降谷零のクローンなオリ主とコナン世界   作:ラムセス_

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ペット獲得

 

 さて、この妙に賢い手足をどうするべきか。

 

 私は少しだけ工藤君に目配せしてから頷いた。

 その前にブラウン研究員を落ち着かせるべきだろう。

 

 彼女はもう青ざめてガタガタと震え始めていた。

 それだけで、アメリカという地でどれほどに手足が恐怖を刻みつけてきたかがわかると言うもの。

 たくさんの手足に取り憑かれ、生きたまま食われていく人の叫び声を聞いたものも多いと聞く。

 あるいは足を掴まれて泣き叫ぶ人の絶叫を無視して隠れ続けるとか。

 

 拳銃を持つ手が震えで揺れている。

 あれでは当たるものも当たらないだろう。

 いや、それ以上にここで手足の血を飛び散らせるのはまずい。

 

 ブラウン研究員の肩を持って、ゆっくりと首を振って笑顔を作った。

 私に任せておけ、のポーズだ。

 彼女の強張った体から少しだけ力が抜ける。

 

 それからゆっくりと、手足の背後に近づいた。

 耳良いはずなのにうっかりさんだなこの手足達。

 たぶん人通りが少ない場所に来て気を抜いてるんだと思うが。

 

「お二人さん、ちょっと良いかな」

『……?………!?!?!?!?』

 

 手足2匹は瞬時に肝を潰したようだった。

 しばらく硬直してから、俄かにバタバタ慌て始めた。

 

『女王!?!?ホンモノ!?!?!?!?』

『おわわわ!?腹見せる!急ぐ!』

『わわわわわわわわ』

 

 ころっとひっくり返って、ゆらゆら手を揺らし始める。

 なんだこのポーズ。虫ひっくり返したみたいですごく気色悪いぞ。

 そして凄まじく早口で叫び始めた。

 

『われわれ女王を称える!崇める!偉大なる女王!』

『女王ばんざい!女王ばんざい!!!』

「良い子ですね。いい子はなでなでしてあげましょうね」

 

 ともかく降伏しているようなので撫でてやることにした。

 家の手足も撫でられるのかなり好きだからな。

 2匹ともわしゃわしゃと撫でくりまわしてやる。

 すると「おあ…」「女王…」ととろんとうっとりしたようだった。

 

 こいつら野生暮らしにしては意外と綺麗だな。

 水浴びとかしてるのかもしれない。

 

 コソコソ手足が隣の手足と丸聞こえの内緒話をしている。

 

『女王、初めて見た!美味げに似てる!』

『撫でられた。一生自慢。みんなに言ったら驚く』

『旅の甲斐あった!女王会えた!お前やっぱり賢い!』

『喜び。帰ったら美味げ菓子もう一個やる』

 

 なお、この会話はすべて電波で交わしているものとする。

 見た目には激しくギイギイ言ってるだけだ。

 

 やや落ち着いてきたのか、研究員さんが恐怖に肩を震わせながら恐々と近寄ってきた。

 

「これは…このブレインリザードは一体何を……?」

「人間で言うところの平伏をしてるみたいです」

「敬うという文化と知能があるんですか!?」

 

 研究員さんが驚愕の重黙で手足を見下ろした。

 手足は相変わらず撫でられて、とろんとうっとりモードである。

 

 まあ、敬う行動に関しては文化というのか生態というのか微妙なところだ。

 言葉も私が意訳しているだけだし。

 「美味げ」という単語も、意味合いとして「美味しい動くやつ」ぐらいの言葉を勝手に訳したものになる。

 

「それにしても、あの凶悪なネバダ虫が、人間相手に腹を見せるなんて…」

「まあ、通常の手足は人間を見たら飛びかかって食い付きますからね。こんな人懐っこい犬みたいな反応をするのは女王たる僕に対してだけです」

 

 灰原さんにも降谷さんにも食いつこうとする生粋の凶暴性だ。

 近寄ってきた研究員さんに、手足が「あっ美味げ!美味げだ!」とじゅるりと涎を垂らした。

 

『ダメ!美味げ臆病!中で美味げを食うとみんな逃げる!』

『…で、でも美味げいる…鳥不味げ…』

『ダメ。約束』

『ヒィーーーヒィーーー』

 

 どうやらここへの潜入にあたり、人間食を自粛しているらしい。

 偉い手足なのでヒィヒィ鳴いている個体を沢山撫でくりまわして褒めてやった。

 

「我慢できて偉い子ですね。もう少し頑張れますね?」

『オア…!頑張る!不味げ食べる!美味げ食べない!!!頑張る!』

「よしよし」

 

 ヒィヒィ君を撫でくりまわしていたら賢い個体がだんだんしょげてきたので、そっちも撫でてやる。

 どうやら自分だけ撫でられないのが悲しかったらしい。

 難しいなコイツら。

 

 どうも絵を描いていた個体はかなり賢いようだし、こんなところまで2匹だけで来たのも理由がありそうだ。

 

 私の言葉を聞いていた研究員さんが困惑を滲ませて聞いてきた。

 

「本当に、その、そんなにもスムーズに言葉を交わせるのですか?学説で、電波を用いたやりとりをしていることはわかっているのですが…どの程度の粒度でどんな内容を、などは全くわかっていなんです」

「どうもかなり賢いみたいです。手にメモ帳を持ってるでしょう?」

「え?ええ」

 

 研究員さんがパチクリと瞬いた。

 私も説明を続ける。

 

「あれに書かれた人の文字を、記号という概念であることに気づいていました」

「…………な」

「あの個体が特別賢い可能性もありますが、なんにせよその程度の水準が生まれうるのでしょう」

 

