今日は神奈川の箱根にやってきている。
みんなと星を見に来たのだ。
メンバーは少年探偵団に私と灰原さん、コナン君抜き。
降谷さんは「絶対僕も行く!」と言って聞かなかったが、仕事が入ったため途中参加の形を予定している。
絶対外せない仕事だと分かった瞬間ほぼ血涙だったからな……なんかでかいカメラ買ってたし。
その野鳥撮るみたいなカメラで何映す気だ。
まあそれはともかく。
昼は千条の滝も見にいったし、箱根関所や箱根園も堪能した。
近場に美術館がいくつかあったから、それも巡っている。
コナン君不在だからかここまで何の事件も起きていないし、大満足の旅だと言っていいだろう。
今日のホテルは個室に露天風呂がついていて、私も思いっきり風呂が楽しめるデザインになっていた。
ワーキャーと部屋についた大きな露天風呂で子供達と一緒に風呂を楽しむ今現在。
外国人向けなのか、みんな水着での入浴となっている。
私は満足にぷかぷか温泉を楽しんだ。
念のため羽で体の周りの幼生は常に自死命令を出している。
歩美ちゃんが私の背中側に回ってにっこり笑って
「空君の天使の羽かわいい!いいなぁ、歩美も欲しい!」
「飛べたりするんですか?」
「流石にこんな大きさじゃ飛べませんよ。今度歩美ちゃんとは羽のつくり合いっこしましょうか。あっ、元太くん引っ張らないで、抜ける、羽抜ける」
「こら」
ママ属性の灰原さんの一喝で、元太君は私の羽を引っ張るのをやめた。
「手羽先には塩だよな」とかけしからんことを言っている元太君を睨みつける。
こんがり焼く気かおのれ。
歩美ちゃんが残念そうに足をバタバタさせる。
「こんなに楽しいんだからコナンくんも来ればよかったのに」
「『薬局のひとりごと』でしたっけ。読んでから明日蘭さんや園子さんと一緒に来ると言っていましたね」
中国系フワッと宮廷で、私の前世だと人気だったシリーズだ。
ここでは名前がちょっと違って絶版だが、マニアには人気らしい。
推理小説マニアはたまらなかったらしく、掘り出し物にコナン君はホクホクしていた。
元太くんが突然アアン!と何故か艶やかに風呂の淵に寄りかかってから、キリッとした顔で私に指示した。
「そこ!空は羽広げて立つんだぜ!手はこう!」
「!なるほど、エル・グレコの受胎告知ですね。今日の美術館の動画に出ていましたか」
「そう、そのゴロゴロのやつやるんだ!」
「!なら歩美真ん中の鳩さんやる!」
「ずるいですよ僕もやります!!」
突如、愉快な子供達の無駄に学識高いごっこ遊びが始まるなど。
灰原さんは面白そうに「ラファエロのシスティーナの聖母の方が人数も足りてるんじゃないかしら」と更に有識者向けの提案をしていた。
私はふうむと頷いて首を捻った。
「でもそれ、天使が二人必要ですよ。博士に作り物作ってもらいましょうか」
「いいわね。博士、出番よ」
「まかせんしゃい!」
今度の予定ができてしまったな。
まったり風呂を楽しんだ後は星を観察に穴場スポットへレッツゴー。
人気のない公園は残念ながら曇り空で、どうにもうらびれて不気味な雰囲気を醸し出していた。
真っ黒な雲が月を隠している。一雨来そうだ。
灰原さんがそっと私に囁きかけた。
「あの人はどうしたの?」
「オリジナルは仕事です。どうもこの付近で組織の商売があるらしく」
「気持ちが暗くなる話ね。まあ、幼生を使った犯罪でなければ何でも良いわ。最低を更新すると基準が下がって困るわ」
灰原さんがこの間の豪華客船のことを引っ掛けてため息をついた。
まあたしかに、あんな事件に比べたら組織の商売ぐらい何って思うのも無理はない。
元太くんがこてんと首を傾げた。
「なんかここ、心霊スポットみてーだなぁ。出る?出る?」
「出ないですよ。気配しないですもん。いても僕が天使パワーで除霊します」
「すごーい!空君かっこいい!!」
「頼りになりますねぇ!」
みんなに持ち上げられ、私は照れ照れした。
弟君と一緒に恒例のムキムキマッスルポーズを取る。
我ら、大変頼りになる。うむ。
「この頃僕らテンションが手足に似てきたこと無いですか?」と弟君が訝しんでいる。
え……あの化け物こんなテンションで生きてるん……?
