コナン君が病院に運ばれたとの報を受けたのは30分後のことだった。
爆弾で気を失っていたところを救急車で運ばれたらしい。
これは毛利探偵からの連絡で分かったことで、私たちは阿笠博士と共にコナン君が運ばれたという病院へと駆けつけた。
毛利探偵も阿笠博士から何か聞いているらしい。
「で、何が起こったんだ坊主共」と目を三角にして私たちに問いかけた。
ベッド上のコナン君の意識はまだ戻らない。
少年探偵団は世にも恐ろしいものを見たという顔で一斉に喋り出した。
「爆撃機が爆発したんだ!」
「ラジコン飛行機です!知らない人からもらいました!」
「バァンって!歩美びっくりした!」
ふわっと小学生証言ににっこりする私である。
これでもコナン君に影響されて理路整然としている方である。
今日の朝食から話が始まる場合も結構あるからな。
ある程度信頼されているのか、むっつりした毛利探偵の視線が私に向けられる。
私は頷いて、まず事実のみを話すことにした。
「僕たちが緑地公園で遊んでいた時、不審な人物が僕たちにラジコン飛行機を手渡してきました。脈絡なく。後から駆けつけたコナン君がそれ不審と判断して彼が空き缶を蹴り当てたところ、ラジコン飛行機は爆発しました」
「な………それで、だが坊主が爆発にあった場所は緑地公園からは結構離れてるぞ!」
「ラジコン飛行機の爆発の直後、コナン君は電話を受けて公園から走り去りました。詳細は分かりません。ですが」
言葉を切って私は毛利探偵を見た。
「これは僕の想像になりますが、コナン君は始めからあの公園に爆発物があることを知っていたようでした」
「なんだと!?」
「恐らくは、犯人から電話で爆発物について予告を受けていたのでしょう。僕たちの持っていた爆弾を処理した直後、かなり血相を変えて電話先に怒鳴っていましたから」
「……お前達、犯人を見たか?」
そのあたりでコナン君が目を覚ましたらしい。
みんな安心してわっと口々に喋りかけたから、不意に病室が明るくなったようだった。
検査のために看護師さんを呼んだりしたが、幸いなことに頭部にも異常はなく。
すぐに退院できるとのことであった。
毛利探偵はさらにむっつりしている。
コナン君が危険なことをしたのを保護者として怒っているのか。
優しいからこそ、こんな危険なことを一人で対処しようとしたコナン君を叱ろうとしているのだろう。
さて、医者が退室した後すかさず入室してきたのは目暮警部と白鳥警部だ。
白鳥警部はまだ警部補だったんだったか。
地味にはじめましての気持ちだ。
たぶんコナン君が目を覚ますのを待っていたのだろう。
「さっそくだが、事件の詳細を聞かせてくれ!」とずいと身を乗り出した。
黙っていても、事情はコナン君があらかた説明してくれた。
抜け漏れはなく、事実と想像の区別もついていて理路整然としている。
こんな語り口の小学一年生いねぇんだよなぁと思いつつ。
コナン君はふと私に顔を向けた。
「そういえば、空達は犯人を見たんだろ?その時のことを教えてくれねーか?」
「髭とサングラスで顔を隠していたので容貌はわかりかねます」
そのように言うと、やや落胆したような様子をコナン君は見せた。
使えなくてすまねぇ……。
「俺も見たぞ!」「僕もです!」と少年探偵団が満を持して似顔絵をババーンと見せびらかす。
相談して彼らが描いた似顔絵だ。
くちゃくちゃなその絵にあはは、とコナン君が困り笑いをする。
公平を期すため、「意外と特徴をとらえていますよ」と私はフォローした。
そもそも、つけ髭にサングラスの男の似顔絵に意味なんてほとんどないけどな。
目暮警部が「他に何か覚えていることはあるかね」と聞くので、歩美ちゃんがむむむと唸って証言を口にする。
「甘い匂いが、した気がする」
「ああ、パイプタバコの甘いバニラの匂いが漂っていました。煙たく匂いがきついので、髪や着替えにも匂いが移っていたのでしょう」
私はその言葉に乗っかった。
コナン君が何か引っかかりそうな顔をしたが、今一歩思考が届かないようだ。
自分の設計した建築物を利用者ごと爆破解体する奴なんて想像の埒外なのはわかる気がする私である。
やりたきゃ自分で買い上げて解体すんだよバーロー。
さて、話すだけ話したらあとはお邪魔にならないように撤退するのみである。
私は頭を下げてコナン君に別れの挨拶をした。
「では、僕たちはこれで。あまり無理をされないように」
「じゃあなコナン!」
「明日また公園に集合しましょう!」
子供達が手を振ってズンズン退出する。
駆け出そうとしたので、「廊下を走ると危険ですよ」柔らかく注意しておく。
