降谷零のクローンなオリ主とコナン世界   作:ラムセス_

178 / 179
真実のかけら

 

 最近、降谷さんの帰ってくるタイミングが途切れ途切れになってきている。

 どうやらとても忙しいらしい。

 

 代わりに、時々風見さんが私の様子を見にきてくれているが。

 

 風見さん楽しいんだよな。

 どこまで事情を聞いているか知らないが、私に対して敬語だし、おっかなびっくりだし。

 完全にミニ降谷さんを相手にする感じの対応だった。

 

 「風見」って冗談まじりに声真似したらめちゃくちゃびっくりして「すみませんでした!!!」って謎に平謝りしたし。

 小動物かよ。

 

 さて、今日も帰りは遅かったから、作り置きしたご飯を出して温めている。

 食べたらまた出立するらしい。

 一体いつ寝ているのか、降谷さんの様子には確かな疲れが見えた。

 

 温め直したチキンカツを元気よくかっこんで「美味しい!」と降谷さんは破顔した。

 お気に召してくれたらしい。

 

「帰ると暖かいご飯が出てくる。なんだろう、これだけで生きててよかったと思えるよ」

「大袈裟ですよ」

「大袈裟なものか。この泥のような体で自炊する辛さも君ならわかるだろう」

 

 降谷さんは大きくため息をついた。

 よほどお疲れのようだ。

 ブツブツと「ジンは無茶振りしてくるし、爆弾はまだ片付いてないし、ベルモットはダル絡みで荷物持ちさせてくるし」とぐちぐち言った。

 

 そしてむっつりとにがり切った顔をして私に問いかける。

 

「ところで、君は生活していて幽霊を見たことあるかい…?」

「僕は無いですね。現在進行形で取り憑かれてますけど」

「そうだった。いや、本当に日常生活に支障が出てるんだよ。組織では恨みのこびりついたような場所を夜にこそこそするから」

 

 降谷さんは大袈裟に震え上がった。

 どうやら本気で怖がっているらしい。顔が青ざめている。

 

「だってさ、街中を透明なヒグマが練り歩いてるみたいなもんだよ?率直に命の危機じゃないか」

「そのヒグマ、ターゲットに狙いを定めたら家まで着いてきたりしますよ」

「怖。怖がらせるのやめてくれないか。本気で怖くなってきた。ほら鳥肌」

「だから僕にはもう憑いてますってば」

「畳み掛けるように怖がらせてくる」

 

 すっかりちいかわになってしまった降谷さんが小さく縮こまってしまった。

 私は元気づけるようにガッツポーズを作った。

 

「そんなに居ないので大丈夫ですよ。連れてきたら僕がフッてやって追い払いますから」

「君ならフッてやって追い払えそうだな…あんなに大きくて強そうだし」

「そんな。ふくふくのひよこ2匹ですよ」

 

 私の視界から見た姿は、白くて丸い餅が2匹と言った感じだ。

 プレーンな丸餅。どこにも突起なんてないし、時折グネグネ身を捩って震える。

 紅子さんはデカひよこに見えてるらしい。

 それが何故か、降谷さんにはキングギドラに見えてるらしいんだよな。

 

 降谷さんは訝しげな顔をして片眉を上げた。

 

「でも強そうな鉤爪ついてたよ。角もゴツいのあった」

「僕から見たらすべすべの餅でしか無いんですけど。イメージの世界の話で、見る人によって姿が異なるのかもしれませんね」

「いやでもあれは都市を蹴散らすタイプの見た目だったよ」

「そんなに…!?」

 

 見解の相違ということらしい。

 魂の視界は正直ふわっとしているからな。

 当人にとっての脅威度が視界に現れていても不思議ではない。

 私と弟君の視界がほぼ同じなのは、何か魂に関する繋がりがあるのだと思われる。

 詳しくは紅子さんの見解を待ちたい。

 

「ところでここのところ忙しいようですが、組織で何か動きがあったんですか?」

 

 私が聞くと、少しだけ降谷さんが躊躇った。

 そして暗く沈んだ瞳でうっすら笑みを作る。

 

