「お兄ちゃんたち、ノルと遊ぼ?」
諏訪たちを追いかける少女、ノルはそう言いながら糸を諏訪たちに伸ばす。
「どわっ!?危ねえな!」
「油断したら一瞬でやられそうですね...」
『2人とも、そろそろ荒船隊が近いよ』
「サンキュー、おサノ。日佐人、射線が通る位置に誘導するぞ」
「了解!」
諏訪たちは逃げから一転し、射線の通る開けた場所へ移動する。
「やっと遊んでくれるの?」
「ああ、遊んでやるよ...あいつらと一緒にな」
次の瞬間、異なる3方向から狙撃が放たれる。
しかし、その弾が少女に到達する直前、弾が糸に触れ、ノルはそれを感知する。
ノルは弾の来る位置に正確にシールドを出し、狙撃を防ぐ。
「嘘だろ?」
「防がれた!?」
「何だ?弾が着弾する前に気づかれた?」
「うーわ、ダルいっすね...」
「ん、遠くから...クロウおじさん?」
狙撃された方向を見据えながら、ノルはクロウに通信を飛ばす。
『何じゃ、ノル』
「鴉さんたち、何匹か借りていい?」
『勿論、存分に使いたまえ』
「ありがとう」
ノルはクロウに承諾を得ると、鴉に向かって数本糸を伸ばす。
その糸が鴉にくっつくと、突如鴉は意思を持ったように軌道を変え、荒船たちの位置へ向かっていく。
「何だあの鴉!?」
「動きが変わった!」
「ふふ、お人形さんが増えた」
「!?すんません...」
背後からの鴉の砲撃により半崎は緊急脱出。
「っ!おいおい、まずいなこりゃ」
「ちっ!」
鴉は荒船たちを砲撃でけん制する。
荒船たちも狙撃で反撃するが、体が小さく、宙を飛び回る鴉を狙撃銃で撃ち落とすのは至難の業だ。
仮に撃ち落としても、ノルは次の鴉を操作して荒船たちにけしかける。
荒船隊の狙撃は鴉によって機能しなくなってしまった。
「お邪魔さんはいなくなったよ?ノルと遊ぼ...あれ?」
ノルが諏訪たちの方向に振り返ると、そこにいるのは諏訪のみ。
笹森の姿はなかった。
「逃げちゃった?」
「さあ、どうだろうな!」
諏訪はそう言いながら散弾銃を放つ。
ノルは余裕といった表情で弾をシールドで防ぐ。
「ん、この距離ならそんなに怖くない」
「だろうな...日佐人!」
ノルの背後からカメレオンで透明になった笹森が迫る。
ノルは散弾銃に気をとられて笹森には気づいていない。
しかし、笹森が斬りかかる直後、その体が糸に触れ、ノルは笹森の方向を振り向く。
「なっ!」
「見ーつけた」
ヒュン、という音と共にその糸は一瞬にして笹森の体を斬り刻んだ。
【伝達系切断、緊急脱出】
「っ!今だ!」
「韋駄天...!」
「!」
直後、黄色い閃光がノルの周囲を飛び回る。
ノルはそれを間一髪で避けたが、所々からトリオンが漏れている。
「お姉ちゃん、速いね」
「お待たせ、諏訪くん」
「遅ぇよ、加古」
諏訪隊の状況を鑑み、増援として加古隊が到着した。
「すみません、急所を外されました」
「いや、当てただけで上々だ。さあ、ここから反撃だぜ、糸ガール!」
「見つけた」
俺はビルの屋上に佇む老人を見据え、風刃の刃を飛ばす。
老人はあっさり刃に刻まれた...と思いきや、次の瞬間にはその体から無数の鴉が霧散する。
その鴉たちは一斉に俺に向かって攻撃を仕掛ける。
「っ!」
俺は砲撃を避け、路地裏に鴉を誘導し、風刃を放つ。
逃げ場がなくなった鴉たちは風刃の刃によってすべて破壊された。
「一筋縄じゃいかないみたいだね」