 「メモ、貰いますよ」と声をかけて手足からメモ帳を受け取る。

 先ほど手足が書き込んでいたページをよく見て、研究員さんは息を呑んだ。

 きちんと人間が見てわかるレベルの料理の絵が描き込まれていたからだ。

 

 個人的にはコイツが異常に賢いのだと思っているが。

 でも、種としてそうした天才が生まれうる下地があることを示している。

 

 戦慄する研究者さんを尻目に、私は賢い個体に声をかけた。

 

「聞きたいんですけど、どうやって人間の街に来たんです?周りは僕の声がしましたよね」

『ここ、女王の声に囲まれてる』

 

 えへんと賢い方の手足が胸を張るようなポーズをした。

 

『あの壁。女王の声、定期的に聞こえなくなる。周期がある。その間に通過。美味げの街に入れる』

 

 ゴソゴソこと取り出したのはゴツい防水型の腕時計だ。

 こいつら、何故かカーテンを裂いてぐるぐる体に巻いてるんだよな。

 そのたるみに保管していたらしい。

 埃まみれだが、まだきちんと動いている腕時計だ。

 

『これは美味げが間隔を測るための道具。たぶん。これで28832ごとに10だけ声が途切れる』

『ずーっと壁の前で数えた。疲れた』

「およそ8時間ごとに10秒。根気強いですね…」

『本当は60ごとに動く。全部は数えてない』

『!?!?全部数えたのに!』

『確かめる、大事』

『酷い、酷い!!!』

 

 カウントに付き合わされた相方君が、ブツブツ文句を言っている。

 相方君が激しい調子で被害を訴えた。

 

『こいつ、数の数え方もいちいち新しい言葉作る。細かいこと言う!』

『でも10で繰り上がるは便利。美味げの使ってるのそのまま使うと楽。数が全部別の単語、非効率』

『そんな大きい数、普通数えない!』

 

 相方はすっかり拗ねてしまったようだ。

 賢い方が「謝る。帰ったら美味げ菓子やる。沢山やる」と慰めている。

 美味げ菓子…?すごく冒涜的な気配がするんだが。

 

 というか、どうやら手足の数字は数ごとに個別の単語を当てているようだ。

 それを大きな単位を数えるにあたり、10で繰り上がる人間式の数字を無理やり導入させた、と。

 凄い賢さだ。

 

「なるほど、10秒で指示範囲を通り抜けるという危険を冒した理由は?」

『美味げの謎を調べるため』

 

 手足はなんとも難しげかつ悩ましげに首を捻ったようだ。

 

『美味げを箱に詰めて増やす。われわれ、飢えなくなる』

「お、おお………」

『上手くいかない。謎調べる。だから野生の美味げを観察する』

「なるほど」

 

 賢すぎて人間牧場に行き着いた個体だったらしい。

 ますますこいつは群れに返すわけにはいかなくなった。

 論文を発表する学者のように、手足はモゴモゴと早口に言葉を続けた。

 

『美味げの巣に潜伏して2日。気付いた』

「ふむ?」

『小さい美味げ、1日経ったのに大きくなってない」

『確かに。調子悪い?ここ餌ない?』

 

 相方君が首を傾げて訝しそうにしている。

 というか2日も潜伏して誰にも気づかれなかったのか。

 人間をあえて喰わずに観察に徹していたにしても、なかなかのやり手である。

 

『どの小さい美味げもそう。やや細い、それにしても大きくならない』

『疑問。疑問。疑問。小さい我々、1日で十分大きい』

『仮説。美味げは育つのに時間がかかる』

『???……10日ぐらい?』

『分からない』

 

 2匹は首を捻って考え込んでいる。

 10日で人間が大きくなるかいな。

 と、思うのは人間の基準であって、手足なら1日もあればドデカ手足になるんだよな。

 

 まだまだ人間への理解は低い。

 ともかく、人間牧場を企んでる個体を群れには返せないのでここで始末か捕獲するしかない。

 本当に学者気質で穏やかな個体なようなので、ちょうどいいから危険区域の道案内として利用するのが良さそうだ。

 

 ギイギイ言っている手足を前にブラウン研究者がまだ青ざめている。

 私は「大丈夫です。僕がいれば人を襲うことはありません」と補足した。

 

「かなり頭のいい個体なので、この付近の群れの分布とか聞き出していいですか。外の状況やネバダ虫の文化や生態なんかも聞き出せるかもしれません」

「き、危険では…!?」

「放し飼いというわけにもいきませんし、檻の用意をしましょうか」

 

 外の特別研究所とやらで飼うのがちょうどいいだろう。

 私はしゃがみ込んで手足2匹に話しかけた。

 

「今から君たちは僕直属の兵士とします。勝手にどっかいくの禁止。食事は僕が用意します」

『!!!!!!』

『すごい。われわれ女王のになった……』

『みんなに知られたら嫉妬で噛まれる。秘密にする』

『同意、同意』

 

 再び手足君はひっくり返って腹を見せた。

 とりあえずわしゃわしゃ撫で回しておく。

 

 というわけで、渡米早々に私はペットの手足2匹を手に入れたのだった。

 工藤君が「しっかり世話しろよ」と犬飼いたい息子宛な言葉を言い放つ。

 はーいパパン。毎日餌やります。

 





・賢い方
名前は「ぐるぐるに巻いてるやつ」。
几帳面なのできっちりカーテン巻いてたらついた名前。
一部折り返してポケットスペースを作っている。

・相方
名前は「じゃらじゃらしてるやつ」。
光り物が好きで人類文化で高そうな貴金属を身につけている。布は嫌い。
すごく付き合いが良い、純粋で親切なやつ。
美味げ菓子が大好きだが要領が悪くで全然手に入らない。
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