンターの向こうから慌てたような声が飛んできた。
「いや……俺は見てないけどな」
ガブリエルは完全に背中を向け、必死に壁の棚を整理するフリをしていた。その様子に、カミラは思わず吹き出しそうになる。
「このホルスターと、そのガーターベルトで、戦力アップだね!」
ダリアが満足そうに頷き、メイリンも悪戯っぽい笑みを浮かべてマナの顔を覗き込んだ。
「着けてみてどう? セクシーギャルのご加護は?」
その言葉に、試着室の内外でどっと笑いが起きた。マナは顔を両手で覆いながらも、肩を震わせて笑っていた。
昨日までの重苦しさが、少しだけ遠のく。
すぐにまた、あの塔へ向かわなければならない。
けれど今だけは、四人とも笑っていた。
試着室の賑やかな騒ぎがひと段落したのを見計らったように、カウンターの向こうで背を向けていたガブリエルが、ようやくこちらを振り返った。その手には、また別の包みが抱えられている。
「あ、そうだ。この前、鉄の爪を買ってくれたお嬢さん」
「はい、私ね」
メイリンがひょこっと顔を出し、自分を指さした。
「そう、あんたにちょうどいいのが入荷したんだ」
ガブリエルがカウンターの上に広げてみせたのは、仕立てのいい一着の武道着だった。
「武闘家は戦士と違って、なかなか使える防具が少ないだろ? この武道着なら、動きを邪魔しないし、軽い。その上、肩口や脇腹には補強が入ってる。見た目より、打撃を逃がしてくれるんだ」
ガブリエルはその武道着の肩口を軽く引っ張り、縫い目や補強の位置を示してみせる。
「微調整すれば今日から使えるはずさ」
そう言われて、メイリンの目が輝いた。彼女は吸い寄せられるように歩み寄ると、その武道着を両手で丁寧に手に取ってみる。先ほどまでマナをからかっていたお転婆な表情は消え、一人の武闘家としての真剣な目付きに変わっていた。
「鏡はこちらですよ、フロイライン」
彼女は武道着を自分の体の前に当て、壁際の鏡の前に立った。肩幅や丈の長さを確かめている。そして顔映りも気にしている様子がカミラには意外だった。
「試着してもいい?」
「どうぞどうぞ」
メイリンは試着した武道着で、何度も体を捻ったり、腕を挙げたり、軽く足を踏み出したりして馴染み具合を確かめている。
「……どうかなぁ?」
鏡越しに、メイリンが少し不安げな、だけど期待の混じった視線でみんなに尋ねてきた。
「似合ってるよ」
カミラが最初に声をかけた。無駄のない引き締まったデザインが、彼女の俊敏な体躯によく映えている。
「うん、生地もいいし、縫製も丁寧。良い品物ね」
ダリアも横から歩み寄り、布地の合わせ目や裏地の始末を厳しい目でチェックしながら、満足そうに頷いた。
「買ってもいいの……?」
メイリンが少し遠慮がちにダリアの顔を見た。その遠慮がちな声の奥に、昨日の悔しさが滲んでいた。
「うん、予算はまだあるよ。メイリンはあの『犬』との対決だからね。防具を惜しむ理由はないわ」
ダリアはきっぱりと言った。
「買いましょう」
メイリンの顔にパッと明るい笑みが咲いた。
「ありがとう。じゃあ、これください!」
「毎度ありがとうございます!」
ガブリエルが嬉しそうに声を弾ませ、深く頭を下げた。
マナの鉄の槍、ダリアのチェーンクロス、メイリンの武道着。そして、マナの太腿に収まった小さなナイフ。
揃えるべきは揃えた。
「結構な散財だったけども、カンダタとの決戦のためだからね」
ダリアが軽くなった道具袋を肩にかけ直しながら、自分に言い聞かせるように呟いた。
カミラはマナをちらりと見た。
さっきまでより、少しだけ立ち姿が落ち着いて見える。
ご加護かどうかは分からない。
けれど、少なくとも昨日のままではなかった。
カミラは鞭を握り直した。
あとは塔で、それを確かめるだけだ。
【作者コメント】
ダンジョン再アタックする際には、装備を揃えますよね?
そんなシーンを綴ってみました。
自分としては、まぁまぁよく描けたシーンのつもり…です。