コナン君は今出先にいるとのことで、しばらくは帰ってこられないらしい。
また毛利探偵と遠出だろうか。
灰原さんとゆっくり情報共有して団欒の時を楽しんだ。
阿笠博士はだんだんじわじわ泣き出して、最終的には号泣となってしまった。
「年寄りになると疑い深くていかんわい」とのこと。
本当に私が帰ってきたと信じられるまで時間がかかったらしい。
灰原さんにも、手縫いデカ私ぬいぐるみをプレゼントしておいた。
びっくりしていたが、すごく褒めてくれたので満足である。
肉体君も「母上優しいなぁ。ほわほわする。人間なんて母上だけでいいのに」などとへにゃへにゃ顔だ。
すっかり肉体君もお母さんっ子になってしまったようだ。
灰原さんが優しく強く微笑んで、私に頭を下げた。
「助けられなくてごめんなさい。貴方に助けられて、私たちは平和に暮らしている。それは間違いなく貴方のおかげよ」
「元はと言えば僕を抱え込んだがためでしょう。恩返しという言葉にすら満たない」
「それでもよ」
強い口調で彼女は断定した。
「一度目と同じように、二度目と同じように、三度目の貴方も愛してる。それを忘れないで」
「………はい。貴方の愛に背かぬよう、努めます」
切に願うような言葉に、私はそれを噛み締めて頷いた。
この家に長くはいられない。学校にも通えない。
定期的に米軍が来る可能性があるから、皆と一緒には過ごせない。
だから、私は降谷さんとともに隠れ過ごすことを選んだのだ。
玄関先で灰原さんの手をしっかりと握る。
彼女のは柔らかく暖かく、もう震えてはいなかった。
「元気でね」
「ええ、ではまた」
私は短い邂逅を終えて。
変装を被り直して、降谷さんの家に戻ったのだった。
爆破テロ共犯の真意聞けなかったな…そういう空気じゃなかったし…まあいいか……。
まあ、そんなわけで、帰ってまいりましたあむぴのセーフティハウス。
降谷さんは未だ爆睡状態だ。
上がらせてもらったが、爆弾だらけの部屋で私のぬいぐるみにのしかかりながら撃沈していた。
そりゃずっと寝てなさそうだったからな。
しばらくは起きないだろう。
上がって、そのままスマホでニュースを見る。
TVをつけたらうるさいかと配慮した形だ。
米国では動揺が広がっているらしい。
有力筋によると、米軍の研究所から致死率の高い危険な細菌が流出したのだとか。
軍が付近の生物の調査に乗り出しているらしい。
ネットでは不審な生物の写真も流出しているようだ。
おお、どう見ても戦争型の死骸。
動画サイトにもアップされるたびに消されるようで、ネットにおける検閲の戦いが続いている。
同時期に研究所への軍による攻撃があったことも水面下では噂になっているらしい。
建物は完全に崩壊していて、その様子が衛星写真にも写っていた。
秘密裏に隔離していた未確認生物が軍事施設から逃亡したとか色々言われているが、まだ都市伝説の段階だ。
信じている人は少なそうである。
今後街で検疫のための検査が拡大すると、どんどん噂は大きくなるに違いない。
これは懸念なのだが。
あの研究所からの脱走した時。
全力で自死命令を出して館内を駆けずり回って確認したから、研究所からの感染拡大はないはずである。
だが、今が大丈夫でもあの時逃げた研究者が幼生を持って脱出していたら。
あるいはもっと前に別の建物に幼生を避難させていたら。
それをまた実験に使えば元の木阿弥となってしまうだろう。
研究所側としても最低限気をつけてはいるだろうが。
短期間で何回も手足を脱走させた施設だしな、あそこ。
疫病型だけは本気で危険なので「僕も直感でしかないのですが」と前置きして何回も研究者に伝えてある。
しかし、子供の話とあんまり聞いてもらえなかった感じだし……。
ああ、下手なことせずそのまま研究は中止してくれよ。
と、そんなことを考えながら、そろそろいい時間なので夜ご飯を作り始める。
先ほど帰ってくる時に一緒に食材も買ってきたからな。
ここの家の冷蔵庫、ホラーだったからさっき全力で掃除したよ。
あむぴ…つかわないにしても中の物処分してから放置しなよね。
一応献立は和食のつもりだ。
白身魚の煮付けに、オクラととろろ昆布和え、ほうれん草ともやしと豚肉の炒めもの。
あと味噌汁にごはん。
少々作りすぎたが、肉体派の成人男性には少し足りないかもしれない。
作り終えたら降谷さんを起こしに向かう。
彼はポヤポヤした様子で布団から上半身だけ起こしていた。
まだ目が覚めきっていないらしい。
だが、一度まとまった時間をぐっすり寝られたので少しはスッキリしたはずだ。
降谷さんは私を見てふわふわと口を開いた。
「…………夢?」
「夢じゃないです。コマーシャル明けじゃないんですから話を巻き戻さないでくださいね」
「なんか、いい匂いが……」
「ご飯作りました。一緒に食べましょう」
そう言って、盛り付けのためキッチンに戻る。
テーブルは小さいから二人分がやっとだ。
あと爆弾が邪魔。これ爆弾のカバーの山か。
よいしょとどかして皿を運んでいく。
やっと目が覚めてきたのか、降谷さんが慌ててこちらに手伝いに来た。
