「縁」を視る近界民、ボーダー隊員になる   作:白豆男爵

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神代結人

ある日、俺は迅に本部まで連れられていた。

曰く、B級ランク戦とやらがあるらしく、俺にそれを見せたいとのことだ。

まあボーダーのトリガーや戦い方を間近で見れるいい機会だ。

 

「しかし、なぜ急に俺に模擬戦を見せようと思ったんだ?」

「せっかくだからボーダー隊員の練習風景を見てもらおうと思って。それに今日お前をここに連れてくれば面白いことが起こる」

「面白いこと?」

「そのうち分かるよ」

 

迅のやつ、また何か企んでるな...まあ考えても仕方ないからひとまず乗ってやるとしよう。

やがてついたのはテラス席のような場所。

下には観客席があり、多くの隊員が集まっている。

 

「ランク戦は思ったより人気みたいだな」

「まあね。見るだけでも得られるものが多いし、訓練生のC級だけじゃなくB級以上の正隊員もよく見に来るよ」

 

迅とやり取りしていると、ある女性の声が場内に響き渡る。

 

『皆さんこんにちは!B級ランク戦ROUND8中位昼の部、実況を努めさせていただきます、海老名隊オペレーターの武富桜子です!解説席には太刀川隊隊長、太刀川さんと、加古隊隊長、加古さんをお招きしています!』

『『どうぞよろしく』』

「実況と解説もついてるのか?」

「あったほうが色々と分かりやすいからね~。ちなみに、この案を通したのはあそこの武富って子だよ」

「ふむ、あの子が...」

 

つまり武富が行動を起こす前は実況解説は無かったということか。

中々のチャレンジ精神だ...

 

「お、始まるみたいだよ?」

『さあ、香取隊、柿崎隊、那須隊の転送が完了しました!マップは市街地A、天候は晴れ。試合開始です!』

 

試合開始と同時に、三部隊の隊員たちがそれぞれ散開する。

転送位置はランダムらしいが、香取隊がやや固まっている。

俺は黙ってモニターを見つめる。

 

「まずは索敵...いや、合流か?」

「そうだね。ランク戦は生存点もあるから、無理に戦う必要はない」

「なるほど」

 

全員が開幕から戦うわけではないらしい。

俺の世界なら、偵察部隊はまず地形把握を優先する。

その点では考え方は近い。

やがて画面が香取隊へ切り替わる。

 

『香取隊長が照屋隊員に勝負を仕掛ける!若村隊員と三浦隊員はすかさずフォローの構えか!』

「ふむ」

「どう?」

「香取という隊長、かなり前に出るな」

「お、さすがに分かる?」

「隊員の位置取りを見ればな」

 

香取が単独で前進し、他の隊員が後方から追従している。

隊長が最前線を走る編成。近界ではあまり見ない形だ。

動きを見るに、香取の動きに隊員二人が合わせているようにも見える。

 

「突出しすぎじゃないのか?」

「まあ、その辺は本人の性格かな」

 

迅が苦笑する。

その直後、試合が動く。

 

『香取隊は全員が合流、照屋隊員を追い詰める!那須隊は別地点で合流を優先している模様!』

『柿崎くんと虎太郎くんも急いでるけど...』

「あの照屋という隊員、やられるな」

 

香取が照屋に猛攻を仕掛け、後ろから二人の隊員が援護する。

なんとか踏ん張ってはいたが、多人数の攻撃に耐えきれず撃破。

香取隊に点数が入る。

 

「へぇ、よく見てるね」

「伊達に偵察部隊をやってない」

 

そこから香取隊と那須隊が激突、柿崎隊も参戦して乱戦へと突入する。

 

「ふむ...」

 

俺は腕を組む。

ボーダーの戦い方は思った以上に洗練されている。

トリガーの性能だけではない。

部隊単位での連携が完成している。

これがボーダーの戦い方か...

