降谷零のクローンなオリ主とコナン世界   作:ラムセス_

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隻眼の水底終

 

 あれから、コナン君が決死の表情で風見さんを呼んで、犯人を追跡してもらったりと大騒ぎだった。

 

 私は阿笠博士に救助され、治療のために炭焼き小屋に向かうことになった。

 キャンプ場にあるロッジが偶然包帯を切らしていたばかりだ。

 

 加えて予定ではこのキャンプ場に泊まるはずではなかったため、宿をとっていなかった。

 発砲事件で下山しないよう警察から通達が出ている以上、下山も困難。

 そうして家無し子になってしまった我らは、宿を求めて炭焼き小屋には向かったというわけだ。

 

 炭焼き小屋には先客がいて、長野県警の大和警部と由衣刑事がいた。

 どうやら現場にあった炎上した車は二人の乗っていた車だったらしい。

 

 私はアスファルトに突撃した影響で全身血まみれ。

 包帯と消毒液を貰うため、阿笠博士がおずおずと炭焼き小屋の主人に声をかけた。

 

「すみません、包帯などはありますかな。子供が転んで怪我をしてしまいまして」

「ああ、薪を切るときに怪我をすることも結構あるから、たくさん備蓄してる。出してくるから少し待ってださい」

「よかった、お願いします」

 

 暖かい室内には薪ストーブが置かれていて、暖気がふわりと体を包み込む。

 私は全身の力を抜いた影響で、口から「ううう」という力無い呻き声が漏れてしまった。

 

 子供達がすわ一大事と騒ぎ始める。

 

「あわわわ!大丈夫ですか空君!」

「疲れちゃった!?」

「あの悪い奴になんかされたのか!?」

「大丈夫。少し疲れただけですから。みんな、僕の傷には触らないようにしてくださいね」

 

 常に自死命令は出しっぱなしにしているが、万が一があってはならない。

 子供達は心配そうに「痛い?痛い?」と眉を下げて泣きそうにしている。

 優しい子達だ。

 

 奥にある凍っていないタンクの水で傷口を濯ぎ、包帯を巻いていく。

 大和刑事がそこをひょいと覗き、ゆっくりとと口を開いた。

 

「リュックは下ろさねーのか」

「大切なものを入れているので」

「毛利探偵の娘にも聞いたが、学校にも行ってねぇらしいな」

「病気なので」

 

 のしのしと近づいて私の肩に手をおこうとしたので、コナン君が素早く叫んだ。

 

「待って!この子の血には絶対に触らないようにして!」

「………なるほどな」

 

 大和警部はしばし黙り込んで、目を細めてこちらをじっと見ているようだった。

 

「渡航経験はあるのか」

「海外の病院に入院してました」

「そうか」

 

 コナン君だけに囁くように、大和警部はそっと言葉を落とした。

 

「もしかして、無症状感染者か」

「!!!」

 

 コナン君は息を呑んだようだ。

 それから、目をゆったりと細めて大和警部に小さく問いかける。

 

「どうしてそう思うの」

「ボウズにしちゃ迂闊だったな。怪我に触れるな、じゃない。血に触れるなと言ったからだ。その手の病はいくらでもあるが、指に付着するだけでそんな剣幕になるとなると、な」

 

 コナン君は答えなかった。

 本当に無症状感染者であったとすれば、国内初の発見となる。

 無症状感染者の人権は、今のところ蔑ろにされている。

 隠していたことが知られたら、パニックとも言える騒ぎに発展するだろう。

 

 大和刑事が頭をかいてため息をついた。

 

「ところで、どうしてそんな怪我をしたんだ。なんにせよなるべく怪我は避けるだろう」

「……銃を持った不審者に襲われましたので。蘭さんが、撃たれそうになりました」

「!!っまさか、奴か!」

 

 大和警部は目を見開いて苦虫を噛み潰したような顔をした。

 自分を襲った奴と同一人物だと理解したのだろう。

 

「フードをかぶって、ライフルカバーをかけた銃にフルフェイスのヘルメット。緊急事態でしたので、崖上から弾丸特攻で助走をつけて体当たりしました。肋骨一、二本は持っていったかと」

「おいおいおい」

 

 半目になって大和警部は私に凄んだ。

 

「ガキが命かけてんじゃねぇよ。次撃たれるのはテメェだったかもしれねぇだろうが」

「僕が無症状感染者だとしても?」

「あぁ?関係あるかよ。守るべき優先順位の話だ。……だが、そのおかげで毛利探偵の娘が助かったのは誇るべきだ。よくやった」

 

