体調悪いため更新頻度落ちるかも。
完結までは走るのでご安心を。
その頃。
シンガポールの統合型リゾート、マリーナベイ・サンズのラウンジバーにて、レオン・ローは電話を取った。
レオン・ローは犯罪心理学者だが、政界進出の意欲もあった。
野心も強く、海賊と手を組んでこの町で主導権を握ろうとも思っていた。
だが。
「なんだと、予定変更?」
『当然だろう。マラッカ海峡で出た化け物の話を知らないとは言わせないぜ』
「………」
レオン・ローの電話相手は、海峡を根城にする海賊の首魁だ。
マラッカ海峡は海上交通の要衝。
インドネシアとシンガポールの間を通るルートであり、世界中の船が利用している。
そこに先日、あまりにも巨大な化け物が姿を現したのだ。
60メートルほどの体躯には水かきのついた白い人間のような手が数珠なりに生えている。
鯨に似た巨大な腹に、トカゲに似た尾には鰭がついている。
それは通りがかった船にのしかかり、そのままひっくり返して沈没させた。
既にマラッカ海峡を通るいくつかの船がやられている。
今は軍が出動しているが、それは一匹ではないらしい。
被害が収まる様子は見られなかった。
海賊の首魁は声を潜めるように言った。
『奴はここに餌があることに気づいてる。海に浮かぶちっぽけな鉄の箱の中に良い食いもんが詰まってるって気付いてるんだ』
「だからここを離れると?」
『そうだ。これからの時代、金銀財宝より飯と油だな。テメェもよくよく考えるこった。テメェの思う都市の再建はいいが、この調子じゃ百年後まで瓦礫だろうよ』
「………チッ」
それだけ言って、話は終わったとばかりに電話はぶつりと途切れた。
レオンは項垂れて、静かに緩く息を吐く。
計画では、このシンガポール市を海賊に襲撃ささせる予定だった。
この都市を灰燼に帰す。
その跡地にレオンの理想の都市計画を展開する、そのつもりだったのだ。
「…………くそ」
だが今、シンガポールの経済は危機に瀕している。
観光業と金融業はネバダ寄生虫の影響を受けて致命的大打撃に見舞われて。
命令拡散機作成のため、半導体や集積回路の需要はあるが、材料が届かないことも増えているためどうしようもない。
マラッカ海峡にネバダ虫が現れた影響で、国内産の海産物は汚染されてしまっている。
命令拡散機に通したわずかばかりの安全な魚は価格高騰。
海路が危険になってしまったせいで食物の輸入も滞りがちになってしまった。
今、国民生活は危機的状況にあるのだ。
もはやレオンの都市計画など世迷言でしかない。
だからと言って諦め切れるようなら、海賊と手を組んだりしない。
「くそ……間違いなくあの虫どもはアメリカの開発したものではないのに。どいつもこいつも、私を軽んじる…ッ!」
ダン、と激しく机を叩いて、それからずるずると高級なソファに沈み込んだ。
周囲の注目がわずかに集まり、すぐに散っていく。
全ての始まりの記録は犯罪心理学者としてレオンも確認している。
ネットの情報や衛星画像は穴が開くほど見た。
そのうちの一つ、見慣れぬ車両が例の基地へと入っていったのを見たのだ。
軍の車両だったが、追いかけるとそれは州を跨ぎ、別の研究所から発車したものであった。
その後も足取りを追って、レオンは一つの確信に至った。
軍は、「それ」をどこかから連れてきたに違いない。
それがまだ見ぬ深海魚か宇宙人かなんなのかは知らない。
だが、ある程度大きいもののはずだ。
少なくとも中型犬ほどにはある。
ともかく、それは米国の研究所に運び込まれ、何らかの理由で逃げ出した。
この滅びを止める唯一の手段は、「それ」を捕えることにある。
だが、レオンには発言力がない。
信用がなく、議会でも軽んじられている。
無力な男だった。
レオンは酒を喉の奥に流し込み、ふたたび「クソ…!」と悪態をついたのだった。
紺青の拳、いつまで経っても起きんなぁと思う私なり。
灰原さんが机の上の資料を片付けながら、やや小首を傾げて私に問いかけた。
「どうしたの、妙な顔して」
「いえ、地下の手足はちゃんとご飯を食べてるかなと」
「鶏肉の食いつきが悪いから、今はラム肉にしたんでしょう?」
「ちょっと豚肉を加えると良さげでした」
まあベストではないようだ。
「少し美味げ…?」「少し…とても少し美味げ?」「匂いは…うーん…」と首を傾げてはいた。
合格スレスレみたいな顔ではあったが、一応妥協してくれているらしい。
最近手足が新しい語彙を獲得したんだよな。
鶏肉を与えると「あっ、不味げだ」「不味げ」「不味げきらい」とかいうようになっちゃって。
なんや不味げって。鶏肉うまいやろワレ。
でも昨今、肉も何もかもとんでもなく高いから鶏肉で納得してくれると嬉しかったんだが。
マラッカ海峡が通れなくなって、中東からのオイルルートが潰れたせいであらゆるものの値段が爆上がりしているのだ。
もうこうなると、手足を絞ると油とかとれねーかなと現実逃避するまである。
マラッカ海峡はうまく情報が入ってきていなくて、超デカ手足が出現したことしかわからない。
なんか3匹連なって泳いでるのが船乗りによって目撃されたとか、噂は事欠かないが。
なんにせよあの区域は既に汚染されてしまっているのは間違いないだろう。
討伐しても血液が海中に溶け込み、新しい汚染を生むし。
あの辺の国々は難しい舵取りを迫られそうだ。
さて、今日は鈴木大博物館に行く予定だ。
私は服を着替えてちょっとパリっとした格好をして、髪を軽くワックスでまとめている。
そのままのあむぴも十分に麗しいが、ボサボサヘロヘロあむぴはやはりプライドが許さないのでな。
机に広がったままの朝刊にはデカデカと挑戦状が載せられている。
鈴木次郎吉氏が怪盗キッドに向けた挑戦状だ。
メッセージアプリを確認すると、もう蘭ちゃんからメッセージが入っていた。
「じゃあ行って来ます。どうやら服部君も到着したみたいで」
「行ってらっしゃい。気をつけてね」
優しい笑顔で灰原さんが耳に髪をかけ、穏やかに私を見る。
横の扉から「気をつけてのぉー!」と阿笠博士の声も聞こえた。
わたしは笑顔で「はい!」と答えて、意気揚々と家を出たのであった。
・不味げ
鶏肉。
女王の命令だから食べるけど、個体によっては食べながら泣く。
子供にとってのピーマンポジション。
別に食べても普通に栄養になるし、手足の健康にもいい。
「不味げきらい」「きらい」「ぺっ」
・デカ手足
海手足は独自の文化が発展し、海産物メインの食生活。
あんまり泳ぎが上手くないので餓死率高め。
美味げは地上の仲間から噂で聞く高級品。
美味げを求めて地上に出る手足も多い。
「この辺は美味げ箱がよく通るらしい」
「いい話。美味げ箱食う」