ノアズアークの影は未だなく、順調に今日、すなわちコクーンの完成披露パーティの日がやってきた。
「いーなー!!!」
「よかったですね空君、コクーンに参加できるんですよ!」
「俺らなんてパーティに参加するだけだぜ」
子供達が私を囲んで、私の参加証バッジを代わるがわる凝視している。
流石の園子ちゃんも、子供達分の参加証は確保できなかったらしい。
それでもこのパーティに連れてきてくれるあたり、優しさの塊である。
園子ちゃんが眉間に皺を寄せて子供達に凄んだ。
「何言ってんのよ。この場に入れるだけでも感謝しなさい!」
「はーい」
「残念ですがあきらめましょう」
「ここのパーティの飯うめーからいいか」
子供達がモチモチむっつりしながら解散していく。
可愛い子達だ。ここで喚かないあたり本当に小学一年生の上澄みである。
園子ちゃんがやや首を傾げて私を見た。
「それにしても、それどうしたのよ。50人限定なのよ?」
「依頼人から貰ったそうです。なんでも財界の著名人の方だそうで、偶然にも孫はそう言うのに興味ないからと」
「へぇー」
そういうカバーストーリーになっている。
良かったじゃない、とニッと笑って園子ちゃんがかがみ込んで私と目線を合わせた。
彼女は多文化の理解がある人故、軽率に人に手を触れない。
だから私のことも撫でない。
だがその代わりに表情に目一杯の喜びを込めて微笑んでくれるのだ。
降谷さんと仲良くやっていけてるのを喜んでくれている。
そして同じくらい、私たちのことを心配してくれていた。
私は改めて気恥ずかしくなって、へへへと頬をかいた。
そのタイミングで後ろから声がかかる。
「おいボウズ、俺のダチを紹介するからこっち来い」
「おや、鈴木財閥のご令嬢ではありませんか。そちらは?」
「諸星さんの護衛を任されております、阿笠空といいます。お見知りおきください」
「ふぅん、諸星の子分かよ。いいぜ、あっちにいい場所があるから来いよ」
園子ちゃんが眉を吊り上げてやや警戒した様子を見せる。
ちなみに私は事前に護衛対象、諸星秀樹に挨拶済みだ。
その時は舌打ちされてしまったが。
「ちっ、こんなちっこいのに俺が守られろってか。ふざけやがって」とのこと。
「警察は世襲制ではないとは言え、あなたの存在は副総監のウィークポイントとなりえます。どうかご理解を」
「……坊主はいいのかよ。肉盾になれって話だぜ」
「それが僕の役割ですので」
などと会話して以来、諸星君はおとなしいものだそうだ。
原作では会場でサッカーボールを蹴り回していた悪ガキだが、取り巻きの子を連れてじつに大人しく雑談しているようだ。
彼なりに思うところがあったのかもしれない。
「大変申し訳ありません。ゲーム開始前にしなければならない所用がありまして。あなた方のお誘いに応えられず残念な限りです」
「そうかよ。まあいいさ。行こうぜ滝沢」
「おう。またなガキ」
「失礼致します」
私が会場入り口に向かうと、未だ「コクーン遊びたいね…」「そうですね…」としょぼくれる少年探偵団の姿があった。
コナン君が「仕方ねーだろ、一般販売が開始したら遊ぼうぜ」と元気づけている。
私は子供達に近寄り、ボソボソと嘯いた。
「ご提案なのですが」
「んー、なんだ?」
ごにょごにょごにょ。
子供達の目が輝いた。
「でもゴールデンヤイバーカードだぜ?勿体ねぇよ」
「でもコクーン参加できるかもしれないよ!」
「でも希望はありますよ!」
コナン君が胡乱な表情で私を睨みつけた。
「おいおいおい、何吹き込んだんだよ」
「単に、商機とは自分で呼び込む物だと教えただけです」
子供達の持つゴールデンヤイバーカードで、コクーンの参加権を買うのだ。
ゴールデンヤイバーカードであれば、親も文句はあれど価値を知れば反対はしないだろう。
なにせ子供達の持つゴールデンヤイバーカードは現在高騰していて、美品なら12万はする超高額品。
彼らのカードは傷があるからそこまでのものではないとはいえ、レートとしては十分すぎる。
パーティの会場では、前の方でコクーンの説明の準備が進められている。
子供達の瞳が輝く。
そしてダダダっと走っていったのを、「ちょっと待ちなさい貴方達!」と言って灰原さんが追いかけていく。
頑張れよ、少年少女!君の商売センスが試されている!