 柔らかく微笑んで頭をわしゃわしゃしようと手を伸ばして、すんででやめてふうむと苦い顔をする。

 撫でてくれようとしたのだろう。

 それて、私が血液を気にすると踏んで途中でやめた。

 

「ありがとうございます。優しいんですね」

「警察官として当然のことを言ったまでだ。ボウズも、あんまり心無い言葉に取り合う必要はねーよ」

 

 大和警部が安心させるようにわたしにニッと微笑みかける。

 強く優しい人だ。なるほど、由衣さんが惚れるのも頷ける。

 

「だが、これで奴は逃げられねぇってことか」

「僕が突貫しましたからね。拳銃も落としていきましたから、拾ってあります」

「なんだと!?」

 

 すでに警察に提供してあるから見せられないのだが、ライフル弾の発射可能な特殊な改造銃であった。

 これ自体、有力な証拠になりうるだろう。

 

 今、山狩りが行われているらしい。

 犯人は原作では警察側の人間として山狩りに参加して周りの目を欺いていたが、肋骨を折った状態ではそうはいかない。

 これで詰みというやうだろう。

 

 と、そのあたりで激しく目眩を感じて倒れ込んだ。

 うう、世界が回る…!

 

 阿笠博士が心底心細そうな顔をしてわたしを覗き込んだ

 

「体調が悪いのかの。やはり連れてくるべきでは…それに顔色も酷い」

「崖から飛び降りた時、どこか打ったのかもしれないわね。検査しないと」

 

 コナン君も心配そうに拳を握りしめている。

 あああ、皆ををこんなに困らせるはずじゃなかったのに…!

 犯人に致命的な楔を打ち込むことはできたが、これでは収支はマイナスだ!

 

 というか、弱るのが早過ぎる。

 私が気付かなかっただけで、これまでずっとコバンザメは私の活力を奪い続けて来たのかもしれない。

 

 私はうつ伏せで呻きながら思考を巡らせた。

 

 というかこのコバンザメは本当になんなんだ。

 どこから湧いた何者なんだ。

 人間の魂に見えるが、あまりに変質しすぎていてよく分からないし。

 

 私はネバダ寄生虫の女王ゆえに恨みの覚えなら腐るほどあるゆえに、その正体がわからない。

 

 正体とは魂の根幹だ。

 それが分からなければ除霊など話にもならない。

 

 最近捕まえた組織の奴らの下っ端霊か…いや、ピンとこないな。

 やはりネバダ虫被害者の霊が固まってコバンザメしていると考えた方が適切か。

 いや、それにしてはネッチョリしてるような。

 

 ああ、また目眩が…。

 

 バタンキュー、と次の波を耐えきれず。

 私は情けなく意識を手放したのだった。

 

 

 

 

 

 次に目が覚めたとき、私はおうちにいた。

 阿笠邸だ。病院に駆け込むこともできないから、阿笠邸に救急搬送されたのだと思われる。

 

「目が覚めたか、空!体調は問題ないか!」

「コナン君……僕は大丈夫です。例の銃撃犯はどうなりましたか」

「山狩りは無事にうまくいったぜ」

 

 コナン君が私の頭をわしゃわしゃしてにっと微笑んでくれた。

 

 犯人はやはり、こざかしくも山狩り側に警察官として参加しようとしていたらしい。

 それで山狩り中に足を滑らせたと偽って私の怪我を誤魔化そうとした。

 それは途中までうまくいき、犯人は病院に運ばれたのだが。

 

 私が右肋骨を肘鉄したことが諸伏警部に知られていたのが致命的だった。

 それと、あの後元太君が犯人に噛み付いた時の証拠品も発見。

 諸伏警部の追及に遭い、諸々の証拠と共にしょっぴくことに成功したらひい。

 

 犯人もあばらが折れた状態では抵抗もできず、そのまま御用となったというわけだ。

 

 東京での殺人事件との関連はまだ証明されていないから、毛利探偵の奮闘はまだまだ続くことになるだろう。

 もっとも、改造銃が押収されているのだから、時間の問題だとは思われる。

 

 コナン君は「灰原を呼んでくるよ。俺は一旦探偵事務所に帰るから」と言って去っていった。

 

 その後ろ姿をぼんやり見ながら、私はベッドに寝転んだ。

 何もする気が起きない。心が沈んで、どこか鬱々としている。

 

 しばらくすると灰原さんがやってきたようだ。

 

 灰原さんは私のための温かいお茶を持ってきてくれて、優しく微笑んだ。

 それから、ゆったりと口を開く。

 

「何が起きてるか、あなたはもう自分のことを分かってるのよね」

「………言えません」

「どうして?」

「……」

 

 だって。

 気持ち悪いだろう、転生者なんて。

 中身が別人の誰かが、死人のくせに子供のふりをして生者ぶって現世を謳歌していたら。

 

 悪霊に取り憑かれてる?

