あれから一週間。
私たちはおうちパーティということで、ささやかながら豪勢に準備を進めている。
私たちの誕生日だ。
正確には培養開始日だが、そんなことはまぁどうでもいいだろう。
魔女の魔法で今だけ私と弟は分離して、それぞれ別の体になっている。
体を二分割して、幻想化しているらしい。
負担が大きいためたまにしかできないが、弟だって私の家族だ。
こうして語らえるなら、その方がずっといい。
ただし。
弟は私の腰回りにひっついたまま、へっぴり腰で永久に離れないようではある。
弟はビィビィ泣いた。
「この人心無野郎!!!僕のこと切り離して見捨てるんだッ!!!うわーん!!!」
「ただ独自の体になっただけでしょう。普通この形ですよ。慣れてください」
「やだやだやだ僕は兄君と一緒にいる一人やだうぇぇんぐすっひううぅぅうぅ」
N回目の号泣に、私はヨシヨシと弟を抱きしめた。
魂で触れ合えないのがさらに嫌なようで、私の腹にめり込む勢いで頭をぐりぐり激しく突進させてくる。
げふぅ、それ腹突き破るから待って待って。
降谷さんが皿を持ってひょいと私たちを覗き込んだ。
紙で作った飾りが少しだけ邪魔そうだ。
もう少し高い位置に設置すべきだったか。
「料理できたよ。大丈夫かい君たち」
「大丈夫です。ほら、行きますよ我が弟。オリジナルのご飯美味しいですよ」
「オリジナルの飯なんてどうでもいい」
「オォン?」
「やんのかこら」
瞬時に我らは戦闘態勢に入った。
驚いたねぇ坊や。奇しくも同じ構えだ……。
いや降谷さんの戦闘スタイルそのままなんだから同じで当然だけど。
緊迫の我らの頭にチョップが決まる。
いてっ。なんで叩くんですか!!!
降谷さんがため息をついてテーブルに皿をおき、自らも席についた。
ホカホカの中華料理が並んでいる。
「はい、席に着く。ひとまず食べてから。いいかい?」
「はーい。命拾いしたな弟よ」
「兄君の方こそ。………それよりほんとそろそろ中に帰りたいです全身震えてきましたもうダメ」
可哀想な弟をなだめすかし、食事場まで連れて行く。
体外に魂を出すなんて絶技は無理なので、弟とは手を繋いで抱きしめる形をとった。
弟はカタカタ震えて全身でぴとっとひっついている。
可哀想なのでご飯を食べ終わったら戻してやろう。
TVでは神奈川で起きた連続爆破事件について振り返りの特集が行われていた。
ベイブリッジでの爆発と、ビージス日本支社を襲った爆発。
それに加えてコンテナ街で起きた火災。
その関係は明らかになっていないようだった。
降谷さんがやや眉間に皺を寄せて私たちに視線を向けた。
「ところで君たち、僕に何かしたかい?」
「何か……というと?」
「ファンタジー的な何かだよ。なんかこの頃とんでもなく運が良いんだよ。当てずっぽうが初回大当たりしたり、相手がみんなジャムったり」
あまりに不自然だったらしく降谷さん自身不気味に思っていたらしい。
「僕は運の良い方じゃないしさぁ」ともしゃもしゃ白ごはんを味わいながら困った顔をしている。
私と弟は顔を見合わせてパチクリと瞬いた。
たしかに運気を流し込む魔法は使ったが。
民間療法レベルの魔法にそこまで効果があるものなのだろうか。
弟君がむご、と野菜スープを飲みながら首を傾げる。
「兄君の魔法で、何か虚空から謎の運気を流し込むタイプ効果を与えたりはしましたけど。そんな劇的とは聞いてませんよ」
「ですよね。せいぜいあの場で運良く鉄火場を切り抜けられる程度だと思いましたが」
「本当に?」
降谷さんは難しい顔をして唸った。
美味しそうに卵と白菜の中華炒めをかっこみながら、フニャけ切った笑顔で頷いている。
「あの時だって、ハリウッドさながらの大脱出劇だったけどさ。凄かったんだよ、瓦礫がなぜか目の前だけ一人分通れるサイズで穴が空いてて」
「えっ聞いてないオリジナル閉じ込められそうだったんですか!?」
「もしダメなら避難梯子をうまく使って別のエリアに逃げようとしてたよ?コナン君から伸縮サスペンダーもらってたし」
「でも煙と火の手で上は蒸し焼きだったでしょう!」
「そうなんだけど、強く西風が吹いてた影響で空気には困らなかったよ。それも絶対におかしいんだけどさ」
弟君が悩むように恐る恐る口を開く。
「幸運の影響もあるでしょうが、僕の能力の影響もありそうですね」