コナン君は工藤優作氏と話があるのか、ふらふらとどこかに消えてしまっていた。
さて、その間に私はお仕事である。
何やらファンシーなステッキをバッグから取り出し、人がいない廊下で構えた。
それはほぼ、おもちゃ売り場で売っている魔法少女の短いステッキであった。
短くて翼がついていて、中央には大きな宝石が取り付けられて煌めいている。
全て本物のため安っぽさはないが、どうしても絵面が浮く作りである。
弟君がうーむと難しい顔をした。
『本当にこれでわかるんですかね……ニチアサの世界観ですよこれ。仮面ヤイバーの次の30分で放映してる少女向けアニメというか』
『ひとまずやってみましょう。魔女お手製のステッキですから、効果なしと言うことは無いでしょう』
構えて力を入れて神経を研ぎ澄ませ、みよんみよんと波動を感じる。
するとブルブルと振動が伝わった。
『手応えがあります!こっちだ!』
『ええ!?その見た目でダウジング形式なんですかそれ!?』
ええと、発端を説明するとだ。
ここ最近、私は頻繁に紅子さんの屋敷に通っている。
単純に彼女の研究の手伝いとあるが、それ以上に教えを乞う為である。
私も軽い基礎知識も教えてもらって、能力の使用練習をしているのだ。
私の能力は「永続、あるいは生きる」能力。
大雑把で応用範囲が広いのが売りの能力、ということらしい。
私が無意識に使っているが故に、この好き勝手弄られ壊れているはずの体は稼働している。
その気になれば他人に永遠の命を付与できたり、絶対に壊れない盾を作り出すことも可能らしい。
残念ながらデブヒヨコでしかない私にはまだ難しいのだが。
弟君の能力は「選択肢を選び取る」能力。
運命干渉系、時間回帰系の能力であり、その力は強大。
だが硬直的で扱いづらく、仕様通りの挙動しかしないのだと言う。
特に弟君は純正の転生者ではないので、扱うための底力が足りないとのこと。
そんな知識や技能の習得を目指した魔女講座で、先週になって急に事件が発生した。
悪霊コバンザメがどこかへ消えてしまったのだ。
「貴方達が実に健全な生活をしてたせいで、餌がなくなって巣穴を変えたのよ」とのこと。
健全な生活が嫌いなんか、コバンザメ。
「生気を啜るなら元気な方がいいと思ったんですが」
「悲しそうな餌の悲痛な決意を啜るのが好きなタイプみたいね」
「キモい以外の感想が出てこない……」
というわけで、コバンザメ捜索のために魔女から託されたのがこのステッキである。
悪意や害意を感知するステッキで、モードを切り替えることで感知対象を人間、人外のどちらかの悪意を感知できる。
今のモードは人外の悪意感知。
それの反応に従い、地下へ地下へと進んでいく。
そこは明らかに表向きでない、コンクリートの壁が剥き出しの廊下であった。
奥の奥、突き当たりに部屋があって、中から人の気配がした。
関係者がまだ中にいるようで、入ることができない。
この奥はたしか、原作知識だとヒロキ君のお父さんの部屋だ。
コクーン開発主任、樫村忠彬の部屋。
気難しい人で自分からこの部屋を選んだとされるが、おそらくそれだけでは無いだろう。
ヒロキ君をめぐる確執がもちろんあったはずだ。
ノアズアークの侵入経路でもあったはずだが。
『─────まさかな』
『どうします?流石にこれ以上の調査は難しそうだ』
『戻りましょうか。流石にスタッフルームに勝手に入ってはつまみ出されます』
『コクーンの制作陣の一人に取り憑いているとしたら、ゲームが危険じゃないです?僕嫌ですよデスゲームは』
