緋色の弾丸、消滅!!!
私はニュースを見ながらうむうむと頷いた。
四年に一度に開かれるスポーツの祭典、ワールド・スポーツ・ゲームス (WSG)。
その延期が発表されたのだ。
単純に大口スポンサーである米国が爆散してしまったのでというところが大きい。
名目上「延期」となっているが、延期というより事実上の中止に近かろう。
箱物は日本にすでに建設されてしまっているし、開催国に莫大な負担を強いてしまっている。
利権や契約の関係でひとまず延期でお茶を濁しているだけだ。
来年の開催を目指すと発表があったが、来年開催できる状況とはとても思えない。
そのまま人類滅亡か否かみたいな空気感の現在、そのような姿勢の発表に世間では批判が集まっている。
大会に合わせて稼働予定だった超電導リニアは、一足早くの営業開始するらしい。
この不況下ではあるが、リニア体験乗車には多くの客が殺到するようで、試乗会は結構な争奪戦となっているとのこと。
灰原さんがTVを見ながらポツリと呟いた。
「来週、行くのよね。この試乗会」
「園子さんがチケットを用意してくれましたから。海外VIPのキャンセルに合わせて枠が空いたからと」
「何とも呑気なものね。海には怪物がひしめき、多くの国々が滅亡の危機に喘いでいるのに」
皮肉げな口調だが、それなりに楽しみにしていることが伝わってきた。
園子ちゃんには毎回毎回、本当に頭が下がる思いである。
こまめに全力で作ったお菓子とかマジックのお披露目とかで報いようとしているが。
金銭的価値ではとても追いつけるものではない。
「次は阿笠邸に呼んでマリトッツォを楽しむ会を開催しましょうか。僕、一回作ってみたかったんですよ」
「いいわね。蘭さんも呼んで、お茶会と洒落込みましょう」
園子ちゃんは本場のシェフが作ったマリトッツォをいくらでも食べれる立場にあるだろうが。
蘭ちゃんとワイワイ騒ぎながら、何一つ気兼ねなく楽しめる空間が一番の返礼だと思ったので。
感覚を研ぎ澄ませると、地下から「ほげーほげーふがー」と通信が続いている。
統率型だ。
吹き込むのに適当なダミー音声が思いつかなったからその場の思いつきで入れたが、なんかちょっとうるさいかなという気がしないでもない。
次はアニソンとか吹き込んでやるか。
「………上手くいくでしょうか。統率型投下作戦」
「計算上は間違いなく。あとは金を出してくれるところがあるかどうかの話よ。この星の海を覆い尽くすほどの統率型を生み出す、金をね」
試算はすでに済んでいる。
大量の統率型を生み出し、海中に投下するのだ。
宿主の牛や豚など代替するし、海中での連鎖を考慮して最低限の量で算出している。
それでも、農業大国が全力を出してギリギリ賄えるかどうかの莫大な量となる。
人類が苦境に立たされれば立たされるほど、その実現可能性ががくんと下がる。
その後の食糧危機も凄まじいものになるだろう。
焼け野原のような水産資源に、それでも一掃できるのは海中のみ。
地上の汚染はそのままだ。
一応、再び海中が汚染されてもしばらくはすぐに除去可能だが。
失われた水産資源は戻ってこない。
多くの種が絶滅し、環境は激変するだろう。
傷は深い。
だが間違いなく勝利可能で。
その上で、今のタイミングでしか勝利することはできない。
「コナン君が米国を上手く説き伏せてくれるといいんですが」
「あそこ、まだそんな体力あったかしら」
「意外と東は生きてますよ。ロッキー山脈挟んで命令拡散機の壁を作ってますから」
西は命令拡散機を中心としたコロニーがポツポツ点在するのみだが、東はまだきちんと都市機能を有している。
救助活動も東からの援助で成り立っているのだ。
東とコロニーを結ぶ通路を行き来する物資輸送車もある。