「え、そんな力ありましたっけ」
私の問いかけに、弟君は自信なさげに頷いた。
自分でも確信は持てていないらしい。
「僕の能力は単純で、条件を満たした時、特定のルートに入ると言うだけ。ゲームじみた融通の利かない能力です」
中華風鶏肉の照り煮をもぐもぐしながら話を聞く。
降谷さんが「白ごはんおかわりあるよ」と言ってくれた。
「それが作用しているということかい?」
「はい。僕の望んだルートは『幸せなルート』。僕はそれを『幸せな出来事のある世界線に導く力』と思っていましたが」
私はピンときて行儀悪く箸をクルクル回した。
「実際は『条件を満たすと幸せな世界線に固定される能力』だった、ということですね?」
「はい。単純ゆえに強力だったと言うだけであくまで可能性の話ですが。兄君の幸運魔法の方は影響は強そうですね」
「むむむ。一体どれがどう作用しているのか」
二人で思い悩んで顔を突き合わせる。
もしかして降谷さんに迷惑をかけてしまったのではないか……と私はしお、としょげて肩を小さくした。
それでも、降谷さんはニコニコ満面の笑顔で私たちを肯定してくれた。
「僕のためにそんなに行動してくれるなんて、嬉しいなぁ!」
「オリジナルのためじゃないです。ペッ」
「弟オォン???」
「でも、君のおかげで僕は生きてるってことだろう?おんなじことだよ」
本当に嬉しそうに、幸せそうに降谷さんがとろけた笑みを浮かべている。
弟は恥ずかしそうにみじろぎした。
「君たちは僕の家族だ。大切な大切な、僕の家族。どうかずっと僕と家族でいてほしい。一緒にいてほしい。────僕の帰れる場所に、なってほしい」
いくつもあって寂しくて、どこか穴の空いたような底抜けの箱だった。
帰っても何もない。出て行っても感慨はない。
巣穴というにも欠陥品の、ただの一夜の寝床達。
そこに暖かな熱と大切なものが、今は入っている。
私は丁寧に、降谷さんと向き合って言葉を紡いだ。
この想いが少しでも確かに伝わるように。
「勿論です。時が移り変わりあなたが如何なる顔になろうとも。僕はあなたの帰る場所になりましょう」
「仕方ないですね。父君と母君の合間に面倒見てあげます。感謝してくださいよ、オリジナル」
二人の言葉に、降谷さんは破顔したようだった。
「明日からは組織の仕事があるけど、この分なら難なく終わりそうだし。どうか、ご飯を作って待っててくれないかい?」
「ええ、では諸伏景光の得意料理、しゃけときのこの味噌ホイル焼きにしましょうか。あれ、オリジナルよく食べてましたよね?」
「!!!頼む!楽しみだなぁ」
幸せそうに、ありし日を懐かしむように降谷さんが笑っている。
私は弟君に問いかけた。
「そういえば明日阿笠博士の家でみんなとゲームする予定ですよね」
「ああ、あの大作横スクロールゲーム。父君が何故か一生一面から出られなかったですけど」
「あれは特殊な事例なので。それで、ついでに帰りにあのスーパーに寄りましょう」
「ああ、あのオリジナルと会ったスーパーですか」
「意外と品揃えいいですよね。安いし、あそこお気に入りです。オリジナルもですよね?」
「ああ、そうだね。僕もよく使ってるよ」
どこか長い長い旅路を歩いてきたような、そんな不思議な心地がする。
まだ出会ったばかりだというのに、この空気がひどく代え難いもので。
弟に、前周のことを聞こうと思う。
弔えるだけ弔って、彼のために共に同じ心の帆を共有するのだ。
そのように思って、私は目を伏せた。
穏やかな空気が胸に満ちる。
窓の外はやや寒く、しかし晴れ渡った秋の夜空が広がっている。
煌々と月明かりが地上を照らし、魔法のよく通る神秘性を作り出す。
問題はまだ山積みだ。
でも、きっと私たちなら乗り越えていける。
オリジナルが口を開く。
「ともあれ、誕生日おめでとう、二人とも」。
柔らかい空気に幸せがふわりと香る。
そう確信できる、秋の日だったのだ。
運気作用で今後流出がなくなったが故の「幼生の流出を止める」クリアです。
故に彼は今後ただの子供で、生物兵器ではない。
組織との戦いがあり、それなりの戦いがあり、苦難があっても。
彼はただの降谷零の子供だ。
これにて完結。
次はたぶんFGOとのクロスでマーリンと降谷さんやる。
イカは気付いたら隣で妻がニコッ^^ってしてたので帰りました。