【緊急脱出。勝者、神代】
ボーダーに入隊してから数日。
今日も今日とて個人ランク戦に勤しんでいる。
現在のスコーピオンの個人ポイントは2372。
結構やりこんでいるため、ぼちぼち増えてきたところだ。
「ちょっと、そこのあなた」
B級まであと1700点。
あと少しで色んなトリガーを入れることができる。
「ねえ、聞いてるんですか?」
まずは弾トリガーを入れてみたい。
無難にアステロイドでもいいが、バイパーやハウンドを入れるのも面白そうだ。
「いつまで無視する気ですか!?いい加減に...」
「ん?ああ、俺か?すまない。少し考え事をしていて...」
後ろに振り向くと、赤い隊服の女の子がこちらを睨みつけていた。
どうやら考え事のあまり無視してしまっていたようだ。
「私を無視するとはいい度胸ですね、神代先輩」
「えっと、失礼ながら、どなたでしょうか...?」
どこかで見たことはある気がするんだが、いかんせん思い出せない。
「なっ!私を知らないんですか!?嵐山隊の木虎藍です!」
「嵐山隊...あー!オリエンテーションの...」
ようやく思い出した。確かに居たな。
基本的に主導が嵐山さんだったからすっかり忘れていた。
「広報部隊所属の私を知らないなんて、よっぽど世間知らずみたいですね」
「あはは、返す言葉もないな...」
木虎の言う通り、実際俺は玄界についてまだまだ知らないことだらけだ。
故に、反論する余地は俺にはない。
「で、俺に何か用か?」
「ランク戦してるし、暇なんですよね?私と模擬戦してください」
「模擬戦?いいけど、なんでまた...」
「いいですから!さっさとやりますよ」
そう言って木虎はズカズカとブースの中に入っていってしまった。
「何なんだ?あいつ...」
そして俺はよく分からないまま木虎と模擬戦をすることになった。
「そういえば、まだC級でしたね。私もスコーピオン一本でやりましょうか?改造されてますけど」
「いや、シールド以外なら何でも使っていいぞ」
「は?」
俺のその言葉に木虎の表情が固まる。
「舐めてるんですか?」
「舐めてなんかない。スコーピオンにも慣れてきたし、木虎の普段の戦い方ってやつを見てみたいからな。シールドの有無は決定的すぎるからさすがに使わないでほしいが...」
「...分かりました。後悔しても知りませんよ」
そういうとともに木虎の左手にスコーピオンが形成されるが、中心の持ち手から刃が双方に伸びている、今までに見たことのない形だった。
(あれが話に聞くA級の改造トリガーか...面白い)
【ランク外対戦、5本勝負。開始】
その合図とともに、俺と木虎は同時に走り出す。
木虎は右手に拳銃を生成し、弾を発射する。
俺はその弾丸を右に避けて躱す。
すると木虎は拳銃からワイヤーを発射し、俺の背後にある家に引っ掛けた。
「ワイヤー?」
その直後、ギュルギュル、という音とともにワイヤーが巻き取られていき、木虎が高速でこちらに接近してくる。
「っ!」
俺は何とか木虎のスコーピオンを受け太刀する。
だが次の瞬間、木虎は鍔迫り合いの状態のまま右手の拳銃を俺の腹部へ突きつけた。
「甘いです」
──パンッ!
至近距離から放たれた弾丸が俺の胴を貫いた。
「いくら期待の新人でも、スコーピオン一本に負けるほど私は弱くありません」
【神代、緊急脱出。1-0、木虎リード】
「言っておきますけど、今更スコーピオン一本で、とかナシですからね?」
「まさか、撤回するわけないだろ」
「~~っ!釈然としませんね、その態度」
【2本目、開始】
開幕と同時に、今度は俺のスコーピオンを伸ばしてみる。
駿との戦いで、本気で延ばせば15mくらい伸ばせることが分かったので、今回もそれを使ってみる。
だが...