まあ、時々手足に襲撃されているのだが。
手足は賢い。
命令拡散機を積んでない、武装のみの小さな車両を重点的に狙っているようだ。
道に障害物を作り、車を停めさせて狩りをする姿が車の防犯カメラに映っていた。
銃弾を防ぐための拾った壁材やらテーブルやらで鎧を着ていることもあるのだとか。
そうして物資は放置され、運転手だけ喰われて荒野にポツンと車が放置されることがあるらしい。
そうした物資の回収を命懸けで行うコロニーの便利屋もいるらしい話がチラリとネットに載っていた。
暗い空気だ。
私は立ち上がって伸びをした。
「統率型投下計画がきちんと試算できたことを伝えるついでに、コナン君とこに遊びに行ってきます」
「行ってらっしゃい。外は暑いから気をつけてね」
「ふふ。ありがとうございます」
柔らかく私を案じる声に、私は自然と笑顔になった。
ママン……。
肉体君もホワホワで「母君…やさし。すき」とテロテロになっている。
恨み骨髄の生物兵器も、すっかり懐柔されてしまったようだ。
とことこ、と毛利探偵事務所まで徒歩で向かう。
同じ町内のほんの近場だ。
チャイムを押すと、コナン君が扉を開けてくれた。
「あれ、宙お兄ちゃんどうしたの?」
「前に言ってた試算が終わったから……しまったな、お客さんか。出直したほうがいいね」
探偵事務所の中には沖野ヨーコさんがいて、ちょこんとソファに座っているのが確認できた。
何故か毛利探偵がいないのはどういうことか。
ソファの近くで寿司を持ったままニカッとわらったのはRUMだ。
「いいじゃないですかい、阿笠のお兄さんも大層頭が切れるって評判じゃありやせんか。ここは一つ、力を貸していただきやしょう!」
「そうなんですか!ならせっかくだしお願いしようかしら」
「……依頼人の方がそうおっしゃられるなら」
嬉しそうな様子の沖野さんの言葉に、私の退路は無くなってしまった。
RUMは私の頭の程を知りたがっているようだ。
「ああ、この寿司阿笠のお兄さんもどうぞ!お兄さん、寿司が随分と好きなんでしょう?今回は入ったばっかの新鮮なメバチマグロの中トロがありやすぜ」
「大好きです。いただきます。誠心誠意頑張らせていただきす」
私は素早く買収されてRUMの犬になった。
今の私の舌は人間と味の感じ方が随分違うが、動物性の脂がすごく美味しく感じられるんだよな。
中トロじゅるり。美味げ!美味げ!
コナン君がヒソヒソ私に声をかけた。
「いやオメー現金すぎんだろ。別にいいけど、探偵業はそんな興味なかったろ」
「中トロは話が別でしょう。今の時分、メバチマグロの中トロ寿司なんて万札食ってるみたいなもんですよ」
「そりゃそうだけど」
蘭ちゃんは「美味しいもんねお寿司!」とニコニコだ。
せやろせやろ。
みんなでマジの高級品に舌鼓を打ちつつ、事件の概要について話を聞く。
話は簡単で、映画撮影のために別荘に行ったら一人行方不明になった。
その人物は4日後、背中をボウガンで撃たれて亡くなった状態で屋根裏で発見された。
一連の話を聞き終わったあたりで、品定めするようなねっとりとした視線がRUMから向けられる。
私は頷いて自身の推論を述べた。
「被害者がトランプを使った暗号で助けを呼んだ理由がポイントでしょうね」
「ほうほう、そりゃあ一体?」
「電話で警察を呼んでない。手元にスマホがあって、暗号を考えられるほどそれなりの時間があったのに。呼びたくない事情があったんですね」
大声で叫んで助けを呼んでもいいのに、それもしてない。
大事にしたくなかったか、犯人が凶器を持ってまだ近くにいたか。
「その上で、事情通はその被害者の弟ですね。暗号の解き方を知っていて、かつあえて暗号の答えを黙っていた」