「キールがFBIの手に落ちた。奪還作戦を組み立てている最中だ」

「なるほど」

 

 赤と黒のクラッシュ、ということのようだ。

 降谷さんはくつくつとせせら笑った。

 

「彼は、工藤新一はFBIに付いたようだ。ならば手加減はできない。悪いが全力で行かせてもらう」

「強敵ですよ、コナン君は」

「わかってる。西多摩市のツインタワービルの時も、この間も、彼の輝きは眩いばかりだった。相手にとって不足はない」

 

 ギラギラとする瞳はどちらかというと悪そうな輝きに満ちている。

 怖い顔だ。悪い奴の顔ともいう。

 自分の憎悪を正当化してそうな、あんまり健全でない様子である。

 

 私は心配して声をかけた。

 

「何か思うところがありそうですね」

「君ならわかるだろう?日本で好き勝手するFBIに功績を掻っ攫われたら立場がない。しかも赤井秀一が………」

 

 そこまで言ってから、降谷さんがはた止まった。

 同様に揺れる瞳が私を捉える。

 

「待て、君は。あれを知らないのか」

「あれとは?」

「…………」

 

 降谷さんは答えなかった。

 だが、私の培養開始の時期について考えているとしたら、想像はつく。

 諸伏景光の自殺について私が知らないことに気がついたのだろう。

 

 私は穏やかに笑って肩をすくめた。

 

「貴方の口ぶりから、諸伏景光が死亡しているのは理解しています。僕の培養が開始した4年前以降になにかあったのだとぐらいは、僕もわかっていますから」

「…………ごめん」

 

 なぜか降谷さんは謝った。

 すっごくしおしおだ。鬱100%の顔でそのまま塞ぎ込んでしまった。

 

「どうして謝るんですか」

「僕のせいで君に喪失を押し付けた。僕の感情は、君の感情なのに」

「確かに諸伏景光のことは憎からず思っています。あの輝かしい記憶にはいつも彼、諸伏景光の姿がありました。オリジナルの親友。優しい彼」

 

 私の言葉に、降谷さんが拳を握り込んだ。

 そして暗く澱んだ瞳でぽつりと、言葉を落とす。

 

「奴が殺したんだ。不必要な情報を得た公安の捜査官を殺した。あいつが、赤井秀一が」

「そう、でしたか」

 

 その憎悪は深く、澱んだ瞳の奥に殺意がごうごうと燃え盛っている。

 絶対に殺す。仇を取る。彼の声無き声はそう明白に語っていた。

 

 私は困って小さくなった。

 が、彼のためにも正しいことを教えねばと気力を奮い立たせて顔を上げる。

 

「あのですね。これは僕が魂パワーで知ってるこ───あわわわわ兄君の言ったことは忘れてください」

「???」

 

 私の内輪揉めに、降谷さんは混乱して疑問符を乱舞させた。

 「ええっと、何かな?」と首を傾げているが、私はというと弟君に邪魔されて言葉を紡げない。

 弟餅に巻きつかれて言葉が喋れないのだ。

 

 私は餅を押しのけて息をした。

 

「ぎゅむっっっ!何で邪魔するんですか!───邪魔するに決まってるでしょうオリジナルが使い物にならなくなる!───別に諸伏景光について説明するだけで───人心無野郎!」

「あの、仲良く、仲良くね…?」

 

 激しく兄弟喧嘩する私たちを前に、降谷さんが困り果てている。

 すまんね。今中では餅がむぎゅむぎゅ押し合ってるんだ。

 

 最終的に「僕から言います!人心無野郎は無自覚にとどめを刺す恐れがありますから!僕から角が立たないように!言いますから!」ということで弟君に任せることになった。

 私は奥の方でコロコロに丸まって文句を言うのみである。

 なんでいなんでい、私は人心無野郎じゃないわい。

 

