降谷零のクローンなオリ主とコナン世界   作:ラムセス_

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大学教授殺人事件、帰り道と誤解

 

 広田教授をめぐる悲しいすれ違いと殺人は原作通りに決着した。

 

 私たちの目的としていたフロッピーは警察の預かりとなった。

 一週間後には返却予定だから、気長に待つとしよう。

 

 事件もあったから帰りは深夜になった。

 蘭ちゃんへは阿笠博士の方から電話してあるから心配はいらない。

 深夜帰りの小学生はパンク過ぎるので、今日はコナン君も阿笠邸で一泊の予定だ。

 

 しかし、コナン君と灰原さんが仲直りしてくれて本当に良かった。

 

 彼女の涙ながらの訴え、すなわち「なぜ貴方ほどの名探偵がお姉ちゃんを助けてくれなかったのか」は、コナン君の心に深く突き刺さったようだ。

 それこそが彼女の素顔で、確信で、大元だと分かったのだろう。

 

 コナン君は態度を軟化させたし、その境遇について想いを巡らせてくれたようだった。

 

 本当は。

 私は原作知識でもってその非業の死を予見していた。

 手を差し伸べることぐらいできたはずが。

 単に、それをする意義が見出せなかったから見殺しにした。

 そういう意味で、最善を尽くしたコナン君以上に私はずっとずっと薄情なのである。

 

 まあ、詮の無いことか。

 

 夜の高速道路を阿笠博士が運転する車がトラックだらけの道を走っている。

 片道3時間の往復は厳しかったが、あんな田舎に泊まれるところもなかったからな。

 

 運転を代わってあげられると良かったのだが、私が運転したら事案でしかない。

 ままならんものだ。

 

 後部座席のコナン君達がボソボソと会話している。

 

「薬のデータがあれば、解毒薬が作れるんだよな?」

「すぐにとはいかないけど、全くの白紙の状態よりよほど可能性の芽はあるわ」

 

 一週間の間が待ち遠しい、ということらしい。

 せっかくのデータが原作通り消えては勿体無いので、私はすぐに口を挟むことにした。

 

「ナイトバロンが仕掛けられている可能性はありませんか?それほど重要なデータなら、間違いなく保険はかけるかと思いますが」

「……!そうね。その可能性があったわね」

 

 「ナイトバロン?」とコナン君が首を傾げた。

 夜の高速道路に車のライトが流れて、外はどことなく幻想的な景色だ。

 私は安室さんの記憶を辿ってコナン君の疑問に答えた。

 

「情報技術部門が開発したセキュリティソフトです。優秀で短時間かつ復元不可能な形でデータを破壊するので、各方面で重宝されています」

「……下手にデータを開ければおじゃん、ってわけか」

 

 コナン君が悔しそうな顔をした。

 なんにせよ、データが手元にあったところで時間はかかるというわけだ。

 

「そういえば、空君は社会生活の勉強のためにも学校に行った方がいいと思うのだけど、それが難しい身体的な不具合が出ているのかしら」

 

 ふと思いついたように話を変えた灰原さんに、コナン君が苦虫を噛み潰したような顔をした。

 

「俺も通わせた方がいいとは思ってるんだけどな。問題がいくつかあって。主に感染症と、それと本能的な負荷だな」

「感染症はわかるけど、本能……ああ、攻撃性が高過ぎるのね」

「風邪にかかると1時間ほど気絶するんだ。生物兵器の本能の方も、空自身苦しいみてーだし。灰原は何か対策は思いつかねーか?」

「感染症は粗方免疫獲得してしまえば頻度も減るだろうけど…難しいわね」

 

 本能についてはそもそも抑えて行動することが想定されていないからな。

 第一目的は支配、第二目的が殺戮のための兵器なのだから。

 

 というかコナン君や。

 ひらがな音読と石ひっくり返して虫見るイベントに私を引き摺り込もうとするのはやめような。

 私も虚無じゃんけ。

 

 ひとまず私からもノーセンキューの言葉を述べておく。

 

「協調性を学ぶという意味で学校を必要としているのなら、僕にはオリジナルの記憶があるので心配ありませんよ」

「……どういうこと?」

「オリジナル、すなわち元となった人間の人生の記憶が多少ながら僕には刻まれていますので」

 

 その言葉に灰原さんは目を見開いたようだった。

 クローンに記憶が引き継がれるなんて、そりゃ普通に考えたら想定できないわな。

 

「ありえないわ。医学的にそんなこと」

「ですが実際、貴方の母と姉の記憶が僕にはあります」

 

 ヒュッと、灰原さんは息を呑んだ。

 動揺して言葉が出ない彼女に代わって、コナン君が身を乗り出して叫んだ。

 

「明美さんと組織幹部バーボンは知り合いだったってことか!?」

「ええ。前は広田雅美名義でしたので気付きませんでしたが。宮野明美なら、オリジナルの幼馴染になります」

「!!!」

 

