「...今更だが、さっき玉狛”支部”って言ってたよな?」
「そうだね」
「何故本部じゃないんだ?」
本部の方があちらとしても監視がやりやすいだろう。
しかし城戸指令は玉狛支部への移動を命じた。
「んー、本部だと色々ややこしいからね。隊員も多いし、重要な施設もたくさんある。様子見ってところじゃないかな?」
俺の問いに対し、迅は気楽そうに答える。
「それに、君を置くなら玉狛が一番いい」
「何故だ?」
「玉狛支部の部隊...玉狛第1はボーダーの最強部隊だから」
「...支部なんだろ?本部よりも人数は少ないはずだ。それでもか?」
「本部のとは違う規格外のトリガーを使ってるからね。それに俺も居るし、支部の方が様子を見やすい」
俺は思わず押し黙る。
最強部隊、ギアジェスで言うなら、王国直属の近衛隊のようなものだろう。
(なるほど。監視もしやすいし、万が一俺が暴れた時に止められる)
理にかなっている。
城戸指令たちがそう判断するのも納得だ。
だから俺は警戒を強め、迅の後を追う。
「さあ、着いたよ。ここが、我らが玉狛支部だ!」
「ここが...」
(見た目は少し年季の入った基地だな。いや、最強部隊がいるんだ。油断はできない)
しかしそんな俺を待ち受けていたのは、最高戦力とは言い難い集まりであった。
「ただいま~!」
「おお、戻ったか迅!」
「陽太郎、ただいま」
「迅さん、おかえり」
「紹介するよ。こっちの子供が林藤陽太郎で、あっちの眼鏡の子が宇佐美栞だ」
俺たちを出迎えたのは俺と同い年くらいの眼鏡の女の子と、カピバラに乗った小学生未満であろう子供だった。
(ここが、ボーダー最高戦力の基地...?)
「ん?迅さん、その人は?」
「ああ、今日からうちで面倒見ることになった、近界民のリーヴだ」
「なっ、お前...!」
こいつ、さらっと俺のこと近界民って紹介しやがった。
急に近界民連れてきたなんてなったらビビるに決まって...
「へー、そうなんだ。賑やかになるね!あ、お部屋用意しなくちゃ!」
「軽っ!?」
なんかもっとこう、相応しい反応があるだろ!
今日からここに近界民が住むんだぞ!?
(これがボーダー最高戦力の、基地...?)
その様子に呆然としている俺をよそに、迅はリビングと思われる部屋まで俺を通す。
陽太郎は常にカピバラに乗って移動している。
(なぜカピバラ...?)
そんな俺の疑問をよそに、奥の階段から屈強な男性が降りてきた。
「迅、客人か」
「レイジさん。そそ、今日からうちに住む近界民のリーヴだ」
「そうなのか。俺は木崎レイジ、よろしく頼む」
そう言って屈強な男性...レイジさんは俺に手を差し伸べる。
一目見ただけで分かる。
この人は、強い。何というか、存在感がある。
雰囲気だけで言うなら多分、迅よりも。
「リーヴです、よろしくお願いします」
「ちょっとちょっと、リーヴ、俺には敬語使ってくれないの?俺も年上だよ?」
「お前に敬語を使うのは何か違う気がする。別に尊敬してないし」
俺は迅を無視してレイジさんの手を取り、握手を交わす。
...握力強っ。しっかりと鍛えられている証拠だ。
「リーヴ君、どら焼き持ってきたからよかったら食べて食べて」
「!これは、いいとこのどら焼き...!」
「お、分かるかね?」
「お気に入りだからな、では遠慮なく...」
俺は差し出されたどら焼きを頬張る。
うん、やはり美味い。玄界の食べ物は至高だ...!
すると今度は玄関の方から足音が響き、またまた同い年くらいの女の子がやってきた。
「あれ?そいつ誰?」
「おお、小南。今日からうちに住むリーヴだ」
「...近界民のリーヴだ。よろしく」
「ふーん、近界民なんだ。あたしは小南桐絵よ...あんた、なんかムカつくわね」
「おい、初対面の相手に向かって失礼な」
「知らないわよそんなの。そっちこそ初対面のくせにタメ口じゃない」
「見たところ同い年だろ、なら敬語はいらないよな?」
「「...」」
俺と小南はしばし黙って見つめ合う。
「「やるっての(か)、こいつ!」」
「おお、相性良さそうで何より」
「「どこかよ(だ)!」」
そんな漫才じみたやり取りをしていると、階段からさらに人が現れた。
もっさりしたイケメンだ。
「あれ、お客さんっスか、迅さん」
「そうだ、今日からここに住むことになった」
「そうか、ここに住むってことはこいつともよく会うってことか...」
「こっちのセリフよ!」
「まあまあ小南先輩、落ち着いてください。客人にあまり噛み付いちゃいけませんよ」
俺と小南の間にもっさりイケメンが入って仲裁する。
そしてその男は俺に向き直る。
「俺は烏丸京介だ、よろしく」
「近界民のリーヴだ、よろしく」
ようやくレイジさんに続いてまともそうな人が来たな。
少なくとも迅や小南よりは話が通じそうだ。
俺は差し出された京介の手を握り返す。
「そう言えば小南先輩、初対面の相手と喧嘩すると不運に見舞われるそうですよ?」
「そうなの!?もっと早く言いなさいよ!嘘でしょ!?」
「ウソです」
「えっ?」
「不運に見舞われるっていうの、ウソです」
小南は京介の言葉に硬直する。
いや、普通に考えてわかるだろ...
