降谷零のクローンなオリ主とコナン世界   作:ラムセス_

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RE:降谷零の苦悩と分岐点終

 

 夜、私はわくわくソワソワ座って電話がかかってくるのを待っていた。

 

 降谷さんにはでっかいでっかい釘を刺しておいたからな。

 あれならきっと電話してくれるだろう。

 推しと喋れるニコニコワクワク体験である。

 早めに寝ると言い訳して、早めに自室に籠る行動も仕方ないと言えるだろう。

 

 鍵をかけて、私はソワッと正座した。

 

 弟君───実のところこの肉体の本来の主人だそうで、肉体君と呼んだ方が正確かもわからないが───が静かな口調で口を開いた。

 

『オリジナルはきっと、あなたのことを想って遠ざけようとしてるんでしょうね』

『…?なぜ?想う?』

『そしてそれをあなたは理解し得ない。愛を得ていないから』

 

 何が言いたいかわからず首を傾げると、弟君はため息をついたようだった。

 

『午前中も言っていましたが、どう言う意味ですか』

『僕はあなたのことを短くも濃厚に、共に見てきました』

 

 静かに、しかし確かな口調で弟君は私を糾弾した。

 

『貴方は単純に、自分を愛していない』

『…………』

 

 決定的な言葉のように聞こえて、私は困惑した。

 身に覚えがなかったのに言い返せない。

 

『そういうつもりは無いんですけれど』

『愛を諦めてふわふわと浮雲のように流れて、だから誰に愛されずとも誰に憎まれようとも、恨みもしないし悲しみもしない。完璧な生物兵器とはよく言ったものだ』

 

 まるで自嘲するような響きをもって、彼は肩をすくめた。

 

『僕は恨みました。当然恨みました。こんな誰とも知らない研究者たちの勝手で惨めに死ぬかもしれないと思って、全てを憎みました』

『!!!』

『でも貴方は恨んでなかった。そもそも、自分が愛されるなんて思ってなかったから』

 

 私はううむ、と思い悩んでおずおずと口を開いた。

 

『あの、なぜ僕は公開処刑されてるんですか』

『患者に所見を伝えてるだけです。どうやらこれは必要なことのようですから』

『必要?』

『はい。言語化するのは難しいのですが、これからあの未来を回避するには、何が必要かがわかるといいますか』

 

 なるほど、時間遡行だけでなく限定的な未来視の力もあるらしい。

 

 望む未来に向かうための道筋がわかる、あるいは選択肢を可視化する力というべきか。

 非常に強力な能力だ。

 こんなに幼いのに、使うのに凄まじい精神力が必要な能力を完璧に使いこなしている。

 尊敬するばかりだ。

 

『ん?それで僕の処刑が必要なんですか?』

『はい。なのでストレートに言うと今後のために愛を自覚して真人間になってください。早急に。急ぎの案件です』

『そんな。それ長い年月かけるやつじゃないですか』

『諦めて兄君が愛されることに慣れればいいんですよ。きっと……』

 

 

 あの顛末は、兄君が愛を最後の最後で理解しきれなかったが故の結末だから。

 

 

 そのあまりにも切なる響きで、私は何も言い返すことができなかった。

 

 と、そのあたりで電話電話だ。

 私は思考を切り替えて通話ボタンを押した。

 冷静な声がスピーカーから流れてくる。

 

『僕だ。今はいいかな?』

「はい。そちらは耳など問題ありませんか?」

『勿論。誰も何も聞いていないと断言できる』

「なら話してもよさそうですね」

 

 私はリラックスして部屋の椅子にまたがってクルクル回った。

 

「さて。まずは僕が貴方について何を知っているのか。すなわち現状の整理と確認から始めたいと思います」

『妥当だな。聞かせてもらっても構わないかな?』

「貴方の名前は降谷零。警察庁警備部警備企画課に所属する、現在警視の警察官」

『…………』

「現在、とある組織に潜入中。コードネームはバーボン。偽名は安室透で、探偵としての表の顔を形成中」

 

 重苦しい沈黙が滞留した。

 高速で思考を巡らせているのだろう。降谷さんは普段よりゆったりと言葉を発した。

 

『質問をいいかな』

「知りすぎていることに関しては、おいおい分かるので順を追って説明したいと考えています」

『なら続けて』

 

