気分が落ち込みがちで、肩が重い。
それでも日々は回るもの。
今日は北海道、函館にやってきている。
風が冷たく、少しだけ涼しい秋の風が吹いている。
まだ1年経ってないはずだが、まるで何十年も皆とこの世界で過ごしたかのような感覚に包まれる。
サザエさん時空はかくもまあ不思議なものよ。
さて、今日北海道にやってきたのは他でもない。
本日深夜0時に迫る怪盗キッドの予告状に対処するためだ。
毛利探偵がむすっとした顔で腕を組んで私を覗き込んだ。
「なーんでこいつまで連れてこなきゃなんねーんだよ」
「だって空君は怪盗キッドの大ファンだもん。ねっ、空君!」
「ありがとうございます、毛利探偵。蘭さん。お世話になります」
蘭ちゃんの優しい言葉に便乗して、私はぺこりと頭を下げた。
コナン君が無理やり私を入れ込んでくれたことには感謝しかない。
阿笠博士は学会だったから、私が怪盗キッドに挨拶できるよう取り計らってくれたのだ。
私も次代に切り替わったから、それの報告をしたかったしな。
そのために「空君と一緒に行きたい!!」って子供のふりして喚いてくれたコナン君には頭が上がらない。
そのわがままを叶えてくれた毛利探偵も、優しい人ばかりだ。
大きなため息をついて毛利探偵は私に再三の注意をした。
「いいか、うろちょろすんじゃねぇぞ!」
「はい。僕ほどいい子はあまりいないですので、その程度のオーダーお茶の子さいさいです」
「口上述べるガキなんざ信じられる点が欠片もねーよ!」
ボスっと乱暴に頭を撫でられて、私はしょぼしょぼと俯いた。
今回は服部君も参加予定です、そろそろここに到着するはずだが。
そう言っている間に、バイクに乗った服部君が玄関のロータリーに姿を現したようだ。
和葉ちゃんを後ろに乗せていて、バイクを降りた和葉ちゃんが「蘭ちゃん!」と大きく手を振って駆け寄ってきてくれた。
服部君がヘルメットを脱いで笑顔を作る。
「悪いな工藤、野暮用で遅くなった………小さなっとる!!!」
ギョッとして大袈裟に体をのけぞらせる服部君が見ているのは私の方だ。
私はパタパタと否定の意をアピールした。
「コナン君と同じ仕組みではないですよ!」
「おお……仕組み違いで小さなるんなら、人類の若返りも未来の展望が明るそうやな。選択肢が多い言う意味で」
「そんな頻発する現象でもないです」
私たちののんびりとしたコントに、コナン君が「オメーなぁ、あれスッゲー苦しいんだからその辺考慮しろよ」とため息をついた。
非常に牧歌的な空気が流れ始めれる。
チラリと私を横目で、なんてことないように服部君は穏やかな表情を浮かべた。
「墓の場所、聞いてええか」
「え……墓……誰の?」
「そりゃ宙の墓に決まっとるやろが」
「僕の?どこだろ……?そういえばどうしたんだっけ。灰原さんに預けた…ような?」
「おぉい!?!?自分の墓ぐらい把握するやろ!?」
コナン君がベシッと服部君の脛を蹴りたくって突っ込んだ。
「あいた!」
「オメー本人になんてこと聞いてんだ!!!」
「工藤は知らへんのか」
「知ってるけど!知ってるけど!!!」
服部君は半目で大きく息をついた。
欧米風に呆れたようなポーズを取っている。
「本人が気にしてへんなら周りが過剰に気にするのも違うやろ」
