降谷零のクローンなオリ主とコナン世界   作:ラムセス_

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愛のまにまに

 

 薄暗いアジト内は陰気で風通しも悪い。

 降谷は───今はバーボンだが───そこをいかにも偉そうに風を切って歩いている。

 

 すれ違う下っ端達は怯えて端へ寄り、頭を下げる。

 その程度のことすらできない下っ端は死体になって消えていくのみ。

 組織において幹部とは、そのような権力のある人間であった。

 

「バーボン様だぜ」

「あいつが他組織でバイトしてたのバレたのもバーボン様の調査があったからだってさ。ガキも恋人も知ってるって噂だ」

「怖ェな。下手な口聞けねぇぜ」

 

 好き勝手言う噂話にも慣れたもの。

 確かに下っ端の恋人も家族も子供もあらかた把握済みだが、だからなんだと言う話だ。

 

 定例の報告を済ませて、さっさとアジトを後にしようとした時。

 出入り口で出会ったのは長い銀髪を靡かせる男であった。

 

「よおバーボン、最近はガキとねんごろにやってるらしいじゃねぇか」

 

 ジンの言葉に、降谷はぴくりと眉を釣り上げた。

 

「それ、誰から聞いたんです」

「豪華客船でガキ連れて誇らしげに歩いてるのを見た奴がいてな。3グループの使えねぇ野郎だ。随分そっくりのガキだったそうじゃねぇか」

「私事を吹聴されるのは嫌いです。処分して構いませんね」

「好きにしろ」

 

 ニヤニヤとジンが嗜虐的な笑みを浮かべる。

 

「どこの女に孕ませた?」

「それが、僕にもとんと覚えがなく。子供一人放浪してたのでもう死んでるんじゃないですか?」

「ふん。その手の遊びには事欠かねぇってことか、色男」

「失礼ですよ。あなたと違って、僕は節度を守っています」

 

 実際、降谷はその手のお誘いをなるべく避けている。

 面倒ばかり多いしリスクも高い。

 どうしても仕事の関係で断れない時もあるが、慎重に慎重を期している。

 本当は犯罪者と褥を共にするような穢らわしいことをしたくないのだ。

 

 ジンはタバコを吸って、柔らかく煙を吐き出した。

 

「聞いたところ、歳の割に随分分かってるガキだって話だそうじゃねぇか。テメェの躾か?」

「はい。粗相をされては迷惑なので」

「はっ、甘やかしてるとばかり思ったが」

 

 視線がねぶるように降谷を捉える。

 

 疑っているのだ。

 情を預けたんじゃないか、可愛がっているんじゃないかと。

 人質として使えるんじゃないかと、そのように疑っているのだ。

 

 ただ冷徹そうに、無感動そうに迷惑を示す表情を作るのに細心の注意を要した。

 跳ねそうになる身体を意思の力で制御して、いかにも「何の心当たりもありません」と言うふうを装う。

 

「あら、そんなところで男二人顔を突き合わせてむさ苦しいわね」

 

 そのとき、ベルモットが優美な仕草で頬に手を当てた。

 どうやら彼女もこのアジトにやってきていたらしい。

 最悪のタイミングで現れるものだ。

 降谷は思わず舌打ちしそうになった。

 

 ジンが面白そうな様子で親指で降谷を指差す。

 

「この男がガキをこさえてたらしい」

「ああ、あの子。可哀想に、ペットのように部屋で飼われてたのは私も見たわよ」

「あん?」

 

 ジンが面白くなさそうに眉間に皺を寄せる。

 

「詳しいことは知らないわよ?歳不相応に賢いみたいだし、バーボンに後継として厳しく飼われてるんじゃない?」

「………」

「まあ、そうですね。どう使うかは決めてませんが、潰しが効くようには育ててます」

「ふん」

 

 ジンはいかにもつまらないと言ったように息をついた。

 それから攻撃の先をバーボンに移したらしい。

 「テメェのガキも道具か、バーボン」と揺さぶりをかけてくる。

 

「あなたに言われたくないですよ。あなた、この間親ごと処分したでしょう」

「使い道のねぇもんを捨てただけだ。ガキがものになるとは思わねぇが、せいぜい努力するんだな」

 

