後ちょっとで完結。
次の「ハイウェイの堕天使」編で一旦区切りにしたい。
あれから、大惨事は秘密裏に処理された。
降谷さんたちの活躍はあくまで「八代グループを狙った爆破テロ」を防いだことになり。
女性の寄生虫テロは深く闇に葬られることになった。
私は羽が生えてやや窮屈になってしまったが、広域な命令能力で管理性が増したことを思えばプラスだろう。
十分服で隠せる大きさだし、寝るとき不便なぐらいだ。
とはいえ、事件は一筋縄でとはいかなかったらしい。
私が気絶している間に船は沈没しかけたらしく、起きたときには救命ボートの上だった。
「水平線上の陰謀」の原作犯人はボートレースを繰り広げるし、超豪華客船は爆破炎上するし。
一人そっと真相に到達していた毛利探偵が犯人を取り押さえるためにスッと出現したりもしたらしい。
色々見どころ満載だったのに、私が気絶していたのは非常に惜しいことをした。
デブリーフィング中の阿笠邸にて、現在私たちは後始末のための情報共有中だ。
降谷さんも公安として動いたため書類をしたためねばならず、こうして聞き取り調査をしているのだ。
「潜入中の人間に山盛りの書類仕事を任せる奴があるか!?」とぷりぷり怒っていたが。
まあそれも日本(恋人)の悪いところだと思って諦めてもらうしかないだろう。
一通りメモをまとめ、ぼんやりした降谷さんがペンを回しながらため息をついた。
「あの怪物君、意外に愛嬌があったよね」
「ね。ちょっと空君に似てた」
「怪物とは?」
コナン君の同意の言葉に、私は思わずwikiの見出しみたいな口調で問いかけてしまった。
コナン君がゴソゴソスマホを持って操作を始めた。
「写真あるよ。ほらこれ。可愛く撮れてるでしょ」
「嘘、いつの間に撮ったんだい?」
「空君に怪物君のことについて聞くときにあったら便利かなと思ったんだ。遺影になっちゃったけどね」
「可哀想だったよね」
何もわからない話題で盛り上がってるので、私は首を傾げた。
灰原さんは特に興味がなさそうに女性雑誌を読んでいる……と見せかけて、鋭い動きで隣の阿笠博士の手からポテチを取り上げた!
どうやらいつのまにか博士が盗み食いをしていたようだ。
博士はしおしおのパーになってしょぼくれてしまった。
萎れ切った博士から得た戦利品は、そのまま私にやってきたのでありがたく頂戴する。
このホタテバター味なかなかいけるな。
「僕にも写真見せてください」
「いいぜ。ほら、こう見えて愛嬌があるんだ」
「どれ………ギャッッッッ化け物!!!」
覗き込むと、そこにはどぎつい見た目の化け物が舌をニョロニョロ出して満面の笑みを浮かべていた。
ちょろっと阿笠邸の地下で見たことあるけど、アップだと迫力が違う!
コナン君は馬を宥める動作で私を静止した。
「いや違う、違うんだよ。こう、人間の邪悪さから解き放たれた先にある真心みたいなのを思い出す生き物で」
「この化け物で真心思い出すんですか!?!?」
「待ってくれ空君、コナン君の言ってることは本当なんだ。あんな気のいい知性体はなかなかいない」
「そうなんだよ、ね、安室さん!」
なぜかバケモノへの擁護を続ける二人に、私は目を向いて交互に二人を見ることになった。
でも「シャゲェェエエエ」って鳴きそうな見た目してるぞコイツ。
降谷さんが咳払いをした。
「ともかく話を戻そう。酒井卓は今搾り上げてるんだが、全く進展がない状態なんだ」
「公安で取り調べをしてるんだよね」
「うん。ちょっぴり非合法めに絞ってるんだけど、めちゃくちゃ口が固くって。というかこっちを舐め腐ってて。そろそろ薬物使ってやろうかな」
「暗黒面見えてるよ安室さん」
教科書の見本のような暗黒微笑に、コナン君が胡乱な顔で突っ込んだ。
こんなところで仲間が闇に魅入られても困る。
降谷さんは残念そうな顔で神妙そうにした。隙あらばやってやろうという顔だ。
「ええと、彼は組織で培養した幼生を個人的に持ち出していたんだ。第七生物科学研究所壊滅後に、それは杯戸中央病院で実験に使用されたことは確認済み」
「残りは今回の事件に使われたってことだよね」
降谷さんは頷いて、それから目を細めた。
「だが問題がある。酒井卓による幼生の持ち出しは、今年に入ってからずっと行われていたことだということだ」
「つまり研究所壊滅前から使われていた?」
「そうだ。そもそも酒井卓自体、別の研究所への転籍を企んでいたようだ」
灰原さんが思いもかけないことを聞いたような顔で瞬いた。
「あら、意外ね。あそこ狂人の仲良しサークルだと思ってたけど。前にジンに仲間の狂人扱いされて毒盛ってやろうと決心したことあるけど」
「灰原交流あったんだな」
「あったわよ。研究者としては100点の連中よ。人としては0点だけど。人のこと言えないって顔してるわよ工藤君。解毒薬はいらないらしいわね」