「作ってくれたのか!?でも冷蔵庫は、」
「はい。カビの生えた開封済みヨーグルトとか、グロテスクなものは捨てておきました。二段階目の発酵は必要ないので」
「材料買ってわざわざ…すまない。ってこれ金目鯛じゃないか!高かったろうに、あとで払わせてくれ」
「それより早く食べてください。冷めるとおいしくない」
そう急かして席につかせる。
二人で食卓を囲み、静かにいただきます。
一口魚を口に含んで、降谷さんが目を見開いた。
「この、味付け」
「オリジナルの普段の味付けより、記憶にある諸伏景光の味付けに近くしました。手間がかかるのでオリジナルは工程を省いてますよね」
「…………ああ」
「時間はあったので、せっかくなのでやってみようかなと」
私がそう言うと、降谷さんは静かに目を伏せた。
そして優しい眼差しで箸を進める。
「こんなところであいつを感じることになるとはな。あとはこの爆弾の山が目に入らなければ最高だったんだが」
「それは罪の証として目に焼き付けていただかないと」
「というか僕、よりによって爆破テロってホント頭どうかしてたな。これは将来的にあの世で二人にタコ殴りにされること確定だ」
「それはまあ、はい。あのお二方ならパチンコの玉を升に入れて豪速球で鬼は外をやりはじめるかと」
「やる、絶対やる。もうなんか全身に玉が当たってる気がしてきた」
降谷さんは被害妄想に包まれ、身を震わせた。
そのままチラッと私をみてソワソワした様子を見せる。
「ところで、言うこと聞かせる奴はできるのかい?ほら、虫を操って人に命令するやつ」
「命令型も脳の管理・復調のため少数ですが滞在してますのでできますよ。しませんけど」
「どんなものなのかやってみてほしい」
好奇心のみに突き動かされた顔だった。
リラックスしているようで何よりなんだが、少しリラックスしすぎな気がしないでもない。
「ええと、基本は行動を縛る形と、感情を縛る形の二パターンがあります。いま降谷さんの中にいる命令型は数が少ないので、脳機能回復のため感情に大きく偏っています」
「つまり?」
「無意味に嬉しくさせられます。薬ダメ絶対」
「ずるくないかそれ、君にはリワードしただろ」
「それはそうとしてご飯も作った僕は偉いのでリワードください」
「ずるいだろ間違いなく」
降谷さんはポコポコと怒った様子を見せた。
それからクスクス笑って、なんだかツボに入ったらしく大笑いして。
だいぶ気が紛れたようで、降谷さんはニコニコして完食した。
食べ終わると、「僕が片付けるよ。片付けさせてくれ」と強く懇願してきた。
何も考えず作業に没頭したい時もあるだろうし、台所の片付けは任せることとする。
ぺこりと頭を下げてお礼をしたら「ちょうど腹ペコだったんだ。このぐらいのお礼はさせてくれ」と言われてしまった。
何日まともに食べてなかったんだこの人。
ふと見ると、私の渡したぬいぐるみは、全力で抱きしめられた影響でクタクタヘニャヘニャだった。
大事そうに布団に寝かされていて、なんとなく胸がホワホワする。
TVを回してニュースをつけると、崩落したレイクロック美術館と「日本に憧れたひまわり展」を襲った悲劇について特集が組まれていた。
どうやら私のいない間に業火の向日葵が終わっていたらしい。
私もひまわり見たかったな。
洗い物を終えると、すっかり調子を取り戻した降谷さんがさっぱりした様子で現れた。
「なんだか頭がすごくスッキリしたよ。今まで頭の中に泥でも詰まってたみたいだ」
「でも今寄生虫を外すとダバダバになりますから、ひとまず1ヶ月は様子を見てからにしましょう」
「そうだな。しかしこれ、本当に凄いな。薬は色々試したが、まるで効いている様子がない割に副作用ばかり激しかったのに」
感心したように「頭に変な感じもない。思考は明瞭だが薬をヤったときのような高揚感もない」と感想を述べる。
その口ぶり、断りきれず薬に誘われた経験もあるのだろう。
潜入捜査官の過酷さがよくわかる。
「僕はこれが、将来人類の助けになればと思っています。人を殺すために作られた僕が、死を待つだけの人を助ける力になる。ロマンチックだと思いませんか?」
「………そうだね。本当に、素敵だ」
目標もなく怠惰に生きていた私には、少々手に余る性能だ。
ふと、思いついたこと私は口にした。
「僕のこの免疫型から、危険性を取り除いて純粋な治療薬として確立する。それを生きる目標にするのはどうでしょう?」
「いいんじゃないか。とても夢がある目標だ」
それは、きっと皆が両手をあげて喜ぶ目標になるだろう。
そして皆が大事にするに足る、理由に足る、私の価値になるはずだ。
皆が愛するに足る、愛を返せる存在になろう。
私は、なんとなくそう思ったのだった。
・米国
付近の野生動物を捕まえて感染がないか必死で確認してる。
戦争型の死骸には喰われた跡があったし。虫もたかってた。
研究所でうっかり感染した職員が、治療の甲斐なく頭を割り開かれて死んでるので凄く本気で調査中。
挙句出てきた手足に骨を噛み砕かれて二人負傷。