 口調は軽いが、早く白状しろ、の威圧が多分に含まれている。

 焦っているのだろう。

 

「では次に、僕の来歴について。つまり僕の側の情報開示です」

『それなら僕の方も自由研究がてら調べたことがある』

 

 降谷さんが尋問にも似た口調で話始めた。

 

『戸籍は見当たらなかった。住民票もなかった。数ヶ月以上前の足取りもつかめなかった。今は阿笠博士という発明家の家に滞在している。関係は親戚とのことだが、戸籍から該当の人物は見つからなかった』

「!!すごいですね、この短時間でそこまで調べ上げるとは、さすが探り屋」

『僕の得意分野だからね。それで、実のところどうなんだい、アンノウン君』

 

 私はうむ、と頷いて背もたれに体重を預けた。

 

「僕の始まりは、生物化学第七研究所となっています。組織で生物兵器を専門に研究している施設ですね」

『っ、最近何者かに襲撃されて人員が全員死亡している場所だな』

 

 流石に知っていたらしい。

 もしかしたらバーボンも後始末に駆り出されたのかもしれない。

 

「僕はその培養槽で目が覚めました。培養期間は4年ほど。薄暗い地下室で、僕の兄弟たちがたくさんたくさん培養されていました」

『………は』

 

 一瞬、降谷さんは間抜けな声を出した。

 思考が追いついていないのか。

 何かいうことがあるかと思って間をとったが、彼が何かを言うことはなかったのでそのまま言葉を続ける。

 

「培養槽が割れたので、僕は逃げ出しました。生物兵器として生み出された僕には、そこにいた全人員を皆殺しにして逃げ出すことは容易いことだった」

 

 未だ驚愕に言葉が出ないのか、わずかな吐息だけが耳を掠める。

 

「細胞採取か血液採取か、油断しましたね、オリジナル」

『…………』

「優秀な人間のクローンは優秀な生物兵器の素体になる。そう言う理屈です」

『そんな………馬鹿な、冗談だろう?』

 

 信じられないらしく、私はクスクスと笑って本題を切り出した。

 

「僕が研究所の人員を皆殺しにした理由は他にもある。それは彼らの生み出したクローンには、素体になった人間の記憶が焼き付いていたことだ」

『っ!!』

「僕は生まれつき、貴方の来歴全てを知っていた。貴方の桜の誓いも、苦い思い出も組織で成り上がる苦悩も」

 

 私の歌うような言葉に、荒い息がかすかに向こう側のマイクを撫でているのが分かる。

 

「それが、貴方の正体を僕が知りすぎている理由です」

 

 絶句している。

 思考が止まりかけなのか、焦ると喋るこの男がこんなに沈黙を保っているのがちょっと予想外だ。

 ほぼ思考停止状態なのだと思われる。

 

「でもそうなると、非常に困ったことになる。降谷零のため、絶対に研究員もこの研究所のデータも残しては置けない」

『………クローン技術を通して、僕の正体がバレる恐れがあるからか』

「はい。だからデータを全て消し、研究員を殺戮した」

 

 私は軽く笑って肩をすくめた。

 

「安心してくださいオリジナル。貴方を脅かすものは残しませんでした。データは完璧に削除し、生き残ったものはいない」

『………』

「とはいえ、当日休暇などで取り逃した人員もわずかながら存在しています。後日名簿を送りますので、暇があれば対処をお願いします」

 

 「僕からは以上です」と言葉を締めくくる。

 何かいいたげな空気のまま、それでも長く長く沈黙のままだ。

 

 しばらくして唐突に、押し出すような声が出る。

 

『………君にとって、僕は見ず知らずの他人だ。いくら記憶があっても、いや、あるからこそ悍ましく恨めしい人間のはずだ』

「うん?」

『なぜ、僕を助ける真似をしたんだ』

 

 言っている意味が理解できなくて、私はたくさん疑問符を飛ばした。

 恨む理由なんて何一つ無いだろうに。

 降谷さんは私の元になった人間というだけだ。

 

 記憶があるからなんだというのか。

 映画を見たとして出演者を恨む道理はないだろうに。

 

 困惑しつつ、ひとまず本音を口にする。

 

