駿の誘いを受け、俺たちはランク戦ブースに入る。
どうやら個室同士で通信ができるらしく、駿から通信が入る。
『黒いパネル押せば正隊員とも対戦出来るから。あ、俺102号室ね』
俺は駿の案内通りにパネルを操作する。
駿のポイントは8000点越え。
いつから隊員なのかは知らないが、A級なだけあってかなり強いみたいだ。
やがて対戦が受理され、仮想空間に転送される。
「一応言っとくけど、手加減とかナシだからね?」
「もちろん。全力でやるさ」
【ランク外対戦、10本勝負。開始】
「行くよっ!」
対戦開始と共に駿の姿が消え、気づけば目の前まで迫っていた。
(速っ!)
さっきまで戦っていたC級とは全然違う。
これがA級か...!
「もらった!」
「ちっ!」
なんとか反応して初撃を防ぐが、すぐに二撃目が繰り出される。
俺は咄嗟に避けて反撃しようとしたが俺の攻撃は掠っただけで、駿のスコーピオンが俺の胴体を貫いた。
緊急脱出後、ブースのベッドに転送される。
「負けるとこんな感じになるのか...」
『すごいね。まさか反撃もらうとは思ってなかったよ』
「掠った程度だけどな。さあ、次行くぞ」
『オッケー』
そして再び仮想空間に転送され、2戦目が始まった。
「あれ、黒江じゃん」
「米屋先輩、出水先輩」
私が神代先輩と駿の試合を観戦していると、そこへ米屋先輩と出水先輩がやってきた。
「黒江が観戦なんて珍しいな。誰と誰がやってるんだ?」
【神代、緊急脱出。3-0、緑川リード】
「緑川と...神代?誰だ?」
「神代結人!?そうか、入隊式今日だったな!」
神代先輩の名前を見るなり、米屋先輩は首を傾げ、対象に出水先輩は興奮気味だ。
「出水先輩、神代先輩のこと知ってるんですか?」
「ああ、ちょっとした縁でな。てかあいつ、もう緑川とやりあってるのか」
「駿が押し掛けてきたんですよ。神代先輩、ああいうの断れなさそうじゃないですか」
「てか神代ってやつ、C級じゃねえか。緑川のやつ、どういうつもりだ?」
米屋先輩は神代先輩のことを知らないため、少しあきれた様子でモニターを見つめる。
神代先輩が近界民なのを知っているのは遠征に行ったことがある隊員と当事者の加古隊、後はオリエンテーション担当の嵐山隊だけだ。
知らないが故にこの反応も無理はないと言える。
【神代、緊急脱出。4-0、緑川リード】
「さすがにC級が初日に緑川の相手は厳しいんじゃね?」
「まだまだこれからですよ。米屋先輩は神代先輩のことを知らないからそう言えるんです」
「お、おう...黒江がそこまで真剣にフォローするなんて珍しいな」
「そうですか?」
「確かにな。それはそれとして...俺も、神代のやつがただでボコられるのは無いと思うぜ」
出水先輩はそう言いながら観戦モニターを見据える。
「アイツの反撃は多分、これからだ」
【ランク外対戦、5本目。開始】
対戦開始と共に、先ほどまでと同じように駿が距離を詰めてくる。
この4戦で、駿の行動パターンは大体分かってきた。
駿の最大の武器は小さな体躯を活かした機動戦。
だったら話は簡単だ。その軌道を読んで躱せばいい。
俺は駿が振るってきたスコーピオンを受けるのではなく、躱す。
「!躱された!?」
「ふっ!」
俺はすかさずスコーピオンを振るうが、駿は何とか体を捻って致命傷を避ける。
流石の身のこなしだが、この体勢から防御はほぼ不可能だろう。
俺はそこへ容赦なくスコーピオンを突き刺した。
【緑川、緊急脱出。4-1】
「嘘だろ!?」
「一本取った!」
その瞬間、ブースにいた観客がざわめきだす。
「おいおいマジか、一本取りやがった」
「ほらな、言っただろ?」
驚く米屋先輩に対して、出水先輩は小さく笑った。
「出水先輩は神代先輩が戦ってるところ見たことあるんですか?」
「いや、見たことはねえ。でも、初見でB級ランク戦の戦況をあれだけ分析できるやつがただボコられるわけがないだろ」
「一本取られた...?」
最初から反撃してきたり、それなりの腕はあると思っていた。
けれど、まさか取られるとは思ってなかった。
今の一撃、まるで動きを読まれたみたいだった。
6本目が始まり、さっきまでのように切りかかるが、また躱されて攻撃を食らってしまう。
【緑川、緊急脱出。4-2】
「くそっ!何で急に当たらなくなって...!」
「駿、確かにお前の攻撃は速いし、鋭い。でも...」
神代センパイは俺の背中に刃を突き立てる。
「動きがワンパターンすぎる」
【緑川、緊急脱出。4-3】
たったの4本で、俺の動きが見切られた?
少し才能があるだけのC級隊員だと思ってたのに...
