降谷零のクローンなオリ主とコナン世界   作:ラムセス_

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降谷零の苦悩と分岐点

 

 大阪で怪盗キッドが出現したと言うニュースがやっている。

 メモリーズエッグとやらを狙っていたそうで、いまはその至宝と呼ばれるお宝のことを各局が取り上げている。

 

 どうやら劇場版のようだ。

 メモリーズエッグというと、確か世紀末の魔術師だったか。

 今頃コナン君は八面六臂の大活躍なのだろう。

 駆けつけられない子供の身が恨めしい。

 

 パラっとトランプを手の中で弄び、出したり消したりする。

 思考の整理中の手遊びにちょうどいいんだよな。

 

 私のその姿を見かけた灰原さんが「へぇ」と面白そうなものを見る目で肩越しに覗き込んだ。

 

「ずいぶん上手くなったわね」

「手先が器用で損はありませんから。特に、力加減の繊細さが求められる僕は」

 

 くる、と造花を手の中から出現させて、灰原さんに手渡す。

 「まあ」と彼女の顔が綻んだ。

 

「どうぞ。花の中にお菓子が包まれてますので、解体して食べてください」

「もったいないわ。この花も手作りなんでしょう?」

「残るものは面倒ですから。日頃の感謝には安すぎますが」

 

 少しキザっぽかっただろうか。

 灰原さんは紙製の花を持って「大事にするわ」と笑った。

 だから解体して中の菓子を食べてくれって言っとるじゃろ。

 

 しばらくすると子供達もやってきたようだ。

 大阪へ行ったっきり連絡一つよこさない薄情な探偵に怒り心頭らしい。

 

 子供達がお小遣いを出し合って大阪への突撃計画を練っている。

 灰原さんが大きくため息をついたので、私もなんとか思いとどまってもらおうと口出しした。

 気持ちはわかるが、戦力も責任が伴わないと危ないだけだからな。

 私も戦力はあるが、責任が伴わない。

 責任が取れない人間は、本来突撃すべきではない。

 

 うむ、自らを律するための言葉である。

 暴走しがちだけど。

 

「危険ですからやめた方がいいでしょう。どうも向こうではキッドに対して狙撃事件が起きている様子。相手は銃を持っていて危険です」

「なら俺たちが止めてやるよ!」

「それは……死に急ぐ必要はないと思いますよ。拳銃による殺害は確かに即死の可能性は高まるので、下手な自死より痛みは少ないとは思いますが」

 

 流石に拳銃を持った本職相手に複数人の子供を守りきれるかというと、私も首を傾げざるを得ない。

 痛みのない死は良いものだが、幸せに生きてられるなら好き好んで死ぬ必要もない。

 

 盛り上がる子供達が、私の言葉でしおっと元気をなくす。

 灰原さんか「生々しすぎるわよ。もっと加減してちょうだい」と苦言を呈した。

 すまぬ。

 

 謝罪がてら私はトランプをバラバラと宙に舞い踊らせた。

 

「代わりに僕のマジックに付き合ってくれませんか?こういうものは観客がいないと上達しませんので。見抜いた方には一品多く昼のデザートを提供します」

「!!!歩美もやる!空君のおやつ美味しいもん!」

「俺も俺も!」

 

 子供達も乗り気になったようだ。

 いくつかトランプマジックを見せてやれば、子供達は歓声を上げて喜んでくれた。

 そろそろ別の小物を使ったマジックもやりたいが、あまり手を出しすぎるのも荷物が増えるから保留中だ。

 

 そんなことを続けていれば、昼ごはんも近くになってきた。

 念のため冷蔵庫を確認すれば、どうやら牛乳が足りない様子。

 昼を作る前に買いに行かねばならないだろう。

 

 今日も私の娯楽を兼ねてみんな阿笠博士の家でお昼ご飯を食べる予定だ。

 

「博士、近くのスーパーに買い出しに行きましょう。牛乳が足りません」

「ならわしも行こうかの。朝食用のヨーグルトも買っとかんと」

「ポテチは買っちゃダメよ」

 

