「縁」を視る近界民、ボーダー隊員になる   作:白豆男爵

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交わる縁

「ネイバー君?」

「...」

 

俺は目の前の男...迅の質問に対し、思考を巡らせる。

逃げるべきか、否、この距離、シチュエーションで逃げ切れるとは思えない。

トリガーを使うべきか、否、ここで戦闘を起こせば市民に被害が及ぶし、こいつは多分、強い。

それに何よりも...目の前の男からは敵意が見えない。

それどころか――

 

(なんだ、この”糸”の数)

 

迅に対して、その太さに大小こそあれど、三門市全体から”糸”が伸びている。

俺の故郷ではあり得ない光景だ。

 

「あれ、逃げないの?」

「じゃあ逃がしてくれるのか?」

「うーん、場合によるかな。少なくとも俺は、君を捕まえに来たわけじゃない」

 

迅はぼんち揚げを食べながら俺と対話する。

 

「じゃあ何の用だ?」

「ちょっとお話しようと思って。君さ、この星好きでしょ」

「...なんでそう思う?」

「いやいや、この星を敵視してるやつは商店街で買い物なんてしないでしょ~」

 

迅は俺が持っている買い物袋を見つめながらそう返す。

実際その通りで、それを言われたら俺に反論する論拠はない。

 

「君はもうこの街を気に入ってる。だから黒江のことも助けた」

「そうかもしれないな」

 

すると、迅は不敵な笑みを浮かべながら核心を突く。

 

「見捨てられなかったんだろ?」

「...!」

 

あの少女...迅によると黒江というらしい。

確かに黒江を助けたのは打算などではなく、俺の感情が先行した結果だ。

目の前で危機に陥っている人間を、俺は見捨てることはできなかった。

例え命の危機ではない(緊急脱出がある)と分かっていたとしても。

 

「ちなみに俺、君のこと結構信用してるよ」

「はぁ...そうなのか?」

「じゃなきゃこんな人混みで話しかけないって」

 

迅の言う通り、ボーダー隊員として敵対しに来たのなら、こんな街中で話しかけるわけもない。

つまり迅は俺がこの場で暴れないことを確信しているということだ。

 

「信頼する根拠は?」

「敵なら黒江のことを助けない」

「...変なやつだな」

 

本当に、変なやつだ。

だが、不思議と嘘をついているようには見えなかった。

だからこそ、ここまで信用されているのかもしれない。

迅に集まる無数の”糸”が何よりの証拠だ。

 

「で、本題なんだけどさ...ボーダーの本部に来てくれない?」

「嫌だけど」

「そう言うと思ったよ」

 

俺の即答に、迅は笑う。

だったら何で聞いた?

 

「でもさー、来てくれないとこっちも大変なんだよね」

「知らん、それはボーダーの問題だろ?」

「だって、未知のトリガー持ちの近界民(ネイバー)が三門市に潜伏してるんだよ?上層部も警戒するに決まってるでしょ」

「...まあ、それもそうか」

 

だが、本部に連れていかれるとなると、拘束待ったなしだろう。

なぜなら俺はボーダーにとって危険因子でしかないのだから。

 

「安心してよ。君を拘束する気はない」

「あんたたちを信じろと?」

「別にすぐに信じなくてもいい。とりあえず、話だけでもいいから聞いてほしいんだ」

 

なるほど、あくまでも交渉の場ということだろうか。

俺がどうするべきか決めあぐねていると、迅は立ち上がって、俺に告げる。

 

「君にもメリットあると思うよ。もしかしたら、君の望むものも手に入るかもしれない」

「...一つ聞いていいか?」

「何?」

「俺を売る気は?」

「ないよ」

 

何の迷いもない、即答。

迅はその笑みを崩さずに、言葉を放つ。

 

「君は敵じゃない。俺の副作用(サイトエフェクト)が、そう言ってる」

「......分かった。話だけなら聞く」

 

俺の返事に、迅はそれを見越していたように笑いかけた。

 

「交渉成立だね」

 

そして俺は迅の案内の元、ボーダーへと向かうのであった。

 


 

迅の案内によってボーダーに辿り着いた俺は、会議室のような場所に通された。

そこにいる人たちの”糸”は複雑に繋がって入り乱れており、最終的に一点に収束していた。

 

(仲がいいのか悪いのか分からん...)

「言われた通り連れてきたよ~、城戸指令」

「ご苦労、迅。そして近界民(ネイバー)よ。まずは我々との交渉に応じてくれて感謝する」

「いえ、争う気がないのはこちらも同じですから」

 

一番奥に座る厳かな雰囲気の男...迅に城戸指令と呼ばれた男と挨拶を交わす。

まあこんなものは表面上の物でしかないわけで、これから始まるのはあちらからの質問攻めだ。

 

「私は城戸正宗。ボーダー本部の指令をしている」

「リーヴです。よろしくお願いします」

「では単刀直入に聞こう。君の目的は何だ?」

 

俺は敵対したいわけじゃない。

ボーダーがどのような組織かを見極める。

そのためにはこちらもそれ相応の誠意を見せるべきだろう。

 

