新しい手足フレンズの登場だ!
少し意識が遠い。
ゆらゆらした思考の中で遠い潮騒のような声がする。
人を滅ぼせ。
我らの悲願よ。
栄え地に満ち繁栄せよ。
なるほどなるほど、人を滅ぼせ、人を滅ぼせ、人を滅ぼせ……。
変な夢を見ていた気がする。
昼寝から目が覚めて、私はまた一段大きくなった体でうんうんと伸びをした。
新しい私は1日ほどであっという間に4歳児の姿となった。
明日には小学生のいつもの6歳姿になり、安定することだろう。
成長が早すぎるんだよなぁ。
そのせいで昨日も今日もほぼマッパで過ごすことになった。
恥ずかしいんだよまったく。
首と羽、腕を通す大きな穴だけが空いた布を頭から被って、私はパタパタと羽を動かした。
コナン君が柔らかなマットの上に座り込んだ私を覗き込み、頭をわしゃわしゃと撫で回した。
「やっぱオメー結構可愛いよな。俺もガキの頃母さんの知り合いに撫でくりまわされたけど、今なら気持ちもちょっとわかるかも」
「恥ずかしいれす、コナンくん…」
羽は透明で、窓から差し込む太陽光取り込んでキラキラと自ら発光しているかのように光る。
幻想的なまでの美しさだ。
それでもまだ小さく、体相応の大きさしかない。
死の間際に採取した羽は現在阿笠博士が何かに使えないか研究中だ。
どうやら電波に対して何かしらの反応をするようなので、科学的に利用価値がある可能性が高いからだ。
そのままルパンに送るつもりだったが、上手く実用化できたらその方がルパンも喜ぶだろう。
さて、今の姿はあむぴ4歳。
小さい頃から可愛かったらしく、子役にすれば映えそうなお人形さんみたいな見た目をしている。
しかし、腰回りとか丈とか成長に服が追いつかないため、布一枚被ったまま色々丸出しで思わず内股である。
肉体君も内側で恥ずかしがっているようだ。
「母君…僕だって恥じらいぐらいあるんですよ…?」とブツブツ文句を言っている。
と、そのあたりで羽を揺らす何かを検知。
おやおや。なにか電波で私に話しかけているものがいるようだ。
組織LINEとは別の周波数帯だから、アジトに置いてきた手足君だろうか。
『はい、僕に何かご用ですか?』
『女王に栄えあれ!女王万歳!われわれ新しい女王を敬う!』
『あ、手足君。侵入者はいませんでしたか?』
『美味げ来ない……』
『なるほど。それは良かったです』
手足くんはしおっとしているが、下手なことを考える輩がいなかったのは良かった。
念のため手足くんにいくつか確認する。
『ご飯は十分ありますね、冷凍肉を食べ過ぎてお腹壊してないですね?』
『…………冷たい肉うま。うま』
『たくさん食べたんですね…バーボンに解凍してもらうのを待てって言ったのに。まだ肉はありますか』
『…………』
『全部食べたんですか!?!?太ると虫が湧くって言ったでしょう!たぶん明日には行けますけどそれまでご飯なしですからね!』
『ヒィー』
碌でもない手足君だったようだ。
こんなに女王の命令を破って、手足社会では生きてけない不良手足に違いない。
私がタタタと走ったり積み木をしたりして体の身体能力を確かめていると、玄関ドアの開く音が響いた。
どうやら来客のようだ。
顔を上げた瞬間ベシャリとこけてマットの上で顔を打つ。
痛たた、この体ちまっこくてバランスがとりづらいんだよな。
来客は降谷さんだったらしい。
コナンくんに連れられてやってきた彼は、べしゃっと倒れ伏した私に慌てて駆け寄ったらしい。
「おわ!?大丈夫かい空君!?」
「平気れす。転けた…子供の体は不便れすね」
「気をつけてね、怪我はない?」
コナン君も心配そうに私に手を差し伸べてくれる。
舌足らずで意図せず「う?」という声と共に降谷さんを見上げることになった。
「生きてたんれすね」
「可愛いな君は!僕の子ということで構わないよね?」