「まさかそんな。俺は何も言ってねーし。な、空もそう思うだろ?」
「僕の後ろに隠れても意味ないですよ。コナン君は時々デリカシーに欠けるのが悪いんです」
「俺は今回本当に何も言ってねぇだろ!!!」
コナン君が無罪を訴えたが、モノローグが透けて見えてたので有罪は仕方ないね。
後ろにウニフラッシュあったもん。
困り笑いをしながら降谷さんが口を開く。
「移籍を考えたのは予算というか、研究資金の問題らしいよ。第七は組織に採算なしとして絞られてたからね」
「金の鉱脈使って人型ロボット作ろうとする部署だもの。並の組織じゃついていけないわよ」
なるほど、研究者の興味関心が正直すぎる部署だったらしい。
私のスペックからしてまあ趣味全開だし、わからんでもない。
コナン君が肩をすくめた。
「幼生が第三者に流れたとして、予定転籍先だった可能性は高いわけだ。どこかとかはわかる?」
「アメリカの企業だった、としか。酒井本人も『忘れた。窮屈そうなところだったから気は乗らなかったが、設備がないのでは話にならないからな』としか言わないし」
アメリカか、とコナン君が暗い顔をした。
降谷さんが眉間に皺を寄せる。
「何か気になることでもあるのかい?」
「以前、俺の父さんの伝手を使って空の体を調査してもらっていたんだ。空の進言でデータは念入りに消去させてもらったけどな。そのときに少し色々あって」
どうやら少しばかり言葉を濁したようだ。
激しく言い争ったのかもしれない。
「父さんが空を危険視してる。軍事利用されれば計り知れない犠牲を生むことになるって」
「……軍事。そうか、米国軍事会社に幼生を売ろうとしていた可能性はあるな。扱いに難はあるが、ソレを解決すればこれほど効率的な兵器はない」
「ああ。そもそも空は、そのために作られた生物兵器だろうからって言ってた」
私は羽をぴこぴこさせながら、椅子に座って足をパタパタと揺らした。
ゆったりとした服を着て隠せる程度の羽だ。何ともまあファンタジックになってしまって。
「僕は幸せ者ですね。こんなにも想われている。なんて」
椅子から降りて、壁に寄りかかる降谷さんの足に抱きついた。
降谷さんがそのまま私を抱えて抱っこの体勢に移る。
まるで柴犬が駆け寄ってきた人みたいな反応で、喜びが顔に滲んでいる。
「オリジナルのくせに生意気──生意気じゃないですよ──僕の父君はコナン君だけなのに──父は何人いても嬉しいものでしょう」
弟君と口に出して言い争えば、降谷さんはニコニコ笑って私の頭をポンポンした。
「こら、喧嘩しない」
「でも弟が狭量なのがいけないんですよ──やんのかコラ──おう表出てくださいよ」
「こら」
魂で取っ組み合いをすれば、降谷さんにわしゃわしゃされてしまった。
むすっとして団子状態で尻を引っ付け合う。
おう、今日はこの辺にしといてやるよ。
コナン君がちょっともの言いたげに眉を下げた。
「ところでさ、あの部屋の魔法陣みたいなのなんだったの?ワインで書いてあったやつ」
「魔法陣です」
「いやそうじゃなくて」
「魔法陣です。魔法行使するときに使うやつです」
「そうでもなくて」
コナン君は頭が痛いような顔でうんうん呻いた。
降谷さんも激しく頷いて「分かる。よく分かるよ」とその疑問に同調した。
「ちょうどいいから僕から怖い話しよっか」
「何急に」
「空君に知り合いを紹介したいって言われて部屋で待っていたら、魔女を名乗る女子高生が来たんだ」
「実話じゃないよね????」
「魔女は魔法を使って、僕の魂を体から抜いた。僕は酷い目にあったんだ」
「待って情報量が多くて話に追いつけない。魔法がなんだって?」
「ここまで嘘と比喩が一切ないんだけど、僕この日のことを思い返すと怖くて寝れなくなる。探偵って何だろうって哲学的な思いに悩まされるんだ」
思ってたより降谷さんが重症だったらしい。
コナン君は思考が宇宙に行ったまま帰ってこないらしく、遠い遠いところを見て固まっていた。
理解が追いつかないらしい。
私は咳払いして場を収めようと努力した。
「まあいいじゃありませんか、魔法陣のことは。あんまり深淵を覗き込みすぎると健康に良くないですし。僕も実は不思議生物兵器ですし」
「まあ……そうね。科学的に破綻してて生きてるはずのない生き物ではあるわね」
「実はそれで生きてる理由はファンタジーが関わってくるんです」
「説明はつくわね。科学で説明がつかないんだから、科学の外にある理屈って意味で」
灰原さんは柔軟と投げやりの合いの子らしい。
そのままうんうん頷いて適当に茶を飲んでいる。
まあともかく、平和な日はまだ続きそうだ。
・怪物君(故人)
コナン君のカメラロールに鎮座する手足。
放っておくわけにはいかなかったので一緒に爆弾犯を追った仲。
自分勝手な犯人達を追う中で清涼剤として活躍した。
なにげに墓もある。