『そうですね。降谷さんに一応進言しましょう。ですが、恐らくは僕らでゲームを見張ることになるでしょうね』
戻ると、廊下でシンドラー社長とすれ違いそうになった。
慌てて角に隠れる。
鬼気迫る表情は、これから起こる殺人を滲ませているようだ。
「………あの」
「!!!!」
私はつい、シンドラー社長に声をかけてしまっていた。
しまったな、こんなことするつもりじゃなかったのに。
「僕、迷子になってしまって。パーティ会場へ連れてってくれませんか」
「………………っ、こっちだ」
長い沈黙だった。
目まぐるしく思考が行き来したことだろう。
彼の使おうとしていたトリックは単純明快。
会場が消灯した隙に、会場の銅像から凶器を抜き取ってこっそり持ってくる。
そして対象を刺殺。
再び消灯した隙に会場に戻るだけ。
今、私を無視せねば時間切れでバレずに戻ることは不可能。
今、私を無視すれば目撃者を残してしまう。
シンドラー社長は諦めることを選んだ。
私を殺すのがリスキーだと踏んで、次の機会を待てるように。
会場へ戻ると、シンドラー社長は重役の輪に戻っていった。
これで悲劇が一つ減らせただろうか。
『びっくりしましたよ。あの男、とんでもない殺気でこちらを見てくるんですから』
『踏みとどまってくれて良かったです。襲われればこちらも反撃するしかありませんでしたから』
明るいパーティ会場で、ぶらつく諸星君がこちらに駆け寄ってくる。
「おい、どこ行ってたんだよ」
「建物の構造把握に。非常階段の位置ぐらい知ってて損はありませんから」
「ふぅん。お前、親父はどこだよ。来てんだろ」
「裏方に徹しています。この会場には財界の重鎮が集まっていますから。警戒はあって然るべきだ」
面白くなさそうな様子で諸星君は眉間に皺を寄せた。
「テメーはそれでいいのかよ、ボウズ」
「……?何がですか」
「大人に勝手に身の振り方まで決められて、ガチガチに固められて物みたいに飾られて使われて。馬鹿みたいだろ。反抗してやろうとは思わねーのかよ」
なるほど、と私は内心頷いた。
彼のあの態度は親への反抗心の裏返しだったのだろう。
親の権威を傘に着てるように見えて、その実親の権威そのものを疎ましく思っていた。
私はにっこり笑った。
「そこに愛があるなら」
「は?」
「溢れんばかりの愛故なら受け入れましょう。僕の父は僕を真っ当に愛している。だからOKなんです。……貴方のご両親はどうですか」
「…………」
苦い顔だ。そしてため息。
「鬱陶しいんだよ。あーだこーだ俺に指図して」
「でも僕だって小さい可愛い犬がいたら鬱陶しがられるまでもみくちゃにしますよ」
「俺は犬かよ」
「サイズ感的にはまあ、大人からすれば多少は。元気出してください。多少生意気な犬も可愛い物ですから」
「意味ねーんだよそれじゃ!!!」
「ちっ、話になんねぇ」と諸星君は髪をかき上げて舌打ちした。
なんだか全部嫌になったらしい。
「嫌な予感がします、あまり大きな動きは慎むように」
「わぁったよ」
原作ではただの生意気なガキであったが、人に歴史ありということなのだろう。
私はほんのり笑顔になった。
・その頃のコバンザメの主任
杯戸中央病院で一人実験を続けている。
「幼生の人への投与と遠隔操作に成功したぞ!」
「やはりアストロは素晴らしい!」
「……ああ、でも」
「仲間と語り合い、研究の進捗を自慢し合うのは楽しかったなぁ」(ほろり)
・コバンザメ
「主任!!!」(涙)
「こっちも元気にやってますよ!!」(涙)
「いけノアズアーク号!出発進行!!ぶぉんぶぉん!!」