降谷零のクローンなオリ主とコナン世界   作:ラムセス_

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王妃の別れ②

 

 鈴木大博物館に入った瞬間、とんでもない匂いが鼻についた。

 

「殺人的な匂いがするんですけどなんですここ!?」

「そうか?確かにちょっとだけケミカルな匂いがする…か?今回の警備に向けて改修工事が先週あったって聞いてるけど」

「あたしも全然。阿笠君鼻いいのね」

 

 私は鼻を摘んでくしゃくしゃの顔になった。

 

 たぶんキッドの細工だろう。

 ラバーマスクの匂いに似たケミカルな香りが建物全体に充満していて、もう鼻がバカになりそう。

 

 というかこれ、ラバーマスクの匂いだけじゃないな。

 

 マスクなら私もしているが、こんなに鼻が曲がったことないし。

 ツンとした酸味と腐敗臭は、おそらく、人間の鼻ではわからない程度に色々混ぜてるのだろう。

 

 私の嫌う匂いが何か分からなったからか、手当たり次第に臭い匂いを混ぜたのかもしれない。

 キッドのことだし健康被害はないと信じたいが……。

 この真夏のプールの更衣室で肥溜め作ってるみたいな香りは、コナン君達には全然わからないようだ。

 

 既に私の鼻がいいのはキッドにはバレている。

 対策はバッチリということか。

 

「僕ちょっと体調悪いから、先にみんなで見てきてくれないかな」

「え、大丈夫阿笠君!?」

「幻臭症なのかなぁ、匂いが酷くて頭が痛くなりそうだ。ごめんね、せっかく誘ってくれたのに。よくなったら合流するよ」

 

 そう言ってフラフラと木陰のベンチに座り込めば、蘭ちゃんと園子ちゃんにすごく心配されてしまった。

 コナン君は真犯人がわかったのか、「あの盗人野郎」とブツブツ文句を言っている。

 

 外はまだ明るい。

 なんの匂いか分からないが、都内のアジトにいる手足に電波で臭いだけ送信して意見を仰ぐことにした。

 

『君もこれ臭いと思う?』

『ふぁ!?!?!?何何何何女王の塔の香り!?』

 

 ぐっすり寝ていたらしい手足が飛び起きたのか、眠たげな電波がわんわんと響く。

 最近はひっくり返って腹出して寝るんだよな、この手足。

 早くも野生を忘れてしまったらしい。

 

 というかなんや女王の塔って。

 あ、そうか。

 女王を祀るために人間の死体を重ねて塔にするとかって頭のイカれたアメリカ手足の文化か。

 

『われわれ、この臭いに耐えて踊って信仰を示す。虫も湧いて仲間も増える』

『この臭いに耐えて…!?予想を遥かに超える信仰心だった…。おそるべし手足文化…!』

 

 私なんて一撃でノックダウンしたのに。

 プトレシン───すなわち腐敗臭の素たる化学成分───とかを仕込んだのだろうか。

 

 ちなみに手足は腐敗臭が嫌いだ。

 別に食べてもお腹は壊さないが、死んだ生き物は感染者たり得ないからな。

 より新鮮な美味げが好きだし、そいつらを感染させて孵化した残骸を食うのも好む。

 

 まあなんにせよ本番は夜だ。

 リュックの中身も見せられない私は本番も現場には入れない。

 大人しく外で見物して、キッドに接触できるタイミングを図るしかない。

 

 なお、広域波ゆえに感染者には丸聞こえだったらしい。

 

『突然人間の腐敗臭を送りつけるのはどうかと思いますよ、クイーン』

『うおっRUMの声!?つか俺どうやって喋ってんだ!?』

『落ち着けウォッカ。ネバダ寄生虫感染者には発信器官が作られると聞く。その類だろうぜ』

『なんなんですかワラワラと。僕らのオフのまったりしたひとときに割り込んでこないでくれませんか?』

『バーボン、テメェ女王とオフの日までよろしくやってんのか。正気か?』

『きっと媚を売ってやがんですよ。そういうのやつは得意でやすからね』

『失礼なこと言わないでくれませんか、金魚のフン如きが』

『ちょっと!!!私は仮眠中なのよ!!!』

『下っ端、みんなうるさい……何……』

 

 だめだ、完全に組織LINEになってしまった。

 