「だ、騙したわね!?」
「まさか騙されるとは...」
騙された小南が京介に絡みつく。
その光景はただ部隊としての関係を持っているだけとは思えず、まるで仲のよい家族のようであった。
「迅、最強部隊って聞いてたんだが...家族の間違いじゃないか?」
「あー、あながち間違ってないかもね」
迅は俺の問いに対してそう前置きを置いてから、返答する。
「玉狛支部のメンバーは最高戦力で、大切な仲間同士だ」
「...なんだそれ」
普通精鋭部隊ともなれば、強者だけが集まる。
そこに私情はなく、立場も考え方も違い、ただ部隊としての体裁を保っているだけだ。
それに比べてこの場所に伸びる糸は、全員が確かな一本線で太く繋がっている。
レイジさん、小南、京介、宇佐美、陽太郎、迅。
全員の糸が互いに結ばれている。
上下関係や利害関係ではなく、もっと単純で、強固な何かだった。
「仲がいいんだな」
「そう?これくらい普通じゃない?」
「いや、俺の国では中々見られない光景だからな。こんなに太い糸が何本も繋がってる集団は初めて見た」
「糸?何よ、それ?」
「あっ」
しまった、あの会議室にいた迅以外は俺のサイドエフェクトのことを話していないんだった。
「えっと、俺のサイドエフェクトだよ。人と人との繋がりが見えるんだ。信頼、友情、尊敬、憧れ、親愛。 そういう感情や人間関係が糸みたいに見える」
「人間関係の可視化か...」
「面白いサイドエフェクトっすね」
「じゃあ、互いがどう思ってるか、気持ちがわかるってこと?」
「いや、そこまで具体的には分からないぞ、宇佐美。あくまでも見えるのは、繋がりとその太さ、大まかな抱く感情だけだ」
「なら、俺たちの糸はどんなふうに見えてるのだ?」
すると陽太郎が目を輝かせ、興味津々に質問してくる。
俺はその質問に対して少し考え、答える。
「そうだな、強いて言うなら...家族、かな」
「へぇ、少しはいい表現するじゃない」
「ふふん!当然だな!」
そっぽを向く小南に対し、陽太郎は満足そうに頷く。
「なんか偉そうだな、陽太郎」
「陽太郎はいつもあんな感じですよ」
俺の言葉に、京介が苦笑する。
すると宇佐美が身を乗り出してきた。
「ねえねえ、それって具体的にどう見えてるの?」
「具体的に?」
「例えば、私と迅さんの糸とか!」
「あー...」
俺は二人を見る。
宇佐美と迅を結ぶ糸はかなり太い。
信頼と親愛が混ざったような感じだ。
「かなり太いな。信頼してるんじゃないか?」
「おおー!」
宇佐美は嬉しそうに両手を上げる。
「当然だよね、迅さん!」
「いやー、宇佐美にはいつも助けられてるからね」
「「イェーイ!」」
「じゃああたしは?」
今度は小南が割り込んできた。
「そうね、私ととりまるは?」
「それは俺も気になりますね」
京介も少し興味があるようだ。
俺は二人を見比べる。
「...姉弟みたいだな」
俺の返答に数秒の沈黙が訪れる。
そして、その静寂を破ったのは言うまでもなく小南だった。
「はぁ!?姉弟!?」
「ぶふっ」
耐え切れなかったのか、宇佐美が吹き出す。
「違うのか?」
「違うわよ!」
「確かに、どっちかというと小南の方が妹か...?」
「もっと違うわよ!?私の方が一個上なんだけど!?」
「でも、割と合ってる気もしますね」
「とりまるまで何言ってんのよ!」
「まあ、信頼し合ってる証拠なんじゃないか?」
「そもそもあんたが変なこと言うからよ!」
「小南から聞いてきたんだろ!?」
なんて理不尽。許すまじ小南桐絵...
やはり小南とは反りが合わなそうだ...まあ、退屈はしなさそうだが。
「ほら、リーヴも上層部との対談で疲れてるだろ?そろそろ休んだらどうだ?」
「ああ、そうだな。そうさせてもらおう」
「あっ、私案内するよ。こっちこっち~」
「リーヴ」
宇佐美についていこうとした直後、俺は迅の言葉に振り返る。
レイジさんも、京介も、小南も、陽太郎も、笑顔でこちらを向いていた。
「これからよろしくな」
「...ああ、こちらこそ」
俺は宇佐美の案内で部屋へ向かう。
ギアジェスでは決して見ることのなかった光景。
人と人が、利用価値ではなく信頼で繋がっている場所。
玉狛支部。
俺の新しい居場所は、どうやら思っていたより騒がしいらしい。
リーヴ(17)の話し方基準
・年上 :基本敬語で話す。呼び方はさん付け。例)レイジさん
故郷の教育で基本的な礼儀作法は身につけている。
・同年代:基本タメ口。呼び方は名字呼び捨て。例)小南、宇佐美
・年下 :基本タメ口。呼び方は、男子は名前呼び捨て。例)京介、陽太郎 女子は名字呼び捨て。
・例外 :迅。こいつにだけは敬語を使いたくないという理由で名字で呼び捨てするしタメ口もきく。