コナン君が明日予定を空けられるかは謎だが、少年探偵団的にはすでに明日の冒険の予定が詰まっているらしい。
可愛いので、もしコナン君が欠席なら私がその分頑張るとしようか。
さて、今後の方針だが。
私は先に米花シティビルの方へと向かおうと思う。
「時計じかけの摩天楼」において、爆弾は主に四つ。
まず緑地公園のラジコン飛行機。
次に猫のキャリーケース。
三つ目が東都環状線の線路の上。
最後が米花シティビルだ。
一番まずいのは米花シティビルのもので、原作通りに進んだとして爆破を許せば瓦礫で怪我をする人も出てくるだろう。
「すみません、僕は諸用がありますのでここで」と言って子供達と別れることとする。
まだ爆弾が仕掛けられていない可能性もあるから、どこかで時間を潰してから現地に向かうとしよう。
私がさりげなく引き留めたから、たぶん子供達は東都環状線の一番近い電車にギリギリ乗れなかったことだろう。
一本遅れたと言うことは、爆弾に巻き込まれることも無いということ。
あとは環状線の事件解決後、目暮警部や毛利探偵にひっついてコナン君は森谷邸に行くはずだ。
その間に、私が米花シティビルの爆弾を処理できればベスト。
米花シティビルの映画館フロアに入って、紙袋だけでも回収するのが吉か。
恐らくは爆弾は全て時限式。
うっかり蹴っ飛ばす人がいるかもしれないし、振動感知は無いはずだ。
遠隔爆破機能はあるだろうが、警部への対応のため爆破は難しいはず。
私は米花シティビルまでバスと電車トコトコ根気よく徒歩で向かい、一階のカフェで時間を潰してから夕方になってから仕事に取り掛かった。
あまり早いと、森谷がフリーなので遠隔爆破されかねない。
コナン君達が動き出してからがベストだ。
まず、米花シティビルで聞き込み調査。
店員さんに「落とし物はありませんでしたか?お父さんの箱型の機械なんですけど」と聞いて回るのだ。
これで設置された爆薬が見つかればいいな、と言う程度。
これはからぶりだったが、原作通りデパートの紙袋に入った爆弾を映画館のフロアで見つけることができた。
時刻を確認すると、爆発までまだ時があるようだ。
このまま警察に連絡、と焦る思考を急ブレーキ。
自分で電話しても子供のいたずらと思われるだけだ。
声を変えることもできるが、こういうのはもとよりデパート側との連携も必要だ。
映画館スタッフさんに伝えた方がスムーズだろう。
ポップコーン売り場のスタッフさんに話しかける。
優しげな女性が、立ったまま客を待っている。
「あの、ナイショの話があるの」
「なあに坊や。お母さんとはぐれちゃった?」
「誰かの落とし物なのかなぁ、あそこにへんなものがあるの。大きな箱の形の機械で、タイマーがついてて、ピッピって言ってて」
「え……」
一瞬、店員さんは真っ白な顔色になった。
さすが犯罪都市米花町。これで動いてくれるらしい。
店員さんが慌てて現物の中身を確認してから、店員さんは狼狽えてオロオロし出した。
「坊や、お父さんは!?」
「僕だけだよ。こっそりきたの」
「と、ともかくあとは私たちで対応するから、坊やはおうちに帰りなさい!」
「はーい」
慌ててスタッフルームに運ぼうとして、また迷って大声で他のスタッフを呼び始める。
駆けつけたスタッフ全員がにわかにざわめいた様子だ。
これで私のお仕事は終わりだ。
おそらく警察が来てから、他の爆弾が無いか探すだろうし。
問題ないだろう。
良いことをすると爽やかな気分になるものだ。
帰宅ついでコンビニでアイスを買って行く。
博士の分ももちろん買ってある。
バニラの大容量なやつが博士の大好物だからな。
灰原さんと違って私は太く短くが幸せの流儀なので、もしかしたら今後方針の違いで軋轢が起きるかもわからん。
贅を尽くし、調子が悪くなったら苦しみが続かぬよう腹を切るべし。
うむ、流星の如く生きよ、汝。
そんな気持ちでアイスの袋を購入して、私は帰路に就いたのであった。
その次の夜。
雨が降りしきる中、倒れ伏す子供が一人見つかった。
工藤邸の前で、大きすぎるブカブカの服のまま行き倒れていたのだ。
駆け寄る阿笠博士に、私は無表情のまま、そっと傘を差し出した。
彼女の名は宮野志保。
後に灰原哀と名乗ることになる、組織の幹部である。
私はバーボンにそっくりだから怖がられないといいのだが。
そのように、ぼんやりと思って雨の夜空を見上げたのだった。
・毛利探偵
他人の家の子供にまで口出しできないが、絶対子供の落ち着きじゃねぇだろこのガキと思ってる。
心配。ガキなんて喚いてなんぼなのに。
同じ理由で灰原のことも心配してる。
兄弟か……?(混乱)