「そうだけど、こいつ先代の死体のこと抜け殻って呼んでんだよ。同一の意識が強すぎるんだ」
「前言撤回。そら人の心なさすぎやで」
急に私が悪いみたいな空気になり、私は憮然として「頭蓋から這い出る手足の真似」に興じることにした。
うぞうぞうぞぉ。
すかさず服部君に「盆踊りか?クオリティ低いわやり直し」って言われて撃沈する。
いいんだ…私の演技なんて所詮盆踊りなんだ…。
いじけてダンゴムシになっていると、和葉ちゃんが「どしたん?平次にいじめられた?」と言って撫でて抱っこしてくれた。
げへへ。
平次君の彼女はいただいたやで。
下衆な顔をして服部君にダブルピースをする。
服部君はコナン君並みに素早くいきりたった。
「おう降りんかいワレ。いてこますぞオイ」
「平次!空君虐めたらあかんで!」
「いや…ちゃうんや、こいつは高校生…騙されたらあかん…」
「何言うとるの!」
これはもう完全勝利ですなぁ。
でも可哀想なので和葉ちゃんに降ろしてもらう。
「後で覚えとけよ」と服部君の怨念を喰らってしまった。
私は嫉妬に震える青少年にとどめをさすことにした。
「ところで、和葉ちゃんとの仲は進展しましたか?あれから結構経ちますし告白ぐらい済んでるんですよね」
「俺お好み焼きのいい店開拓してんや。教えたるさかい工藤と食いにいこか」
「なるほど、進展無しと」
すごい正直な服部君は恐ろしい速さで揉み手モードへモードチェンジした。
変わり身が早いんだよな。
コナン君と二人してニヨニヨして揶揄うこととする。
「だめですよそんな後回しにしては。人間、いつ命を落とすとも限らないんですから」
「こんなゴッツイ説得力の言葉来るとは思わへんやん?くどー助けて」
「まぁ俺は正式に付き合い始めたから高みの見物っつーか」
「この場で暴れ出してええか。ネバダ虫並みに暴れたるで」
手足はいい子だから暴れたりしないんよ。
服部君は大きなため息ををついてしょげかえっている。
それを元気付けるため、私は話を脇へとずらした、
「でも聞きましたよ。剣道大会出ずにこの辺りを散策してるんですよね。どうしてです?」
「大会はいつでも出れるけど和葉への告白はこれを逃したらでけへんからな」
「優勝してトロフィーを渡して告白とかも相当唯一無二性がありますけど」
「アホ吐かせ。鬼丸に勝てるんならワイも苦労せぇへんわ。俺は生物兵器とちゃうぞ」
なるほど、剣道界の京極さんと言うべきものがいるらしい、
世界観違うと言うか、そのまんま本気で世界観違いのYAIBAの住人だからな。鬼丸氏。
そりゃバトル漫画の住人に剣道で勝てるわけもないか。
と、そんな話をしているそろそろ時間らしい。
コナン君達は現場で臨機応変に行動を取るから、私は別室で蘭ちゃんや和葉ちゃんとのんびり観察である。
ああ、それと。
そろそろちょっとアジトの手足に食事指導をしておかなければなるまいよ。
電波でアジトでまったりしている手足君に声をかける。
『手足君、食事はきちんと取れてますか』
『少ない…下っ端の冷たくない肉はとても少ない。腹減った』
『適正量です。運動はできてますよね』
『走る。選ばれし民は偉いので女王の命令守る。そのうちムキムキになる』
『腹タプタプですけど』
『女王の気のせい。選ばれし民はタプタプしてない』
こいつすごく自信満々だ……!
