防衛任務…B級以上の正隊員が受け持つ任務、いわば仕事のようなものだ。
本部から出されたシフトを元に、支部を中心に5つの隊が交代までの間、警戒区域内を巡回する。
さて、大まかな概要はここまでにして、つまり正隊員となった俺も晴れて防衛任務に就くことが出来るというわけだ。
ボーダーのトリガーを使った実戦に臨むことが出来るいい機会だ。
存分に活かすとしよう。
やがて俺は合流地点に到着する。
そこには白い隊服に身を包んだ三人組がすでに待っていた。
「俺が最後みたいですね。すみません、お待たせしました」
「いえ、集合時間前だから問題ないわ。寧ろ気を遣わせてしまってごめんなさい」
そう言って白い髪の女性…那須は頭を下げる。
俺は現在個人隊員のため、防衛任務の際は他の隊と合同で行うようにシフトが組まれている。
初めての防衛任務は、那須隊との合同任務だ。
「データには目を通してると思いますが、一応自己紹介を。神代結人です」
「丁寧にありがとう。隊長の那須玲よ」
「熊谷友子よ、よろしく」
「日浦茜です!よろしくお願いします!」
「ここに年上はいないから、楽に話してもらって大丈夫よ。今日はよろしくね」
軽く会釈をし、自己紹介を済ませる。
「ん、分かった。よろしく。皆のことはよく知ってるよ。ランクを何度か見させてもらった」
「あら?今はオフシーズンなんだけど…もしかしてログを遡って見てくれたの?」
「ああ。そんな感じだ。色んな戦い方を見て参考にしたかったからな」
本当は実際に会場で見てたんだが…
とはいえそれを言ってしまうと色々怪しまれそうなのでぼかしておく。
俺が近界民ということは基本的には内緒だからな。
「そうなんですか!?嬉しいです!」
「そういえば、オペレーターの人は?」
『あっ、えっと、ソノ…』
俺がその疑問を口にすると内部通信を通してしどろもどろな返事が返ってくる。
「あ、ごめんなさい。うちのオペレーター…志岐小夜子ちゃんって言うんだけど、男性が苦手で…」
「ふむ、そういうことか」
「根はいい子なんだけどね。男性が絡むとこうなって話さなくなっちゃうのよ」
『す、すみません…』
志岐は今にも消え入りそうな声で謝ってくる。
「誰にも苦手なものはある。気にすることじゃない。志岐には那須たちのオペレートに集中するように言っておいてくれ。俺は俺で何とかするよ」
「ありがとう。私も神代君にはなるべく状況報告とか指示出しをするように意識しておくわ」
「助かる。それじゃあ時間だし、行こうか」
やがて時間になったので、巡回地点まで向かう。
といっても、ゲートが開かなければほぼ散歩も同然だ。
もちろん、いつでも戦えるように警戒しているし、日浦は狙撃しやすい位置を中心に移動している。
そんな折、那須が話しかけてくる。
「データからトリガー構成を見たけれど、バイパーを入れてるのね」
「ああ。メインはスコーピオンだけど、弾もあったほうが便利だからな」
「攻撃手ってより万能手って感じなのね。バイパーの弾道はやっぱり設定してあるの?それとも、玲みたいにリアルタイムで?」
「リアルタイムで引いてるな。とはいえ、那須や出水に比べたらまだまだだけどな」
『えっ、リアルタイムなんですか!?すごいです!』
日浦が通信越しにそう言う。
元気な子だな…どことなく駿を思い出す。
「他にもカメレオンとか入れてるみたいだし、器用なのね」
「それほどでもないよ。ここからもっと練習して使いこなせるようにしないと」
「ふふ、その向上心ならきっとすぐに上手くなるわ」
そう会話していると、志岐から通信が入る。
『皆さん、そこから南東にゲート出現です』
「了解、すぐに向かうわ」
俺たちは志岐の報告を受け、南東に向かう。
トリオン反応は4つ。比較的小規模の発生だ。
「神代君と熊ちゃんは前に出てトリオン兵の注意を惹きつけて。私と茜で仕留めるわ」
「「「了解」」」
その指示に従い、俺は熊谷と共に前線に出る。
念のため、左手を開けて右手のスコーピオンのみでモールモッドの攻撃に対応する。
「バイパー」
そうして注意を惹きつけていると、俺の脇をバイパーがすり抜け、的確にモールモッドの弱点を貫いた。
(なんて操作精度…これがバイパーの名手の実力か)
同様に、熊谷の方も隙を突いて日浦の狙撃がトリオン兵に命中する。
しかし、そこへもう一体のモールモッドが熊谷の右から現れる。
「熊谷、右だ!」
「!」
俺は空けておいた左手からスコーピオンを生成し、モールモッドに向かって投擲する。
スコーピオンは振りかぶろうとしたモールモッドの刃を弾き、体勢を崩す。
「ハッ!」
そこへ熊谷の斬撃が命中し、モールモッドは機能を停止する。
続いて那須のバイパーが後方のバムスターに命中するが、倒し切れずに前進しようとする。
「アステロイド」
俺はそこへすかさずアステロイドを放ち、トリオン兵の弱点を削り切った。
『トリオン反応、消失しました。戦闘終了です』
「ありがとう、神代君。さっきは助かったわ」
そう言って熊谷が頭を下げる。
「いやいや、那須が目の前のトリオン兵を倒してくれたから余裕ができただけだよ」
「それでも、咄嗟にあれだけの援護ができるなんて。周りがよく見えてるのね」
まあ、状況判断は昔から嫌というほどしてきたからな。
それが視野の広さに活きているのだろう。
「あんなに強いのにフリーなんて勿体ないよ。部隊に勧誘されたりとかしてないの?」
「ああ、実は少し前に加古隊に勧誘されたんだ」
『加古隊に!?すごいじゃないですか!』
「でもまだ入隊したてだから、色々考えてから決めたいと思って保留にさせてもらってるんだ」
「そうなのね。慎重なのは悪いことじゃないと思うわ。ほかの部隊からも声がかかるかもしれないし」
俺は会話しながらも、さっきの戦闘を頭の中で反芻していた。
やはり実戦だとバイパーを絡める余裕はない。
結局使ったのは、確実に当てられる直線のアステロイドだけだった。
ランク戦と実戦は似て非なるものだ。
もっと経験を積まなければ。
その後は特にゲートが発生することもなく、ほぼ雑談をして時間を潰し、次の隊に引き継いだ。
「神代結人だな。少しいいか?」
防衛任務後、本部をうろついていると声をかけられる。
後ろを振り向くと、そこには俺よりも一回り小さい背格好の男が立っていた。
「えっと、何の用だ?」
「風間隊の隊長をやっている、風間蒼也だ。お前と話がしたい。ついてきてくれないか?」
「あ、ああ…」
立ち姿だけで分かる、この人は強い。
太刀川さんとはまた違う種類の圧がある。
俺は年下とは思えないほど落ち着いた物腰の風間についていくのだった。