「それはもちろん、貴方の記憶と正義感に感銘を受けたからです。暖かな思い出が胸に沁みて、優しくて、嬉しかったからです」

『……』

「僕のものでなかったとして。あんな暖かくて優しい記憶を守りたい。そう思ったからです」

 

 暖かい記憶は、私には無い熱量に溢れていた。

 まるで私が情熱的な人間になれたかのような気持ちになることができた。

 これ以上ない体験だ。

 私は降谷零のことがもっと好きになった。

 

 表情は想像できない。

 ただ、「明日また、連絡する」とだけ言って、電話はあっけなくふつりと切れた。

 

 

 私はスマホを置いて、くたりとベッドに身を投げ出した。

 

 はー、緊張した。

 弟君がジト目で私を睨んでくる。

 

『感銘を受けたとかなんとかいってましたが。どうせ警察学校のオリジナルの記憶が見てて楽しめたから、お布施代わりにアジトを壊滅させたんでしょう』

『そうとも言う』

 

 弟君は目を三角にしてガミガミ言い出した。

 

『あのですね!オリジナルは貴方を幼児だと思ってるんですよ!自分のせいで知らない記憶をぶち込まれて弄ばれた被害者!それが自らの手を汚して唯一手の中にある暖かな記憶に手を伸ばしたと思ってるんです!!!』

『すごい早口ですね』

『ぶっ飛ばしますよ。確かに僕はその記憶のせいで憎しみを募らせたタイプですから分かりますけど!』

 

 どうやら弟君に関しては降谷さんの想像通りの心境になっていたらしい。

 私は大きく首を傾げた。

 なんか憎む要素あったっけ。

 

 弟君は憤慨して器用に魂だけで地団駄を踏んだ。

 

『だから!自分はこんなに惨めなのにこいつは青春謳歌しやがってお前のせいで僕がこんな目に遭ってるんだぞクソが!って恨む気持ちです!』

『逆恨みじゃないですか』

『んなことわかってんですよ!!!人心無野郎!!!感慨ゼロで研究所職員全員殺す奴があるか!!!』

 

 怒られてしまって、しゅんとして私は正座するなどした。

 弟君は完全に怒り心頭で私を掴み上げた。

 

『質問!!つまりオリジナルはどう考えていたでしょう!?』

『ええっと、突然のクローンガキ面倒臭い?』

『不正解!今夜はフルで僕の説教です!!』

『そんな。お慈悲を』

『正解は「自分のせいで地獄に落ちた子供がいることに責任を感じて心を痛めてる」でした!』

 

 弟君の説教に、私はグルングルンに首をかしげた。

 分からないことだらけだ。

 

『僕なんかに憐憫ですか?』

『それです、まさにそれ』

 

 ズビシ、と魂の一部を突起にして指さされる。

 まっすぐな瞳が私を捉えた。

 

『貴方は愛を諦めている。ふわふわ浮いて、他人の想いを拒絶している。……きっと僕より長く愛を得られなかった人だから』

『………』

『少なくとも僕は兄君を慕っています。きっと今は誰よりも。命の恩人。僕を命懸けで救ってくれた貴方だから』

『それは今この時間軸の僕ではありませんよ』

『関係ありません。あなたは、そんな愛を手にできる人だ』

 

 そんなことが、わたしにできるだろうか。

 

 私は恥ずかしくなって深々と頭を隠して丸まるなどした。

 そろそろ恩赦があってもいいのではなかろうか。

 

『僕はコンテンツ的に美味しく無いですからどうかこのあたりでご勘弁を。命乞いしますから』

『ダメです。恥ずかしがらず、大人しく説教されて真人間になってください』

『ひぇ。僕顔真っ赤ですよどうしてくれるんですか』

『自業自得です』

 

 その晩、弟君の説教は夜中まで続いたのであった。

 





・その頃のオリジナル
すごいぐるぐる考えてる。
そんなバカな3割、もしそうだとしたらこんな酷いことがあるか3割、どう謝罪すればいいんだ4割。
SAN値チェック。

・クローン
一晩中説教されてぶすくれた。
そんな人の心がまるでない野郎みたいに言わなくても。ぶすっ。
弟の言語化能力が高すぎて、言い返せなくて膨れるのみである。
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