登録してある未来視のチャンネルから、一瞬だけ映った情報を頼りにこっちに来てみたけど、結果的に外れだったみたいだ。
『あ、繋がった!』
「お、宇佐美。やっぱり鴉を仕留めると通信が回復するみたいだな」
『迅さん、レーダーのジャミングが異常に濃い場所があるみたい』
「...」
宇佐美の言葉に俺は考え込む。
ジャミングが濃いってことは、そこに大量の鴉がいるということ。
結人の情報からすると、鴉のトリガーは遠隔型。
遠隔型なら、普通は本体の護衛も兼ねてるだろう。
「宇佐美、そこにマーカーつけてくれ。多分、そこにクロウがいる」
『りょうかーい』
俺はマーカーを頼りにその場所へ走り出す。
よく上空を見てみると、その場所へ向かうにつれて鴉の密度がどんどん上がっている。
やがてたどり着いた先は放棄された商店街で、そこには鴉たちに身を包んだ老人がいた。
「ほう...もう見つかったか。本来ならばもう少し持つと思っておったのじゃが」
クロウは周囲を飛び回る鴉を眺める。
「鴉を集めれば守りは固くなる。じゃが、その分だけ巣も目立つ」
「分かっててやってたのか」
「仕方あるまい。老骨が前線に出るわけにもいかんのでな」
俺たちはしばしの間見つめ合う。
先に動いたのはクロウの方で、身にまとっていた鴉ちが一斉に砲撃を放つ。
しかしそれが”視えていた”俺は砲撃を全て躱す。
「!?」
「残念だけど、そういう系は俺と相性悪いんだ」
俺はクロウに向かって風刃を放つ。
しかし攻撃を食らったクロウはまたしても鴉となって霧散する。
「やっぱすり替わってたか」
「簡単にやられるわけにもいかんのでな」
背後からクロウの声が聞こえ、それと同時に砲撃が迫る。
俺は身を捻り、それに当たることなくクロウの方向に向き直る。
「玄界の兵士ならこれくらいのジャミングは気づくじゃろう?じゃからあらかじめ偽物のいる地点に鴉を密集させたのだ」
「へぇ、やるね...!」
俺はクロウに感心しながら風刃を放つ。
さて、どうしたものかな...
「韋駄天」
「っ!」
黒江の高速斬撃をなんとか避けるノル。
「ハウンド」
「食らえっ!」
よろけたノルに向かって加古と諏訪の追撃。
シールドで急所を守るが、守りきれなかった箇所からトリオンが漏れる。
「黄色のお姉ちゃん、ずるい...」
「あなたにずっと構ってる暇はないんです」
「よっしゃ、このまま行けば...」
「ノル、ちょっと怒った」
ノルはそう呟くと、突然ドーラペアで周囲のビルを破壊し始める。
「何!?」
「凄まじい破壊力ね」
「でもよ、これでほかの部隊からも射線が通るかもしれねぇ...」
しかし、ノルの目的は別にあった。
ビルの倒壊によって起こった煙の中から突如、モールモッドが姿を現す。
「な、こいつ!邪魔するんじゃねえ!」
諏訪はモールモッドに向かって散弾銃を放つが、モールモッドは腕を使って急所である目を守る。
「何だと!?くっ!」
銃撃を掻い潜ったモールモッドは諏訪に鋭い一撃をお見舞いする。
致命傷は避けたが、左足から大きくトリオンが漏れている。
さらに、煙の奥からバンダーが数匹。
それらは統率が執られているように一斉に砲撃を放つ。
「ちっ!何だコイツら、本当にトリオン兵か?」
「もしかしたらあの子、鴉だけじゃくてトリオン兵も操れるのかしら?」
「面倒ですね...」
(だとしても、アイツ一人でここまで器用に操れるもんか?何かタネがあるかもしれねえな...)