まあきちんと食事を取れてるなら大丈夫だろう。
ちなみに、通常手足は筋肉質な方がかっこいいとされる価値観を持つ。
これは生物兵器としてスペックが高そうな方が評価されるからだと思われる。
お相撲さん体型も高評価だが、ただのデブはだらしねぇとされる。
頭を使って取った獲物を他の個体に分け与えることもなく肥え太った、と言う意味で性格が悪いともされる。
間も無く倉庫の方が騒がしいことに気がついた。
このルートではキッドに会うことは難しいか。
せっかくトイレと称して人気のない廊下に出てきたのに。
ジリジリジリジリ、と火災報知器の音が遠く響いている。
煙幕に反応しているのだろうか。
ぼんやり廊下の壁にもたれかかって、私は息をついた。
そういえば、肉体君が私の体調不良について何か知ってるっぽい感じだったが。
今のうちに聞いてみることにしよう。
「あの、そういえば僕の体調不良について何か知ってるんです?」
『本当に気づいてなかったんですか?貴方にコバンザメみたいにくっつく変な魂がたくさんいますよ』
「え!?!?」
私は驚いて自分の体を確認した。
魂をグネグネして見てみるが、よくわからない。
「知らない……え、全然知らないし見えないし怖いんですけど!」
『多分小さくて見えないんですよ。貴方の魂は大きいから、張り付かれたらよくわからないのかと。つまり取り憑かれてますよ、貴方』
「うっそ、転生者たる僕が悪霊に取り憑かれてる…!?」
困った、道理で肩が重いはずだ。
私は困り果てて体をぐるぐる見渡した。
「ハァ!ってやれば消えますかね」
『僕も消えるんでやめてください』
「難しい…小さき命難しい…」
悪霊なんてどうしたらいいのか。
肉体君が居心地悪そうにモゾモゾ動いて私にひっつく。
『僕も霊的な視覚を得たのはここ最近ですから、気のせいかと思っていたんですが。でも、改めて見た貴方は大きすぎるし強すぎる。僕がメダカだとすれば、貴方はシロナガスクジラだ』
「ポワポワの綿毛ですもんね。可愛い。フッてやったら消えそう」
『喧嘩なら買います。その馬鹿でかい目玉に噛みついてやりますよ』
「地味に痛そうなのやめて」
肉体君がむすっとして私の魂の合間に体を潜り込ませて言った。
『鬱陶しい綿毛なんていつでも潰せたのに、なぜ僕を放置したんですか』
急に訳分からんこと言い始めるし。
鬱っぽいのかと心配して、私は肉体君の魂をモニュモニュと揉み込んだ。
「どうしました。悲しいことがありましたか。安心してください、僕がついてますから」
『あの、割と本心の話だったんですけどモニュモニュしないでもらえますか。質問に答えてください』
「ええ………?そんなの、貴方のことを家族だと思っているからです。自虐が過ぎますよ、我が弟よ」
『こんなに手がかかるワガママ盛りなのに?』
「それが可愛いんでしょう。母の愛は信じられて、僕の愛は信じられないんですか」
私が優しく優しくそう言うと、肉体君は少しだけ頬を染めてくるくる回った。
『…………えへへ』
幸せそうにくるくる、くるくる。
可愛いので私は魂でモニュモニュヨシヨシしてやった。
「それより問題はコバンザメですよ。これどうすれば取れるんですか」
『僕が取ってあげたいんですが、正直僕は小さ過ぎて太刀打ちできない。どす黒く輝くコバンザメの群れは凶悪そうで…』
「え、なにそれやばそう」
ともかく、今は放置するしかなさそうだ。
人を滅ぼせ、アストロの文明を築け、全てを支配しろ。
潮騒の如くに私を侵食する声は、ともかく、ひとまず無視することにしたのであった。
・餌係ウォッカ
『少ない。下っ端、もっとよこせ!』
「チッ……仕方ねぇな。あと1枚だけだからな。ったく、テメェそれでもネバダ虫か?」
『選ばれし民はかっこいい。文句あんのか。噛んでやるぞ』
「下っ端は上のために日々己を磨くもんだ。女王に見捨てられても知らねーぞ」
『……み、見捨て…!?!?』
「そうだ。兄貴の隣にいるに相応しいよう努力する。それが下っ端ってもんだ」
『………たくさん走る。ムキムキになる。お前いいこと言う』
「よし。俺が水持ってカウントしててやるよ。おら、がんばれ!」
『うおおおお!』