ドラクエ3 〜女子だけのパーティで魔王に挑んでみた〜   作:ミサ2

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【勇者】マナ
【盗賊】カミラ
【商人】ダリア


【第7話】のんき者の勇者、初めての旅へ立つ

「まず行きたいのは、ナジミの塔」

 マナが事も無げに言ったその言葉に、カミラは思わず目を見開いた。

 ナジミの塔。その名は、盗賊の世界では半ば伝説のように語り継がれている。アリアハンの人里離れた外れに、拒絶するようにそびえ立つ古い塔。頂上まで辿り着いた者は一人としていないとも、そこには得体の知れない宝が眠っているとも言われている。そして、何よりも――。

「盗賊の鍵があるって聞いたから」

 マナは足を止めずに続けた。カミラはあらためてその横顔を見る。いつもの、のんきな顔だ。だが、その唇からこぼれ落ちた言葉は、のんきとは程遠い重量を持っていた。

「盗賊の鍵……?」

 カミラは思わず聞き返した。

「うん。それがあれば、旅の扉を使って、もっと遠くの国へ行けるらしいの」

「……どこで、そんな話を」

「アリアハンのお城に勤めてる人から聞いたの。盗賊の鍵のことをね」

 そうか、とカミラは心の中で反芻した。

 オルテガの一人娘。その肩書き一つで、彼女は城への出入りを許され、重職にある人間と対等に言葉を交わせる。普通の旅人なら一生かかっても辿り着けない場所へ、この娘は当たり前のように足を踏み入れ、情報を拾い上げている。のんきな顔の裏で、彼女は案外、多くのカードをその手に握っているのだ。

 

 盗賊の鍵。あらゆる扉、あらゆる宝箱を開くことができると言われる、文字通りの伝説。盗賊を生業とする者なら、一度はその名に焦がれるはずだ。カミラ自身、それがお伽話の類ではなく実在するものなのか、これまでは確信を持てずにいた。

 けれど、もし、本当に実在するのだとしたら。

「……ほんとにあればの話だけど」

 カミラは自分自身に言い聞かせるように、低く呟いた。

 すると、マナは悪戯っぽく、にっと笑った。

「行ってみなきゃわからないじゃない」

 またその言葉か、とカミラは呆れたように息をついた。だが今回ばかりは、その真っ直ぐな言葉を撥ねつけることができなかった。

 隣ではダリアが深く腕を組んだまま、何も言わずに歩いている。盗賊の鍵という話を商売の種として見ているのか、それとも、あまりに都合のいい噂だと疑っているのか。カミラには、まだ彼女が何を考えているのかわからなかった。

 

 道具屋は、市場の端、湿った土と乾いた薬草の匂いが入り混じる場所にあった。棚には所狭しと薬草、毒消草、そしてキメラの翼が並んでいる。店主の老人は、三人の風体を上から下まで眺めていた。

 カミラは棚の品々を見回し、それからマナへ目を向けた。

「現金はあるの?」

 彼女は、すぐに頷いた。

「あるわよ。少しだけど、お城から支度金をもらってるから」

 城からの支度金、とカミラは心の中で繰り返した。やはりこの娘の立場は、どこまでも特別だ。

 ダリアが口を開いた。

「旅に必要なお金は、リーダーのマナが出してくれるんでしょ?」

「そのつもりよ」

「なら、最初はそれでいいわ。戦利品の換金と仕入れは、約束どおり私が見るから」

 カミラは棚の一つを指差した。

「キメラの翼は、絶対に持っておいたほうがいいわ」

 マナが棚の包みに目を向ける。

「せめて一つ。本当に危ない時、一瞬でここへ帰って来れるようにね。命の予備みたいなものよ」

「もちろん、薬草もね」

 ダリアが隣から手を伸ばし、棚の薬草を一つ手に取った。鋭い目で値札を確認し、一度戻す。そして別の棚にある薬草を手に取り、葉の枯れ具合と値段を冷徹に見比べていた。

「毒消草もいるかしら?」

 マナの問いに、ダリアは短く応じた。

「そんなに数は必要ないけどね。一つあれば十分でしょう」

 会計の際、マナが財布から金貨を取り出す手つきをカミラは注視していた。金貨を扱う手つきが妙に不慣れだった。育ちが良いのか、あるいは単純にお金という生々しいものを扱い慣れていないのか。

 

 道具屋を出ると、三人は武器屋へと足を向けた。

 店内に一歩足を踏み入れたとたんに、ダリアの目が豹変した。それは旅人の好奇心ではなく、得物を仕分ける商人の目だった。並べられた剣、槍、短刀を、恐ろしいほどの速さで、それでいて愛しむように丁寧に眺めていく。店主と二言三言交わす言葉には、刃の鋼の質を確かめるプロの響きがあった。

 カミラは手元の残金で、自分の短刀の替えを一本買い求めた。マナは銅の剣を手に取ってその重さを確かめたが、静かに棚へ戻した。今、腰に下げている剣の方が馴染む。そう判断したらしい。

 その傍らで、ダリアは自分の在庫の一部を店主に売り払っていた。交渉は手短だったが、カミラの予想を上回る金貨がダリアの手に渡る。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「銀行へ寄るわよ」

 武器屋を出ると、ダリアの先導で大通りの銀行へ向かった。彼女は先ほど手に入れた金貨の大半を、窓口の男に預け入れた。手元の財布に残したのは、必要最小限の小銭だけだ。

「大金を持ち歩くのは素人のすることよ。安全じゃないわ」

 ダリアはもっともな理屈を口にしてから、マナに視線を向けた。

「それに、自分の資産と、これからの旅の資金は別々だからさ」

「うん、わかった。お金のことは、ダリアに任せるね」

 マナはあっさりと、それこそ「のんき」に言った。カミラはそのやり取りを黙って見ていた。ダリアは時折乱暴な面を見せるが、金の扱いに関しては誰よりも冷徹で、そして合理的だ。商人とは、本来そういう生き物なのだろう。

 

 その日の残りは、それぞれが思い思いの準備に費やした。

 

 カミラは宿へ戻り、荷物を整えた。盗賊道具、替えの手袋、干し肉。

余計なものは持たない。

 身軽さだけが、命を繋ぐ。

 荷造りを終えると、カミラは硬いベッドに腰を下ろした。

 明日から、本当に、あの「馬鹿げた旅」が始まる。

 

 窓の外では、アリアハンの夜が静かに更けていく。彼女はしばらくその暗闇を見つめていたが、やがてゆっくりと目を閉じた。

  

———-—

  

 翌朝、待ち合わせ場所の広場には、マナが一番早く到着していた。

 夜明けの薄暗い空気の中、赤いマントを朝風に揺らしながら、彼女は城下の門を背にして毅然と立っていた。荷物は昨日より確実に増えていたが、その背筋は驚くほど真っ直ぐに伸びている。

 カミラが近づくと、マナは静かに振り返った。

「おはよう」

「おはよう」

 短い挨拶を交わしたところへ、ダリアが現れた。大きな商人鞄を肩にかけ、昨日と同じ刺繍入りのベストを纏っている。ただ一点、足元だけが軽快なサンダルから、旅の過酷さに耐えうる丈夫な革靴へと変わっていた。

「待たせたかしら?」

「いいえ」

 マナが答え、三人はゆっくりと歩き出した。

 

 重厚な城下の門をくぐる。

 アリアハンの朝の光が、長く伸びて街道を照らし出している。ナジミの塔は、この不確かな道の先にある。

カミラは一度も振り返ることなく、光の中へと足を踏み出した。

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