 興味を失ったジンが去っていく。くたばれ、と内心でだけ中指を立てた。

 それからベルモットに静かに視線を向ける。

 

「貴方を部屋に招いた覚えはありませんが」

「コクーンの完成披露宴、私もいたのよ」

「………!」

 

 体が硬直しそうになった。

 あの披露宴で、降谷は裏方ながら公安として動いていた。

 どこまで見られた、この女に、何を握られた。最悪消す必要がある。

 

 ベルモットが特に興味なさそうに視線を遠くに向けた。

 

「コレは貸しよ、バーボン。その身をもってクールガイとエンジェルを守り抜いたあの子に敬意を表して、あの子のことは守ってあげる」

「……ああ、あなたが手を出すなと言っていた女子高生のことですか。どうもご執心のようで」

「あなたの親バカには負けるわ。デレデレしちゃって。弱点にしかならないわよ」

 

 まさかこの女に空のことを握られるとは思わず、降谷は歯噛みした。

 油断ならない腐ったリンゴ。

 多くの捜査官がこの女の手にかかって死んでいった。

 

 ただどうも、降谷が公安所属だと言うことはバレていないようだった。

 バレていれば生かしておく理由がないからだ。

 

「ところで、神奈川の武器取引、ジンが担当になったらしいわ。新しいヘリを仕入れるんですって」

「大丈夫なんですか?口より先に鉛玉をぶち込む男ですよ」

「ウォッカがついてるから大丈夫よ。まあ、大概甘いから結局取引相手は死ぬんだけど」

「ダメじゃないですか」

「私の管轄じゃないからどうでも良いわ」

 

 ベルモットは髪をかき上げて手を振った。

 

「じゃあ、せいぜいあの子を大切にしなさい。グッドラック、バーボン」

 

 去っていくベルモットの後ろ姿に、降谷はひたいに一筋の汗が流れるのを感じていた。

 

 組織の脅威は未だ濃く深い。

 降谷は息をついて、できるだけ自然体でいられるように体の力を抜く。

 

 あらゆる隙を生まないように、誰にもつけいられないように。

 

 目に映る全てが敵だと心に刻んで、慎重にその場を後にしたのだった。

 

 

 

 

 

 家に帰ると。

 室内はおどろおどろしい儀式の会場になっていた。

 

 何か蛇の置物がそこかしこに置かれ、宝石のついたゴブレットのようなものが置かれている。

 部屋の中央には魔法陣が描かれた模造紙が広げられていて、四隅が文鎮で止めてあった。

 

「とあーーーー!!!!」

 

 掛け声と共に、何かファンシーな色をした煙が帰宅したばかりの降谷の頭を襲う。

 

「ぶわっゴホッ、ゴホッ!?」

「よし!成功です!」

「何が成功したの!?!?!?」

 

 特に何か変わったものはなさそうだ。

 キョロキョロ自らの体と周囲を見渡すと、空は満足げに頷いた。

 

「オリジナルに猫耳を生やす魔法です。うまくいったみたいですね」

「は………?」

「猫と同じ可聴域ですから、きっと便利ですよ!」

 

 ばっと頭を手で弄ると、人間耳が消失していた。

 かわりに猫耳らしき柔らかい感触が鎮座している。

 

 洗面所で確認すると、それはぴこぴこと己の意思とは無関係に動いているようだった。

 髪と同じ色で、きちんと触覚もある。

 

 降谷は咳払いしてから、改めて目を三角にして腰に手を当てた。

 

「正座」

「えっでもせっかく一回でジャスト成功…」

「正座」

「うす」

 

 降谷はひとまず子供を正座させた。

 小さな体が魔法陣の真ん中でしょげかえっている。

 

「あのね、魔法を人に向かって撃たないの。わかるかい?」

「オリジナルなら許してくれると思って」

「許すけど。許すけどちゃんと戻す。そして僕に魔法を撃たない。いい?」

「うす」

 

 しょぼ………と息子は小さくなった。

 しわしわになってしまったようだ。

 非常に可哀想で、鬼にしようと思っていた心がギュンギュンと痛んでくる。

 

