コナン君はどうも千速さんと一緒にどこかへ行ったらしい。
劇場版本編が進み出したということか。
私もぶらぶらモーターショーを散策していると、降谷さんと合流することができた。
降谷さんは「遅くなってごめんね」と心底辛そうに眉を下げて、私を抱き上げた。
そして柔らかく額にキスを落とす。
「何だか欧米ですね」
「違う。愛は世界普遍なので日本由来と言っても過言では無い」
「過言ですね」
妙な主張を繰り広げる降谷さんを置いて、私は少年探偵団を手招きした。
ここからは彼らとは一旦別行動だ。
少年探偵団に手を振って別れの挨拶をする。
まだ幽霊ショックが抜けない彼らは「行っちゃやだ!」「あーそんなぁ!」と悲鳴をあげている。
かわゆいのぉ。
降谷さんがスタスタと歩き出したので、私は首筋に捕まって首を傾げた。
「どこに行くんですか」
「幼生の買い取り先がわかった」
表情は安室透のものだったが、低く小さな口調は降谷零のそれだった。
「アメリカ航空機メーカー、ビージス。武器開発部門ではドローン技術で世界一を誇っている」
「超大手ですね。なぜ発覚したんですか」
「ライバル会社のタレコミだよ。新型ドローンに悍ましい生物兵器を搭載する予定だと喚いていたからな」
「なるほど、それは信憑性がありそうですね」
生物兵器は扱いが難しい上に外聞が良くない。
おそらくAIドローンから幼生を散布して、それを電波で制御するつもりなのだろう。
生物をそんな機構で完璧に制御できると思っているのだろうか。
弟君が吐き捨てた。
「くだらない。どうせ自己進化で妨害型が生まれて、全ての計画が御破算になるだけだ。そもそも幼生は人がコントロールできるように作られてはいませんよ」
「同意見だ。碌でも無いことこの上ない。幼生の散布で起こるのは人類の滅亡だけで、得られるものは何一つないというのに」
この辺、降谷さんと弟君は同一意見らしい。
私は便利なら使っちゃえ派だったが、もしかしたら浅はかだったかもしれない。
厳に戒めようと心を入れ替える。
「ふむ。僕らはそのビージスを追う形ですか」
「神奈川県内に社員がいるようだから接触する。奴らもライバル会社の失墜を餌にぶら下げれば口は軽くなるだろうさ」
私はぱちくりと瞬いた。
「組織の取引先を差し出すんですか?」
「東アジアの航空機メーカーだが、最近落ち目だからな。組織にも吹っかけて来ていたし、別の取引先も確保済みだからどうとでも料理できる」
「なら後顧の憂いはないわけですね」
ちょっと考えてから、私はこてりと首を傾げる。
そうなると降谷さんの単独行動の方が良さそうに思えたからだ。
「僕、阿笠博士と一緒にいましょうか?」
「いや。君は僕と一緒にいてくれ。相手は幼生を所持している可能性があるからな。万が一の時のための生命線は確保しておきたい」
「3時間でお陀仏なんだ、君の存在は何より重要さ」と降谷さんは誇るような口調で私をそっと撫でた。
私はぐりぐりと降谷さんの胸に頭を擦り付けて猫のように懐いた。
おお、父よ……。
「了解です。感染者がいたらお伝えします」
「頼んだ。それと、コナン君は今どうしてる?」
「彼は毛利探偵と黒い暴走バイクを追っています」
降谷さんが目をするりと細めて声を低くした。
「………となると、スピード勝負になるか」
「どういうことですか」
「あれは僕らの取引先、すなわち東アジア航空機メーカー関連の実験だ。大規模な検挙があればビージスに提示する餌がなくなる」
「ふむ、事前にコナン君に連絡しておきましょうか」
降谷さんは少し考えてから首を振った。
どうやら連絡はしてほしくないらしい。