 ピシャリと灰原さんに注意され、阿笠博士はしおしおと小さくなった。

 阿笠博士かわいそう……ちょっとだけ多めにご飯盛ってやろうな。

 と、思った私も灰原さんに睨まれたのですごすごと退散する。

 悪いことなんも考えてないです、はい。

 私は良いクローンです。

 

 そんなわけでやってきたのは米花商店街の外れにある小さなスーパーである。

 私と博士での買い出しだ。

 

 予定通り牛乳を確保してから、ある程度今晩の食材を加えてレジへと向かう。

 博士が会計に並んでいる間、私は少し棚を見て回ることにした。

 何か美味しいものが思い浮かぶかもしれないしな。

 

 そこで角を曲がった、その瞬間である。

 

 

 金髪で浅黒い肌をした、己と同じカラーリングの男が。

 私を見て目を見開いていた。

 

 

 どうやら安室さんもこのスーパーに来ていたらしい。

 私にぶつかりそうになって慌てて身を引いたと同時に、驚愕に目を見開く。

 

「………きみは」

「まさか、こんな偶然があるとは思いませんでした」

 

 きっと安室さんは普段寄らないスーパーなのだろう。

 そうだったならとっくの昔に出会っているはずだからな。

 

 頭の回転も早いだろうに、安室さんはしばし立ち尽くした

 ぐるぐると考え込んでいるのかもしれない。

 色々な可能性を考慮に入れて、今後の動きを計算して。

 

 すぐに、取り繕った薄っぺらな笑みを浮かべて安室さんが微笑みかけた。

 

「ごめんね、大丈夫かい?きみ、お母さんは一緒かな?」

「いいえ。僕と養父のみです。母親はいません」

「……君の養父はどこに?」

「その必要はありません。養父は偶然行き場を無くしていた僕を拾って保護してくれただけですから。なんの血縁もなく、あなたの身を脅かすものではない」

 

 私は言葉に裏を潜ませて彼の懸念に答えることにした。

 つまり「養父は何も知らないから、裏社会の人間たるあなたの弱みを握るものではない」と。

 

 安室さんの目がすう、と温度をなくしていく。

 

「事情は母親から聞いたのかい?」

「まあ、似たようなものでしょう。貴方の弱みになるつもりはないですが……ここまで似ていると懸念するのも無理はありませんか」

「随分と利口な子だ。話が早くて助かるよ。そうだね、君と僕は無関係。もし身に危険があっても、おかしな期待はしないことだ」

 

 バーボンの事情を知る子供、ということでおそらく裏の女とバーボンの一夜の子だと結論づけたのだろう。

 だからバーボンへの人質とされても助けたりはしない。

 そのように彼は冷徹に言い放った。

 

 私が賢いからこそ正しい認識を共有しようとしているのだろう。

 冷徹なそぶりは彼なりの誠意であったのかもしれない。

 

 裏ではもしかしたら保護の手続きぐらいは秘密裏に手配する可能性もあるか。

 

 ただ、誤解は早めに解かねばなるまい。

 とはいえここで長々と話すわけには行かない。

 

 私はコナン君を見習って持ち歩いているメモ帳を一枚ちぎり、そこに己の電話番号を書き込んだ。

 

「これを、こちらの電話番号のメモです。少しお話ししたいことがありますので、時間をいただきたい」

「……賢い子だと思ったのだけれど」

「貴方にお話ししておかなければならない事がありますので。急ぐものではないので、時間が取れましたらご連絡ください」

「そうか。僕も忙しい身でね、期待はしないでくれ」

 

 実にそっけなく興味なさそうな声色で、彼は肩をすくめたようだ。

 これ以上言葉を交わす必要もないので、そのまま彼に背を向けて歩き出す。

 

 実際、これは急ぎではない。

 実験体が逃げ延びたことは組織にもバレていないからだ。

 その実験体が降谷零の記憶を保持していることも、同じく闇の中。

 

 だから彼の多忙さを考えれば、優先順位は後でいい。

 

