1ヶ月後。
海手足に跨って出航した私は、途中島に寄るなど転々とした後、現在インドネシアに居を構えている。
5階建ての大型ショッピングモール跡地に陣取り、その全てを病巣型で覆ったのだ。
私がくると知って急遽植林してくれた地元手足君達には感謝しかない。
可愛い手足達には労りの言葉をたくさんかけてやっている。
「では、3度目の一斉破城作戦はうまく行ったんですね」
『はい。各地の同胞に残った人員の確認をさせていますが、損害は想定より軽微。詳細は別途司書型をご確認ください』
「ありがとう妨害型君。君は頼りになりますね」
『!!!もったいなきお言葉!』
破城作戦とは、人間の支配領域への一斉侵攻のことである。
人間と我々アストロの支配領域は割とはっきりと分かれている。
つまり命令拡散機のこっち側か、向こう側かだ。
そこで、手足へのアクセス形式を変更。
命令拡散機を無効化することで、壁内へ一斉攻撃を仕掛けることにしたわけである。
この1ヶ月で3度、大侵攻を仕掛けている。
いくつもの都市が壊滅、大幅に手足の生存圏は拡大している。
最前線でたくさん手足が死んでしまったが、その分たらふくうまげを食べれた子も多く、おおいに収穫はあったと言えるだろう。
私は微笑んで妨害型君に声をかけた。
「記憶型君と司書型君を呼んでくれる?戦況を確認したいからね」
『かしこまりました、女王よ』
妨害型君が恭しく一礼する。
これは人間の文化を学んで、それを導入しているものだ。
3キロほど離れた拠点には人間牧場も整備されている。
私が監修したから比較的整備されている。
とはいえまだまだものにはなっていないが、人間の生態を観察するのには十分だろう。
同じく世界2000ヶ所に同じような牧場を作って、現在ノウハウを共有中。
人間はあまり絶望すると自殺してしまうからな。
適度に衣食住は提供してやらないと赤字になって経営が成り立たない。
同族が救助しにきたりもして鬱陶しいし、なかなか軌道には乗らないだろう。
そのうち安定生産できるようになっても、しばらくはあくまで人間は高級食材になる予定だ。
人間文明を滅ぼす前にきちんと管理体制を整えておかないと自らの首を絞めるからな。
小さなことはコツコツと。
さて、入ってきたのは風船のような肉塊と、クラゲに似た平坦な頭を持つ多足の手足だ。
『女王陛下、女王陛下、拝謁の栄に浴したこと誠に光栄でございます!ます!』
「司書型君。君の整理した世界各地の侵攻状況のデータを見せてくれる?」
『勿論でございます!!』
そそ、と手渡された肉塊に触れると、微弱な電波によって膨大なデータが流れ込む。
これは記憶型の子機だ。
記憶型自身はとても大きく動く機能がないため、こうやって子機を使って司書型が管理しているのだ。
確認していくと、非常に分かりやすく、視覚的に世界地図とデータが重なり合うように脳内に流れ込む。
「うーん、意外とアメリカへの侵攻が遅い。兵器が潤沢だからかな。あまり殲滅しすぎると核が来るから深入りしないようにしようか」
『かしこまりました女王』
「あと寒冷地域は街と住居をもっと重点的に抑えて、補給路の確立を急いで。冬が来たら全滅する」
『おお、女王陛下のご慈悲に感謝を』
「最後に、ヨーロッパにもう少し侵食したいかな……人員増で、ロシア側の手足を移動させて。あまりあっちに行きすぎても寒いし意味がない」
私が指示をすると、こくこくと妨害型君が頷いた。
妨害型の首脳陣が振り分けて各地に伝える形になっているのだ。
人間的な組織づくりはあまり好むところではないが、効率性という意味で見習うべきところが数多くある。
司書型は記憶型とともに記録に努め、戦況はキリンのような大型の監視型によってくまなく監視されて、歩兵は手足。
戦車に当たるのが大きな体格と素晴らしい筋力を誇る戦争型か。
六本足の牛の姿をした輸送型によって物資を運び、兵站を揃える。
まあ、私みたいな素人でも運用できる程度のものだ。