 

そんな風に分析していると、後ろから声がした。

 

「あれ、先客か?」

「ん?」

 

その声に俺と迅が振り返ると、そこには金髪の男が立っていた。

見覚えはない。だが、迅は気軽に手を振る。

 

「よお出水」

「知り合いか?」

「A級1位、太刀川隊の出水公平だよ。お前と同じ17歳」

「出水だ、よろしく」

「リー...じゃなかった。神代結人だ」

 

まだ偽名になれていないため、思わず素の名前を言いそうになり、訂正する。

 

「ん?どうした?今名前言い直しただろ」

「ちょっと事情があってな...」

「こいつ、最近名前貰ったんだよ」

「へぇ...」

 

出水は俺をじろじろ眺める。

 

「てことは、やっぱお前が例の近界民?」

「例の、とは?」

「城戸さんから、遠征に行ったことがあるやつとか、A級隊員とかに通達があったんだよ。人型近界民と協力関係を締結したって。迅さんが連れてるし、ありゃお前のことだろ?」

 

なるほど、俺の存在はある程度共有されているらしい。

まあ監視アリではあるが普通に本部を出入りしてるし、トラブル防止のためというのもあるだろう。

 

「その通り、俺がネイバーだ」

「やっぱりそうか。ランク戦の見学とはお目が高い。早速質問だが、お前はこの試合、どう見る?」

「そうだな...」

 

現在の状況を整理、分析する。

柿崎隊は照屋が落とされて人数不利。

その他の隊はまだフルメンバーだ。

試合は膠着しており、展開が読みにくい。

誰か一人が落ちれば一気に傾くとは思うが...

盤面の人数を見れば有利なのは香取隊と那須隊だが、那須隊の内の一人は狙撃手だ。

撃ち合いや近接戦には参加できない。

 

(なるほど、そこか)

「カギを握るのは那須隊の狙撃手...日浦だろうな」

「へぇ?」

「日浦の狙撃が活きるか活きないかで状況が変わってくる。もし狙撃に失敗、もしくは狙撃できないような状況になれば、人数で有利な香取隊がこの三つ巴を制す。逆に狙撃で香取が落とされるようなら、隊長ワンマンチームの香取隊は一瞬でミンチだ」

「なるほど。お前はそう見るか」

「なら出水は違うのか?」

「そうだな、まあ見てれば分かる」

 

そこからの展開は、あっという間だった。

香取が柿崎隊に攻撃を仕掛け、交戦が開始。

日浦が香取を狙撃しようとしたが三浦にシールドで防がれて失敗。

香取が柿崎を落とし、そのまま流れを持って行く...と思っていたのだが、そこで那須が曲がる弾...バイパーを発射して香取を撃破。

一気に流れが変わり、那須隊が残りも撃破してこのランク戦は幕を閉じた。

結果的に日浦の狙撃は失敗したが、勝利したのは那須隊だった。

 

(なるほど。カギは日浦だけじゃなかった。日浦の狙撃は試合を左右する一要因でしかない。那須のバイパー、香取の行動、考慮するべき要素は他にもたくさんあったということか)

「ふむ、あてが外れたな...」

「一朝一夕で全部読み通せるとはいかないのがランク戦なんだなー」

「確かに、隊員の情報がなかったとはいえ、これは俺の勉強不足だ。だが次は必ず当ててやる」

「ハハッ、お前面白いな!いいね、お前とは仲良くやれそうだ。今後もよろしくな、結人」

 

出水はそう言って部屋から出ていった。

 

「で、どうだった?ランク戦は」

「まあ、思ってたより面白かったな」

「それは良かった。まあ、今日の目的の半分は達成かな」

 

迅はそんな意味深な発言をする。

 

「半分?」

「もう半分もそろそろだよ」

「だから何なんだ、それは」

「とりあえず飲み物でも買って来たら?俺はここで待ってるから」

 

喉が渇いていたのも事実のため、俺は自動販売機まで足を運んだ。

結局迅にのらりくらりと躱され、真意を聞き出すことはできず。

 

「ったく、迅のやつ...」

 

俺は慣れない手つきでボタンを押す。

こういうちょっとした便利な発明には感嘆する毎日である。

無人で飲み物を販売するなんて中々に素晴らしい技術だ。

そして飲み物を持って本部の廊下を歩いていると、曲がり角で誰かとぶつかってしまった。

 

「きゃっ!?」

「わっ!すみません、大丈夫です...か...」

 

俺は慌てて手を差し伸べようとしたのだが...

