出水と撃ち合ってたはずなのに、気付いたら太刀川さんと一本模擬戦をすることになってしまった。
迅から少しだけ聞いたことがある。
個人総合一位、No.1攻撃手…太刀川慶。
かつて迅としのぎを削ったライバルらしい。
「それじゃあ準備はいいか?」
出水の言葉に俺と太刀川さんは頷く。
「よーい…始め!」
その合図とともに、俺たちは同時に距離を詰める。
耐久度で劣るスコーピオンで弧月と打ち合うのは得策じゃない。
リーチも負けている以上、懐へ潜り込むしか勝ち筋はない。
そう考えて踏み込む。
…だが。
「お。いい太刀筋だな」
「ちっ!」
どうしても、あと一歩が届かない。
太刀川さんはほんの僅かに下がるだけで、常に弧月が最も振りやすい間合いを維持していた。
スコーピオンを伸ばそうとしても、その前に弧月がこちらを弾く。
(近づけない…!)
「いいぞいいぞ!もっと来い!」
涼しい顔して弾きながらめっちゃ楽しんでるじゃねえかこの人。
この組織はバトルジャンキーしかいないのか?
ともかく、この状況を打開するにはこのままじゃ駄目だ。
ぶっつけ本番だが、やってみるか…
神代は次の瞬間、距離をとってスコーピオンをしまう。
そして神代の体は風景に溶け込み、透明になっていく。
「これは…!」
「カメレオンか!」
(だがレーダーの反応を見れば位置は分かる。一対一のカメレオンはそこまで脅威じゃ...)
そう思って俺はレーダーを見るが、トリオン反応は表示されなかった。
──瞬間、
右後ろから気配がした気がした。
一瞬だけ肌が粟立ち、反射的にシールドを展開する。
見ると、神代はバッグワームを装着していた。
「やっぱり駄目か…」
「こりゃたまげたな」
俺は弧月を振るって神代と距離をとる。
(カメレオンを使ってすぐに遮蔽に隠れた後、バッグワームに切り替えたのか。どうりでレーダーに映らないわけだ)
B級に上がりたてということはまだカメレオンの使い方も慣れていないはず。
それなのに、この土壇場であいつはこれだけの発想力を発揮した。
風間さん相手の経験がなければ、今ので一本取られていたかもしれない。
「今のはかなり良かったと思うぞ」
「でも防いだじゃないですか」
「カメレオン使いとは何度も戦ったからな、それが無かったらやられてたかもしれない」
俺は今まで使っていなかった二本目の弧月に手をかける。
「抜きましたね、二本目」
「ああ、こっから少し本気出すぞ」
二本目が抜かれた瞬間、さっきまでとは比べものにならない圧力が押し寄せた。
次の瞬間、俺と太刀川さんの距離は一瞬にしてゼロになり、太刀川さんの猛攻が始まる。
「ぐっ!」
「ほらほら、このままじゃ削り倒されるぞ?」
太刀川さんの言う通りスコーピオンは何度も受け止めたせいで細く削れ始めていた。
それに、体に付いたいくつかの切り傷からトリオンが漏れている。
反撃しなければこのままやられてしまうだろう。
だが…
(反撃の隙が無い…!)
二本の弧月を使っている間は両手のトリガーを使っているためシールドを展開できない。
でも、太刀川さんにはその隙を埋めるだけの剣技があった。
この連撃に俺が真正面から反撃することはできないだろう。
この距離でカメレオンを使っても、自分を無防備に晒すだけだ。
やるなら、一瞬しかない!
「ふっ!」
「おっ?」
俺は剣先をフック状に変形させ、弧月の一本を捕らえる。
後はやられる前にこっちが刺す!
そう思って俺は刃を太刀川さんに向けて伸ばした。
だが、その刃が届く前に…
──キィン…
「えっ?」
気付けば、俺の体は宙に打ち上がっていた。
見れば、俺がいた場所には青い反射板が置かれていた。
(これって、グラスホッパーか!?)
そして太刀川さんは弧月を構える。
「…旋空弧月」
あまりにも一瞬の出来事だった。
トリガーを切り替える暇すらなく、シールドを展開できないまま俺の胴は両断された。
「はっ!」
…最後の一か八か。俺はスコーピオンを太刀川さんに向かって限界まで伸ばす。
「…くそっ、届かないか」
【戦闘体、活動限界】
だがトリオンが足りず、刃が届く前にスコーピオンはバラバラと崩れていった。
「いやー、危ねえ危ねえ。最後はちょっと驚いたぜ」
仮想空間から隊室に戻ってきた太刀川さんが笑いながらそう言った。
「全然歯が立ちませんでした。流石、No.1攻撃手ですね」
「いやいや、少し食らいついただけでも大したもんだぜ、神代」
出水がそう言いながらこちらに歩いてくる。
「いい経験になったよ。射手になるのはさておき、とりあえず弾トリガーは入れてみようと思う」
「おう入れろ入れろ。お前器用だし、色々いれてもそんなに困らないだろ」
「今度会ったらガチのランク戦やろうぜ、神代。俺の楽しみが増えた」
「あはは、お手柔らかにお願いします…」
俺はそう苦笑いしながら隊室の扉を開く。
「じゃあな、神代。誘いに乗ってくれてありがとな」
「暇になったら顔出せよ。歓迎するぜ」
「いつでも待ってるよ〜」
「ありがとうございます。ではまた」
俺は頭を下げてその場所を後にした。
「太刀川さん、あいつ、将来的にはうちに欲しいと思ってるんですけど、どう思います?」
神代が去った後、出水はそんな疑問を太刀川に投げかける。
神代が今日魅せたポテンシャルの片鱗を見た出水は、今後も絶対に伸びると、どこかそう確信していた。
「そうだな、あいつはポテンシャルあるし、それもありだが…」
太刀川は顎に手を当てる。
「今俺らで囲うより、色んな奴と戦わせた方が伸びるだろ。俺はその神代と戦ってみたい」
太刀川は興味を示しながらそう言った。
「にしても、あいつ戦い慣れすぎだろ」
「だってあいつ近界民ですからね」
「……は?」
「え?」
「え?」
出水と太刀川は顔を見合わせる。
「知らなかったんですか?城戸司令から共有されてたじゃないですか」
「あ、あー…そんなのもあったような…だからあんなに動けたのか」
「もしかして知らずに模擬戦してたの?太刀川さん」
「…よ、よーし。俺は今から個人ランク戦してくるわ」
太刀川はそう言うと、逃げるように隊室を後にするのだった。
現在の神代のトリガー構成
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