ふと、遠くからバイクの音が近づいてくるのが聞こえる。
重い音だ。
特別にチューニングしていることがよくわかる。
「こんなところで走り屋とは、どこにでもいるんですね」
「近所迷惑にはならなくて良いんじゃない?」
灰原さんは興味がなさそうだ。
そうして、目の前の道を大きな音を立てて走り抜ける。
そのバイクには、操縦者に頭がなかった。
瞬時に震え上がった子供達が、私の後ろに固まってメチャクチャに騒ぎだした。
「出たァァアアア!!!」
「空君やっつけて!やっつけて!!!」
「大丈夫、どっかいきましたから。というかアレ幽霊じゃな…」
「ひいぃ呪い殺されるぅ!」
「元太くんちょっと押さないでくださいよ!」
パニックの子ども達の前で小さな翼をピンと広げ、懐中電灯八個を手品で出してランダムに照らし上げる。
「祝福です。怖いものは去りました」と言えば、子供達はちょっと落ち着いたらしい。
ブルブルとひと塊の団子になって青い顔になっている。
灰原さんが顎に手を当てて目を細めた。
「どう思う?」
「さて。あの速度で走られては匂いを追うのも難しいですし、ライダースーツを着込んで姿も判然としない。語れるものはないでしょう」
「………そうね」
「ですが、オリジナルが現在取引している軍事会社は、この辺でAIによる自動化ドローン等を取り扱ってるそうですよ」
「っ、自動運転の可能性があるってわけね」
「ええ。あくまで可能性でしかありませんが」
すなわち「ハイウェイの堕天使」の始まりということだ。
私はその晩あの手この手で子供達を元気づけた。
すっかり震え上がってしまった子供達が寝付くのは、日が昇った後だったようだ。
コナンは、静かに思考を巡らせていた。
昨晩、灰原哀から幽霊バイクを見たとの報告を受けた。
それが組織の取引と関連している可能性があるとも。
先ほどの暴走バイクで現れた黒いバイクも、やはりどうも気になるところだ。
だがまだ情報が足りなさすぎる。
神奈川モーターサイクルフェスティバルは、巨大ホールを借り切った大規模イベントだ。
国内外のメーカーが集まり、特設会場では神奈川県警と協力しての白バイモーターショーがあるはずだ。
世良も何かが目的でこの神奈川モーターサイクルフェスティバルに参加している。
会場で阿笠博士達と合流予定なので、コナンは現地到着後グルグルと入り口付近へと視線を向けた。
すると、すぐに彼らの方からコナンに駆け寄って来たようだ。
皆真っ黒なクマを作って怯えた様子だ。
歩美が真っ先にコナンに抱きつく。
「あーっコナン君だ!!!」
「怖かったんですよ!昨日!空君だけ先に寝ちゃって!僕らの生命線だったのに!」
「ひでーよな!」
「す、すみませんでした…でもみんなよく起きてられましたね。僕は眠気に負けました」
「空君の人でなし!」
どうやら怖くて寝れない子供達のために空は起きてようとはしていたらしい。
「はーい人でなしです」と空はスレスレのジョークを飛ばしている。
目の前では萩原千速による最新の白バイのテストドライブが行われているようだ。
後からやって来た世良が、軽く口角を上げて空を見下ろした。
「ふぅん、君が噂の空君か」
世良はどうも試すような口ぶりだった。
コナンに対するのに似た、不可思議だがまっすぐな圧がある。
「初めまして。僕は世良真純。探偵さ。君のお父さんと同じでね」
「そうですか。僕は阿笠空です」
「ところで、君のお父さんは本当に探偵なのかな。なにか、言えないお仕事してたりはしないのかい?」
「さて。僕には心当たりはありませんね。秘密の仕事なら子供には言わないでしょう」
「でも君は随分と賢そうだし。コナン君が頼るくらい頭が切れるんだろ」
うっすらと笑った世良相手に、空もバーボンじみた怪しげな笑みを浮かべる。
「へえ、随分とコナン君に思い入れがある様子。幼いみぎりに見た憧れの人に似ていたりしましたか?」
「ッ」
「おや、まさか本当に?当てずっぽうでしたが、どうも僕の勘もバカにできないようだ。なんにせよ、コナン君は僕と同じように子供でしかない。あまり過分な期待は応えられませんよ」
「………その口の回り方で子供ぶるのかい?」
「今時の子供は賢しらなんです。貴方もそうでしょう。後ろに大人がいると賢くなる」
つまり空はこう言っているのだ。
「お前も誰かの思惑に従っているんだろう」というメッセージだろう。
なかなか切り込んだ対応だ。
同時に「お前も子供だろう」と挑発している。
立場は同じだと。探り探られる仲なのだと。
流石、バーボンとしての記憶があるようで、会話の主導権の握り方がスムーズだ。
「……そろそろ僕は行くよ。詳しい話はまた」と世良が名残惜しげにその場を後にする。
コナンは思わず苦言を呈した。
「おい、挑発しすぎだぞ」
「つい楽しくって。打てば響く感じがいいですね、オリジナルもこんな気持ちで性格悪くなったんだと思います」
「ダメな例を学んでんじゃねーか!」
親から悪い所を学習しようとしているらしく、コナンはガクガク彼を揺さぶってそれをやめさせた。
全くけしからん子である。安室に言いつけてやらねばなるまい。
コナンはため息をついて話題を元に戻した。
「で、何か知ってるのか。世良について」
「まあ、ふんわりは。オリジナル情報です、彼女の親がMI6諜報員である可能性が高いらしく。もっと言えば赤井秀一の妹らしく」
「!!!」
「となると、彼女がここで何を調べているのか気になりますね」
「ああ………そうだな。ってか赤井さんMI6の親いてFBIになろうとしてたのか。超揉めそう…いや待てよ、兄弟ってまさか10年前……」
なにやら芋蔓式に思い出しつつ、コナンは世良の後を追おうとしたのだった。
・降谷零
その頃、ごん太カメラをバッグに押し込み歯軋りしている。
バーボンが明らかに不機嫌なのでお付きの下っ端が震えている。
後日みんなで撮った風呂上がりのエル・グレコの受胎告知に満面の笑顔になる。