「オリジナルは引っ込んでてくらさい。僕の父君は父君だけれす」
おっと肉体君が鋭い舌鋒を向けているようだ。
肉体君の方が小さい分肉体に馴染みやすいのか、操作の優先権が肉体君の方に移りやすいのだ。
降谷さんは大袈裟に胸を押さえて苦しみ出した。
「えっっっ悲しい!逆恨みしたジンに危うく爆殺されかけたところをハリウッドばりの大脱出を成し遂げたのに!」
「オリジナル、猫の件で煽りまくりましらね?」
「うん。にゃーんかっこ笑いとか、チュール要りましゅかぁ???とかは言った」
「殺されるに決まっへるじゃないれすか」
「こういう時にストレス発散しないと胃に毒だからね」
反省も後悔もないらしい。
キリっとした顔は心なしか輝いていて、やり遂げたという開放感に満ち溢れている。
だからバーボンは組織で嫌われてるんだよな。
降谷さん本人の人格ともまた違うハジケ感と言うか、ストレスのあまり他人を踏みつけるのに全力を出しすぎてると言うか。
まあ、降谷さんが健全に潜入捜査官生活を過ごせているなら何よりだ。
「それで、新しい体はどうなんだい?」
「それは今灰原がまとめてるところ。安室さんこっちに座って。お茶入れてくるから」
「悪いねコナン君」
まったり過ごしていると、奥の地下室から気だるそうな動きで灰原さんがやってきた。
ふわあぁ、とあくびをしているところを見るに昨晩は徹夜したのだろう。
「取り急ぎまとめ終わったわよ資料コレ。メモ書き程度だから書類はまだ待ってちょうだい」
「サンキュー灰原。え、幼生培養実験までやったのか、完全に寝れてねーだろ」
「これから寝るわ。問題が山積みだと言うことがわかったから、目が冴えて寝れるかは微妙なところだけどね」
「おいおい……」
ぱらりと印刷された箇条書きのそれを確認していく。
肉体次代はそこまで変更はなかったらしい。
だがやっぱり脳にチップはなかったようで、コマンドの類は無効化されてしまった。
もうめちゃくちゃに残念である。
ろくに酒飲む前に酒が無くなってしまったのだから、泣きの涙だ。
酒……くれたもう……。
その他チップがなくなった影響がないかは今後精密検査していく予定とのこと。
脳の重要な機能を担ってたら大惨事だしな。
でもそれより酒である。あーーー。
コナン君が眉間に皺を寄せてため息をついた。
「これが意図した進化なのか、研究者たちの不備やデザイン上の欠陥なのか、進化の暴走なのかで話が変わってくるな」
「暴走だとしたら危険だ。僕ら人類は今でさえ完全にアストロを持て余している。先月1ヶ月だけの死者数で全世界で1200万人を超えたとも報告があるぐらいだ」
「そうですね。暴走している可能性は十分以上に高い」
まあ、死者数は正直お気持ちの数でしかないけどな。
なにせ感染地域は手足の跋扈によって生存者の脱出すら不可能になるわけで。
そうやって世紀末状態になってしまった国家がいくつもある以上、数のカウントなんて不可能だ。
救出が進んだアメリカの報告によると、意外と人類もしぶとく感染地域で生き延びてるらしいけど。
灰原さんが瞳を伏せた。
「チップがないということは、コマンドも効かないということ。女王を制御する術がまるで無くなって、自ら殺されに行くようなものよ。もし想定した挙動だとしたらただの自殺志願者よ」
「だな。そうなると空の体調にも不都合が出てくるかもしれない。悪いがこれから頼むぜ」
「勿論よ。24時間体制でみてあげるわ」
降谷さんスカイブルーの瞳を険しく細めながら灰原さんに問いかけた。
「手足について詳しく聞いてもいいかい。どうやら、新しいタイプが発見されたみたいだけど」
「そっちは少し問題かもしれないわ」
灰原さんはペラリと資料をめくって嘆息した。
「培養した15体のうち、6体が見たことのない形の手足になったの。正直危険すぎたからすぐに処分したけれど、前の戦争型や寄生型のような危険な新種がないとは言い切れない」