「それはもう緑川君とのログで見ました」
木虎は冷静にスコーピオンで俺のスコーピオンをへし折る。
「やっぱりそう上手くはいかないよな」
俺はそう呟きながら、建物を駆使して距離を詰める。
あちらに拳銃とワイヤー銃がある以上あちらのペースに入っては終わりだ。
だからこそ、俺から仕掛けに行く。
「そう来るしかないですよね」
一方木虎は俺の行動を読んでいたのか、俺の移動先にワイヤーで先回りし、拳銃を放つ。
「くそっ!」
俺はその銃弾を何とかスコーピオンで弾くが、その隙を木虎が見逃すはずもなく、スコーピオンが俺の胴体を突き刺す。
【神代、緊急脱出。2-0、木虎リード】
続く3本目も俺はワイヤー戦術に対応しきれず、緊急脱出してしまう。
恐らく木虎は緑川とは違って、感覚ではなく、理論立てて戦うタイプ。
だからこそ、動きを読もうとしている俺が後手後手に回ってしまっている。
「ははっ、やっぱすごいな、ボーダー隊員は...」
「何ですか、急に」
「確かに強力なトリガーも多い。だがそれ以上に、使い手の腕がいい」
ギアジェスはトリオン能力が高い者が優れているとされてきた。
実際、トリオン能力は戦いの結果を左右する重要な要素。
でも、それは一要素でしかない。
使い手の技術、創意工夫、ギアジェスにはない戦い方がボーダーにはある。
俺はそれに感動していた。
「俺も工夫しないと勝てない...ってことか」
【4本目、開始】
俺は先程と同じように木虎に向かって走り出す。
「何度やっても同じことです!」
木虎はそれを見るなり、ワイヤーを周囲の建物に引っ掛ける。
だが、これこそが俺の狙い通りだった。
「はあっ!」
俺はそのワイヤーに向かってスコーピオンを伸ばし、切断する。
「なっ!」
それでバランスを崩した木虎は空中から落下する。
俺はそこに向かってスコーピオンを伸ばすが、不安定な体勢から木虎はスコーピオンで俺のブレードを切断した。
「マジかよ...!」
「少し焦りましたが、終わりです」
木虎は態勢を整えて拳銃を放ち、俺はスコーピオンの再生成が間に合わず、胴体を撃ち抜かれた。
【神代、緊急脱出。4-0、木虎リード】
ワイヤーそのものは切れる。
問題は、その後の追撃だ。
木虎に刃を届かせなければ、対処できても意味がない。
【5本目、開始】
木虎は先程のを警戒してか、ワイヤーを使わず、拳銃を撃ちながら距離を詰めてくる。
俺はその弾丸を弾き、周囲の建物を伝って応戦する。
やがて至近距離となり、スコーピオン同士がぶつかり合うが、木虎は持ち手を中心にスコーピオンを回転させ始める。
突然の出来事に俺のスコーピオンが弾かれ、右腕が吹き飛ぶ。
「マジか...でも!」
スコーピオンの最大の特徴は体のどこからでもブレードを出せること。
だからこそ、俺はそのまま蹴りの態勢に入る。
・・・
「リーヴお兄ちゃん、あやとり下手くそ」
「すまんノル。どうも糸の扱いには慣れなくてな...何かコツとかないか?」
隣で見たこともないような作品を編み上げるノルに対して、俺は質問してみる。
このまま上手くいかないとノルの機嫌を損ねてクロウに怒られかねない。
「糸はね、体の一部なの」
「体の一部?」
「そう。だから、指先から伸ばしてる感じでシュババッっと」
「シュババッ?」
「そう、シュババッ」
「...」
「...」
ノルは『分からないの?』といった様子で、首をかしげながら俺のことを見つめていた。
・・・
あの時は感覚派のノルの言葉はよく分からなかったが、今ならなんとなく分かる気がする。
スコーピオンを体から伸びる剣ではなく、体の一部として扱う。
「ふっ!」
「っ!」
俺の膝から延びたブレードを木虎はスコーピオンで受け止める、が。
──ザシュッ
膝からブレードを出したまま、俺のつま先から伸びた刃が木虎の胴体を貫いた。
「!
【最終結果、4-1。勝者、木虎】
俺とほぼ同じタイミングで木虎が出てきたが、その表情はどこか不機嫌そうだった。
「知ってたんですね、ブランチブレード」
「ん?ああ、ブランチブレードと言うのか、あれは」
「はっ?知らなかったんですか?」
「思いつきでやったからな」
俺の言葉に木虎は唖然とした顔で俺を見つめている。
「上手くいかなかったらどうする気だったんですか?」
「その時はその時だ。
「そんな行き当たりばったりで戦う人、初めて見ました...」
「そうか?まあ結果的に成功したしいいだろ」
「結果論じゃないですか!」
ふむ、木虎がなぜこんなに怒っているのかよく分からん。
木虎が勝ったんだから普通は喜んでいる頃だと思うのだが...
「...ともかく、今日はありがとうございました」
「うん。それで、何で模擬戦をしようと?」
「別に、緑川君と互角って聞いて気になっただけです。では」
木虎はそう言うとスタスタと歩いていってしまった。
「まったく、何なんですか。あの人は...」
戦闘訓練の記録が6秒、それに加えて緑川君と5-4で善戦したって聞いて少し実力を見てみようと模擬戦を挑んでみれば、シールド以外はなんでも使っていいなんて言い始めた。
結局途中までは4-0でボコボコにされていたし、緑川君と渡り合って調子に乗っているだけだと思っていた。
でも、最後の最後、ブランチブレードで一本取られてしまった。
しかも彼は、知らなかったが実践で試してみたと言い放った。
「本当に、何なんですか...」
あの人は勝っても負けても、まるで最初から結果なんて気にしていなかったみたいな態度で。
──その態度が、本当に気に入らない。
片桐隊が原作序盤にチラッと登場していたというのを聞いて震えています。
リサーチ不足ゆえの齟齬が発生してしまった...
今からでもゆりさんとミカエル出した方がいいかな...?
編にならなそうだったら出そうと思います。