 そのまま別れを交わすこともなく私はスーパーの外に出た。

 外で待つ阿笠博士に合流する。

 ポチポチと博士が瞬いて首を傾げた。

 

「なんじゃ、遅かったの」

「すみません、野暮用で。いきましょう。子供達が待っています」

 

 ほんの少しだけ寂しいけれど。

 それでいい。

 

 

 

 

 

 一人スーパーの陳列棚をぼんやりと見て、回らない思考を振り払う。

 降谷零は小さな彼の後ろ姿を見送ってから、さっさとその場を後にした。

 

 不気味なほどに大人びた子供だった。

 自分が子供の頃はもっと可愛げがあったと思ったが、自分のことなので覚えのないものだ。

 

 その大人びた態度を養わざるを得なかった原因こそが、己だったとしたら。

 それは間違いなく己の罪だろう。

 

 今、余分なものを抱え込む余裕はない。

 だから仕方ない。仕方ないことにする。

 

 己のスマホがまた小さくポケットで震えている。

 心が冷えていき、自分でも全く嫌になる程冷たい声が自然に出る。

 

「どうしましたベルモット?」

『仕事よバーボン。加津製薬会社の社長、必要無くなったそうよ』

「僕も忙しいんですが。そうポンポンと首を飛ばして、後釜は見つかってるんです?」

『さあ、知らないわ。ともかく期日は一週間。やり方は自由。Good luck!』

 

 それだけ言って身勝手な魔女からの通話は一方的に切れた。

 

 短い通話を終えてスマホをポケットに突っ込み直し、降谷は己の髪をかき上げた。

 罪など今更だ。

 

 言い回しからして、誰ともしれない裏社会の女が死んだか逃げたかして、今は善良な養父の元に転がり込んだのだろう。

 ならばこれ以上己が関わる必要はないはずだ。

 余計な危険に巻き込むぐらいなら、ゼロから幸せに暮らした方が彼も幸せに過ごせるに違いない。

 

 己に近しい人は死んでばかりだ。

 まさか本当に、という気持ちと、だとしたらこれまで自分は一体何をしていたんだ、という気持ち。

 ジクジクと疼くような痛みがある気がする。

 

 電話番号の書かれたメモ用紙を握りしめ、安室は嘆息した。

 今更一体何を話そうと言うのだろうか。

 

 実感が遅れてやってきて、ドロドロとした焦燥感が背中を這い上がる。

 どう見積もっても、まだ潜入直後で下っぱの頃の子だった。

 

 車に戻ると、ふくよかな男性と歩く彼の後ろ姿がチラリと見えた。

 仲睦まじくその顔には薄くとも柔らかな笑顔が浮かんでいる。

 

 ため息が出そうになって、あわててそれを堪えてステアリングに体重を預けてしばし俯いた。

 

「……あいつらに知られたら、殴られるだけじゃすまないな」

 

 でももう殴ってくれる人はいないので、進み続けるしか道はないのだ。

 

 適当にグローブボックスに電話番号の書かれたメモを放り込む。

 電話する気はさらさらなかった。

 

 

 だが。

 

 年齢は5、6歳だとして、心当たりがまるでない。

 くだらない記憶なのであまり確かなことは言えないが、面倒事が起こらないよう気をつけてはいたはずだ。

 血縁を疑う気はない容姿だが、ならば一体なぜ。

 

 あの子供の言い回しも不自然だ。

 名前すら名乗らなかった。

 

 

「…………加津製薬会社について、早く調べないと」

 

 

 全てのもやを振り払い、メモごと見ないふりをして思考の端へと追いやっておく。

 

 それを後に心の底から悔いることになるなんて。

 今は知る由もないのである。

 





・安室
若干鬱。まだジャブぐらいの威力。
電話はしない。これ以上抱え込めないと判断したから。
多分メタメタに後悔する。

・クローン
ちょいしょぼん。
安室の内心をほぼ正確に把握してるので彼に任せた。
さりげにルート分岐一つ目。

電話…来ないなぁ。
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