 

「...え?」

 

目の前の少女の瞳が大きく見開かれる。

まるで信じられないものを見たような顔だった。

 

「...」

 

俺も思わず思考が止まる。

忘れるはずがない。

目の前にいたのは、あの日俺が助けた少女、黒江だった。

 


 

「「...」」

 

立ち話もなんなので、俺と黒江は近くのベンチに腰掛けたのだが...

 

(気まずい...!)

 

そりゃ黒江はボーダー隊員だし、本部で行動する限り会う確率もゼロじゃないとは思っていた。

だがまさか、こんな偶然出会うとは思わなかった。

何とも言えない空気に何も切り出せずにいると、黒江が先に口を開いた。

 

「...ボーダーと協力関係になったんですね」

「ああ、そうだな」

「それってやっぱり、私のせいですか?」

「...えっ?」

 

予想外の言葉に、俺は素っ頓狂な声を発する。

そんな俺をよそに、黒江は続ける。

 

「だって、私を助けなければ、あなたがボーダーに見つかることもなかった。私が助けられてしまったから...私が、弱かったから...」

 

...そうか。黒江は、俺が今置かれているこの状況を、自分が助けられてしまったせいだと思っているのか。

 

「助けてもらった上に、私はあなたに迷惑をかけて...」

 

確かに結果的に見ればそうかもしれない。

けれども...

 

「...それは違う」

「え?」

「確かに、この状況になったのは君を助けたからだ」

「!だったら...」

「でも、悪い事ばかりじゃない。ボーダーと協力関係になって、玉狛に置かれて、そこで俺は色んなものを貰った。居場所も、ここでの名前も」

 

ギアジェスでは得られなかったものを、玉狛は与えてくれた。

この日々を悪くないと感じられるほどに。

 

「だから君が気負う必要はないよ」

「名前...?」

 

黒江が小さく反応する。

そこで初めて、俺は気付いた。

黒江を助けたあの日は、互いに名乗る余裕すらなかった。

 

「そういえば、まだ名乗ってなかったな。...俺は神代結人だ」

「神代結人さん...ですね」

 

どこか確かめるように黒江が呟く。

 

「覚えました。私は黒江双葉です」

「ああ、よろしく、黒江」

 

そう言って俺と黒江は握手を交わす。

 

「神代さん」

「うん?」

「あの時は助けてくれて...ありがとうございました」

 

そう言って黒江は頭を下げる。

 

「お礼、ずっと言えなかったので」

「いいよ、俺が勝手にやったことだから」

 

少し打ち解けたところで俺は迅のところへ戻ろうと踵を返すが、黒江が俺を呼び止める。

 

「あの、最後にもう一つ...」

「ん、何だ?」

「なんで私を助けてくれたんですか?私にはベイルアウトもあったのに...」

「あー...」

 

またその質問か...城戸指令にも聞かれた質問を本人にもされるとは。

ちょっと考えてみたが、やはり俺の答えは変わらない。

 

「放っておけなかったから...かな?」

「...そうですか。ありがとうございます」

 

黒江はそれだけ言ってその場を去っていった。

 


 

黒江は結人から少し離れた後、ボソッと呟いた。

 

「神代さん...やっぱり、変な人」

 


 

玉狛へ戻る途中、俺は迅に話しかける。

 

「で?」

「何が?」

「面白いことってやつだよ。結局何だったんだ?」

 

俺がそう言うと、迅はいつものように笑った。

 

「だから言っただろ?今日ここに来れば面白いことが起こるって」

「...?」

 

俺は迅の言葉に首をかしげる。

今日あったことといえばランク戦の見学、それと黒江と会って...ああ、そういうことか。

 

「図ったな?」

「さーて、何のことかな?」

 

迅はまたいつものようにしらばっくれた。

まあ今日くらいは許してやろう。

そう思えるくらいには、あの再会も悪くなかった。

...きっとまた、話す機会もあるだろう。




ランク戦のマッチングとかはテキトーに決めました。
解説の二人は強いていうなら弾バカと黒江に関係するからっていう浅はかな人選ですね。
玉狛送りにした影響で本部組との絡みが中々書けなかったのでちょっと楽しかったり。

それはそうとワートリの戦闘描写難しいっピ...
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