 私は脳内の記憶を浚って、ゆっくりと目を閉じた。

 思い起こすのは幼少の記憶。

 降谷零の忘れえぬ優しい思い出である。

 

 彼の感情に触れて、自然と顔に穏やかな笑みが浮かんでしまう。

 

「見上げると、微笑む貴方の母の姿が。幼い体で、宮野明美と手を繋いで外へ駆けていく情景が。僕の中に焼きついています」

「………。おねえ、ちゃん」

「宮野エレーナの腹部はやや膨らんでいて、それを愛おしそうに撫でる様子はきっと貴方の存在を示しているのでしょう」

 

 「僕が知るのは、その程度のことですが」と言って私は言葉を切った。

 二人とも暗い顔で押し黙ってしまった。

 それから「お前は……」と何かいいたげな様子を見せる。

 

 なんだかわからんが空気を暗くさせてしまったので、慌ててフォローしておくこととする。

 

「僕はその光景に、ひどく懐かしく愛おしい気持ちになります。大切な思い出なのだとすぐにわかりました。オリジナルの大切な人と関わり合いになれたのは、きっと僕にとって幸運に違いありません」

「………」

 

 とどめを刺してしまったようだ。

 また車内はお通夜になってしまった。

 

 非道な実験に加担した科学者に、掘り込まれた記憶で懐く被験体?

 気にすんな!

 私自身掘り込まれたって自覚してんだからノーカンだろうがよ!

 尻穴の小せぇ奴らめ!

 

 コナン君がどんよりとした空気を振り払うような声で推理を述べた。

 

「でも、そうなると組織幹部バーボンは灰原の幼少の姿を知ってる可能性が高い。多少親しみも感じてたみてーだけど、それで手加減してくれるような生優しい組織でもないはずだ」

「そうね。……お姉ちゃんは大学卒業まで普通に生活してたはずだけど。でも、組織の人間と関わっていても不思議じゃないわ」

 

 バーボンは依然として危険、ということらしい。

 私のあむぴヨイショキャンペーンは失敗に終わったようだ。

 

 まあ、降谷零という真実の顔を加味しても十分危険な男だからな。

 目的のためなら犠牲を出す事を躊躇わない、冷徹さを持つ人物だ。

 

 ぽつりと灰原さんが私に視線を向けて問いかけてきた。

 

「貴方から見て、姉と母はどういう人間に映った?」

 

 どこか大切なものを探すような面持ちで、彼女がすがるように私を見ている。

 彼女は母親の記憶はまるでないんだったか。

 

 記憶を参考に、染みついた記憶を一つ一つ手にとって調べていく。

 

「僕はクローンでしかありませんが。そうですね。優しい人でした。とても口下手な方で、暗く見えることも多かったですが。その心根は優しく記憶の中では優しく声をかけてきてくれています」

「………」

「宮野明美は明るく、妹の誕生を心待ちにしていたのでしょう。病院に遊びにいくたびに、少しばかり言葉を交わしていました。再会した時、幼少に途切れた縁ゆえに彼女は僕のことに気づいていないようでした。ですが、無事であるならできればエレーナ先生の子を組織から保護したいと、そう考えて……失礼」

 

 おっと、降谷零がまろび出てしまったようだ。

 クローン元なのに侵食率高ぇな。

 咳払いして私は謝罪した。

 

「僕の認識が曖昧になるので、話はこのあたりにさせてください。僕にどれほど記憶があったとして、彼本人ではないのですから」

「お前はやっぱり……」

 

 コナン君が気遣わしげに私に声をかけたが、私は恥ずかしさで返事ができなかった。

 私がつい盛り上がってアムピなりきりごっこになってしまったし、恥なのでそんなに見ないで。

 

 灰原さんが「ごめんなさい。少し酷なことをしたわ」と俯いてしまったようだ。

 

 なにこれ、灰原さんがお送りする曇りタイムが終わったら、ポンコツクローンこと私の薄暗いフルコーラスの時間になってしまった

 

 運転席で阿笠博士が無になってる。

 

 ここらで一つ楽しい話した方がいいだろうか。

 なんだろ、オリジナルが覚えてる料理してるとオリジナルごっこできて楽しい話になるかな。

 美味しいネタは気分も明るくなるだろう。

 

 そのように、地獄の復路3時間は過ぎていったのだった。

 





・クローン評
自分のものでない記憶に揺らぎながら、侵されながら、それを大切にして真っ直ぐに慈しんでいる。
僕如きがとは思いますが、その、オリジナルを親のように慕っています(クローン談)

・阿笠博士
ヘトヘトで家に帰ったら寝る前にクローンから優しい味のコーンスープ貰った。
「いつもありがとうございます、博士」って微笑まれて涙がちょちょぎれる。
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