お前、この小説を見たな!これでお前とも縁が出来た!
上層部との情報交換を終えた後。
俺と迅が支部へと戻ってくると、何やらリビングが騒がしい。
「ん?」
テーブルには大量の料理が並んでおり、宇佐美たちが今もなお料理を並べている。
「おっ、主役が来た!」
「主役?」
「今日はリーヴ歓迎会だからね!」
「は?」
俺の、歓迎会...?
「いや、そもそも所属してないし。あくまで使節みたいな立ち位置なんだけど...」
「まあまあ、細かいことは気にしなーい」
「遅いじゃない!」
小南がいきなり肩を叩いてくる。
何してくれてんだこいつ、普通に痛い。
こちとら上層部との取引帰りだぞ?
「そもそも、歓迎会やるなんて聞いてないんだが?」
「だって言ってないもの」
「何でだよ。せめて言えよ」
「サプライズなんだから、言ったら意味ないじゃない」
「まあ、とにかく座れ」
「主役なんですから、ほら早く」
小南と口論しているとレイジさんと京介に促され、俺は席へとつく。
「てか林道支部長は何でここにいるんですか?さっきまで本部にいましたよね?」
「玄界には車っていう便利な乗り物があってだな」
「車...」
ああ、あの移動用の機械か。
基本的な移動手段が徒歩のため、ちょっと羨ましい。
たまにグングニルで移動しようかと思うこともあるが、流石に怒られそうなのでやめておく。
すると林藤支部長が立ち上がり、全員がグラスを持つ。
「それじゃあ!リーヴの玉狛歓迎を祝って!」
「「「「「「乾杯!」」」」」」
グラス同士がぶつかり、音が鳴る。
(歓迎会なんて初めてだな)
ギアジェスでは成果を祝うことはあった。
任務成功、昇進、戦果。
だが人そのものを歓迎する文化はなかった。
そう思いながら俺は目の前の料理を口に運ぶ。
「うまっ」
「だろ?」
思わず漏れた俺の言葉に、迅が笑う。
「いや、お前は作ってないだろ。ずっと俺と行動してたんだから」
「あれ、バレた?」
「で?玉狛はどう?」
「急にどうと言われてもな」
小南の質問に少し考え、答える。
「変な連中だと思う」
「喧嘩売ってる?」
「褒めてるんだよ」
「褒めてないでしょ!?何をどう捉えたら褒めてる判定になるの!?」
俺の返答に文句を垂れる小南はさておき、宇佐美が話しかけてくる。
「でも、前より表情柔らかくなったよね」
「そうか?」
「最初はずーっと警戒してる感じだったもん」
「あー...」
正直、図星だった。
最初はボーダー最強部隊と聞いて身構えてたからな。
そんなイメージはとうに崩れ去ったわけなのだが。
「当然だろう。見知らぬ土地で一人だったんだ。警戒もする」
「でももう一人じゃないもんねー」
「リーヴももう、玉狛の一員だからな!」
「いやだから違うって」
「でも、だいぶここでの生活に慣れてきましたよね」
「そうか...そうかもな」
俺はその言葉を聞いて少し考える。
ギアジェス、偵察部隊、任務。
色々なものが頭を過ぎる。
だが、目の前を見れば、宴を楽しんでいる玉狛の皆がいる。
正式な玉狛のメンバーというわけでもないが、この面子で一緒にいる時間も...
「まあ、悪くないかもな」
そう、小さく呟いた。
やがて歓迎会が終わり、自室へ戻る。
ベッドに座りながら、窓の外を見つめる。
ギアジェスではもう、誰かが俺の帰りを待っていることもない。
だが今日は違った。
(悪くない、か)
自分で言って少し驚いている。
玄界に来た時は現地人と一緒に生活するなんて思いもしなかった。
最近は、ここまで感情を表に出すことはなかった。
だけど玉狛では、自然と自分を出せている気がする。
机の上にはグングニルのトリガーがあり、俺はそれを手に取る。
「見てるか」
手の中のグングニルを見つめる。
誰に向けた言葉かは分からない。
いや、本当は分かっている。だけど、名前は口にしなかった。
そして確かめるように俺は呟く。
「...お前が好きそうな連中だよ、あいつらは」
窓の外では三門市の明かりが静かに輝いていた。
歓迎会以降、俺は玉狛の誰かと過ごす時間が増えていた。
陽太郎に街を案内してもらったり、宇佐美にトリガーのことを教えてもらったり、小南とちょっと痴話喧嘩したりと、まあ色々だ。
そんなある日、起床してリビングへ降りると、みんなが頭をうならせていた。
「うーん...」
「どうしたんだ?みんなして頭を悩ませて」
「あ、おはようリーヴくん。実はリーヴくんのことでちょっと考えてて...」
「俺の?」
「リーヴくん、本名だと何かと不便だと思って、みんなでこっちでの名前を考えてたの」
そう言うと宇佐美はまた考えだした。
つまりみんなで俺の偽名を考えているということか?