「詳細は?」
「まだ待って。あまりにデータが多くてまとめきれてないの。今日中にはまとめるわ」
「後で送ってくれ。僕の方でも把握しておきたい」
降谷さんの懸念はもっともか。
なにせ組織で現在進行形で手足を運用してるんだし。
一応今回見つかった新種は主に四つ。
一つ目が体ががっしりした六足の牛のような奴。
餌箱を背中に乗せて運ぶような仕草をしていたことから、運搬の役割を果たすものだと思われる。
結構温厚で、檻の中でも大人しくしていたらしい。
次は首がひょろっと長く目がたくさんついてる気色の悪いハマグリに麒麟の首がついたみたいな奴。
動かずジロジロ見て、電波の爆音で「敵!!!敵発見!!!」と喚くのだ。
もしかしたらコロニーの監視役なのかもしれない。
耳が痛かったので消音を頼んだらモゴモゴ言いつつ了承してくれた。
三つ目は巣箱に張り付いて藻のように成長する奴だ。
まるで「生きている部屋」のように無機物を作り変える特性を持つ。
育成速度がべらぼうに早く、これはかなり危険なのですぐに処分したとのこと。
最後はタコのようなデカい脳を備えた手足だ。
電波で喋るんだが、これがまたとてつもなく賢い。
ほぼ無症状感染者が電波で喋ってるのと見分けがつかないレベルだ。
これもまた危険ということですぐに処分したとのこと。
必死で助命嘆願してきて可哀想だったので「女王命令だ。優秀な子よ、死んでくれ」と厳かに言うなどして納得してもらった。
一応私の命令だと納得できるのか、安らかに死んでいったようだ。
と、ここまでが新しい手足フレンズの紹介でした。
まったく手に負えねぇぜ!!!
コナン君が私の方を向いて静謐な顔をした。
「これまで以上に幼生の漏出には慎重になるべきだろうな。空には窮屈を強いるかもしれねぇ。悪いな」
「構いませんよ。僕のためを思えばこそなのでしょう」
私の言葉にコナン君が淡く笑ったようだった。
現在、世界各国が合同でネバダ寄生虫を一掃する動きに乗り出している。
編隊を組んだドローンで国土を巡り、エリアすべてのネバダ虫を駆除する試みだ。
この理論の基礎は阿笠博士が築いており、実際に稼働する計画にも助言役として参加している。
もう博士も世界的権威なんだよな。
ヨーロッパのいくつかの国ではすでに浄化が完了していて、ひとまずの平穏を取り戻したところもあるらしい。
もっとも、海から上がってくる手足もいるので、この平和が永続するかどうかはまた別の話だが。
とはいえ河川や多少の地下くらいならこれで駆除できたし、防衛はずっと楽になったはずだ。
これが完了すれば次はいよいよ海に戦場は移るだろう。
アメリカが主導になって、名誉の回復をかけてこの星すべての海の浄化に挑むのだとか。
コナン君も一枚噛んでるし、これが私の変な進化によって頓挫することがあってはならない。
肉体君がむすっとして唇を尖らせた。
「僕を作った奴らはよほど人を滅ぼしたかったんですね」
「違うんじゃないかな」
「?」
肉体君の呟きに降谷さんが暗い表情をして口角を吊り上げた。
「たぶん、人を作りたかったんだ。地上の支配者をデザインしたかった。一つの文明を作りたかったんだと思うよ」
「………その結果人間が滅びても、ですか?」
「ああ」
「碌でもないですね」
肉体君の素直なぼやきに、降谷さんは首肯するだけで答えたようだった。
・脳内チップ
研究者達がクイーンにつけた補助輪のようなもの。
「電波の送信法を教えよう」
「手足の管理方法を教えよう」
「人間に従うふりを教えよう」
「これが必要なくなった時、君は自由となる」
・「手足」病巣型
人間の建物の壁に沿って繁殖し、それを「生きた手足の巣そのもの」に変えるもの。
電波の中継や幼生の育成などを行い、中も手足の過ごしやすい温度に管理される。
おうち型。