 たまらず抱きしめて、降谷は余計なことを口走っていた。

 「事前に言うなら良いよ。びっくりしただけだから」と許しの言葉を与えてしまう。俺の馬鹿。

 

 パアァ!!と空の顔が明るくなった。

 明確にこの顔に弱いんだよなぁ、と降谷は自らの親バカを自覚した。

 

 小学校に通ってたら運動会で死ぬほど写真撮ってしまいそうだ。

 バズーカみたいなカメラを担いでいくに違いない。

 だってもう小学校行く予定すらないのにカメラの選定の予定を立て始めてる。

 

 降谷は頭を振って煩悩を追い払った。

 

 ともかく猫耳を取ってもらってから、部屋を片付ける。

 意外とすぐにねこみみはとれた。

 「本当はもっとしっかり生えるはずだったのに」と空は不満そうだった。

 三十路の男に猫耳をしっかり生やすのはやめてほしい。

 

「お仕事お疲れ様でした、オリジナル。今日は組織の仕事ですよね?」

「単に報告だけだからすぐだよ。まったく、めくってもめくっても先がある、深いヴェールの中にいるようだ」

 

 愚痴が思わず漏れてしまう。

 あの方の慎重さは常軌を逸しているから、たどり着くことすら至難の業だ。

 空が首を傾げて言った。

 

「組織員に幼生を盛れば、僕が命令で組織を掌握できますよ」

「ダメだ。君にそんなことさせられないよ」

 

 考えるより先に即答していた。

 日本に感染が広がるリスクもあったが、なにより、空にそんなことをさせたくなかったからだ。

 

 空がテレテレと笑顔になる。

 

「えへ。僕達、愛されてますね──オリジナルが生意気──オリジナルの悪口ですかオォン?──やんのか。父君の偉大さ語ってやりますよ」

「だから喧嘩しないように。お昼にしよう。ペペロンチーノ作るから」

「あっ、僕オリジナルのペペロンチーノ好きです!──まぁ僕も認めてやらなくはないですけど──ツンデレ弟──ぶっ飛ばしますよ」

 

 多少の言い争いはありつつ、ころっと気分を直して料理の手伝いに参加してくれる。

 良い子だ。

 

「それにしても、魔法は魔女さんから学んでるのかい?」

「はい。週一で本格的に勉強会を開いてもらえるようになりまして。楽しいですよ。すごく難しいです」

「心強いなぁ。また魔女さんに僕からも感謝を伝えにいかないと」

 

 この間菓子折りは送ったから、月謝とかが良いだろうか、とやや悩む。

 魔法の習い事だ。楽しくて実用的。

 他にも希望があれば習い事させてやりたいし、いずれ学校にも通わせてやりたい。

 夢は膨らむ一方だ。

 なにはともあれ、まずは降谷が「降谷零」の名前を取り戻してからになるけれど。

 

 空がコロコロと笑ってVサインをつくった。

 

「いずれオリジナルの吸運体質も何とかしてみせます。待っていてくださいね!」

「……嬉しいよ。でもそれまで君は僕に負債を押し付けられる立場になるよ。本当にいいの?」

「もちろんです。僕は生き延びますよ。人より頑丈で強いですから。オリジナルを悲しませたりしません」

「そっかぁ。それは、心強いなぁ」

 

 

 幸せよ、永遠なれ。

 

 今度こそこの子を失えば耐えられない。もう喪失には耐えられない。

 

 そう純粋に、降谷は思った。

 





・バーボンの組織での噂
地獄耳で秘密は全部知ってて性格悪くて脅してくる。そんな幹部らしい。
犯罪を止めるためにバーボンの立場を利用して下っぱを処分してるので、下っ端にはかなり恐れられてる。
多分そのうち「自らのガキを仕込んで奴隷にしてる」って噂が流れる。

降谷さんが幸せの最中にいるのでめちゃくちゃに引き裂いてやりたい衝動がありつつ、物語の趣旨と違ってくるので諦めて幸せのままにしておく現在。
あー、ここからなんか不幸のどん底に落としたら美しいだろうなぁ。
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