「縁」を視る近界民、ボーダー隊員になる   作:白豆男爵

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信頼

グングニルの性能試験から数日後。

こちらでの生活も少しづつ慣れてきたといったところ。

迅に呼ばれた俺は再び本部へ来ていた。

 

「また会議か」

「今回は前より穏やかだと思うよ」

「本当か?お前の言葉はイマイチ信用ならない」

「え~?ひどいなぁ」

 

そんな会話をしながら会議室へ入る。

そこには前回と同じ顔ぶれが揃っていた。

あの後迅に教えてもらったので、もう名前も分かる。

忍田本部長、 根付メディア対策室長、鬼怒田開発室長、林道支部長、唐沢外務・営業部長、そして城戸司令。

 

「よく来てくれた。ブラックトリガーの情報は迅から聞いた。情報提供、感謝する。今日は君と情報交換をしたい」

「なるほど、いいですよ」

「まず、こちらは君の世界について知りたい。 その代わり、こちらも君の質問に答えよう」

 

城戸司令は続けて質問を切り出す。

 

「まず、君の出身国家であるギアジェスについて、どのような国か教えてもらいたい」

 

俺は少し考える。

全部話す必要はない。だが嘘をつく意味もない。

 

「もちろん、君の言える範囲で構わない」

「...前にも言った通り、ギアジェスは情報国家です。俺たちの国は周りに比べて小国です。敵国についての情報を集め、時に情勢の隙をついて戦いを仕掛け、勝てなさそうなら様々な情報という名の交渉材料を用いて敵国と交渉を行うことも少なくありません」

「ふむ」

「俺はその中の偵察部隊所属でした」

 

俺の言葉に、忍田さんが口を開く。

 

「我々が君を捕捉できなかったのも、隠密行動に長けているからか」

「そういう訓練を受けていましたから」

「ならば、こちらの世界を偵察しに来た理由は何だ?少なくとも我々はギアジェスという国について何も知らない」

「そうですよ!こちらを偵察しに来たのにも、それ相応の理由があるんじゃないかね?」

「そうですね、簡単に言えば保険です」

「保険?」

 

今度は唐沢さんが反応する。

 

「俺たちの国は小国です。大国みたいに戦力で押し切ることは出来ない」

「だから情報を集める、と」

 

忍田さんが頷く。

 

「はい。今は弱い国でも十年後、二十年後には大国になっているかもしれません」

「その可能性を見極めるための偵察か」

「そういうことです。玄界も例外じゃありません。都市規模の防衛設備、隊員の戦闘力、トリガー技術の発展速度。どれも近界基準で見ればかなり速い方です」

「ふむ」

 

鬼怒田さんが少し嬉しそうな顔をした。

 

「開発者としては褒め言葉として受け取っておこう」

「実際脅威度は高いでしょうね」

 

俺がそう言うと、会議室が少し静かになる。

その静寂を破ったのは根付さんだった。

 

「つまり君たちの国から見て、我々は脅威足り得ると?」

「ええ。少なくとも、本国にはそう報告するつもりでしたよ」

「なるほど。随分高く買われているようだ」

「悪い気はせんな」

 

まあ、予定通りの偵察とはいかなくなってしまったわけだが、このような形で取引が成立しているのも決して悪い状況ではない。

そして今度は忍田さんが質問を繰り出す。

 

「では、それほど重要な任務に君が選ばれた理由は?」

「偵察任務の経験が長かったからでしょう。幼いころから訓練を受けてましたし、あとは俺のサイドエフェクトが向いていた。そんなところだと思います」

「確かに、君の縁を見るサイドエフェクトは敵の情勢を見るのに適していそうだな。それほど国に信頼されているということか」

「では別の質問だ。君のブラックトリガー...グングニルは誰が作った?代々受け継がれたものなのか、国が保有しているものなのか、それとも...」

 

俺は視線を落とす。

グングニル、それはただの武器ではない。

これだけは手放せない。誰にも渡さない。だってこれは...