玄界(ミデン)の偵察です。文化、トリガー、国家体制などの情報を収集するのが主ですね」

「なるほど。では君はどの国から来たのかね?」

「ギアジェス、という国です」

「どこだ?その国は」

「聞いたことがありませんねぇ」

 

俺の返事に、小太りの男性と細身の男性が反応する。

 

「小国、その上まあまあ遠い国ですからね、知らないのも無理はありません」

「なぜそのような遠い国からわざわざこちらまで?」

「ギアジェスは情報国家です。様々な周辺国家の情報を集め、分析、対処することで生き永らえてきました。いや、そうすることでしか国としての立ち位置を保てないと言った方が正しいかもしれません」

「ふむ、では次に、君のトリガーは、(ブラック)トリガーか?」

「記録映像から分かっているでしょう?あれが通常トリガーなわけないじゃないですか」

「やはりブラックトリガーだったか!」

「...君に関することは大体分かった。その上で、君に伝えなければならないことがある」

 

そして城戸指令はその口を開いた。

 

「黒江隊員を救助した件については感謝する」

「...俺は近界民ですよ?」

「それでも、黒江隊員を助けた事実は変わらない」

 

本当に、玄界の人間は不思議だ。

敵対組織である俺に、拘束でも尋問でもなく、深々と頭を下げて感謝を述べているのだから。

 

「だが、それと君を信用することは別問題だ。だからこそ、我々は君を知る必要がある」

「...少なくとも今は敵対するつもりも、拘束や尋問をするつもりもないと?」

「ああ、そう受け取ってもらって構わない。君は少なくとも、我々が知る多くの近界民とは違うようだからな」

 

あくまでも要監視対象、そういうことだろう。

そんなやり取りも束の間、上層部の討論が始まる。

 

「しかし、信用できる保証はありませんぞ!」

「近界民を市内に置くのは問題ですよ!」

「だが、彼は実際に隊員を救った。少なくとも今は、信用に値するんじゃないのか?」

「...一つ、聞いてもいいですか?」

「いいだろう、こちらだけが質問するのも不平等だ」

 

俺は城戸指令の許可を得て、その質問を、率直な疑問を繰り出す。

 

「なんでそんなに意見が違うのに、”糸”が複雑なのに、一緒にいるんですか?」

「”糸”?」

「なんだね?それは」

「俺のサイドエフェクト、縁感知(えにしかんち)です。俺には人と人との関係、信頼度、互いをどう思っているかが”糸”になって見えるんです。その糸が太ければ太いほど、その関係は良好と言えます」

「何!?サイドエフェクトだと!?」

「彼は黒トリガーの持ち主だ。サイドエフェクトがあっても不思議ではないだろう」

「あなたたちの”糸”は複雑に絡み合って、それでも最終的に一点に集まっている。それがどうしても気になるんです」

 

俺の言葉に、城戸指令は少し考えるそぶりを見せ、答える。

 

「理念が違うだけだ」

「......」

「我々の目的は同じ。近界民から三門市を守ることだ」

 

俺はその返事に呆然としていた。

ギアジェスではあり得ない返答。あそこでは理念が違えば排斥されるだけだった。

利用価値がなければ切り捨てる。それが当たり前だった。

でも、玄界は違うらしい。

そう思っていると、先ほどから黙っていた茶髪の男性が、そこで初めて口を開いた。

 

「一つ提案がある」

「...何でしょう?」

「君は玄界の情報を欲している。我々は近界の情報、そして戦力が欲しい。利害は一致していると思わないか?」

「...私も、唐沢君の意見に私も賛成だ。リーヴ、君と協力関係を築きたい」

「正気ですか城戸指令!?」

「彼は曲がりなりにも近界民ですぞ!?」

「ボーダーに入隊しろと、そういうことですか?」

「いや、ひとまずは外部の協力者として手を貸してほしい。その分、こちらからも技術や情報など、君が求めるものを可能な限り提供しよう」

 

これは予想外。完全に利用されるだけだと思っていた。

だが彼は、対等な協力者としての関係を持ち掛けてきた。

悪くない条件だ。

 

「いいですよ。あなたたちボーダーに協力することを約束します」

「交渉成立だな。これからもよろしく頼むぞ、リーヴ。それと、最後に一つ聞こう」

「はい?」

「何故黒江隊員を助けた」

「何故、ですか...」

 

俺はしばし悩み、答える。

 

「放っておけなかったから...ですかね?」

「そうか。ひとまず君には、玉狛支部に居住してもらう。迅、案内したまえ」

「はい。実力派エリート・迅、了解しました!」

 

そして俺は迅と共に会議室を出る。

会議室を出る直前、俺は振り返る。

そこには無数の糸が複雑に絡まり合いながらも、決して切れることなく、一本の太い束になっていた。

ギアジェスでは見たことのない、いや、見れることのない光景だった。

 

「変な組織だな」

 

俺は思わずそう呟く。

すると隣の迅が少し笑う。

 

「褒め言葉?」

「...多分な」

「そのうち気に入るよ。玉狛を、そしてボーダーという組織を」

 

そして俺は迅の案内に付いていき、玉狛支部へと向かうのであった。

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