ドラクエ3 〜女子だけのパーティで魔王に挑んでみた〜 作:ミサ2
【盗賊】カミラ
【商人】ダリア
【武闘家】メイリン
カザーブを出発したマナたち一行は、シャンパーニの塔を間近に臨む森の茂みへとたどり着いていた。
木々の隙間から差し込む木漏れ日の角度からして、時刻は十四時を過ぎた頃だろう。日没まではまだ十分に時間がある。
昨日もこうして、鬱蒼とした緑の向こうにそびえ立つあの禍々しい塔を睨みつけていた。あの時は、案内役のジャンナが隣にいたのだった。その後の敗走の記憶が、ありありと苦々しく残っている。
カミラは静まり返る周囲の気配を窺いながら、低く声を潜めた。
「今日は見張りは一人ね」
「うん、昨日はジャンナさんが二人の見張りを片付けてくれたけど……今日はどうする?」
メイリンが皆を見回す。
「私たちでやるしかないでしょ」
ダリアが冷徹に、しかし確かな闘志を宿した声で言った。それにカミラが続く。
「四人だと、ジャンナさんみたいに、そっと見張りに近づくことはできないからね。行くしかない」
正面から迅速に突破するしかない。その腹づもりを全員が固めたところで、ダリアは最終的な消耗品の確認へと移った。
「突入前の確認だけど、薬草はみんな持ってるね」
「うん、あるよ。ここまでほぼ無傷で来られたし」
マナが道具袋を叩いて応じる。
「マナ、魔力はどれくらいある?」
「ホイミ四回とメラ四回ぐらいできるよ」
「うん。わかってると思うけど、塔の途中ではメラは使わないでね」
カミラは念を押すように告げた。これからの連戦を考慮すれば、魔力は少しでも温存しなければならない。現在の回復手段は、全員で分けて持っている薬草が五つと、マナのホイミが四回分、そして万が一のための毒消し草が四つ。カミラは新調された各自の武器に視線を走らせた。
「じゃあ、みんな。行くよ!」
マナの引き締まった合図とともに、四人は足早に森の遮蔽を飛び出した。
開けた地面を駆ける足音に、塔の前に立っていた見張りの男がすぐに気づく。男は明らかに動揺した様子でこちらを一瞥すると、戦おうとはせず、急いで塔内へと逃げ込んでいった。
見張りを黙って始末する――そんな真似はジャンナだからできる。昨日の今日だ。今頃はあの見張りが、血相を変えてカンダタの元へ報告に走っているか、あるいは塔の内側ですぐに仲間を集めて待ち伏せの陣を敷いているか。もうこちらの侵入は隠せない。
カミラは走りながら、近づいてくる塔の全景を視界に収めて不審な動きがないか目を光らせたが、窓やバルコニーに人影はなく、特に異常は見当たらない。
四人は塔の入り口の分厚い扉へと肉薄し、背を預けながら息をひそめて中の様子を窺った。不気味なほどにしんとしており、すぐ近くに人の気配は感じられない。
マナが顎で合図を送ると同時に、先陣を切ってメイリンとダリアが素早く突入した。続いて、マナとカミラも武器を構えて滑り込むように中へ入る。
一階の広間には、警戒していた待ち伏せらしいものは何一つなかった。ひんやりとした静寂だけが、石造りの空間を満たしている。
「じゃあ、上に進むよ」
マナが新調した鉄の槍を握り直し、階段を見上げて言った。カミラもまた、静かに闘志を燃やしながらその背中に続いた。
ーーーー
道中に現れた魔物を退けながら、四人はさらに上階へと歩みを進めていた。
「まだ私はチェーンクロスは使わないわ。手の内を先に見せたくないからね」
ダリアが声を潜めて囁く。彼女は新調した武器をまだ道具袋に仕舞ったまま、これまでの得物で立ち回っていた。
昨日よりも歩みは速い。塔内の構造を知っているからだけではない。四人の呼吸そのものが、昨日より確かに噛み合っていた。
そして一行は、ついに最上階へと辿り着いた。
この重厚な扉の向こうに、カンダタの玉座がある。昨日、自分たちが意気揚々と踏み込み、惨敗を喫したあげく、落とし穴へ叩き落とされた因縁の場所だ。
扉の手前で少し距離を置き、四人は息を殺して状況を確認し合った。
「まだ薬草は一回しか使ってない。ここまでは上出来ね」
ダリアが皆の消耗具合を見て言うと、カミラは隣のマナに視線を向けた。
「マナも、魔力は残ってるでしょ?」
「うん。ここまで一度も魔法は使ってないから、ばっちりだよ」