【緑川、緊急脱出。4-4、タイスコア】
「追いつかれた...」
ちょっとした腕試しくらいのつもりだったけど、予想外だった。
お互いのトリオン体が転送され、9戦目が始まる。
(今までと同じ動きじゃ...勝てない)
俺は目の前の相手を視界の中心に見据える。
「お、さっきまでよりいい目になったか?」
「この人は...強い!」
【ランク外対戦、9本目。開始】
合図と共に駿がこちらに向かってくる。
「はっ!」
「!投げた!?」
駿は走ると同時に俺に向かってスコーピオンを投げてきた。
俺は咄嗟に弾くが、それに気を取られた隙に駿本人が目の前に迫る。
でも、反応できないわけじゃない。
俺は駿が振りかぶったスコーピオンを受け止めようと前に出る。
だが次の瞬間、駿は攻撃を振り下ろさず、右へ跳んだ。
「!」
壁を蹴った駿の体が急角度で折り返す。
(フェイントだったか...!)
側面から振るわれたスコーピオンが俺の胴を切り裂いた。
【神代、緊急脱出。5-4、緑川リード】
「あ、駿が取り返した」
「動きよくなったなあいつ」
「今のままじゃ勝てないって分かったんだろうな」
最後の10本目、トリオン体が転送される。
もう勝ちの目は無くなってしまったが、それは諦める理由にはならないし、駿にも失礼だ。
だからこそ、最後まで全力でやる。
「行くよ、神代センパイ!」
「ああ、来い!」
俺と駿のスコーピオンがぶつかり合う。
俺たちはお互いに数歩下がり、また走り出す。
しかし、駿は俺の一歩手前の地点で勢いよく踏み込む。
(何のつもりだ...?)
俺は少し警戒しながら駿を見据える。だが...
──ザシュッ
次の瞬間、俺の体は予想外の方向から貫かれた。
「!下から...!?」
【警告、トリオン漏出甚大】
貫かれた部位からトリオンが大きく漏れる。
致命傷ではないが、あと少しで緊急脱出してしまうだろう。
「俺の勝ちだね」
「...」
(こうなったら、一か八か!)
俺は次の瞬間、賭けに出る。
右手からスコーピオンを勢いよく駿に向かって伸ばす。
「嘘!?長...!」
予想外の攻撃に駿は対応できず、俺のスコーピオンが供給器官を貫く。
それと同時に、俺のトリオン残量がゼロになった。
【両者緊急脱出、10本目、引き分け】
【最終結果、5-4。勝者、緑川】
「5-4かー。さすがに駿に勝ち越すのは無理だったか」
「入隊初日であそこまでやるかよ普通...」
「だから言ったじゃないですか、神代先輩は強いんです」
「いや、黒江がドヤるところか?そこ」
モニターを見つめる米屋先輩は納得したような表情を浮かべる。
「前言撤回だわ、確かにあいつは強い。これからもっと化けるだろうな」
「そういえば、スコーピオンってあんなに伸びるものなんですか?」
「いや、普通あんなに伸びねえだろ、多分。旋空くらいはあったぞ今」
最後の神代先輩のスコーピオンの長さは見たことがなかった。
一応影浦先輩のマンティスのような例はあるが、あれはスコーピオンを二つ繋げる荒技。
一本しかない訓練用トリガーでは再現不可能だ。
「影浦先輩ほどじゃないけど、かなり伸びてたよな?」
「スコーピオンってトリオン能力が高いほど伸びるんだっけ?くそ、スコーピオン使い居ないから分かんねえな...」
「詳しいことは覚えてませんが、確か出水先輩の言う通りだったはずです」
「...もしかしてあいつ、トリオンめっちゃ多いのか?」
私たちがそんな会話をしていると、ブースから駿と神代先輩が出てきた。
「お疲れ様でした、神代先輩。あと駿も」
「ありがとう、黒江」
「ちょっと、俺だけテキトーにあしらってない?」
「別にそんな事ないけど?」
黒江は駿に対して少し素っ気ない態度をとっている。
でも、黒江と駿を繋ぐ糸はかなり太い。
(昔からの付き合いなんだろうな)
俺は心の中でそう思った。
「よう神代。B級ランク戦の観戦以来だな」
「えっと、確か出水だったか」
「そうそう、覚えててくれて嬉しいぜ」
「お前すごかったな!ホントにC級か?」
俺と出水が話していると隣にいた男が割って入ってくる。
「俺は米屋陽介だ。よろしくな、神代」
「こちらこそよろしく、米屋」
「なあなあ、今度は俺と模擬戦やろうぜ!」
「あ、ずるいぞ陽介!俺もやりてえ!」
「ダメだよいずみんセンパイ、よねやんせんぱい!次も俺とやるんだから!」
「「おめーはさっきやっただろ!」」
駿、出水、米屋は誰が俺と戦うのかを言い争っている。
あの、俺の意思は...?
「このままだと無限に模擬戦やらされますよ?さっさと行きましょう」
「お、おう。そうだな...」
呆れ顔の黒江に手を引かれ、俺はそっとその場を後にするのだった。
「「「なあ(ねえ)、神代(センパイ)はどう思う?...っていない!?」」」