「いや、彼にはそのまま追ってもらおう。彼ならば検挙に足る真実を掴めるはずだから、それを我々で入手する」
「途中で成果を掻っ攫うのはコナン君に嫌われるので嫌です。連絡入れますね」
「あっちょっと」
「下手な公安仕草は減点対象ですよ」
「もー」
ブツブツ文句を言う降谷さんをぽすぽすと叩きつつ、私はダイヤルを回した。
弟君が「父君を出し抜こうとかホントオリジナルは良くない」とポコポコ怒っている。
電話はすぐにつながった。
「コナン君ですか」
『おー、色々あったけど俺はホテルだ。どうした?』
「コナン君を名探偵と見込んで依頼があるんですが」
『……やけに持ち上げてくるな。警戒しろってことだよな?』
「そんな。単に黒い暴走バイクの謎を解き明かしても警察に届けないでほしいってだけです」
『はぁ?』
コナン君が訝しげな顔をしたので、私は咳払いして最初から説明を始めた。
かくかくしかじか。
「オリジナルが組織の仕事に使うので、情報を集めたらデータください。美味しくいただきますから」
『おいおい、俺は犯罪には加担しねーよ』
「大丈夫です。相手は僕の幼生を軍事利用しようとしている輩ですから。情報を得るための手札に過ぎません」
『………幼生の流出先が分かったのか!!』
「ええ、アメリカ航空会社ビージス。これまで実験室から幼生を出さないで管理して来れた程度には、賢明な会社のようですね」
私が説明を繰り返していると、降谷さんが突如バッグからバズーカのようなカメラを取り出し、たくましい腕で片手持ちあげた。
自撮りするらしい。
「はい、空君ピースして」
「えっ………それ自撮りできるんですね」
「液晶も反転できるよ。ほら」
ぱかっと開いた画面が反転してこちらを向く。
はいチーズ。
完全に浮かれ切った親子写真が完成して、降谷さんはホクホク顔となった。
電話越しにコナン君が状況を察したのか、「公安の潜入捜査官が写真撮っていいのかよ」と呆れたような声が電話から漏れ聞こえてくる。
それはそうなんだよな。
聞こえないはずだが、降谷さんがその言葉を聞いていたかのように拾って肩をすくめた。
「ほとんど写真は処分したけど一部は残ってるし、これは安室の家族写真なのでノーカンだよ」
「都合のいいこと言いますね」
「仲良し家族なのに家族写真がなかったら変だろ。待ち受けにしとこ。よし」
降谷さんの───おそらくこれも安室用だろうが───スマホがパリピの幸せ家族そのものに変化した。
多分この後毛利探偵とかに偶然を装って見せびらかすんだろう。
私は降谷さんの頬をぽすぽすと人差し指でつついた。
「僕が組織に攫われたりしたらどうするんですか」
「え、ロケットランチャー持ってカチコミに行くしかないけど。下っ端主犯ならマジでやるよ。ジンあたりならもうちょっと考えて報復する必要あるけど」
「えへ。愛されてますね。コナン君、聞きました?僕愛されてます!」
『聞こえねーよ。ったく、切るぞ。広い家で犬でも飼っとけ』
謎の捨て台詞と共にコナン君がログアウトする。
犬か、でっかい犬もいいよな。欧米っぽい。
弟君がふむふむ頷いて指をピンと立てた。
「犬の代わりに手足とか良さそうですね。躾の手間も要りませんし、賢くて割と可愛い───可愛い……???」
「ああ、たしかに良いかも。あの化け物君ペットにいいよね。心が洗われる」
「そんなに良い生き物なんですか!?!?」
謎理論に目を白黒させつつ。
ともかく私たちはホテルへ向かったのだった。
・ペット手足
トイレも人間用の使い方を覚えて自分でするし、清潔で綺麗好き。風呂も嫌がらない。
愛情深く親切で穏やか。
米花町特有の暗殺犯や強盗などはちゃんと食べてくれるので餌にも困らない。
飼いやすく初心者向きの大型肉食獣。