 私は手足に個別チャットのための信号変換合図を送って、独自の周波数帯で話し始めた。

 降谷さんからすごく呼び掛けられている気がするが無視。

 まったり手足と雑談するに留めたのだった。

 

 

 

 

 さて、その夜。

 みんながモニタールームに篭っている中、私は外で一人ぼんやりとベンチに座っていた。

 

 みんなには心配されたが、夜風に当たりたいと自分から申し出たのだ。

 モニタールームにいるよりはここの方がキッドとの遭遇率も高そうだし。

 この辺は壁しかないため警備も最低限だ。

 

 ポヤポヤと夜の闇を見上げる。

 この夜の闇も、私の目には真昼のように明るく見える。

 

 まだ肉体君はグズグズ泣いているようだ。

 

『ぐすっ、死にたくないよぉ、母君と父君と別れたくないぃぃ』

「だから僕が貴方の魂を連れてってあげるって言ってるでしょうに。転生ですよ転生」

『嘘!だって僕には魂がないって前言ってましたよね!?』

「今はありますよ。ポワポワしたへぼい綿毛みたいな魂が見えます。吹けば消えそう」

『失礼な!!!』

 

 憤った肉体君は、またゲッダンみたいな動きでメチャクチャに暴れ始める。

 落ち着け、暴れるなし。

 もー、よーすよすよすよすよす。

 

 魂で撫でさすって肉体君を沈めにかかる。

 肉体君はブツブツ言っているようだ。

 

『転生はわかりました。でもそれって本当に僕ですか』

「考え方によりますね。ただ、僕と違って転生者ではないので記憶は引き継がれません」

『……意味なくないですか』

「いや。肉体の方で記憶が引き継がれるので、結果的には記憶と人格と魂全てが揃いますよ」

 

 転生者が特異なのは、魂のみで記憶し思考するその高機能さゆえ。

 肉体君のポヤポヤ魂では死のショックであらゆるデータが吹っ飛ぶだろう。

 でもご安心を。

 肉体にはいつもの通り人格と記憶がバックアップされているから、最終的には完全な形での転生が成るというわけだ。

 

 まだ納得しきれないのか、肉体君がピンボールのように魂をポコポコ外壁に当て始めた。

 イタタタタ、暴れんな暴れんな。

 

『バラバラにした死体を別の場所で組み立てても、ただのフランケンシュタインの怪物ですよ』

「何をそんなにこだわってるんです?大丈夫だと言っているのに」

 

 私の問いかけに肉体君は無言だった。

 そのまま幾許か時が流れる。

 

 私は辛抱強く答えを待つ。

 

 

『………母君に拒絶されたら、どうしよう』

「!」

 

 答えはなんとも、可愛らしい心配だった。

 

『父君にお前なんて知らないって言われたら。みんな僕らのことが分からなかったら。嫌いになったら。僕は、僕……!』

「そんなことにはなりませんよ」

『そんなの分からないじゃないですか!!!』

 

 頑迷な幼児のように、肉体君は嫌々と叫びを上げた。

 

『僕には父君と母君しかいないのに!お別れしたくない、ずっと一緒にいたい、やだやだ、寒い』

「怖いんですね」

『そう、そうです。怖い。とっても。不安で不安で、貴方ならなんとかできると思うのに、もしも、もしも僕だけダメだったら、暗くて怖いところに一人取り残されたらと思うと』

 

 また肉体君はえぐえぐと泣き出してしまった。

 魂でやさしく包んで、その綿毛のような魂を温めてやる。

 

「大丈夫。ちょっと違ってくるくらいでコナン君も灰原さんも、僕らを決して見捨てない。僕も絶対に置いて行ったりしない」

『……ぐずっ』

「そもそも」

 

 私は瞳を伏せた。

 この世界の多くの悲劇は、元を正せば僕らが死ねばいいだけの話だった。

 それを生かして救い続ける彼らの覚悟を、僕らが軽んじてはいけない。

 

 そう。

 見上げる夜空は穏やかで、今この瞬間にも地獄のような現実を生きる人がいる。

 

 それでもなお揺るがぬ愛が、彼らにはあるのだ。

 

 「ほんとうに?」と囁くように幼児の声を、私は首肯した。

 

「ええ。僕らは次も元気な姿をコナン君達に見せて、安心させてあげなければなりません」

『一緒ですよ。ぼくだけ捨ててったら承知しませんからね』

「もちろん。というかそろそろ意地張ってないで、貴方も灰原さんに挨拶しましょうよ。言いたいことあるんでしょう?」

『やだ』

 

 肉体君は嫌々と首を振った。

 どうもまだ直接灰原さんと話すのは恥ずかしいらしい。

 困ったちゃんめ。死ぬ前には話すこと!