マナが力強く頷き、それぞれが手元の武器を握り直す。
「まずは私が大男に突っかけるふりをする。昨日と同じ攻め方だと思わせる。すぐ引くから、ダリア、あとはお願い」
メイリンが拳を軽く合わせながら告げると、ダリアが不敵に口元を歪めた。
「OK」
「あの『三本指』は、たぶん私の投げナイフを警戒してる」
ダリアが腰のナイフに指を添えた。昨日、三本指に一矢報いた投げナイフだ。
「そこも利用するわ」
ダリアはそう言うとマナにウインクした。
「よし、行くよ――」
小さくも力強く呟き、マナが扉に手をかけようとした、その時だった。
「……ん?」
カミラは奇妙な違和感を覚え、眉をひそめた。
昨日この扉の前に立った時は、向こう側に人の気配があった。粗い息遣い、床を踏みしめる音、こちらを待ち構える者たちの重い圧。それが今は、妙に薄い。
本当にいないのか。それとも、こちらの接近を察して息を潜めているのか。
四人は互いに顔を見合わせた。言葉は交わさずとも、全員が一段と警戒の度合いを強める。静かに頷き合い、呼吸を合わせると、一気に扉を押し開けて突入した。
しかし――最上階の間は、不気味なほどにしんと静まり返っていた。もぬけのからだった。
すぐさま四方に散り、物陰や天井裏まで鋭い視線を走らせる。だが、待ち伏せしている者は誰もいない。
「どこへ行ったの……? 留守なのかしら」
マナが拍子抜けしたように、しかし油断なく周囲を見回す。
カミラは武器を構えたまま、昨日ロマリアで聞いたマルコの言葉を思い出していた。彼女は床面に鋭い視線を落とす。
石畳を注意深く見ると、確かに不自然に継ぎ目が浮いている箇所や、わずかに色の違う場所がいくつか点在していた。おそらく、そこが昨日自分たちを奈落へと突き落とした落とし穴の仕掛けなのだろう。
「マナ、足元に気をつけて。そこが罠の場所よ」
カミラの指摘にマナたちも小さく頷き、その不審な箇所を慎重に避けながら歩みを進めた。
マルコは、隠し扉や隠し部屋のようなものもありそうだと言っていた。カンダタたちが忽然と消えたということは、その仕掛けがこの部屋のどこかにあるのかもしれない。
四人は壁の凹凸や不自然な隙間を探りながら、慎重に探索を開始した。
その時、「ここ、みんな見て!」とメイリンが鋭く、しかし抑えた声を出した。
カミラたちがすぐに駆け寄ると、彼女が示していたのは玉座の奥、右側の壁だった。石壁の不自然な歪みに指をかけ、引き出すように動かすと、そこには周囲の壁と同化するように作られた隠し扉があった。
マナが警戒しながら、その扉をそっと開く。
扉の向こうに広がっていたのは、光の届かない完全な暗闇だった。ひんやりとした湿った空気が流れ出し、そこから真っ暗な階段が下へ向かって伸びている。
「カンテラ、灯すわね」
ダリアが手早くカンテラに火を灯した。オレンジ色の小さな光を暗闇の階段へと一歩かざし、その先を覗き込む。
照らし出されたのは、大人が一人通れるほどの狭い石造りの階段だった。それが延々と下へ向かって続いているようだが、カンテラの光でも、暗闇が深すぎてその先がどうなっているのかはよく見えない。
「行ってみる?」
マナが振り返り、カミラたちの顔を見つめた。
どうすべきか、カミラは瞬時に思考を巡らせる。
静かすぎる。罠かどうかは分からない。だが、この中に誘い込まれるだけで十分にまずい。
この狭い階段では、すれ違うことすらままならない。前や後ろから急襲されれば、鞭を振るう空間もない。全員がまともな迎撃体勢をとれないまま、やられる危険性があった。
最悪の光景が脳裏をよぎり、カミラは、そこで足を止めた。このまま無防備に階段を進むことは、とてもできなかった。
「……どこへ続いているのかしら」
メイリンが暗闇の奥を睨みつけながら、ぽつりと呟く。
「この先に逃げ道か、隠し部屋か……どっちにしても、これはあいつら用の道ね」
石段の縁には、靴底が擦った跡がいくつも残っていた。使われていない階段ではない。
カミラはカンテラの灯りに浮かぶ不気味な通路を見つめ、カンダタたちの狡猾さに改めて唇を噛んだ。
こちらが一歩進むたびに、向こうの用意した場所へ引き込まれていく。
その感覚が、たまらなく嫌だった。