なんかVRゲーで飯を食うタイプの話   作:jhon

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プロローグ

 社会人歴4年目の冬。

 

 藤野 明菜、童貞22歳は無職であった。

 

「……暇だ……」

 

 アパートの一室で明菜は小さくつぶやいた。

 酒もたばこもやっていない。だが社会人特有のくたびれた雰囲気だけは一丁前であった。

 

 高校卒業と同時に入った企業がブラック企業だった。

 そのブラック企業の中でも最悪レベルな性格の悪さの男が上司についた。

 明菜に起こった不運と言えばこの二つだけ。

 だがこの二つが人生にもたらした悪影響は計り知れないものであった。

 

 辞めるだけでもひと悶着あり、逃げるように退職届を叩きつけたのが1か月前のこと。

 

 それから明菜は、失業保険と貯金を切り崩しながら抜け殻のような毎日を送っていた。

 

 就職活動はしているが、失業保険を得るためのポーズにしかなっていない。

 趣味もサブカルチャー全般と、後は食べることくらいだが、全てが色あせて見えて身が入らない。

 

「なんかやりてーけどなぁ……」

 

 改めて自分の状況を再確認して、無力感が湧いた。

 何かしようにも、いかんせんやる気が起きないのだ。

 

 しかし、いつまでもダラダラしていては、立ち直る機会を失うのではないかという恐怖はいつまでも喉奥にへばりついていた。

 

 焦燥感にじりじりと焼かれながら、それでもやる気が起きないこの状況の何ともやきもきすることか。

 

 結局、明菜は現実逃避をすることに決め、スマートフォンを手に取ったのだった。

 

「……あ」

 

 ぼーっとしながらソファーに横たわり、SNSを見て数分後。

 

 その広告はすぐに明菜の目に留まった。

 

『世界唯一のVRMMOIS(Isekai Simulator)【アキヴォス・オンライン】!第2陣プレイヤー、抽選開始!』

 

 【アキヴォス・オンライン】。

 忙殺された数年を過ごしていた明菜でも名前くらいは知っていた。

 世界で初の、そして唯一のフルダイブ型VRゲーム。

 さらに初のVRゲームとは思えぬ大胆さだが、リアルマネー制度を導入しているようだ。ゲーム内で手に入れたアイテムはリアルマネーとして換金でき、中には月数百万を稼ぐものもいる。

 

 さらに言えば、最初のプレイヤーは各国それぞれ抽選で決まった1000人だけであり、プレイ内容を配信することも可能で、配信活動をするだけでも注目の的になり、今では配信者の巣窟となっている。

 

 だがそれらは、あくまでアキヴォス・オンラインの真の魅力が生み出す余波でしかない。

 真の魅力……それは、徹底的なまでに再現された『異世界』。

 本物と見まがうほど精緻に作られた世界を、自分の足で歩き、触れ合い、聴き、味わい、香りを楽しむことのできる異次元の没入感。

 

 日本だけでなく全世界でリリースされているが、国によって始まる場所や地形、生息する生き物の種類さえすべて違う。

 一つの星を舞台とし、対応する大陸にそれぞれ送っているのだという説が有力だが、一説によるとその星の大きさは地球の数倍に迫るほどだという。

 

「まさしくもう一つの世界……」

 

 アキヴォス・オンラインについて特集していたサイトの情報を流し読みし、不意に何かを思い出したかのように天井を見上げた。

 

「そういや、配信者が見たことない飯食ってたなぁ……アレうまそうだったな~……」

 

 明菜はよだれを垂らしながら回想する。

 その配信で登場したのは、『スライミック・バード』と呼ばれる魔物の肉を使った料理。

 でっぷりと太ったクマほどの大きさの巨鳥。腹部分がスライムのように柔らかく、衝撃を緩和する特性があった。

 

 そして、その肉と言ったら……!

 今思い出しても腹が鳴る。

 

 鳥の癖にチーズのように柔らかい白身の肉。

 切り取った一切れをパンの上に乗せる……すると、たぷんと重力に従って垂れる。

 それをパンと一緒にかじりつくと、あふれ出る肉汁のなんと豊潤なことか。

 見た目に反してその味は濃厚。濃ゆいうまみと肉汁が、パンに合う……などとその配信者は語っていた。配信者の顔も名前も服装すら思い出せないのに、その料理と食レポだけはしっかりと覚えていたようだ。

 

「……食いて~……」

 

 やる気がない、食欲がない、とうだうだ言っていたのが嘘のように、明菜は目をぎゅっと閉じて食いしばった。

 

「……抽選か。くっそ、俺こういう運とかマジでないんだよな……」

 

 定員はまたも1000人。

 倍率は……目が飛び出るほど。宝くじに当たるのと同等の確率の世界だ。

 

 でも……それでも、もしあの世界に行けたら。

 

「うまいもん、食いつくしてやる」

 

 抽選の特別ページ……今この瞬間世界中で数千万の人間がアクセスしているはずなのにびくともしない化け物サーバーを感じつつ、入力し終えた情報を送信ボタンを押して送信。

 

「……ふう、飯でも食うか」

 

 そして、明菜はスマフォをテーブルの上に置いてキッチンへと向かった。

 この一手が自分の人生を大きく変えることになるなど、この時の明菜には知る由もなかった。

 

 

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