 

「...形見なんです」

「形見?」

「はい」

「...そうか」

 

俺はそれ以上は語らなかった。

俺の様子を大人たちも察したらしく、それ以上は踏み込まなかった。

だが、城戸司令だけは一瞬だけグングニルを見るような視線を向けていた。

しかし城戸指令もすぐに切り替え、取引は次のフェーズに移る。

 

「次は君の番だ。答えられる範囲の質問であれば答えよう」

「...では早速。ボーダーはブラックトリガーを保有していますか?」

「ああ。こちらはブラックトリガーを二つ保有している」

 

思ったよりもあっさり答えるな。

いや、違う。

俺がブラックトリガーの情報を提供したからこそ、向こうも同等の情報を返したのか。

 

「一つは、そこにいる迅が所持している。詳細は迅に聞くといい」

「...!」

 

迅がブラックトリガー使い!?

俺が思わず迅のいる方向に振り返ると迅はニヤニヤと笑っている。

俺の反応見て楽しんでるなこいつ...

 

「もう一人の所持者については伏せさせてもらおう」

「ええ、分かっています」

 

俺のトリガーと一対一で情報交換ってところか。

しかし迅がブラックトリガー使いとは...灯台下暗しというやつか。

 

「次の質問...ボーダーは近界を侵略しようとは思わないのですか?見たところ、ほとんどの戦力を防衛に使っているようですが...」

「我々の目的はあくまでも三門市の防衛だ。遠征部隊を派遣して定期的に情報を集めてはいるが、こちらから戦いを仕掛ける意思は基本的にない」

 

あくまでも防衛優先か...近界では珍しい保守的な考え方と言える。

 

「ありがとうございます。後はトリガーについての情報ですが...」

「それについては玉狛支部の隊員に聞いてくれ。大まかな概要は理解できるだろう。もし、もっと詳しく知りたければ本部の開発室を訪れるといい」

「分かりました...最後に一つだけ。もし俺が敵だったら、どうしていました?」

「...その場合は、排除していただろう。だが、君は敵対を選ばなかった」

 

少しの間をおいて城戸指令は答えた。

会議室が静かになる。

しかし迅だけはすぐに笑った。

 

「お前は黒江を助けただろ?」

「そうだな」

「だから今ここにいるし、こうして対等な立場で協力関係を築けている」

 

その言葉に、会議室の誰も異論を挟まなかった。

俺は小さく息を吐く。

玄界は変な世界だ。

合理性だけでなく、人の行動も信じる。

ギアジェスならあり得ない。

 

だけど――

 

少しだけ嫌いじゃなかった。

そこから、城戸指令が続ける。

 

「迅の言う通り、これは君が勝ち取った信頼だ。今後も、この関係がより良いものになることを願っている」

「そうですね。少なくとも、今のところは悪い取引じゃありません。これからもよろしくお願いします」

 

俺と迅は会議室を後にする。

 

「結構ボーダーのこと気に入ってきたんじゃない?」

「そうだな、玉狛の居心地も悪くない」

「お、嬉しいこと言うじゃん」

「ああ、飯が美味いからな」

「そこ!?」

 

ボーダーは今まで見たことないような組織だ。

気付けば、俺もあいつらの前では少しずつ本音を話していた。

ギアジェスにいた頃よりも、自分を出せているような、そんな気がした。

 


 

リーヴと迅、続いて林藤と忍田が退室した後、鬼怒田が口を開く。

 

「しかしよいのですか城戸指令。近界民にあそこまで情報を渡すなど...」

「これは取引だ。相手が様々な情報を開示してきた以上、こちらもそれ相応の対応をしなければならない」

「それは、そうですが...」

「あの近界民は黒トリガー持ち。いつか我々に牙を剥く可能性もあり得るのでは?それにもし玉狛支部と手を組んだら...」

「そうですぞ、城戸指令。あの黒トリガーは危険すぎる!もし敵対された場合、現在のトリガーでは対処が難しい可能性がありますぞ?」

「その場合はこちらも天羽を出すまでだ。それにリーヴがわざわざこちらと敵対する理由もないだろう。あの近界民は国同士の交渉を心得ている」

 

城戸は少しだけ考えるように目を閉じた。

 

「少なくとも利用できるうちは利用する。それに、迅が肩入れしているということは何か理由があるのだろう。本意ではないが、今はそれに乗るだけだ」

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