バンダーの砲撃をシールドで防ぐ一行。
そこへ、耳をつんざく音とともに、ノルの鋭い一線が迫る。
「...旋空弧月」
しかし、その糸はある男の一閃によって切断される。
その伸びた一閃はとどまることを知らず、ノルへと向かっていく。
「!長い...」
「生駒隊、現着や」
「何やあの子、ちっちゃいっすね」
『あんなちっちゃい子、俺撃ちにくいっすわ』
「そういうええ人アピールはええから、頼むで隠岐」
『はいはい』
隠岐は遠距離からイーグレットでノルを狙う。
だがそれを感知したノルは正確にシールドを出現させる。
『あらら、バレてもうてますわ』
「生駒隊!やっと増援か!」
「お待たせっす!」
「もしかして、あの子結構ヤバめな感じっすか?」
「そうね、油断してると千切りにされるわよ?」
「なんやそれ、怖すぎやろ」
「おいおい、あの子ちっちゃすぎやろ。斬りとうないねんけど」
「いやいや、相手はネイバーっすよ?頼んますって」
生駒隊の到着により、戦力が増えたものの、いささか戦場とは思えない和やかな雰囲気が漂っている。
「いっぱい増えた...」
「行きますよ、生駒さん」
「しゃあないなぁ...りょーかい!」
黒江と生駒はそれぞれ構えに入る。
「韋駄天」
「旋空弧月」
生駒の長い旋空が糸を斬り、そこを黒江が駆けていく。
「!」
ノルは再び体勢を崩す。
「ハウンド」
そこへ加古のハウンドと隠岐のイーグレットの追撃。
ノルの体から大きくトリオンが漏れ出す。
ノルはその攻撃を受け、初めて大きく後退した。
「なら、俺らはこっちやな。海!」
「了解っす!」
一方水上の南沢は操られているバンダーとモールモッドに狙いを定める。
「アステロイド」
南沢が突撃し、モールモッドとバンダーの弱点を斬りつけ、残りを水上のアステロイドが攻撃する。
生駒隊の到着により、一気に形勢が逆転した。
「...」
ノルは侮っていた。
玄界の兵も、今までと同じように脆く、簡単に壊れてしまう人形だと思っていた。
しかし実際は、部隊が増えるたびにどんどん不利になっていく。
齢9歳にして兵士となった天才少女は、初めての苦戦を感じていた。
初めて、動揺していた。
「リーヴお兄ちゃんが好きなお人形さんたちだから、連れて帰ってあげようと思ってたのに...」
ノルは目の前にいる隊員たちを見据える。
「お人形さんなのに、強い...」
ノルの内側に、今までにない感情が湧き上がる。
──負けたくない
強く、そう思った。
その感情は、彼女を初めて本気にさせた。
「...
ノルの手の内にいくつもの糸が収束、束ねられていき、それはやがて白く輝き出す。
「...!お前ら、避けろ!」
諏訪の号令でその場の全員が一斉に飛び退く。
やがて放たれたその糸は通った道のすべてを破壊しながら進んでいく。
「っ!やっべ!」
「ちっ!ここまでか...!」
先の攻撃で機動力を削がれた諏訪はもろに食らって緊急脱出。
南沢も何とかグラスホッパーで避けるも、右足を奪われる。
「...そこ」
ノルはそれを見逃さず、一瞬にして南沢の伝達系を切断し、緊急脱出に追い込んだ。
「諏訪さん、海!」
「なんすか今の、めちゃくちゃっすね...」
「でも、連発はできないはずよ」
「さっきみたいに攻め込めば、勝てます」
生き残った隊員たちはノルに向き直る。
「敵のトリガーは多分、トリオンの糸を操作するトリガーです」
「なるほど、隠岐の狙撃も、糸で感知したってことやな」
「じゃあ生駒くんが旋空で糸を壊してくれる?そこを私と双葉と水上くん、隠岐くんの狙撃で狙うって感じで」
「「「『了解』」」」
それを合図に、全員が走り出す。
「お人形さんたち、おいで」
一方ノルは再びトリオン兵を投入し、糸を張り巡らせる。
「なんやあれ、一人で部隊やっとるやん...」