 突然スピリチュアルにハマってどうしたって心配されるだけだ。

 呆れた顔、困惑の顔を向けられるのを私は耐えられない。

 

 排斥されたくない。受け入れてほしい。

 

 心無い時はいつだって損得勘定で隠していた事実が、今は怯えと愛を求める心でいっぱいだった。

 

 灰原さんが、私を優しく抱きしめる。

 柔らかな肌が、体温が、私を包み込んで離さない。

 

「いいわ。怖くなくなったら言ってちょうだい。私はそれまでずっと待つから」

「僕が、怖いと……」

「そんなに震えて怯えてたらすぐわかるわよ。怖がりなのね。いい子」

 

 頬をなぞって、愛情いっぱいに額にキスをして。

 私は体の力を抜いた。

 

 こんなにも愛を与えられている。

 ならば私も、そうして愛を与える側になるべきだ。

 

 私は自らの権利権能たる「転生特典」を魂の力そのものを、己からベリベリとはがし取った。

 痛い、痛い。神経なき魂が悲鳴を上げる。

 そして肉体君へとむぎゅ、と強引に押し付ける。

 肉体君が安全部屋の中で膨れ上がり、すごく喚いている

 

 これで、私はただの魂である。

 もはや私に迫る悪霊から身を守る術はない。

 

 

 ぴんと、どこか決定的な場所にコバンザメの舌が入り込む。

 かくんと体の力が抜けた。

 

 そして、灰原さんの首を掴んで締め上げる。

 

「ぐっぁ!?!?」

「邪魔です。退け、人間」

 

 そのまま壁に叩きつけ……る前に、ギリギリの力加減で彼女の意識を落とす。

 声は殺せと叫んでいたが、それでは本末転倒だ。

 

 このままではコバンザメはいずれ私を飲み込むだろう。

 ならばその前に敢えて受け入れて、この身丸ごと滅ぼすまで。

 そうして肉体君が次に行けば。コナン君達と再会できれば。

 私たち家族の完璧な形は保たれる。

 

 声がする。

 私の根源をなす声が。

 「ネバダ虫をまとめ上げ、帝国を作れ」と。

 

 私は翼を広げて、通信を開始した。

 

「海に住まう我が手足よ、僕を迎えに来い。陸に住まう我が手足よ、城を作れ。女王に相応しい城を作れ」

 

 全然城とか興味ないが、命令なので仕方ない。

 そのまま軽く食料をリュックに詰めこんで外へ出る。

 

「待って、お願い、正気に戻って……!」

 

 灰原さんが苦しそうに震える声で床を這う。

 こんなに苦しそうな灰原さんを放っておくのは苦しすぎる。

 でも声の方が優先なので逆らえない。

 あまりに胸が張り裂けそうで吐き気すら覚えながら、体はそれでも前へ進む。

 

 見られることも厭わず、羽を出したまま街を歩く。

 

 位置指定をきちんとしたから、港には海手足がわんさかやってくるだろう。

 私はそれに乗り、拠点に身を隠すのだ。

 とりあえず、海手足全力のクロールでたどり着ける範囲に行くことになるから。

 

 手足のネットワークはすでに掌握しつつある。

 各地に出現地衣類の形をした病巣型が中継地点の役割を果たしているから、連絡はスムーズに取れた。

 

 手足よ、手足よ、女王がお前達の頂点に立つ。

 讃えよ。そして我が声を聞け。

 お前達は歓喜のままに、意のままに破壊を撒くのだ。

 

 今現在、手足は人間との戦いにおいて劣勢に立たされている。

 それをひっくり返し、世の人類を根絶させる。そして我々の文明を形作る。

 それが私に課せられた使命である。

 

 使命はどうしようもないので、あとは肉体君を無事逃すだけだ。

 

 このコバンザメどもは私と深く繋がり、もはや私の意思などほとんどないが。

 

 全てが致命的な結末を迎える前に、自死してやるくらいはできそうだ。

 





・分岐について
ノーマルエンドが終わったら「トゥルーの話」という章でトゥルーエンドを描く予定。
まだまだ続くんじゃよ。
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