 

 ……私自身、生の重みはまだわかっていない。

 転生者故に、生にこだわりもない。

 でもこの幼児を通して、コナン君達を通して、少しずつその大切さをわかってきたような気がする。

 

 穏やか夜に雲が流れる。

 ふと、私に近づく影が一つ。

 

「よっ、悪いな宙」

「ようやくきましたね、怪盗キッド」

 

 私は黒子の服装で現れた彼にブーブーと苦言を呈した。

 

「酷いですよ。あんな臭いの。せっかくの秘宝展を全然楽しめませんでした」

「悪い悪い、お前がいるとあっという間に変装がバレるからな。対策させてもらったんだ」

「もう匂い取りましたか」

「おう。多分今頃警察が仕掛けに気づいた頃だろ」

 

 確かに、何やら中からわいがや騒ぎが聞こえてきている。

 怪盗キッドはのんびりと伸びをしてビッグジュエルを月に翳した。

 色は変わらない。

 キッドの表情がわずかな失望に染まる。

 

「ここでなにやってんだ?中に入れない」

「貴方を待っていました。話したいことがあったので」

「へ」

 

 パチクリと瞬いて宝石をしまったキッドに、私はにっこりと笑顔を作った。

 

「そろそろ僕の寿命が来て、死に至ります。次代に移る時が来たんです」

「………!」

「その前に一応挨拶にと思いまして」

 

 私の言葉に、顔をこわばらせた怪盗キッドが言葉を迷っているようだった。

 そのまま、重苦しい気配を纏って声を低くする。

 

「本当なのか」

「僕にとっては単に幼体に戻るだけのことです。記憶と人格は次代に引き継がれますし。3回目の死と生まれ直しというだけだ」

「でも、死ぬのには変わりねーんだろ」

 

 真面目なキッドらしい、慮る色に満ちた言葉だった。

 

「痛いのか」

「残念ながら超痛いです。事実上子供を産んで死ぬわけですからね。デザイナーを恨むばかりです」

 

 私は冗談めかして肩をすくめてから、まっすぐにキッドに視線を合わせた。

 

「次代の私もよろしくお願いしますね」

「ああ。たとえお前に似た別人だったとして、今までと変わらず付き合ってやるさ」

「ありがとうございます」

 

 そのまま、ぽしゅんと私にマジックでも見せるように、煙と共に怪盗キッドは姿を消した。

 ここで煙玉を使う必要はなかっただろうが、せめて私を楽しませるようにという気遣いだったのかもしれない。

 

 後を追いかけてきたのはコナン君と降谷さんだった。

 

「宙!ここに怪盗キッドが来なかったか!?」

「来ましたよ。ちょっと雑談して去っていきました」

「捕まえろよ!?!?」

 

 そういやそうだな。うっかりしていた。

 私は咳払いしてコナン君の胡乱な目線を逸らした。

 ついでにいい機会だし話してしまおう。

 

「寿命の話をしてしんみりしていて、捕まえるのを忘れてました」

「寿命?一体なんの…」

「僕の寿命です。多分あと3日もないので、別れの挨拶をしてたんです」

 

 瞬間、コナン君が凍りついた。

 何かを思い出したような顔で、降谷さんが隣で真っ青な顔色をしている。

 

「おい、まさか」

「前触れの体調不良ももう来てますので、キッドに会えるのは今回が最後ですかね」

「っ…………!」

 

 

 

 そのまま般若の形相の二人にターボで阿笠邸のベッドにぶち込まれ、私は軟禁の身になったのであった。

 

 まだ大丈夫なのに。

 不服である。

 





・組織LINE
無症状感染者ならログインできてしまうので滅多に使われない。
時々ベルモットとバーボンが喧嘩してるのと、ウォッカが兄貴のいいとこをプレゼンしてるぐらい。
一日一回手足が「下っ端、美味げもってこい」って命令を残す。誰も聞いてない。

・安室さん
過去のトラウマがぶり返して体調が悪くなった。
なんでこの子はこんなギリギリにならないと言わないんだ!
普通に出張でいないとかあり得るんだぞ!!!(血涙)
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