「!宙の兄ちゃん解き方わかったの!?」
「偶然ね。トランプを使った暗号は僕も結構考えたし」
手元からトランプを取り出し、私はポプンと小さな煙と共に暗号と同じように瞬く間にトランプを並べてみせた。
わあ!と沖野さんが弾んだ声を出す。
「これ、スート(記号)の綴りを数字で追ってくんだ」
「!!!弟の奥さんが犯人か!」
瞬時に答えがわかったコナン君が叫ぶ。
遅れて蘭ちゃん達も「なるほど!」と驚いているようだ。
目を細めたRUMがゆったりと口を開く。
「流石は阿笠のお兄さん!キレッキレでやしたね!」
「寿司分には程遠いですが、力になれて何よりです」
「またまたご謙遜を!それにしても……どうして事情通なんて遠回りな言い方をしたんですかい?」
私がRUMと視線を合わせる。
試すような色が交差する。
「どういう意味でしょうか」
「阿笠のお兄さんも気づいてやしたでしょう、被害者がその奥さんをDVしてたことぐらい。だから警察を呼ばなかったんだって」
「………」
「殺害の動機は、DVの度が過ぎて殺してしまった奥さんの復讐。どうして言わなかったんですかい?」
私は困ったように見える表情を作って、肩をすくめた。
RUMもまあ、無意識の降谷零の判断をよく気付いてつついてくるものだ。
「警察は証拠のない話には付き合わない。どうせ被疑者を確保すれば出る話です。あまり無用な先入観を吹き込むのもどうかと思いまして」
「おお、なるほど!さっすが阿笠のお兄さん!」
「ははは。でも、死体の隠し場所候補ぐらいは伝えるつもりでしたよ?あっ、中トロもう一ついただいても?」
「どうぞどうぞ!いやぁ、阿笠のお兄さんとはどこかで腰を据えて話をしてぇもんだ!」
HAHAHA!と二人で笑い合う。
RUMには断続的に「ブツさえあれば仕事する」とメッセージを送っているからな。
ひとまず暗殺・誘拐候補からは外れたようだ。
なんでこんなめんどくさいやり取りをせんといかんのだ。
そう思いつつ、追加でやってきた中トロを一口含むとそんな思考は一転。
RUMさん!!!と私は目を輝かせたのであった。
しばらくしてRUMが帰った後。
コナン君がこそっと私に耳打ちした。
「お前、リニアの試乗会の後って空いてるか?」
「へ…別に空いてますけど」
「米国に一緒に来て欲しい」
「それは空いてるってレベルの話ではないのでは」
私は目を丸くして瞬いた。
普通その聞き方だと数時間取れるかどうかとかそういう話になるんだが。
コナン君は咳払いした。
「例の統率型の話だよ。どの程度可能性があるか直接聞きたいのと、お前の力がどれほどのものかを確認したいらしい」
「それは阿笠博士たちに声をかけた方が」
「そっちも後から話をするつもりだ」
とするなら、私に特にいうべきことはなさそうだ。
私は頷いて受諾の意を示した。
「構いません。貴方が来たほうがいいと判断したのなら、僕に否やはない」
「わかった。悪いな宙、お前は俺が最近保護したって体で伝えてある」
「了解しました」
私はパスポートがないし、米国が特別に飛行機を飛ばすのだろう。
タイミングがリニモ試乗会なのも、リニモに乗りに来た体でお迎えが来るのだろう。
丁重に扱ってくれるといいのだが。
・メキシコ
そっとポストアポカリプスに移行。
フォールアウトとかの世界観。
武装した麻薬カルテルが工場を守るために手足と戦う世紀末状態なり。
・メキシコの手足
「思いついた。美味げを箱に詰めて増やす」
「!!」「天才」「画期的」
「やるだけやる。美味げ増やす」
「心配。美味げが死んだら悲しい。踊り食いがいちばん」「そう」「心配」
「ここ美味げがよく取れる。頑張る」
「頑張れ」「手伝う」「とても応援」