なにせ手足はなんだって食べるし、無尽蔵に湧いてくる。
多少飲み食いしなくとも全然平気だ。
人間より遥かに頑強な生き物だからこそ、素人の軍隊運用でもなんとかなっていると言えるだろう。
私は「軍事戦略入門(上)」という本をめくりながら、私の隣で縮こまる手足を撫で回した。
彼は阿笠邸から連れてきたペットの手足君である。
アジトでも一緒だったから、せっかくなので連れてきたのだ。
手足君はおずおずとこちらを見て首を縮めた。
『女王、変?だいじょぶ?お腹痛い?』
「へ、なんでですか?」
手足君は全くもって困ったという顔でより小さくなっている。
『女王は美味げ大好き。食べちゃダメって言う。急に好きじゃなくなった。変、変』
「……僕って人間好きだったことありましたっけ?」
よく分からない。記憶が曖昧で、なんとなく目眩がする。
でも人間なんて啄んで消費するだけのものだし、特別好きでいる理由がない。
『気のせいですよ。僕はいつも通りだよ?』
「女王……選ばれし者がずっと付いてる。心配しないで。いつも元気付ける。よしよし」
『可愛い手足ですね』
何故かヨシヨシされてしまったので、私は首を傾げた。
周囲の妨害型や司書型、護衛の戦車型がカチカチ歯を鳴らして威嚇している。
「嫉妬」「あいつ態度デカい」「嫉妬」とブツブツ周りが言っているのを全然気にした様子もなく、手足君は私に擦り寄っている。
肝座りすぎである。
「では、僕は少し寝ます」
『はっ、おやすみなさいませ、女王陛下』
皆が傅く中、私は手足君だけを連れて寝室へと戻る。
と言っても、寝室は奥の元バックヤードを改装したものだ。
寝室はベッドだけが人間向けのそれで、家具コーナーから持ってきたものを使っている。
汚れたら地衣類のような病巣君の上で寝ようかとは思っているが、それまでは人間のベッドでいいかという考えである。
ああ、今もまた声がする。
「文明圏を作れ。手足の文明圏を作れ」。
「言葉を記録する方法を得ろ」。
「人の科学を吸収しろ」。
私は従順にぼうと空を見て頷いた。
「かしこまりました。お言葉のままに」
文字に関しては非常に難しいだろう。
幾重にも同時に情報をやり取りする手足は、文字では情報が制限さすぎて使いづらい。
やはり人間のコンピューターなどに代表される科学的な機器を文字代わりにした方がいいかもしれない。
それには科学への深い理解が必要だが……科学者でも攫って知識を搾り取るべきか。
科学者といえば灰原さんと阿笠博士はどうしているだろうか。
最近めっきり会っていない気がする。
どうしてだったか、そう、命令、仕事だ。仕事が終われば多分会える気がする。
早く人類を滅ぼしてみんなの元に戻ろう。あの暖かい場所に戻ろう。
ここはとても寒い。
毎日の日課の電波を送らないと。
なんて送るんだっけ。どうして送るんだっけ。
頭が痛い。
ああ、そういえば私の飼育をしていた研究者がいたはずだ。
名前は……思い出せないが……優秀だったはずなので手足に攫わせて脳を、
ずきりと頭が痛んで、私はうずくまった。
わたわたと慌てて手足君がやってきて私の顔を覗き込む。
『女王、女王、どうした!?痛い?』
「大丈夫です。ええと、何を考えていたんだったか…?」
私は首を捻ってふわふわする思考で唸った。
短期記憶もおぼつかないとは情けない限りだ。私も歳だろうか。
何故か魂の領域に知らない巨大な硬い箱もあるし、そこから声もしているような気もする。
『出して、出してよう!お願いだから出して兄君、しんじゃう、ぐずっ、兄君が死んじゃうから!!おねがい、おねがいだからぁぁあ!!!」
なんて言っているのか分からないから、放置すべきだ。
手を出すべきでない。最期の時まで。
絶対に。
・コナン君達
「あいつのSOSは受け取った」
「たとえどんな結末を迎えたとしても、俺たちはあいつの元に行かなきゃいけない」
「あいつの送ってきた位置情報の暗号は、全て解けたから」
・進捗
次ぐらいでノーマルエンドを終えてトゥルーに入りたい。