ドラクエ3 〜女子だけのパーティで魔王に挑んでみた〜   作:ミサ2

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【勇者】マナ
【盗賊】カミラ


【第5話】ナイフが空気を切り裂いた

 笑いがようやく収まりかけた頃、人だかりの中から別の男が前に出てきた。さっきの戦士とは違う。濁った目つきで、最初から明確な悪意を隠そうともしていない。

「おい」

 男は、女の店の陳列台を、忌々しげに足蹴にした。

「嘘ばっかり並べて、イカサマ商売してんじゃねぇぞ!コラッ!!」

 周りが一気にざわめき立つ。さっきまでの笑い声は一瞬で消え失せた。

 カミラは無意識に身構え、マナの様子をうかがった。だが、マナは動かない。じっと陳列台の向こうを見ていた。

 商人の女の顔から、先ほどまでの華やかな笑みが消えている。かといって、怯えも怒りもない。ただ、凍りついたように静かになっていた。

 

 次の瞬間、何かが宙を走った。

 二度。

 

 一本は男の顔のすぐ真横、背後の木柱に深々と突き刺さった。そしてもう一本は、あわてて踏ん張った男の両足の間、赤土の地面に真っ直ぐ突き立った。

 鈍い光を放つ、ブロンズナイフだった。

 

「ひ……っ」

 男は声を失い、口を半開きにしたまま固まった。指先一つ動かせない。

「ブロンズナイフの実演販売をご希望で?」

 女は、小首を傾けて淡々と問いかけた。

「クサリ鎌のほうが良かったかしら?」と、女は黒く光ったクサリ鎌を手にし、慣れた手つきでブンッと鳴らした。

 

 誰も口を開かなかった。しんと静まり返った中で、女の声だけが冷徹に響く。

「セールストークというのは、多少は盛られるものです。ですが、うちの商品の品質に苦情が来たことは――ただの一度もございません」

 男はよろよろと後退り、腰が抜けそうになりながら人だかりをかき分けて逃げ出していった。

 女は柱と地面から二本のナイフを引き抜くと、手近な布で丁寧に刃を拭い、何事もなかったかのような手つきで台の上に戻した。

 

 マナがこちらを見た。カミラも無言で頷く。

 一旦その場を離れる二人。

 

 

 人だかりから少し離れた路地の入り口で、二人は足を止めた。

 背後では市場の喧騒が続いているが、ここまでは少し遠く、くぐもって聞こえる。

「どう思う?」

 マナが、探るような目でカミラを見た。

「どう、とは」

「あの商人」

 カミラは強く腕を組んだ。網膜には、まださっきの残像が焼き付いている。矛盾を鮮やかに切り返した弁舌、そして風を切り裂いたナイフの軌道。男を射貫いた時の、あの凍てついた瞳。

「腕は立つ。頭も回るわね、確かに」

「でしょ」と、マナは確信に満ちた声で言った。「仲間にしたい」

「判断が早いわね」

「直感」

 カミラは鼻を鳴らし、少し考えてから問い直した。

「そもそも、商人が必要なの? この旅に」

「必要じゃない?」

「普通は戦士や魔法使いを求めるものでしょ。戦力としてはそっちの方が確実だわ。魔王を倒しに行くって言うなら、なおさらね」

 マナは小首を傾けた。相変わらずの、のんきな顔だ。

「でも旅のお金の管理とか、物資の調達とか。それに、交渉ごとだってあるし」

「それは私がやるわよ」

「あなたは盗賊でしょ」

「盗賊だって交渉くらいするわ」

 マナはカミラの顔をじっと見て、それからいたずらっぽく、くすりと笑った。

「カミラは、あの人が嫌い?」

「嫌いじゃない」

 カミラは即答した。

「ただ、冷静に考えているだけ」

 そう言いながら、カミラ自身も胸のざわつきを自覚していた。嫌いじゃない、どころではない。あのナイフ捌きを見た時から、カミラは女をただの商人とは見ていなかった。あんな正確さと度胸は、一度や二度の場数で身につくものではない。味方につけば心強い。けれど、手綱を間違えれば、こちらまで巻き込まれかねない。

「それに」と、カミラは言葉を重ねた。

「あれは相当な乱暴者よ」

「うん」

 マナはあっさりと頷いた。

「だから気になるんじゃない」

 カミラは思わず額に手を当てた。

「……そんな理由で仲間を選ぶの?」

「だめ?」

「……」

 だめだ、と切り捨てることはできなかった。そもそも自分だって、お世辞にも真っ当とは言えない理由でこの無謀な旅に乗っているのだから。

「それで、どう誘うつもり?」

「正直に言うよ」

「……あんた、また真正面から行く気?」

「うん」

「断られるわよ、絶対に」

「そうかな」と、マナはどこまでも楽観的に言った。

「行ってみなきゃわからない」

 カミラは深く、長いため息をついた。

 この娘は、本当に。

「……いいわ。私から話しかけましょうか」

 マナが意外そうに目を丸くした。

「いいの?」

「商人相手の交渉にはコツがいるのよ。あなたに任せたら、正面から『魔王を倒しに行きましょう』なんて言って、鼻で笑われて終わりだわ」

「そうする予定だったけど」

「だと思った」

「だけど、やっぱり私が声をかけるよ」

 マナは路地を出て、もう市場の方へ歩き出した。

 振り返りもしない。

 

「これは、私の旅だから」

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