俺はその光景に思わずため息をつく。
「別に要らないだろ。いつまでこっちにいるかも分からないのに。それに、名前を変えるってのは、別人になるみたいで落ち着かない」
「それでも、考えておいて損はないだろう」
「リーヴは性もないですし、そのままだと滅茶苦茶怪しまれますよ」
「そうだぞ。これから少なからずボーダー隊員と関わる機会もあるかもしれないし、その全員がお前の事情を知ってるわけじゃない」
「林藤支部長まで...そこまで言うなら...」
「そうよ、あたしも考えてあげてるんだから感謝しなさい?」
小南は相変わらずの上から目線である。
しかし偽名か。考えたこともなかったな。
それにみんなここまで悩むとは、真剣に考えてくれているのだろうか。
「じゃあ候補発表ー!」
「何でちょっと楽しそうなんだよ」
「だって名前決めるってワクワクしない?」
「別に?」
「リーヴくん冷たいなぁ〜」
「お前らが盛り上がりすぎなんだよ」
「まあまあ、順番に見ていこうよ。とりあえず名字から考えたんだー」
まずは小南の番。
「まずはあたしね!【槍崎】とかはどう?」
「なんていうか、その...」
「何よ?」
「安直だな」
「なっ!」
明らかに俺のグングニルを意識しすぎている。
気持ちは分からんでもないが...
「却下だ」
「ぐぬぬ...!」
そこからもみんな色々考えてくれているが、イマイチピンと来ない。
なんかこう...これだ!感が無い。
「迅はずっと黙ってるが、何か無いのか?」
「あー、一応名字の候補はあるんだけど、聞く?」
「...一応聞いておこう」
「【
「かみしろ?」
「神の代って書いて神代。お前のトリガー、グングニルはこっちの世界では神話に存在する神の槍と呼ばれてる。だからこの名字がピッタリだと思ったのもあるけど...」
「けど?」
「お前、こっちに来てから色々変わっただろ?」
「確かにそうだな」
偵察に来た現地の民とここまで馴染むとは思ってもみなかった。
今までにない経験だ。
「だから、ギアジェスの偵察員としてのお前じゃなくて、こっちで生きるお前の始まりって感じかな」
「...」
迅のその理由に感嘆した。
何というか、その...
「真面目だ...」
「何だよ。俺がいつも真面目じゃないみたいに」
「事実だろ」
「ひどいなぁ」
「でも、悪くないんじゃない?」
「言われてみると神代って感じがしてきましたね」
「それホントか?京介」
「ホントですよ」
ここで過ごして分かったが、京介は真面目な反面、意外とボケることも多い。
まあそこが面白いやつではあるのだが。
すると今度はレイジさんが口を開く。
「なら、名前は【
「ゆいと...」
「結に人と書いて結人だ。お前のサイドエフェクトは縁を見る力だろう」
「そうですね」
「だが、お前が黒江を助けたのは能力だけじゃない。お前自身の選択が、俺たちとお前を繋げた。だから結人だ」
「神代結人、か...」
俺はその名前を口に出す。不思議な感覚だった。
今まで名前に意味なんて考えたことはなかった。だが、この名前には意味がある。
ここにいる皆が考えてくれた意味が。
「どう?」
宇佐美が身を乗り出す。
小南や京介、陽太郎も期待の目を向けている。
「嫌なら別の案でも――」
「...いや、これでいい」
俺のその返答に、一瞬静かになる。
そして...
「決まりだね!」
「ふん、ちょっとはいい名前じゃない」
「よかったな!」
また一気に騒がしくなった。
「神代結人か。まだ慣れないな」
「そのうち慣れるって」
「そういうものか?」
「そういうものだよ」
迅はどこか意味深に言う。
「名前ってのはさ、呼ばれてるうちに馴染むんだよ」
その言葉を聞きながら、俺はもう一度その名前を口にした。
「神代結人...」
窓の外から朝日が差し込む。
(悪くない)
ギアジェスの偵察員リーヴ。
その名前は変わらない。
あいつが最後に呼んでくれたその名前を、そう簡単に捨てるつもりはない。
でも、今だけは...
ー玉狛支部所属・神代結人ー
そう名乗ってみるのも悪くないと思えた。
1話のセリフを一部修正しました。
気になる方は見に行って下さい。あとがきにどこが変わったか書いてあります。
ちゃんと決めてから書けって話ですね。気をつけます。