「でも、全部切れば関係ないやろ。旋空弧月」
しかし張り巡らされた糸は生駒によって斬り刻まれる。
「むぅ、おじさんの剣、長い...」
「おじさんっ!?傷つくわぁ...」
「ちょっとちょっと、落ち込んでる場合ちゃいますよ?アーステ...ロイドッ!」
「ん、爆発した...さっきと違う」
水上は口に出したものとは違う弾を発射してノルを混乱させる。
「韋駄天」
黒江は韋駄天を発動してノルに向かって踏み込む。
しかし、それを見たノルは軌道上に糸を交差させた。
「っ!」
「黄色のお姉ちゃん、嫌い...」
その糸を食らった黒江は足を負傷し、転がってしまう。
「とどめ...」
ノルはそこへ容赦なく糸を伸ばす。
だが、黒江の体は突然姿を消し、少し離れた地点に出現する。
「...?」
「助かりました、真衣さん...」
『問題ない。無事でよかった』
「ハウンド」
「旋空弧月」
その隙を埋めるため、加古と生駒がすかさずカバー。
加古と生駒の攻撃がノルへ迫る。
「ん...!」
ノルはシールドを展開。
だが、生駒の旋空によってシールドにひびが入る。
そこへハウンドが殺到、さらに隠岐のイーグレットが命中。
「っ!」
シールドが砕け、ノルの肩から大きくトリオンが噴き出した。
ノルは後退しながら自分の肩を見る。
漏れ出るトリオン。
それを見つめる表情は不思議そうだった。
「痛い...」
初めてだった。
ここまで傷つけられたことも、ここまで追い詰められたことも。
「何で...?」
ノルはぽつりと呟く。
「お人形さんなのに...」
「違います。私たちは人形じゃありません」
「?」
ノルは首を傾げる。
「私たちは仲間、チームよ」
「あなたが遊びだと思ってる戦いを、私たちは本気でやってるんです」
ノルは理解できない。
だが、目の前の人間たちが倒れても、傷ついても、仲間を助けながら立ち向かってくることだけは分かった。
「変なの...」
ノルは小さく呟く。
「ギアジェスは強い人が勝ってたのに。あなたたち一人一人は、ノルより弱いはずなのに。でも...」
ノルはそう言って、再び指を構える。
「負けたくない」
白い糸が再び指先に集まり始める。
ギリギリ、という音が、遊びではない新たな開戦を告げる。
「ノルも、本気だから」
「おいおい、また来るで」
「全員、散らばるわよ」
「白糸輪環」
再び、すべてを破壊する白い糸が放たれ、戦場を切り裂いた。
ENEMY INFORMATION
ノル
・PROFILE
名前 ノル
年齢 9歳
誕生日 2月29日
身長 129cm
血液型 不明
星座 みつばち座
職業 ギアジェス王国騎士隊隊員
好きなもの 人形遊び、あやとり
家族 父、母
9歳にして王国騎士隊に所属する天才少女。
どこか価値観がズレており、トリオン体での戦闘を遊びだと思っている。
糸で操ったものや、自身より格下と思った相手を「お人形」と呼ぶ癖がある。
・SIDE EFFECT
精密指先操作:指先を器用に動かすことができる。それだけの能力だが、ドーラペアと組み合わせたときは正確無比なトリガー操作を発揮する。
宇野の精密身体操作と似ているが、指先だけな分、宇野より精度がより高い(という妄想)。
・TRIGGER「人形劇<ドーラペア>」
ノルの専用トリガー。
指先からトリオンの糸を伸ばすことができる。
攻撃・防御への転用、感知トラップとしての設置が可能。
その切れ味はかなりのものであり、コンクリを抉るほど。
意思がないトリオン体なら糸を通じて操ることができる。
伸ばせる糸の数は十指分まで。
・PARAMETER
「人形劇<ドーラペア>」使用時
トリオン 12
攻撃 10
防御・援護 11
機動 3
技術 11
射程 3
指揮 2
特殊戦術 9
Total 82