ノルと混成部隊が戦闘している頃、西エリアでは、玉狛第一とバルキアの交戦が行われていた。
「トロイね!」
「くそっ、弾が当たらない...」
「すごいスピードっすね...」
木崎と烏丸が銃トリガーでバルキアを狙うが、圧倒的な飛翔スピードをとらえられず、攻撃を当てられずにいた。
「空をちょこまかと...降りてきて正々堂々戦いなさいよ!」
「はっ!戦場に正々堂々も何もあるか!これが私の...
バルキアはそう言い放ち、翼から光線を放つ。
「エスクード!」
烏丸はそれに合わせてエスクードを出現させ、光線を防ぐ。
「へぇ、あれを完全に防ぐとは...ねっ!」
「ハアッ!」
バルキアの槍と小南の双月がぶつかる。
(ハウンド)
「ちっ...!追尾弾!?」
木崎が鍔迫り合い中のバルキアに向かって銃を放つ。
銃弾はアステロイドからハウンドに切り替わっており、バルキアを自動で追跡する。
「面倒くさいね!」
バルキアはシールドでハウンドを防ぐ。
そこへ烏丸がすかさずバイパーを放ち、弾で包囲する。
「さっきから変わった弾ばかり放ちやがる!」
【接続器・ON】
「っ!?」
(馬鹿な、どうやってこの高さまで!)
弾を受け止めているバルキアに向かって、大斧となった双月が振り下ろされる。
「ハアァァァッ!」
「ぐっ、重い!」
バルキアはその攻撃を受け止めきれず、なんとか体を捻るが、双月はバルキアの右翼の一部を奪う。
小南が元々いた位置にはエスクードが生えていた。
(なるほど、出現するバリケードをカタパルトに...!)
「どうやらただの一般兵士ってわけでもなさそうだね」
バルキアは失った翼の部位を再生成しながら、目の前の3人に対する認識を改める。
自分が全力を持って戦う相手にふさわしいと、そう認定した。
「翼が再生した?」
「ただの再生成じゃないだろう。恐らく、ある程度はトリオンを消費しているはずだ」
「久しぶりだよ、こんなに楽しい戦いは!いいわね、あなたたち。私の全力で相手してあげるよ!」
「やってみなさいよ。あたしたちで倒してあげる!」
「ハアッ!」
「甘い!」
俺が投げた槍を、シグルは難なく大剣で叩き落す。
(さすがにこの距離じゃ威力が出ないか...!)
「はっきり言う。貴様のグングニルと私の
「...」
シグルの言う通り、距離を離せず、ましてや近距離の性能もあっちの方が上。
俺の勝てる確率はかなり低いだろう。
でも、だとしても...
「それは、俺が今ここで逃げる理由にはならない」
「ふっ、それでこそ私が認めた戦士だ」
シグルはそう言いながら大剣の剣先をこちらに構える。
(...!来る!)
「ならば見せてやろう。竜をも屠る一撃を...竜殺砲」
次の瞬間、剣先から極太の大砲が放たれる。
俺は何とか直撃を避けるが、脇腹の一部を持って行かれる。
「くっ!」
「やはりシールドが無いのは不便だろう。グングニルは遠距離砲撃の一点特化型。一芸だけで私を突破できるとは思わないことだ」
「まさか、そう簡単に勝てるとは思ってないさ」
一瞬だけだが、確かに見えた。
竜殺砲の直後、刀身の輝きが一瞬弱まった。
(今ので確信した。あの砲撃は無制限に撃てるわけじゃない。恐らく、ファヴニールのチャージを消費している。そう何度も連発できるわけじゃないはずだ)
「勝負はまだこれからだろ...!」
「そう来なくてはな、リーヴ!」
そして俺のグングニルとシグルのファヴニールが再び火花を散らした。
先程まで黒江たちがいた位置は、文字通り瓦礫の山となっていた。
「うお...さっきよりもすごいことなってへん?」
「どうやら今まで本気じゃなかったみたいね」
「マジっすか...」
「でも、勝つのは私たちです」
「そうっすね。今までのを見て、敵のトリガーがなんとなく分かりました」
水上は自分が見た情報と、今まで他の隊員が戦った戦闘データから敵の糸のトリガーについて考察する。
「あの子の糸、最終的にはすべてどれかしらの指に繋がってます」
「...!」
「つまり、指を使えなくさせればトリガーが弱体化するってこと?」
「その可能性は高いです」
「なら、俺らで隙作って隠岐に落としてもらおか。隠岐?」
『了解っす。そっちこそ頼んますよ?』
隠岐はそう言いながら射程重視のイーグレットを弾速重視のライトニングに持ち変える。
「いくで、旋空弧月」
「韋駄天」
「「アステロイド」」
「ん、それはさっき見た」
ノルは旋空と弾を最低限の動きで躱す。
そこへ隠岐のライトニングによる狙撃が放たれる。
しかしノルはそれも読んでいたといわんばかりにシールドを張る...が、
「それも見た...えっ?」