「えー、兄君に代わりまして僕が説明します。ご承知おきください」

「う、うん」

「まず、僕らは超常の異能を持ちます。兄君は生きることについて。僕は時間についての能力です」

「時間について……それはタイムスリップのような?」

「はい。だから未来や過去についての情報を断片的に得ています。それを前提として聞いて欲しいのですが」

 

 静かな声色、論理的な口調で弟君が決定的な言葉を口にした。

 

「諸伏景光の死亡に関して赤井秀一は何ら悪く無い。諸伏景光は自死した。それを止め、赤井秀一は彼を保護しようとすらしていた」

「─────」

 

 空虚な表情で降谷さんが黙り込む。

 そして、濁った瞳で私たちを睨み据えた。

 恨みの身に支配された瞳だ。

 

「奴が保護なんてするはずがない」

「間違いなく保護のため声をかけています。赤井秀一本人に確認を取ればわかります」

「奴が言った。奴の拳銃には返り血がついていた」

「赤井秀一の拳銃を奪って自死しています。それから赤井秀一がその拳銃を回収し、嘘の証言をしました」

「何故そんな馬鹿げたことをした」

「貴方を慮ったんでしょう」

「…………」

 

 一瞬、全ての表情が降谷さんの顔から抜け落ちる。

 それから壮絶な憎悪を表出した。

 肩が震え、息が上がり、食いしばった歯がギリ、と憤りの音を立てる。

 

「巫山戯るな…巫山戯るなぁ!!!僕を舐めるのもいい加減にしろ…!殺してやるぞ!FBI如きが!!」

「悪いとすれば、それは迂闊にも拳銃を取られた赤井秀一の注意不足でしょうね」

「どうせ赤井の失態だろう。僕の意向は変わらない。奴は捕らえて組織に突き出す。僕の昇進の踏み台になってもらうとするさ」

 

 そう言い放ちつつ、どこか降谷さんの顔色はすぐれない。

 彼ならば当然気づいている。

 赤井秀一ともあろうものが何のきっかけもなく自殺を許したりしない。

 保護を申し出られた諸伏景光が、何のきっかけもなく自殺したりもしない。

 

 そこに横たわる誰かの足音に気づかなくとも、気付かないからこそ迫り来る何かを理解しているはずだ。

 真実という、残酷な足音の響きを。

 

「………ごめんね、空君。取り乱して叫んだ。君のせいじゃないのに」

「いえ。差し出がましいことを言って申し訳ありませんでした」

「構わないさ。というか、正しい情報を得られて僕も助かったよ」

 

 私は身を乗りだして、降谷さんの両頬をそっと包んだ。

 そして額を合わせて、にっこりと微笑む。

 

「お仕事、頑張ってください。僕はここで待ってます。いつでも。貴方の隣で待っていますから」

「………」

 

 降谷さんが私を撫でて、それから抱きしめた。

 彼の筋力量だと、随分と力強く感じる。

 

「いつか、この仕事にカタがついたら……降谷にならないか?」

「!」

「養子という形になると思う。金だけは有り余ってるから、君を困らせることはないよ。ね?どうかな」

 

 私は思わず解けるような笑みを浮かべた。

 クスクス笑って、彼の頬をつねる。

 

「あいひゃ」

「そのためにも貴方は死んではダメですよ。ちゃんと生きて、僕のところに帰ってきてくださいね」

「もひろんはよ。痛。離して離して。カッコつかない」

「あははは!」

 

 肉体君が「オリジナルのくせに本当に生意気。まあ別にいいですけど。魂の父母は父君と母君なんで」とブツクサ言っている。

 

 なんにせよ、彼の生きる理由となったなら幸いである。

 





・魂の視界
本人の立場によって見えるものが違う。
紅子さんから見たら「巨大で未熟」ということでクローン主はデカひよこに見える。
降谷さんから見たら「超級の脅威」ということでキングギドラに見える。
前の世界では「自分のことはどうでも良かった」から、弟君は見えてるのにクローン主にはコバンザメが見えなかった。

・コバンザメ近況
「なーんもいいことない」
「羽化もしなくなっちゃってマジ鬱」
「別んとこ行く?」
「でもおもろいところなんて他にないし…」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。