先程よりも速い銃弾にシールドが追い付かず、ライトニングは右手の親指から中指にかけてを消し飛ばす。
「指が...」
ノルはなくなった指を見つめる。
張り巡らされていた糸のうちの数本が崩れていく。
こんなことは彼女にとって初めてだった。
指で糸を操作するドーラペアにとって、それは致命傷ともいえる一撃であった。
しかし、天才少女はその危機的状況で、眠っていたさらなるセンスを開花させる。
「あれ?糸はまだ出せる」
残った指から、2本目の糸が伸び始める。
ノルの気付きは、加古たちをさらに苦しめることとなる。
「だったら...」
彼女はドーラペアの糸一本につき一本の指で制御してきた。
彼女にとって、それが当たり前だった。
しかし、糸が十本までという制約は指の数ではなく、トリガーそのものの制約であった。
ノルは、残った指からなくなった分の糸を再生成し、制御し始めた。
「嘘やろ!?」
「残った指からさらに糸を...」
一つの指から、糸が別々の軌道を描く。
ノルのサイドエフェクト、「精密指先操作」がそれを可能にした。
「私は、負けない...」
「どうすんねん水上!振り出しに戻ってもうたで!?」
「いや、これは予想外でしたわ...」
「まさか一つの指で複数の糸を制御するなんて...」
「嘆いても仕方ないわ。次の策を考えましょう?」
『おい、聞こえるか?』
策を考える加古たちの元に、若干ノイズ交じりだが、一通の通信が入る。
先程から鴉に邪魔されている荒船だった。
『俺に、策がある』
「...なるほど」
「少しでもズレたら瓦解するわね」
「でもやるしかないでしょ」
「そうやな、ほなやろか」
「どうしたの?来ないなら私から行くけど...」
「言われなくても行きますよっと...メテオラ!」
「ハウンド」
水上のメテオラがノルの周囲で炸裂、加古のハウンドが様々な方向から放たれる。
「ん、これくらいじゃ...」
「今...!」
黒江はその隙に韋駄天の構えに入る。
ノルはそれを見て糸を大量に張り巡らせる。
「それは何度も見た...!」
「邪魔させへんで。旋空弧月!」
しかしその糸を生駒旋空がバラしていく。
その隙を突いて黒江の韋駄天が起動、ノルへと迫る。
だが、ノルは何度も韋駄天を見た。極限状態の彼女は、今までにないほどに思考がクリアになっていた。
(黄色のお姉ちゃんは決まった軌道を走ってるんでしょ...!)
特性をセンスで理解したノルは反射神経でそれを躱そうとする。
しかし、直後、ノルの両足が失われる。
「え...」
「奪ったぞ、足は」
「後は決めろよ、A級」
【【トリオン供給器官破損、緊急脱出】】
鴉の砲撃と相打ち覚悟で荒船と穂刈は狙撃でノルの足を奪う。
鴉の砲撃を受け、2人は緊急脱出した。
「ありがとうございます...韋駄天!」
機動力を失ったノルに向かって、黄色い閃光が駆ける。
その閃光は、ノルの供給器官を斬り落とした。
「私の、私たちの...勝ちです」
「...負けた」
ノルのトリオン体が破壊されると共に白煙が舞い、その中から生身のノルの姿が露わになった。
「そっか、一緒に戦うって、こういうことなんだね...」
加古たちも警戒を解かない。
しかし、その時だった。
『上空注意!』
「!」
突如、上空から無数の鴉が降りてくる。
「まだおったんか!」
鴉たちは攻撃せず、ノルの周囲へ集まる。
そして羽根が渦を巻くように少女を包み込む。
「クロウおじさん...?」
『よく頑張ったのう。後は年寄りに任せて休みなさい』
「うん...」
鴉はノルを抱え、飛んでいく。
「どうします?追いますか?」
「いえ、撤退してくれるなら追う必要はないわ。それに...」
加古は黒江に向き直る。
「行きたいところがあるんでしょう?」
「...!」
「トリオン兵は私たちに任せて、行ってきなさい」
「ありがとうございます...!」
黒江は加古の言葉を聞いて走り出す。
一人で闘っている青年の元へ。
一方、ノルを抱える鴉の様子を遠くから見つけた青年が一人。
「未来が動いたね...」
言うまでもなく、実力派エリート・迅悠一だった。
迅は空を見上げる。
ノルを抱えた鴉たちが一方向へ集まりながら飛んでいく。
ノルを介して、とある未来が見える。
それを見た迅は、その先にクロウがいることをどこか確信している様子だった。
「こっちの仕事も終わらせられそうだ」
現在の戦況
・東エリア
加古隊&B級混成部隊vsノル→撃破完了→トリオン兵の殲滅へ
・西エリア
玉狛第一vsバルキア
・放棄された商店街
迅vsクロウの幻影
・本部南
結人vsシグル